colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

みずからの“つくる”で
地元を盛り上げる若手クリエイター。
「淡路島の場づくり」後編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.026

posted:2014.10.28   from:兵庫県洲本市  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer

Suzu(Fresco)

スズ

フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/

前編:地元への入り口となるキャンプ場、海に面した First class Backpackers Inn。「淡路島の場づくり」前編 はこちら

樂久登窯とヒラマツグミが語る、淡路に溶け込むF.B.I.

淡路島に異世界のようなキャンプ場をつくりあげた
〈First class Backpackers Inn〉(以下F.B.I.)。
キャンプ場の営業はシーズンとなる4月から10月まで。
しかも建築を開始した当初、主なスタッフは大阪から出向いていた。
そんな状況であっても、淡路島という地に溶け込んでいる。
彼ら自身の努力はもちろん、淡路島在住の若いクリエイターとの交流も盛んだ。

F.B.I.での夜のパーティ

F.B.I.には夜飲みに来るひとも多い。

樂久登窯(らくとがま)の西村昌晃さんと、建築士事務所ヒラマツグミの平松克啓さん。
ともに現在F.B.I.がある地、かつての船瀬海水浴場であった場所が
売りに出されているという話を聞いて、可能性のある場所だと思っていた。
そんなとき大阪からF.B.I.スタッフがやってきた。

「うちのカフェにふらっとF.B.I.のスタッフが遊びにきたんです。
そうしたら、船瀬海水浴場でキャンプ場をやることになったと言うんです」と西村さん。

そこから知り合い伝手に、平松さんに話が届き、
構造設計などを担当することになった。

平松さんの通常の業務とは異なり「僕たちの出番はほとんどなかった」という。
「自分たちの手でつくってみたいということで、僕たちは構造設計だけして、
あとは調整役でした。最初から“地元のひとたちとやりたい”という気持ちが強かったので、
電気、基礎、大工などを調整しました。
ほとんど船瀬周辺の職人さんたちでできあがっています」

手作業で建てていたときの様子を平松さんはこう語る。

「F.B.I.はちゃんとした会社。
でも当時、大の大人が毎週末淡路島まで来て、作業していました。
夜はお酒を飲んで、楽しそう。果たして遊んでいるのか、仕事しているのか。
楽しみ方がすごかったです。草刈りすら奪い合いしていましたからね(笑)。
そういった仕事への姿勢からは、新しい価値観を教えられました」
それはもちろん、現在ビジネスとしてキャンプ場を成り立たせているからこそできる話だ。

一方、西村さんも、F.B.I.に協力しつつ、地元への意識に驚く。
「地元には地元のルールがあるので、その都度相談に乗ったりしていました。
彼らは地元へリスペクトを払うべき、ということに理解のあるひとたちで、
溶け込み方はすごいですよ。住んでもいないのに、地元のお祭りに出ています。
そんなこと普通は考えられませんからね」

Page 2

樂久登窯の西村さんが追い求める“つくる”

F.B.I.のホームページにも、「FRIENDS of F.B.I.」と表記されている
樂久登窯とヒラマツグミによる淡路島の場づくりを取材した。

樂久登窯の器たち

淡路島はさまざまな種類の土がとれるという。ゆえに焼きかたのバリエーションも豊富だとか。

樂久登窯の西村昌晃さんは、兵庫県の丹波焼の窯元で修業した陶芸家。
淡路島では、料理人の器などをよくつくっていた。そんな料理人と話していると
「自分の料理は生産者さんあってこそ」という会話になったという。

「それなら、この器は何のための器なのかと考え始めました。
当然、食べ物を乗せるため。
しかし僕はお米をつくったことはないし、畑を耕したこともない。
食べ物を一切つくったことがないのに、食べ物を乗せる器を焼いているというのは、
すごくおかしな話だと思ったんです」

樂久登窯の西村昌晃さん

樂久登窯の西村昌晃さん。淡路島に移って10年。この場所は祖母の家だった。

道具としての機能を最大限に果たすためには、
その源流も知らなくてはならないということ。
西村さんいわく「道具の向こう側」。

「かつては必要に迫られてつくっていたはずで、その結果として生まれたデザイン。
いまつくっているものは、過去に誰かが必要としたデザインの写しでしかない。
僕は食べ物をつくったこともないし、必要に迫られたこともありません。
ただ単に写しているだけ。いや写せてすらいないかもしれない。
だからまずは、その道具が生まれた背景やストーリーを知ることを始めました」

