大量にあふれる「もの社会」のなかで、果たしてこれから必要なものは何か。
「ものの歴史を一歩進めたい」と語るのは、
〈プロダクト・デザイン・センター〉代表取締役である鈴木啓太さんだ。
〈相模鉄道20000系〉や〈富士山グラス〉など、数多くのプロダクトデザインを手がけ、
〈good design company〉の水野学さんや〈中川政七商店〉の中川淳さんたちとともに、
〈THE〉というブランドも仕掛けている。
〈貝印〉も今年110周年を迎えた、連綿とものづくりをしてきた企業。
そこで〈貝印〉商品本部デザイン室チーフマネージャーの大塚淳さんと、
歴史あるものづくりにおける共通項を探りに、鈴木さんを訪ねた。
〈プロダクト・デザイン・センター〉という社名からも、
並々ならぬ「プロダクト愛」が感じられるように、鈴木さんはとにかく「もの愛好家」。
なんと弥生土器も個人で所有しているという。

〈プロダクト・デザイン・センター〉鈴木啓太さん(写真右)のコレクションを興味深く見る、〈貝印〉商品本部デザイン室チーフマネージャーの大塚 淳さん。
「価格に関係なく、もの全般がとても好きで、たくさん所有しています。
とにかく手に入れて試してみたい。その傾向は子どものときから変わっていないようで、
今もよく家族に冗談にされています」と笑う。
しかし、プロダクトデザイナーとして
多くの製品に触れている、デザインの歴史を知っているという蓄積は、
発注側としては信頼に値するのではないか。
鈴木さんはこうしたものへの愛情から得た知識や体感を、
自身のデザイン哲学の中心に据えている。
「もののデザインは過去から着々と進化してきて、今の形に落ち着いています。
進化とは“発生と淘汰”の繰り返し。
今残っているデザインは、淘汰されずに生き残ってきた意味と強さを持っています。
だからこそ、過去を大いに参考にし、
未来にどのようにバトンを受け継いでいくかを考えています」
たとえば公共のベンチやイス。
イームズの名作もあれば、アノニマスであってもきちんと機能しているものも多い。
あるとき鈴木さんは〈相模鉄道〉から駅のベンチのデザインを依頼された。

事務所の玄関に置かれていた相鉄線のベンチのサンプル。
「改良すべき点はふたつ。着座率が低いということと、忘れ物が多いということでした。
そこで、各席の横に付いていた荷物置き場をなくし、
5席がつながっていたベンチを4席に減らしました。
すると1席あたりの面積が広くなり、
自然と荷物を自分の座席内に置くようになるので忘れ物は減ります。
さらに席の間隔も広くなるので、隣を気にせず4席すべてに座ってもらえるようになり、
着座率を向上させることができました。
特別、コンセプチュアルなデザインをしたわけではありません」
これが、鈴木さんが考える「ものの歴史を一歩進める」ということだ。
時代に合わせてアップデートし、次世代に受け渡すこと。
もしかしたらこの先、荷物など持たない時代がくるかもしれない。
そのときが来たら、次世代デザイナーがまた新しくデザインを進化させていくのだろう。

相鉄線の車両20000シリーズ。
鈴木さんの作品のなかで、貝印・大塚さんが好きなデザインは、
〈URUSHI Bathtub〉だという。花のフォルムを模した漆塗りのお風呂だ。
「昔、古伊万里の輪花皿を買ったことがありますが、
そういった昔ながらのディテールを今のプロダクトに落とし込んでいるデザイナーは、
意外と少ない」と好きな理由を教えてくれた貝印・大塚さん。

〈URUSHI Bathtub〉(写真提供:PRODUCT DESIGN CENTER)
それに対して鈴木さんは
「梅の花は、江戸時代から日本の美術で頻繁に使われてきたモチーフで、
日本のデザインの原型のひとつです。それを思いきって取り入れてみました」と答える。
さらに貝印・大塚さんは付け加えた。
「以前に〈PLUS〉のハサミをデザインしていましたよね。
あれも私にとっては新しい発想でした。
通常通りデザインすると、持ち手の外側をきれいに整えてから、
内側に穴を開けるという順序になってしまい、指がきつくなってしまいがちです。
しかしあのハサミは、ちゃんと内側のアールから発想していますよね。
その美しさが〈URUSHI Bathtub〉ともリンクしました」