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石垣島 Creative Flag
クリエイティブフラッグ

Local Action
vol.044

posted:2015.1.14   from:沖縄県石垣市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

editor's profile

Yu Miyakoshi

宮越 裕生

みやこし・ゆう●神奈川県出身。大学で絵を学んだ後、ギャラリーや事務の仕事をへて2011年よりライターに。アートや旅、食などについて書いています。音楽好きだけど音痴。リリカルに生きるべく精進するまいにちです。

沖縄県の八重山諸島にある石垣島にて、
島の創造力(Creative)に旗(Flag)を立て、
国内外に発信するプロジェクト「石垣島 Creative Flag」がはじまっている。
これは、石垣市の主催で2013年の秋からスタートした、
島のデザイナーやイラストレーター、カメラマン、編集者などを集め、
クリエイティブの力で島を盛り上げていこうという取り組みだ。

そして2014年の秋、同プロジェクトにて新しいスクールが開講した。
その名も「石垣島Creative Labo」。
このラボでは、国内外で活躍するクリエイターを招き、
島のクリエイターを実践的にバックアップする
ワークショップなどを行っていくという。
石垣島には、どんなクリエイターたちがいるのだろう?
2014年12月、銀河ライター/東北芸術工科大学客員教授の河尻亨一さん、
「まちづクリエイティブ」の寺井元一さん、
小田雄太さんが講師をつとめるワークショップの現場を訪ねた。

石垣島の自然と現役クリエイターが先生!「石垣島Creative Labo」

2013年3月に新しく開港した「南ぬ島 石垣空港」空港に着くと、
なんと現地は冬でも暖かだ。
道端にはハイビスカスが咲き、あちこちにガジュマルやヤシの木も生えている。
沖縄本島の南西約400kmに位置する石垣島は、熱帯の島なのだ。

ワークショップ会場は、商店街の真ん中にある「まちなか交流館 ゆんたく家」。
会場には石垣市企画政策課の宮良賢哉さん、
タウンマネージメント石垣の西村亮一さん、
離島経済新聞の鯨本あつこさん、小山田サトルさん、多和田真也さんら、
このプロジェクトの立ち上げ時から支えてきたメンバーの皆さんが揃っていた。

まずは石垣市企画政策課の宮良さんに
このプロジェクトを立ち上げた経緯についてお話を聞いた。

石垣市企画政策課の宮良賢哉さん。音楽が好きで、DJ マルセイユという名前でDJとしても活動しているそう。

宮良「僕自身、もともと音楽が好きで、2009年から
『トロピカルラバース・ビーチフェスタ』という音楽フェスを開催してきました。
会場はフサキリゾートビレッジという所なのですが、
素晴らしいロケーションも手伝って、毎年たくさんの方に来ていただいています。
石垣島にはミュージシャンも多いですし、
音楽の活動はわりと知られているんですよね。
でもじつは石垣島には、音楽以外のクリエイターもたくさんいるんです。
そういう人たちにもっと活躍してもらいたい、
この島に仕事をつくっていこう——ということで始まったのがこのプロジェクトです。
今年の1月に開催した『クリエイティブセッション』を皮切りに、
石垣島にゆかりのあるクリエイター35組を選出し、
彼らを紹介するウェブや冊子の制作、渋谷ヒカリエ内『aiiima』でのPRイベント、
展示会『rooms』、『TAIWAN DESIGN EXPO』への出展などを行ってきました。
そうやってここ1年、僕たちも手探りで色々なことを試してきた中で、
より確実にクリエイティブを仕事につなげ、仕事を定着させていくためには、
もっと実践的にクリエイターを育てていく場が必要だと思いました。
そうして今年の秋からスタートしたのが『石垣島Creative Labo』です」

さまざまなジャンル、さまざまな立場のクリエイターが一緒に学べる場

ワークショップの時間になると、参加クリエイターたちが集まって来た。
参加者は駆け出しのアーティストから、
既にバリバリ仕事をこなしているデザイナーやプログラマーまでと、さまざまだ。
このスクールではゲストの話を聞くだけではなく、
この場に集う人たちのアイデアを融合させ、
何かを生み出すことを目的としているので、
さまざまな立場のクリエイターが一緒に学べるのだ。
この日は、河尻亨一さんによるワークショップの日。

銀河ライター/東北芸工大客員教授の河尻亨一さん。編集執筆のほか、イベントや戦略立案、PRコンテンツの企画・制作・アドバイスなども行っている。

前半は河尻さんが「地域で活かせる先端広告のクリエイティブ」というテーマでレクチャー。
世界最大の広告祭「Cannes Lions」の受賞作を集めた動画集
Cannes Lions 2014 Best 100 の中からセレクトした映像を見せながら、
「クリエイティブを企画に結びつけていくにはどうしたらいいのか」
という課題を投げかけた。

