紅葉の美しい秋の日。
北アルプスの山々に囲まれた豊かな自然の中。
コロカル取材班は長野県北安曇郡池田町にあるカミツレの宿〈八寿恵荘〉を訪れた。
今年5月に誕生した日本で第一号の“ビオホテル”である。
“ビオホテル”とはオーガニックでエコなホテルの認証。
もともと八寿恵荘は農薬不使用カモミールの商品開発で知られる
カミツレ研究所の保養施設としてつくられた。
カミツレ研究所には有機カモミール農園と工場、有機野菜の畑があり、
敷地面積は約4万坪。
カモミールを用いた入浴剤やスキンケア商品を製造・販売している。
建材、環境、寝具、食事など、自然素材にこだわり
安心して心地よく過ごせる宿として
今年5月にリニューアルし、“ビオホテル”として認証された。
この日はちょうど有機栽培されたジャーマンカモミールの定植の作業中。
カミツレとは薬効成分のあるハーブとして知られるジャーマンカモミールのこと。
保湿効果、そして消炎に効果があると言われる。
日本でも古くから漢方薬のひとつとして使われてきた。
八寿恵荘を経営する
株式会社相互のカミツレ研究所の北條裕子さんにお話をうかがった。

日本で第一号の“ビオホテル”。安曇野にあるカミツレの宿 八寿恵荘。
「父は安曇野で生まれて、東京に印刷会社・株式会社相互を立ち上げたんです。
1982年 ハーブティーなどの文化が日本に入り始めたころ、
ハーブの印刷物を扱ったんです。それが父にとってハーブとの最初の出会いで、
それをきっかけにハーブの事業を始めました。私はそれを引継いだんですね。
ちょうどそのころ父は喉頭がんを患っていたんですが、
先生に漢方を薦められて、完治したんです。
自分が助けられた植物でみなさまのお役に立てないかと考え、
薬効の高いと言われるカモミールを広げていこうとハーブの事業を立ち上げた。
つくるなら安心・安全なものがよいだろうと、
原料から国内でつくっていこうと研究をしていて、
それを大学生の私はずっと見ていたんですね」
最初は印刷会社のなかの一部門として立ち上げたハーブ事業。
事業としては今年で34年目になる。
北條さんがカミツレ研究所として引き継いで20年。
6年ほど前に安曇野に〈カミツレの里〉をつくったが、
3年前に無垢の木を使ってリフォームする計画が立った。
「そんなとき、日本ビオホテル協会の中石和良さんと中石真由子さんと知り合い、
ビオホテルの存在を知りました。
日本ビオホテル協会さんの向かっている方向と
八寿恵荘の目指す方向は一致したので申請させていただきました」
もともと食材や調味料にはこだわり、お風呂の洗剤も無添加のものを使っていた。
それをリニューアルを機にリネンや床、
ボイラーなども含めて徹底して環境と健康にこだわるつくりにしたという。

カモミールエキスのお風呂。窓から安曇野の自然が一望できる。カミツレ研究所ではシャンプー、石けん、ボディソープなどカモミールエキスを利用した商品をつくっている。
一般社団法人日本ビオホテル協会(以下BHJ)の、ビオホテル認証の条件は厳しい。
1. 食べ物、飲み物は基本的にすべてがBHJ認証のものであること
2. ボディケア・スキンケア用品にはBHJ認証を受けた製品を使用すること
提供する食材・食品や製品などについては、原材料の栽培方法、成分、加工工程、
さらに流通過程にわたる詳細なガイドラインが設定されている。
生産者や生産地、栽培方法、加工工程、流通過程が明確なこと、
健康を害する物質を使用していないこと、
生態系や環境への負荷に配慮した生産方法でつくられた生産物や食品、
製品であること、可能な限りその近郊の地域のものを選ぶことなどを
ガイドラインに定めている。
さらに、 タオルやベッドリネンがBHJ認証のものであること、
施設・建物の内装材、建材などが自然素材であること、
CO2削減を中心としたエネルギー資源マネージメントに取り組むことなどを
推奨している。
食べ物、飲み物の設定基準は、
達成度合いに応じて「リーフ数」により格づけされる。
ミシュランの星の格づけのように葉っぱの数で評価し、
5リーフと4リーフに格づけされた宿泊施設がビオホテルとして認証される。
「認証にあたって、いかに環境に配慮しているか、
館内がどれだけ自然なものを使っているかを徹底しました。