「道具の向こう側を知りたい」と、
最近では猪を捕まえたり、養蜂も始めたという。

「いまはそれと同じライフスタイルではないから、
必要ないスペックかもしれないけど、過去とつながる可能性があります」

樂久登窯にあるピザ焼き窯

樂久登窯にあるピザ焼き窯。あちこちからピザ焼き窯づくりのオファーがあるという。もちろんF.B.I.にもある。

かつて料理から器に興味が移った北大路魯山人。その逆をいく西村さん。
しかしロジックは同じだ。器は何かを乗せて、初めて意味を成す。
それを知ってこそ、“つくる”ということになる。

「“つくる”ということになってない、世の中はそんなものであふれているなと。
田舎に住んでいると、生産者を追いかけやすいですよね。
となりのおばちゃんが農家であるとか、
毎日カフェに来てくれるおじちゃんが猪猟師であるとか。
いままで東京中心に発信される流行みたいなものを意識していたけど、
何してたんだろうと。
意識すべきは目の前に山ほどいる本物の生産者だってことに気がつきました」

古民家をリノベーションした樂久登窯

古民家をリノベーションし、中央は真っ白なギャラリーのような空間に。ヒラマツグミが手がけた。

Page 3

ヒラマツグミは“環境を整える”

淡路島を中心にモダンな建築を手がけるヒラマツグミ。
事務所の下ではSPACE 223というカフェ&ショップ&コミュニティスペースを経営し、
移住者などの交流の場ともなっている。

ヒラマツグミの平松克啓さん

ヒラマツグミの平松克啓さんは、淡路島出身。一度大阪で働くが、地元のおもしろさに気がつき、淡路島へと戻った。

代表の平松克啓さんは、〈淡路はたらくカタチ研究島〉の発起人のひとり。
地域雇用が大きな目的で、17〜18の研究会がある。
厚生労働省の事業だが、本来、県や市がやるようなことを、
平松さんたちが主導で提案書をつくり、
県のスタッフにチェックしてもらいながら提案した。
スーパーバイザーにgrafの服部滋樹さん、
九州ちくご元気計画の江副直樹さんを迎えている。

「大きな産業ではなく、移住者や若いひとが起業しやすいような、ナリワイのようなもの。
その仕事ひとつだけではなくてもいいような、
はたらくカタチを一緒に考えていきましょう、というものです。
直接的な雇用を生みだす実践的なものもありますが、
そうしたものを通して、ワークスタイルを見直してもらいたい。
いい会社に入るという価値観以外も、認められてもいいはずです」と平松さん。

これは答えがあるようなものではなく、だから講師が前で喋る座学というよりも、
座談会のようなワイワイした雰囲気で行われている。

上段は山田屋のジャム

上段は山田屋のジャム。もともとジャムづくりをしていたが、初期のはたらくカタチ研究島に参加し、販売方法などを勉強した。

旬のものを使った料理やデザートが楽しめるカフェ

自給率100%を超えるという淡路島の食材を中心に、旬のものを使った料理やデザートが楽しめるカフェ。

商品開発も行っている。
昨年は、たまねぎの皮で染めたふろしきや、いちじくのコンポートなどを開発した。
事業が終わって終了ではなく、
その先は淡路島の業者に引き継いでもらって商品化し販売している。

こうした取り組みは、やはり移住者のほうがアンテナを張っていて、反応しやすい。
しかし平松さんは、「地元のひとにはこちらから声をかけます」という。
地元の人にも、働き方や生活の多様性に気付いてほしいのはいうまでもない。

「地元のひとの意識が変わったほうが、ガラッと変わる可能性があります」

SPACE 223のショップスペース

SPACE 223のショップスペース。地元作家の器や木工品などを販売している。

ここ数年で淡路島は移住者が激増している。
それに伴って、ひとが流れ、おもしろいできごとも増えている。
まだ大きなうねりにはなっていないが、その萌芽は感じられる。

最後に平松さんはいう。
「最近、自然栽培の考え方に興味があります。
農薬も肥料も使わない。やることといったら、
野菜たちが持つ自然の力を最大限に発揮しやすい“環境を整えていく”ということ。
突き放して任せるという姿勢と、それを観察し見守る姿勢です。
人間もまた自然の一部であり、考え方は同じなのではないでしょうか。
これから先も、淡路島で楽しく暮らせる“環境を整える”仕事を
していければいいのかなと思っています」

すぐれたハードを整えておけば、
あとは住民というソフトが自然と成熟していくのだろう。

こうしてF.B.I.と樂久登窯やヒラマツグミなど、
移住者と地元住民がいい関係を築き、淡路島に新しいうねりが生まれつつある。

information

map

樂久登窯

住所:兵庫県洲本市五色町鳥飼浦2667-2

TEL:0799-34-1137

Web:http://rakutogama.com/

information

ヒラマツグミ一級建築士事務所

住所:兵庫県洲本市本町5-3-2

TEL:0799-20-4489

Web:http://hgumi.net/

Feature  特集記事&おすすめ記事