後半は、参加者の悩みをヒアリング。
河尻さんが「ここまでは講義スタイルでお話しましたが、
後半は皆さんにインタビューしてみたいですね。
私はインタビュアーでもあり、
かなりたくさんのクリエイターに取材していますから、
皆さんが“そんなに価値がない”と思っている言葉の中から、
宝石を見つけ出すこともできるかもしれません」と語りかけると、
「ものづくりの作業量と対価が見合わない」、
「制作をしているとひきこもりになりがち」などの意見が出てきた。
ひとり、ふたりと悩みを語ると、どんどん意見が出てくる。
「石垣島を“クリエイターがこもれる島”としてPRすれば」などといった
ユニークな意見も飛び出した。

最後に河尻さんが「自分たちの持っている資産や悩みをプロデュースし、
そこから解決方法や企画を立ち上げていくことが大事。
この地理的環境を生かし、“アジア視座”をもって、
アジアのクリエイターのハブとして打ち出してみては」と語り、
この日のワークショップは終了。
参加者の本音を引き出し、解決に導く
河尻さんのプロデュース力を目の当たりにしたことも学びになった。

翌日のスピーカーは、コロカルの「リノベのすすめ」にもご登場いただいた
千葉県松戸市のまちづくりプロジェクト「MAD City」の
株式会社まちづクリエイティブ代表取締役 寺井元一さん、
アートディレクターの小田雄太さん。
“クリエイティブな自治区”をつくるために寺井さんが進めてきたプロジェクトの話から、
小田さんによる「デザインからはじまるまちづくり」についてレクチャーが行われた。

まちづクリエイティブの寺井元一さん(左)、アートディレクターの小田雄太さん(右)。

寺井「『MAD City』は、息苦しいまちなんか抜け出して、どこかのまちをのっとり、
ルールづくりからはじめてクリエイティブなまちをつくろう——ということで
スタートしたプロジェクト。まずはじめに『MAD City』という名前を決め、
小田君に依頼してロゴをつくり、
クリエイターが集まるようなまちづくり・コミュニティづくりからはじめました。
でも、僕はお金を出してアーティストを誘致するのは間違っていると思う。
そんなことをしても中途半端なアーティストしか集まらない。
それより“やれるもんならやってみろ”ぐらいの勢いでやっていきたい。
そうしていい緊張関係を築いていかないと、
可能性のあるアーティストは来てくれないと思うんです」

そう語る寺井さんがプロジェクト立ち上げ後、
すぐに着手したのが不動産事業だった。
これは、お金はなくてもアイデアがあるクリエイターを中心に
改装可能・原状回復不要な住宅やアトリエ、店舗を提供するというもの。
現在では多数のアーティストがこの物件に暮らし、
居住者からは「MAD Cityにおける何よりの魅力はコミュニティ」
という声も聞こえてきている。
歯に衣着せぬ寺井さんの話、クリエイターの皆さんには
かなり刺激になったのではないだろうか。
まちづクリエイティブの取り組みはリノベのすすめでも紹介している。

石垣島クリエイターの仕事場

「石垣島Creative Flag」には、さまざまなジャンルのクリエイターが参加している。
今回の旅では、彼らのアトリエや工房も訪ねた。

■大浜 豪さん(藍染め)

島藍農園の大浜豪さん。オリジナルブランド「shimaai」のストールは八重山藍のブルー、フクギ(福木)のオレンジがテーマカラー。

石垣市出身の大浜さんが営む「島藍農園」は、平原の中にある小さな農園だ。
こちらでは、植物の栽培から加工、染色、商品開発まで、一貫して手づくりで行っている。
およそ小学校の校庭ぐらいの敷地の中に、畑から藍色素を抽出するための加工所、
工房、販売所、番犬と猫の家まで、すべてがここにある。

藍染めの原料には、古くから八重山諸島だけで用いられてきた
「南蛮駒繋(ナンバンコマツナギ)」という植物を使用。
大浜さんはこの植物から生まれた藍の色に魅せられ、
2003年に農園を設立し、土づくりからはじめた。
この農園ではすべての工程を化学肥料や除草剤、薬品類を使用せずに行っている。

南蛮駒繋(ナンバンコマツナギ)