日本で第一号のBIO HOTEL®認証。一般社団法人日本ビオホテル協会は、ヨーロッパのビオホテル協会(Die BIO HOTELS)と連携して、健康と環境に配慮したホテルの認証を行っている。
クリ、スギ、アカマツ、サクラ、タモ、ケヤキ、ナラ、ヒノキ。
基本の木材は地元、長野県池田町の8種類の木を使っている。
長野県大北地域、一番遠くても長野県内の材。
それぞれの木の特徴を生かし、床材はアカマツ、柱はヒノキ、など。
建築はエコ建築で有名な山田貴宏さんにお願いした。
「木のぬくもりを感じてほしいので、スリッパを履かずに済むよう
床暖房を入れました」と
床暖房のためのボイラーもこだわった。
通常ボイラーは灯油を大量に使うが、八寿恵荘では
間伐材や松くい虫でやられたアカマツをチップにして
床暖房やお風呂を沸かすボイラーに使っている。
「松くい虫の被害にあった木はまちの外に持っていくことができないんです。
伐採して燻蒸するなど、地域で処分する必要があります。
それをチップにしてボイラーで活用しています」
カミツレ研究所の商品のメインとなるのはカミツレエキスの入浴剤。
34年間つくり続けている。
これをウッドチップのボイラーで沸かしたお湯に入れた
“華密恋(かみつれん)の湯”が八寿恵荘の自慢。
土日祝日は日帰り入浴も可能になっている。
「タオルやベッドリネンは、オーガニックコットン100%のもの。
枕カバーはカモミール染めをしています」
使い捨てのカミソリ、歯ブラシなどを置かずに、
洗面用具は持参してもらうようにお願いしているという。
そのかわりカミツレ研究所でつくられたスキンケアの商品は
各種、館内にて自由に使うことができる。
宿泊される方に会話をしてほしいからとテレビも置いていない。

木材は地元、長野県池田町の8種類の木を使用。それぞれの木が部屋のキーホルダーになっている。
認証取得にあたり一番苦労したのは食材だという。
BHJの基準では、すべて無添加のもの、無農薬のものを使わなければならない。
自社の菜園での有機野菜の栽培があるものの、すべての食材というのはとても大変。
有機野菜販売のネットワークを利用したり、
地域の伝統的な食材、食文化を取り入れるなどの工夫をした。
「宿泊される方に昔ながらの薪割りとかまど炊きを体験してもらおうと、
かまどをつくりました。宿泊者の方と一緒に薪を割り、
かまどで地元、池田町の有機栽培コシヒカリを炊いています」
その日出された夕食は、自社農園で採れた有機野菜やカモミールの天ぷら、
カモミールとじゃがいものコロッケ、
洋梨とカモミールのサラダといったカモミールを使ったオリジナル料理。
メインは信州味噌と長野県産のハーブ鶏のグリル。
地元の金糸瓜、自社の畑でとれたナスタチウム、
しめじとほうれん草のおひたしなどだ。
ご飯はかまどで炊いた地元池田町の有機コシヒカリ。キノコと里芋のお味噌汁。
池田町の地酒で蒸したしいたけ。間引きした玉ねぎのポトフなど。
「ここでしか食べられない地場の食べ物を出していけたら」と、
料理人の小林佐和子さん。食を通して地域のつながりをつくっていきたいと考える。

野菜は自社の畑か地元池田町のもの。キノコなどは一部、有機野菜販売のネットワークも使用している。オーガニックで地産地消の食材や調味料を使うこともビオホテルの認証基準。

有機野菜は可能な限り、自社の畑でつくっている。

ご飯はかまど炊き(有料)。三重県の愛農窯。ピザの石釜にもなる。宿泊者は薪割り体験もできる。自分で割った薪で炊いたご飯は格別。