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豊岡の地場産業「鞄」で地域活性化! トヨオカ カバン アルチザン アベニュー 豊岡まちづくり株式会社 林健太さん 前編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.022

posted:2015.10.13  from:兵庫県豊岡市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!
ものづくり・しくみづくり・ひとづくり・食づくり、場づくりetc、
貝印 × コロカル × earthradioチームが、フレキシブルにテーマを取り上げていきます。

writer's profile

Tetra Tanizaki
谷崎テトラ

たにざき・てとら●アースラジオ構成作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。リオ+20など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。
http://www.kanatamusic.com/tetra/

photo

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

豊岡鞄の歴史

兵庫県豊岡市は、国内最大の鞄の生産地である。
市内に180社以上の鞄関連の企業が存在し、日本の7割を生産している。
その鞄づくりの歴史は2000年近くある。

いま豊岡では鞄を核とした地域活性化プロジェクトが進んでいる。
その中心となる拠点施設が〈トヨオカ カバン アルチザン アベニュー〉。
豊岡市の地場産業である“鞄”に特化した拠点施設だ。

〈トヨオカ カバン アルチザン アベニュー〉は豊岡の
通称・カバンストリートにある。
1階は産地ならではの豊岡鞄専門店。
産地が発信するオリジナルブランドのほか、
豊岡産のさまざまなブランドを取り扱う専門店。
2階は鞄のパーツショップ、3階は鞄づくりの専門学校になっている。
豊岡市、商工会議所、商店街らによる第3セクターである
豊岡まちづくり株式会社が運営している。

トヨオカ カバン アルチザン アベニュー。豊岡の鞄づくりの中心地、通称カバンストリートにある。写真提供:トヨオカ カバン アルチザン アベニュー

トヨオカ カバン アルチザン アベニューの1階は産地ならではの豊岡鞄専門店。産地が発信するアルチザンオリジナルブランドであるA&D27やBELCIENTOのほか、豊岡産のさまざまなブランドを取り扱う。写真提供:トヨオカ カバン アルチザン アベニュー

そのマネージャである林健太さんにお話をうかがった。

「豊岡は日本の鞄の7割を生産しているのですが、
鞄メーカーは組合に属しているところだけで約70社、卸が約30社、
組合以外で約50社。合計すると鞄関連の企業だけで180社程度。
それがこの場所の半径2.5km圏内にほぼすべてあるんです。
まさに“産地”ということなんです。
OEMが中心なので名前を出すわけにはいきませんが、
皆さんのご存知の鞄ブランドの多くがここ豊岡でつくられているんです。
それだけでなく、ゴルフバッグから、ジュラルミンケース、
車掌さんの鞄まで、あらゆる業務用の鞄もここでつくられています。
日本の鞄の産地はほかに東京、大阪、名古屋のような大都市ですが、
そのなかでも豊岡が最大です」

鞄の神様を奉っている柳の宮神社。

豊岡鞄の歴史は古い。そのルーツは神話の時代にまでさかのぼる。
新羅の王子とされる天日槍命(アメノヒボコ)によって、
柳細工の技術が伝えられたのが始まり。
豊岡の鞄産業のルーツは、
その柳細工でつくられた柳行李(やなぎごうり)だと言われている。

「奈良時代に豊岡でつくられた“柳筥(やなぎかご)”は
正倉院に上納されています。
おそらく日本海側でとれた魚介や、
北前船でやってくる産物をここまでは川沿いなので、舟で運べるのですが、
ここから陸路になるんです。
おそらく京都や大阪、姫路に運ぶためには入れ物が必要になったのでしょう。
このあたりは沼地なんですが、お米を二毛作、
三毛作するときに円山川下流域の湿地帯に多く自生する
コリヤナギを使って入れ物を作りました。
戦時中に国策で革産業が発達した姫路にも近い。
動物の“皮”は鞣すと“革”になるわけですが、
その技術は国内では姫路が一番なんです。
そういった条件が豊岡には重なっていました。
ただ豊岡は沼地だったので湿気が多く、
昔は皮革製鞄がそれほど得意ではなかったようです」

