連載
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
editor’s profile
Yu Ebihara
海老原 悠
えびはら・ゆう●コロカルエディター/ライター。生まれも育ちも埼玉県。地域でユニークな活動をしている人や、暮らしを楽しんでいる人に会いに行ってきます。人との出会いと美味しいものにいざなわれ、西へ東へ全国行脚。
credit
撮影:津留崎徹花
supported by 淡路はたらくカタチ研究島
〈淡路はたらくカタチ研究島〉のプログラムのひとつ
〈淡路島ならではの付加価値商品開発事業〉で今年度開発された商品の発表会が、
渋谷の〈ヒカリエ 8/〉にて11月24日から29日まで行われ、
今年度開発された4商品に加えて、2013年と2014年に開発された10商品、
計14品が並んだ。3年分のすべての商品が揃うのはこれが初めてだ。
来訪者に商品の感想やフィードバックを聞き、
今後の商品展開に生かそうという場である。
また、実際に今年度開発されたいくつかの商品は購入できたり、
商談スペースで流通の相談ができたりと、
開発を手がけた実践支援員たちとコミュニケーションがとれる機会でもある。
同所で商品発表会を行うのは昨年に引き続き2回目。
淡路島出身で故郷のこうした先進的な試みに
「淡路島もなんだかおしゃれに変わったなぁ」と感慨深く思う人、
地域デザインの事例として〈淡路はたらくカタチ研究島〉に興味があって見に行った人、
ヒカリエでの買い物中に立ち寄った人など、
6日間で500名以上の来場者が足を運んだ。
淡路はたらくカタチ研究島は厚生労働省の委託事業で、
淡路地域雇用創造推進協議会が実施している。
発表会に来ていた同協議会の会長藤森泰宏さんにお話をうかがう。
まず、淡路島ってどんな島ですか?
「瀬戸内海と大阪湾のふたつの海に囲まれている淡路島は、
北から淡路市・洲本市・南あわじ市の、3つの市でできています。
淡路市は観賞用植物の栽培や水産業が盛んで、洲本市は商業の中心地、
南あわじ市は農業や特産である淡路瓦産業への従事者が多いという、
それぞれ市の産業に特徴があります。
そして、自転車でも一周できるくらいのコンパクト感。
洲本市の太陽光発電に南あわじ市の風力発電と、
エネルギー自給の島としても注目されていますね」
藤森さんは淡路島で生まれ育ったが、
淡路島の良さについては少しずつ見方が変わってきたのだと言う。
「淡路島出身の私よりも、淡路島を訪れる島外の人のほうが、
淡路島のいいところをよく知っているんです。
たとえば、私は“淡路島のいいものを”と言われて島の特産物を薦めましたが、
ある島外の人は、海や夕日といった淡路島の日常風景を“すばらしい”と言いました。
普段暮らしていると気づけない、その目のつけどころに驚きつつも、
それが淡路島の良さなのかと気づかされます。
この〈淡路はたらくカタチ研究島〉は、
島外からスーパーバイザーやデザイナー、講師を招きます。
そういう方々から教えてもらう島の魅力が多いなと、
この事業を進めてから特に感じるようになりました」
スーパーバイザーとして招いたのは、
過去にも数々の地域創生プロジェクトに参加するgrafの服部滋樹さんと、
ブンボ株式会社の江副直樹さん。
この2名に加え、セミナーや研修の講師を務めるUMA/design farmの原田祐馬さんや、
料理研究家の堀田裕介さん、働き方研究家の西村佳哲さんなど、
多くは島外からやってくる。
今回の4商品の商品開発でも4名のデザイナーに商品のコンセプト決めから
パッケージ制作まで伴走してもらったが、彼らもベースは阪神地域や四国などだ。
こうした“ソト”の視点と、
実際に淡路島で事業を起こそうとする提案者の“ウチ”の視点が合わさって、
商品の細部にしっかり落とし込めているという印象が
〈淡路島ならではの付加価値商品開発事業〉にはある。
今回の商品開発を例に挙げる。〈まちまち瓦〉のデザイナーは、
建築家の岡 昇平さんと家具デザイナーの松村亮平さんのユニット〈こんぶ製作所〉。
普段は香川県高松市の仏生山で活動し、
〈仏生山まちぐるみ旅館〉などのプロジェクトで注目を集めている。
前編のまちまち瓦の製造現場のレポートでもお伝えしたように、
その岡さんたちのデザインセンスと淡路瓦職人の伝統と技術が融合し、
