連載
posted:2015.1.22 from:兵庫県淡路島 genre:暮らしと移住 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
editor’s profile
Yu Ebihara
海老原 悠
えびはら・ゆう●コロカル編集部エディター。生まれも育ちも埼玉県。淡路島はこれで4度目の訪問。昨年は旅行でも行きました。甘い甘い淡路島産たまねぎのダッチオーブン・ローストに夢中。
credit
撮影:津留崎徹花
人口14万人ほどの淡路島は、北に神戸、南に徳島という交通の便のよさと、
温泉や海水浴場、別荘地があることから、西のリゾート地としても親しまれている。
これらの観光と、名産であるたまねぎを始めとする農業や、
ちりめん、タコ、ハモなどの漁業が島を支える産業となっている。
そんな淡路島は、ここ数年で移住者が増えていることが話題となっている。
だが、地方での仕事探しは容易ではない。ここでは仕事を生み出すことが大切だ。
そのサポートをしているのが、淡路地域雇用創造推進協議会であり、
「淡路はたらくカタチ研究島」だ。
「淡路はたらくカタチ研究島」は、
厚生労働省の委託事業として、地域の雇用創出を図るプロジェクトである。
淡路島で仕事を探す人や、事業を立ち上げたい人が対象で、
島の豊かな地域資源を活かした家業・生業(なりわい)レベルの起業や
企業の商品開発をサポートするために、ワークショップを含めた18の講座と、
ツアーと商品の開発を行っている。
「淡路はたらくカタチ研究島」のプロジェクトメンバー。左から、魚﨑一郎さん、竹下加奈子さん、やまぐちくにこさん、藤澤晶子さん、大村明子さん、加藤賢一さん、平松克啓さん、松本貴史さん。
スーパーバイザーに、
関西を中心に活動するクリエイティブユニット「graf」の服部滋樹さんと、
「ブンボ株式会社」の江副直樹さんを迎えた。
コロカルでも昨夏取材を行った、建築家の「ヒラマツグミ」平松克啓さんも
アドバイザーとして参画しており、
陶芸家の西村昌晃さんも講座で移住の先輩として、
そして島で仕事をする同志として話をしている。
「graf」の服部滋樹さん(上)と、「ブンボ株式会社」の江副直樹さん(下)。写真提供:淡路地域雇用創造推進協議会
「淡路はたらくカタチ研究島」は、2011年から本格的な事業が始まり、
2013年からはより実践的に、と「淡路島ならではの付加価値商品開発プロジェクト」が始動。
淡路島ならではの価値を見直し、再発見し、商品開発の場をつくる。
そして販売拡大をはかり、より高い付加価値、より高度な実践を定着させ
淡路島での起業を応援するのだ。
2013年は4つの商品を展開し、2014年は6商品が開発された。
4月の公募で集まった19提案のうち6提案を採用し、
協議会で、実践支援員がデザイナーや専門アドバイザーとともに商品を開発する。
約半年間の開発期間でつくられた商品は、翌年1月の試験販売を経て、
そのレシピやノウハウまでを公開する。その上で事業社(者)を募集し、
提案者や開発者以外でも、淡路島内でに事務所のある事業社なら、
だれでも製造・販売できるようになる、というのがこの事業の特長だ。
「単なる商品開発ではなく、人をつなげて仕事や商品をつくる“仕組み”を生み出すのです」
と語るのは、「淡路はたらくカタチ研究島」の統括実践支援員の加藤賢一さん。
今回お送りするのは、2014年度に誕生した商品のうち、3商品にまつわる開発奮闘記だ。
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太古の時代から「御食国(みけつくに)」と呼ばれるほど、
淡路島は食材の宝庫である。採れる魚や肉はみな新鮮で、野菜も米もなんだって採れるし、
自信を持っておいしいと言える。ただ、「淡路島のおみやげ」として
人にプレゼントできるようなものがない。と、「エフキー」代表のやまぐちくにこさんは感じた。
だからこそ欲しい、淡路島の“いいもの”を詰め合わせたオリジナルのギフトボックス。
やまぐちさんが商品の提案者となり、実践支援員の藤澤晶子さんが担当者として奔走した。
だが、なかなかギフトの中身が決まらない。
「もう、“チーム迷走”なんて呼ばれちゃって。
年末まで悩んだから(商品化は)ギリギリでした」と藤澤さん。
おいしいものはたくさんあれど、ギフトにするには難しい。悩みに悩んだ商品選定の様子。写真提供:淡路地域雇用創造推進協議会
テーマもネーミングも迷走の連続だった。
「最初は『箱入り王子』。そのあと出てきたのが……『たぬき』(笑)。
洲本に伝わる民話から取ったネーミングだったのですが、
これもNGが出ましたね」とやまぐちさん。
やまぐちさんも藤澤さんも本気だった。本気で考えては、いいアイディアだ!