ゆめづくりまちづくり賞(国土交通省近畿地方整備局)奨励賞受賞を記念して鞄の神様、柳の宮神社の境内にコリヤナギの木を植樹した。写真提供:豊岡まちづくり株式会社

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国産の7割の鞄を生産する豊岡

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モノづくりではなく、コトづくり

豊岡まちづくり株式会社は、2014年にグッドデザイン賞を受賞している。

「モノづくりではなく、コトづくりでグッドデザイン賞をもらったんです。
鞄のプロダクトデザインではなく、鞄を核としたまちづくり。
学校をつくったり、地域と関わることで評価されたんです。
まちづくりの先進事例として。鞄ではなくて、まちづくりなんですね」

もともと大阪の企画会社で地域デザインを専門にやっていた林さん。
前職時代に豊岡の観光も含めた地域活性化を依頼された。

「豊岡にはお金で買えない魅力がある。
まず豊岡の鞄職人の数。日本の7割を生産しているわけですから。
つぎに2000年にもおよぶ鞄の歴史、これもお金では買えません。
そしてここには鞄の神様を奉っている鞄の神社・柳の宮神社があるんですよ。
お祭りのときは鞄屋だけが神輿をかつぐんです。ご神事なんです。
神様もお金で買えません。
お金で買えない魅力が3つもある。豊岡は圧倒的に鞄のナンバー1です」

豊岡鞄を核にすることで、地域全体が活性化できるのではないか、
鯖江が眼鏡でブランド化に成功したように、
豊岡も鞄で観光も含めた活性化ができるのではないかと
前職の上司と林さんは考えたという。

〈トヨオカ カバン アルチザン アベニュー〉の1階。

なぜいま豊岡鞄なのか

なぜいま豊岡鞄が注目されてきているのか、林さんにお聞きした。

「いま中国製から日本製への回帰が起きています。
日本製は商品出荷時のチェックである検品のレベルが違うんです。
例えば、中国だったら100個つくったら、
10個アカンのがでてくることもあるんです。
豊岡なら100個のうち、数個というようなイメージです。
日本だったらそれが当たり前のこと。検品のレベルが高いのです。
それでも大量生産なら中国がいいのかもしれませんが、
小ロットで回せるのが日本製のいいところでもあります。
日本の市場も小さいですし、大量生産しても余ったら困りますよね。
納期も守るし、ということで、日本製への回帰が起きているのです」

では東京、大阪などほかの地域はどうなのだろうか?

「東京、大阪、名古屋の鞄産業は土地が高く工場規模が小さく、
また豊岡より職人不足、高齢化が強く、
全体としての生産力が減っていると聞いています。
中国製から日本製への回帰があっても、
それに対応するなら豊岡でとなるみたいですね。
だから豊岡の鞄産業はいま、元気です。
鞄の景気どうこうよりマインドが高いです」

高いマインドと共に設備投資が進んでいる。

「もともと手縫いだったのが、ミシンになって、
いまはデジタル技術も進んでいる。
図面書いたら、裁断されて出てくるとか。
1枚の布から無駄なく素材を切り出すこととか。
それは値段の安定化、低価格化にも反映するんです」

〈アルチザンパーツ〉鞄のパーツ専門店。おみやげに最適なキット商品も充実。写真提供:トヨオカ カバン アルチザン アベニュー

アルチザンパーツ

〈トヨオカ カバン アルチザン アベニュー〉の2階は
鞄のパーツ専門店〈アルチザンパーツ〉になっている。
産地のネットワークを生かした、鞄パーツや鞄の製作キットなど、
鞄にまつわるさまざまな素材が揃っている。
ここでしか手に入らない珍しいパーツやマニアックな道具などが購入できる。