フラットな淡路瓦をつくりあげた。
今の技術をもってすれば均一に瓦を焼くことは造作もないことだが、
岡さんたちからのリクエストであえて色ムラや経年変化が起きやすいようにした。
それも瓦の個性にしてしまおうというアイデアは
デザインの一環であることに違いないが、昔の淡路瓦の製法で、
今はガス窯に変わってほとんど見ることができない達磨窯(だるまがま)や、
年月を重ね技術を確立してきた先人たちに対する、
こんぶ製作所と企画提案者・興津祐扶さんからの賛辞でもあるように思えた。
さて、発表会の会場の様子を見ていく。
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まずは来場者からも「“育てる”というコンセプトがおもしろい」と好評だった
〈育てるほうき〉。
その名の通り、ほうき本体にホウキギの種と栽培方法の説明書がついてきて、
ほうきを素材からつくるという究極のDIYキットだ。
ひとつひとつ手づくりの毛糸のグリップは色が選べて、汚れたら外して洗うこともできる。
さまざまなほうきが並ぶと工芸品を見ているようで実にかわいらしい。
上映されていた開発過程のムービーでは、
前編でもご紹介したほうきづくり名人の松平万寿代さんも登場。
〈Suu BOTANICAL SOAP〉のブースでは
実際に石けんが使用できるスペースを設けた。
自然派石けんは泡立ちにくいというイメージが先行するためか、
「思ったよりも泡立ちがいい」という声が来場者から上がった。
モコモコの泡が肌を包み込むとラベンダー精油の香りがふんわり。
洗い上がりのしっとり感も好評価で、
実践支援員の藤澤晶子さんもほっとひと安心の様子だった。
無農薬栽培で育てられたカレンデュラ(キンセンカ)の花びらも華やかだ。
試験販売も兼ねたこの発表会で、ボタニカルソープは上々の売り上げだったのだそう。
会場で誰しもが目を奪われた“小屋”。
岡さんと松村さんのこんぶ製作所がまちまち瓦の展示に合わせて設計した
〈かわらのいえ〉がヒカリエに登場した。
屋根材としても使えて、壁材としても使えるという商品の特徴を表現している。
つるつる(フラット)としましま(スクラッチ)の2種類の柄のまちまち瓦を
ランダムに何枚も貼って並べると、陰影がより際立ち、モダンな印象だ。
「今回いらしていた建築関係の方が“この瓦を使ってみたい”とお話されていて、
とてもうれしかったですね」と話すのは、実践支援員の竹下加奈子さん。
また、別の来場者からは「違った柄の瓦も見てみたい」という声があったようで、
次への展開の課題となりそうだ。
「どの企画の提案も印象的だったのですが、
特に淡路島産デュラム小麦の小麦粉は、提案者である淡路麺業・出雲文人さんの
“淡路島を良くしたいんだ”という熱い思いがよく伝わりました」と藤森さん。
小麦の栽培に協力した兵庫県北淡路農業改良普及センターの職員も、
初めての試食の際に、「想像以上によくできている」と驚いたというエピソードが。
販売は1kgと25kgの袋入りで、パスタだけでなくパンにもピザにも使える。
食の宝庫淡路島にまたひとつ名物ができそうだ。
次の展開としては、まず12月17日(木)に、洲本市文化体育館にて、
〈島からうまれた商品・ツアー発表会〉が開催され、
いよいよ島の人たちへのお披露目となる。
淡路島の人の目には“島ならではの商品”はどのように映るか、反応が気になるところ。
また、開発商品の発売・製造・販売などに関心のある人へ相談も受け付ける。
さらに、1月6日(水)から1月11日(月・祝)まで、
大阪市中之島のgraf Shop&Kitchenにて、兵庫県淡路県民局による
〈淡路はたらくカタチ研究島WEEK 〜淡路島発 これからのくらしのカタチを考える〜〉
が開催。商品の展示販売だけではなく、ワークショップや、トークセッション、
開発商品や淡路島産食材を使った淡路島ランチ・スイーツを
graf特製メニューで食べられるという企画を行う。
このようなイベントを含め、今年度だけでも多角的な展開が見込まれる
〈淡路はたらくカタチ研究島〉。この仕組みや体制、そして成果が
地域の雇用創出のモデルケースになることは間違いないだろう。
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