また大浜さんは、商業目的で自然に生えている植物を採り、
草木染めに使用することにも抵抗があるという。
理由は「もしその商品がヒットしてしまったら、
自然に生えている植物を乱獲することになってしまうから」。
大浜さんが研究を重ねて生み出した制作工程は、
この土地から生まれた材料にこだわり、
土地に還すところまでを考えた、島への愛の賜物なのである。
この農園から生まれた藍色と、フクギ(福木)という木の皮からとれた
橙のストライプは、オリジナルブランド「shimaai」の定番デザインになっている。

■池城安武さん(シルクスクリーン/グラフィック)

アーティストの池城安武さん。着用しているTシャツは八重山の伝統的な模様をモチーフにしている。

自宅を改造し、12月に初の路面店をオープンしたばかりの池城さん。
八重山諸島の文化や動植物、沖縄の詩人・山之口貘さんを
モチーフにしたTシャツや、シルクスクリーン版画、グラフィックなどを制作している。
石垣島で育ち、琉球大学法文学部を卒業後はロンドンへ留学。
世界各国を旅して沖縄に戻ってきたという池城さんだが、
その言葉から、作品から、八重山の詩情があふれてくるようだ。

たとえばオリジナルTシャツ「カフヌキィン」は、
沖縄・八重山の言葉で幸せを意味する「カフ」と
着物を意味する「キィン」をかけあわせた言葉。
「あなたにたくさんの幸せが訪れますように」という想いがこめられた服だ。
八重山の伝統的な模様をモチーフにしたTシャツや、
池城さんが描いた文様がとてもかわいい。
河尻さんも、山羊をモチーフにしたTシャツをお買い上げされていた。

■十河 学さん(映像/写真/プログラミング)

プログラマーの十河学さん。プログラミングを駆使したものづくりからスペースの企画までこなす、オープンソースな精神の持ち主。自宅を宿として貸し出すAirbnbも行っている。

広島県出身で2012年より石垣島に移住し、
現在は島の自然からインスピレーションを受け、映像、写真、アプリ制作、
サイト運営、ファブリケーションスペースのプロデュースなど、
あらゆるもの・ことを手がけている十河さん。
インターネットさえあれば、どこでも仕事ができてしまうというのが強みだ。
都会の喧噪から離れ、仕事に集中できるいまの環境は快適なよう。
スペースを訪れて驚いたのは、小型飛行ロボット「ドローン」が何機もあったこと。
十河さんは「ドローン」をつくるワークショップなど、
さまざまなデジタルファブリケーションのワークショップを企画している。

また現在は、「iBeacon」というタブレット端末向けのサービスを
石垣島に導入するため、システムを開発中だ。
もはやインターネットやデジタルファブリケーションは島の生活に欠かせないもの。
活躍の場は、まだまだ広がっていきそうだ。

■Maki UEDA(香り)

匂いのアートの第一人者、Maki UEDAさん。さまざまな匂いを香水やワークショップなどのかたちで体験させてくれる。

最後にご紹介するのは、香りのアーティスト、Maki UEDAさん。
食べ物や香辛料、体臭など、あらゆる素材から匂いを抽出して香水化し、
その香りをインスタレーションやワークショップなどのかたちで発表している。
UEDAさんは東京に生まれ育ち、大学卒業後はオランダに移住。
「匂いのアート」の第一人者として、
オランダの王立美術学校&音楽院などで教鞭をとってきた。

現在は石垣島を拠点に活動を展開しているUEDAさん。
石垣は匂いの資源が豊富で、素材にはことかかないという。
アトリエで石垣の土からとれた匂いを嗅がせてもらうと、
香水のように甘く、強い香りにびっくりさせられた。

石垣島 Creative Flagのこれから

参加クリエイターたちは、
このプロジェクトが主催するイベントで作品発表を行ったり、
ワークショップの講師をつとめたりしている。
イベントを訪れれば、彼らの作品や言葉から、
石垣島の魅力にふれられる。
そういったクリエイターたちの放つ魅力こそ、
このプロジェクトの大きな資産なのかもしれない。
今後は、企画や運営にも参加し、アーティストと石垣市が
一緒になってこのプロジェクトを盛り上げていくとのこと。
すでに新しいプロジェクトも進行中だそうだ。

今回のラボに参加して印象に残ったのは、
石垣島では昔から日本とアジアの玄関口として、
さまざまな地域の人が訪れ、独特な文化やコミュニティが育まれてきたという話。
沖縄には「いちゃりば ちょーでー」(一期一会、一度会ったら皆兄弟という意味)
という言葉がある。
そんな精神とクリエイティブが融合したら、おもしろいことが起こりそうだ。
これからここでどんなクリエイティブが育まれていくのか、
今からとても楽しみだ。

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