と喜び勇んで、服部さんのもとへ提案に行くが、「もう一度考え直して」と戻されてしまう。
そうして失敗を繰り返すうちに、
このスパイラルから脱するには、試すに限る。と気づいたのだと言う。
その試食会でわかったこと。たまねぎだけじゃない。淡路島にはこんなにもいいものがたくさんあるじゃないか!
「そういえば、淡路の人は魚も野菜も新鮮なうちに食べてしまうんです。
保存食の文化があまりないくらい」と藤澤さん。
島のいいものたくさん集めて、とにかく試したという試食会。写真提供:淡路地域雇用創造推進協議会
“野菜をおいしく食べるセット”という案が出てから、もっと用途を広げようと、
“素材をおいしく食べるセット”に着地するまでは早かった。
「どんどんシンプルになっていきましたね」とやまぐちさん。
あれほど悩んだネーミングも「淡路島GOTZO(ゴッツォ)」と決まった。
淡路島の言葉で「ごちそう」という意味だ。
いつもの料理を「ごちそう」に変えてくれる、魅力的な商品が完成した。
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実践支援員の藤澤さんは「もったいない」と感じているものがあった。
それは、道の駅や市場などで売られている琥珀色に輝くはちみつのこと。
そのはちみつは、一般に多く出回っている西洋ミツバチのはちみつとは違う、
日本固有種の貴重な日本ミツバチのものだった。
ひとさじ舐めてみると、非常に糖度が高く、甘みの中にかすかにある酸味や、
味わい深いコクなど、非常に品質がいいものに違いなかった。
ただ、パッケージデザインや適切な価格付けがなされていないこと、
特にブランドの統一もなく個々でバラバラと販売されていることなどが
「もったいない」と感じさせた。
藤澤さんはほどなくして
淡路島日本蜜蜂研究会(通称・はちけん)のメンバーに会うことになる。
メンバーは平均年齢70歳オーバーの22名。
はちみつを個々で販売しているが、実際に彼らと話をしてみて、
彼らの情熱がはちみつよりも、
日本ミツバチそのものに向けられていることを藤澤さんは知った。
日本ミツバチの生態について、巣箱の環境について、
獣害や天敵のスズメバチから日本ミツバチの巣箱を守る方法についてなど、
「研究会」という名の通りのアツい議論が交わされていて、
藤澤さんは「圧倒されました」と振り返る。
その日本ミツバチへの愛情をちゃんとカタチにして伝えたい。
個々で売っていたはちみつを同一ブランドで売るという、
はちけんと藤澤さんの開発が始まった。
毎月8(ハチ)の日に研究会を開くという、淡路島日本蜜蜂研究会(はちけん)。写真提供:淡路地域雇用創造推進協議会
はちけんのみなさん。中央で巣箱を持つのが会長の巽 和宏さん。
造園業を営む巽さんは、自宅と山に100箱ほどの巣箱を所有。仕事柄、春夏秋冬さまざまな花がある自宅兼仕事場の庭は日本ミツバチにとってもパラダイス!
淡路島の日本ミツバチは、山や森へ自由に出向き、
春には春の、秋には秋のさまざまな樹々のみつを集める。
その数は200〜300種類とも言われる。
「百花蜜と言って、島中のさまざまな樹々から採っているんです。
淡路の環境がいい証拠ですね」と藤澤さん。
日本ミツバチが飛ぶ距離は巣箱から半径2kmと島の範囲内。
だから100%淡路島産のはちみつができる。
「冬は7度〜8度まで気温が上がらないと巣箱から出てこないね。
今の時期だとビワやさざんか、椿の花の蜜で、もう少ししたら梅かな」
とはちけんの会長巽 和宏さんは話す。
百花蜜のはちみつの成分分析は難しいと言われているが、
巽さんはハチの嗜好が大体わかっているというところにも、ハチへの愛情を感じる。
巽さんに巣箱を見せてもらう。
巽さんの日本ミツバチは、薄い木枠(巣礎枠)ではなく、
重ねた木箱の大きさに合わせて自由に巣をつくりあげていた。
春に巣をつくり始め、秋に木箱いっぱいの巣が完成する。
集める樹々の種類の関係で、春には薄い黄色だった蜜は、
秋になるにつれ茶色を帯び、グラデーションになる。
木箱の裏と表で色が異なるのはそのためなのだという。
はちけんのメンバーも巣からすくいとって舐めては、
「酸味がちょっとあるなぁ」「うん、いい味だ」と口々に感想を言い合う。
一箱ずつ風味や味が違うので食べ比べる楽しみもあるそうだ。
ぎっしり詰まった巣箱の重さは約7kg。箱の重さは2kgなので、5kgの収穫だ。
みつの収集は、遠心力を利用した分離器を使わず手作業で行い、
ざるとこし器で丁寧にこして仕上げていく。
加熱処理をしないので、酵素が生きているのが特長だ。
