連載
posted:2015.11.3 from:沖縄県那覇市 genre:活性化と創生
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!
writer's profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog//
〈琉Q(ルキュー)〉は、沖縄県産にこだわったブランド。
もともと障がい者就労支援のために生まれたブランドであるが、
商品のクオリティの高さから人気を博している。
海水塩や島胡椒のピィパーズ、コレーグース、アセローラジャム、
パッションフルーツバター、塩パインバターなど、
名前を聞くだけでおなかが空いてきそうなものばかりだ。
「沖縄のイメージとなると、南国、海、青い空。
それらはもちろん素晴らしいのですが、日常的にいいものもたくさんあります。
それらを紹介していきたいというのが琉Qのコンセプトです」と話すのは、
仕掛け人のひとり〈沖縄広告〉の仲本博之さん。
アートディレクターは渡邉良重さんと植原亮輔さんによる
デザインユニット〈KIGI〉に依頼した。
KIGIのことは、〈D-BROS〉のプロダクトを手がけていたことなどで知っていたという。
「沖縄で広告関係の仕事をしていると、
“ハイビスカスやシーサーを入れて青っぽく”というような発注が多いのです。
でも、沖縄に住んでいる僕からしてみると、意外と曇り空が多いことも知っています。
KIGIのいい意味でクールなデザインで、
外部からの沖縄のイメージではなく、普段の沖縄を表現したいと思ったんです。
まったく面識はありませんでしたが、突然連絡して熱意だけでお願いしました(笑)」
打ち合わせを重ねているうちに、
「沖縄もまだまだエキゾチックだし、わからない部分も多い」という話になった。
そこで生産者からの言葉をQ&Aというかたちで打ち出していこうとなった。
そこから〈琉Q〉というブランド名が生まれた。
ホームページもただ商品紹介をするに留まらず、ユニークな仕掛けになっている。
沖縄に関する素朴なQ=質問を県外の人から集め、
それに対して“しまんちゅ”が答えていく。
質問は観光スポットを尋ねるものや、ライフスタイルに関するものなど。
なかには「ニガイのが苦手ですが、ゴーヤーのおいしいレシピは?」というQに対して、
「暑いところに行ってください。自然に苦いゴーヤーを身体が欲します」という、
答えになっていないような厳しめの(!?)回答も。
通り一遍の観光的沖縄ではなく、
もっと生活に根づいているリアルな沖縄を感じてほしいという思いだ。
実際に、人気商品である〈東村の塩パインバター〉の原料である
塩パイン農家のカナンスローファーム・依田啓示さんを訪れた。
那覇からかなり北上した、沖縄本島北部の東村にある。
塩パインとは、海水を与えながら育てたパイナップルのこと。
ここでは7種類のパイナップルを育てているが、
琉Qの塩パインバターに加工されているのは、スナックパインとスムースカイエンだ。
土からも海水を吸わせ、上からも海水をかける。
海水に含まれるミネラルが効果てきめんなのだ。少し小ぶりだが、甘味がとても強い。
もちろん化学肥料や農薬は一切使っていない。
パイナップルは真夏が最盛期。11月ごろになると酸味が出てくるというが、
加工品にはそのくらいの時期のものがいいらしい。
こうして加工された塩パインバターは、果肉もたっぷり、とてもやさしい甘さに仕上がる。
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〈沖縄本部のアセローラジャム〉もまた、
沖縄本島北部にある本部町でつくられている。
実は沖縄は、アセローラ産地の北限なのだ。
「沖縄でも湿度が少し足りないくらいです」というのは、
〈アセローラフレッシュ〉の並里哲子さん。
戦後、沖縄に入ってきたアセローラは、哲子さんの旦那さんである並里康文さんが、
沖縄での栽培方法を確立し、この地域に根づかせた。
現在、この本部町には30軒程のアセローラ農家がいる。
つまり国産アセローラは、この30軒のみということだ。
アセローラフレッシュでは、その契約農家からアセローラを買い取り、
さまざまな商品に加工している。
アセローラは、収穫後2、3日しか持たない。生で食べたいのならば、現地に行くしかない。
「だからジャムなどの加工品として楽しんでほしい」と並里さんはいう。
アセローラジャムは、フレッシュでフルーティな酸味がさわやかな一品。
国産なので、フルーツの鮮度が際立っているようだ。
生のアセローラ自体は、思ったよりも酸っぱくなく、その奥に甘味があった。
「実はうちの農作業でも、障がい者の力をお借りしていたんです」と並里さん。
だからアセローラジャムの製造過程に、
障がい者の手が入っていることを素直に喜んでいた。
最近よく取り上げられるようになってきた、
農業の現場を障がい者が手伝う「農福連携」のかたちがすでに行われていた。
こういった生産者を決めるレギュレーションは、
仲本さんいわく「会いに行って、いい人かどうか」だとか。
「“100%沖縄産”というルールは設けていますが、
それ以外には、情熱にひっかかってくれるところです。
障がい者支援というブランドの性質上、
最初からビジネスの話しかしないような方とは、
継続していくのは難しいだろうと思っているんです。
もうひとつは、開発などに無理がないもの。
ほとんど、もとからある製品を琉Qブランド化させてもらっています。
アセローラの化粧水をつくるとかではなく(笑)」
沖縄のリアルな姿を知ってもらいたいという思いが感じられる。
ニーズに合わせたり、これをつくれば売れるのではないかという“ヨコシマ”な気持ちは、
沖縄の本当の姿ではない。
今後は「商品数を増やしていきたい」と仲本さんは言う。
前編で述べた通り、商品数が増え、工程が増えれば、
障がい者施設に発注できる仕事が増えるからだ。
「お店を出したい」という望みを持つのは、
障がい者施設を支援する県の外郭団体である〈一般財団法人 沖縄県セルプセンター〉で
仕事をコーディネートしている萱原景子さんだ。
「琉Qの商品をまとめることで、商品と同時に、コンセプトも伝えられると思います。
また琉Qだけではなく、施設が通常つくっている商品を売ることもできます。
そんなフラッグシップショップをつくりたいです」
さらには観光客向けのアクティビティのようなものも動き始めている。
琉Qの関連をツアーで巡り、体験をしていくことで、
マリンアクティビティだけではない沖縄を体感できるものだ。
売り切れが続いている琉Q山猫のやちむん(陶器)への色つけ体験や、
腐るのが早いアセローラを生で食べられる体験などが待っている。
琉Qで知ることができるのは、普段着の沖縄。
それは味だけでなく、農家も、加工者も、パッケージをかける仕事も含んだ、沖縄の姿だ。
Information
琉Q
4NA4NA
沖縄県セルプセンター
社会福祉法人 そてつの会
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