2階の〈アルチザン パーツ〉。産地のネットワークを生かしさまざまな素材が製作用に準備されている。

3階は鞄のエキスパートを養成する〈トヨオカ カバン アルチザン スクール〉写真提供:トヨオカ カバン アルチザン アベニュー

ひとりで鞄がつくれる鞄職人の育成スクール

3階 の〈トヨオカ カバン アルチザン スクール〉は、
豊岡鞄協会の協力のもと、豊岡まちづくり株式会社が運営する
鞄のエキスパートを養成する専門校となっている。

「イチからひとりで鞄がつくれる鞄職人の育成と
商品として販売できる鞄づくりを目指す職人育成専門校です。
道具や設備も充実しています。
市内の鞄業者へのインターンも実施するなど、
本気で鞄を学べる環境がここにあるんです」

現役の職人や鞄企業社員などによる
モノづくりをベースにしたカリキュラムは生産地ならでは。
現場で生きるさまざまな技をプロの職人から直接学ぶことができる。
1年間みっちりトレーニングして、鞄づくりのプロとして独立したり、
企業の即戦力となる人材育成を目指している。

「ここの魅力のひとつは豊岡市内の鞄メーカーから、
鞄づくりのさまざまな素材を提供してもらえることです」

実際に一流ブランドで使っている素材や技術も含め、
制作したものを商品化するすべての工程を総合的に学べるのだ。
授業はアトリエ以外にも協力企業や小売店、素材工場などと連携し、
実践的に行われている、という。

「デザインを学びたい人は東京に行けばいい。
ここではデザインを教えるのではなくモノづくりです。
ひたすらスケッチをして
鞄のデザインのディテールを体得してもらいます。
最近、パクリが問題になっているけど、デザインは真似から始まります。
もちろん鞄のデザインをそのまま盗むのはダメですが、
すべてのデザインは自然からの模倣であったり、
建築や工業製品からそのエッセンスを掴む。
それを鞄のディテールに落とし込めることがモノづくりの基本なんです」 と林さん。
入学するまで鞄づくりの経験や知識のまったくない人でも
卒業時には各企業での即戦力として、
また、独立開業して活躍できるようにカリキュラムを組んでいるそうだ。

「北海道から沖縄まで、全国から集まってきた
鞄職人をめざす生徒さんたちが、
まず豊岡へと移住することになったわけです。気合いの入った移住者です。
地域はどこでも移住者促進を進めていますが、
生活能力がない人、意識が低い人が移住してきても
うれしくないじゃないですか。
ここに来る生徒は、お金を払って技術を学び、
鞄職人になろうという、やる気のある若者たちです」

今年で2年目。現在、来年学ぶ3期生の募集も開始した。
昨年、卒業した第1期の卒業生たちはどういう進路を進んだのだろうか。

「昨年の卒業生はすべて豊岡市内の鞄メーカーへと就職できました。
基本的には当スクールは卒業したらどこに行ってもいいんですが、
豊岡にルートが強いので。
逆にニューヨークなどで勝負したいという人が
いつか生まれればなぁと思っています」

たしかにイチからひとりで鞄がつくれる鞄職人の技術があれば、
世界中どこでも食べていける。
世界がいかに進化しようとも、
この世の中に鞄というものがなくなることはないわけだ。

鞄づくり専門のミシン。生徒にそれぞれ1台ずつ完備されている。

今回の取材は日曜日でスクールは休校だったのだが、休日返上で鞄づくりをしている生徒さんがいた。

それにしても、林さんがこの豊岡で
〈トヨオカアルチザンアベニュー〉を立ち上げたのは
何がきっかけだったのだろうか。そう聞いてみると、

「別に豊岡という土地にも、鞄にも思い入れはなかったんですよ」と林さん。

それがいまや豊岡のキーパーソンのひとりとなっている。
後編では豊岡へ移住するに至ったきっかけと、
林さんの熱い起業家スピリットの話をお届けする。

後編【地方は売り込みのアイデアを求めている。トヨオカ カバン アルチザン アベニュー 豊岡まちづくり株式会社 林 健太さん 後編】はこちら

Information


map

トヨオカ カバン アルチザン アベニュー

住所:兵庫県豊岡市中央町18-10

http://www.artisan-atelier.net

トヨオカ カバン アルチザン スクール
http://www.artisanschool.net

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