これをビンに詰め商品にする。名前は「樹々のはちみつ」に決まった。
百花蜜にふさわしい名前だ。
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ところ変わって、淡路市育波の養鶏場「北坂養鶏場」。
若き養鶏家北坂 勝さんは、養鶏に携わって20年。
安心安全な卵を地元・淡路の人々に届けようと、
エサや水からこだわった養鶏に取り組んでいる。
鶏糞の処理の悩みから、“循環”に興味を持ったのは2、3年前のこと。
「鶏糞でつくった堆肥で島内の野菜を育てて、
その野菜屑で鶏のエサがまかなえたら」。
昔の農家ではみなやっていたこと、いわば原点に立ち返った北坂さんは、
「島の土」の提案者となった。
「養鶏家が土を考えることは当然のこと」と言い切る北坂さん。
さらに続く言葉には「堆肥は土のエネルギーになる。
淡路中の土を肥やしていきたいですね」と、
鶏糞を“処分”ではなく“活かす”方向へ舵を切った。
もともと、地元のデザイナーや料理人、農家といった他業種の人と組むことに興味があり、
率先して行っていた北坂さん。
同じく肥料となる菜種油の粕を出す油の製造者たちと、
肥料を使う農家たちが集まり、「鋤(すく)ラボ」が誕生。
つくり手と使い手が「土づくり」を通して協力し合い、
島の循環型農業を考えていくグループが生まれた。
おがくずの中にいる微生物で鶏糞を分解し、
堆肥にするという方法を知ったのは2013年ごろ。
鶏舎の下におがくずを敷いておくだけで堆肥ができあがる。
しかも、鶏糞の匂いも出ないという大きなメリットがあることがわかった。
養鶏家にとって鶏糞の匂いの問題は深刻だが、
この方法だと面白いくらいに鶏糞の臭さが解消されている。
北坂さんは、6棟の鶏舎を持っているが、そのうちの4棟でおがくず製法を取り入れている。
6棟の鶏舎で約15万羽の鶏を育てる。「淡路島の人口とだいたい同じ数ですね」と北坂さん。
おがくずに潜む微生物の発酵のちからで、鶏糞を近くで嗅いでもまったく臭くない。驚きの体験。
土のようにサラサラとした堆肥。畑の土に混ぜて“土をつくって”から農業、または一般家庭用では園芸で使う。
つくった堆肥は、北坂養鶏場の近くに畑を持つ、
「新家青果」の代表、新家(しんけ)春輝さんと、農園長の堂崎伊知郎さんに
積極的に試してもらっては意見交換をしている。
「結局土なんです。土づくりをちゃんとすれば悪天候でも育つたまねぎができる。
堆肥を使う人がどう活かすかなんです」と新家さんは話す。
見せてもらった畑は、鶏糞からできた堆肥をまぜて土づくりをした
有機農法のもの。ここに淡路名産のたまねぎを植えた。
「10年以上有機農法をやってきた経験で言うと、
有機農法とそうでないものは味がまったく違う。
この堆肥でつくったたまねぎも絶対においしいはずです」
と自信と期待を込める堂崎さん。収穫の春が待ち遠しい。
海からの風が気持ちいい冬の淡路。新家青果の畑にて。
有機農法で育てた新家青果のたまねぎは「甘い」のだとか。北坂さんのつくったおがくずの堆肥でたまねぎを育てるのはこれが初めてだが、順調に育っている。
左から、堂崎伊知郎さん、北坂 勝さん、新家春輝さん。
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ここまでで、それぞれの商品がどんなできあがりになったか気になった人や、
商品を買い求めたい人、「はたらくカタチ研究島」の活動が気になった人もいるのでは。
いよいよ商品が一般にお目見えする日がやってきた。
渋谷の「HIKARIE 8/」で1月26日(月)〜2月1日(日)まで行われる
「つながりをうみだす商品発表会」に、2014年度開発された6商品と、
2013年度に開発した4商品が一堂に会し、試験販売が行われる。
今回お伝えした3商品のほか、以下の商品も並ぶ。
加藤さんは、このイベントを
「一般の人に実際に商品を手に取ってもらって、
フィードバックをいただける最初の機会です」と位置づける。
「ドキドキするけど、どんな反応がいただけるか楽しみです」と
藤澤さんとやまぐちさんは嬉しそう。
どんな商品になったのか、はたまたお客さんの反応は……!?
その模様は後編をお楽しみに。
Information
淡路島はたらくカタチ研究島「つながりをうみだす商品発表会」
期間:2015年1月26日(月)〜2月1日(日)11:00〜20:00
場所:HIKARIE 8/ aiiima1、2
http://hatarakukatachi.jp
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