三重県いなべ市では、「選ばれるまち」を目指して
市民参加型の地域活性化プロジェクト
〈Green Creative Inabe〉(グリーンクリエイティブいなべ)が進行している。
市民と行政が連動してつくっていくまちの未来とは?
vol.1で紹介した魅力的な移住者たちに出会ったあと、
取材班はいなべ市の北部、山間部に向かいました。
いなべの山は、知る人ぞ知るアウトドアの聖地
いなべといえば、関西ではかなり知られたアウトドアの聖地だ。
それは、花の百名山・藤原岳や竜ヶ岳のほか、
鈴鹿山脈で唯一、滝めぐりができる宇賀渓があるから。
さらには、アウトドア雑誌のランキングで常に1、2位の人気を誇る、
キャンプ場〈青川峡キャンピングパーク〉の存在が大きい。

藤原岳と竜ヶ岳の間、青川峡を流れる清流、青川に沿ってつくられた青川峡キャンピングパーク。その魅力はなんといっても、自然のままの景観の良さだ。

青川峡キャンピングパークは若いスタッフが多く、躍動感にあふれている。左から、今年からこちらに出向中のいなべ市役所の吉本将弓さん、青川峡キャンビングパークの金津拓哉さんと出口孟さん。
青川峡キャンピングパークを訪れると、スタッフのひとりがクッキーを焼いていた。
週末や大型連休などに数々のアウトドアイベントが
開催されているため、クッキーの出番も多いのだろう。
そうでなくとも、彼らのようなキャンプライフクリエイターは
何でも自分たちで手づくりすることがふだんから身についている。
そうやって人が生きていくための「学びの場」。
これまで、青川峡キャンピングパークはそこを目指して運営を行ってきた。
手づかみした魚を自分で調理したり、田植えをしたりと
数々のイベントに、県外から通ってくる人も多い。

設備が行き届いていて、清潔感のあるコテージ。
筆者が訪れた4月の平日にも、滋賀や名古屋などの車のナンバープレートが見られた。
山あいの幹線道路で車を走らせていると
ただ森や田畑だけが広がり、本当に何もなく、ひっそりとして見えるのだが
アウトドアを楽しむ人にとってはアクセスしやすい自然のフィールドなのかもしれない。
ありのままに、記録しておくことの大切さ
いなべの自然の豊かさを目の当たりにしつつも、
この土地はもともとどんな場所だったのだろう。
藤原岳の麓、坂本地区に住む、農業を営む藤井樹巳さんを尋ねた。
生まれ育ったまちの歴史を調査し、『藤原岳史』を編んでいる藤井さんの存在を知り、
地域の宝のような人なのではと思い、会いに出かけた。
「昔話や歴史の本が好き」
それだけの理由で50年間も地元の歴史を調査し続けているという藤井さん。
『藤原岳史』は、平成8年から始めた自分用の記録だ。
合計181冊。日々の出来事を日記として残している。
ぱらりページをめくると、新聞記事などのスクラップや写真を織り交ぜ、
どの時期に地域に何があったのかなど記されていた。

東員町と藤原町の町史編纂にも関わった藤井さんは、たくさん資料を展示する〈いなべまちかど博物館 史学庵〉を開いている。
畑を掘ると、石器などが出てくるほどこの地は
古くから人が暮らしを営んできた場所なんだそう。
藤井さんは、藤原岳の信仰、自然、人の営み、民話、産業などを
民俗学的な手法で調べ、記しているという。
「やり方は自己流なんですけどね、
藤原岳を中心とした人間の関わりを書いているんです」
坂本地区は、土石流が起きた過去がある。
藤原岳史では、その土石流の被害がどのようだったのか、まちの人間の反応までが書かれていた。
まちで起きた出来事は、事実と数値に現れる影響のみ新聞記事などに記事として残されるが、
藤原岳史では、そのときの住民のありようが淡々とつづられており、
価値観の変化と時代性が浮き彫りになっていた。
「民俗学調査は、狭い土地のことを深く掘り下げていくほうがよりよいわね。
でも、そうすると、個人情報保護の関係で調査をしても事実を残せないこともでてきた。
いま、歴史をやるのは本当に難しい。本当は悪いことも書かにゃいかんのだけど
それは書かないでと言われることもあるしね」とぽつり。
では、今進められているGreen Creative Inabeについてはどう思いますか、と聞いたら
「ええね、いい取り組みだね」と微笑んだ。
農家でもある藤井さんは〈屋根のない学校 田んぼと畑の学校〉で
子どもたちに農のある暮らしを教えている。
土地の恵みを生かして、生業にしながら、
次の世代へ伝えていくことの大切を誰よりも感じてきた。
藤井さんは、先人の知恵を後世につなぐ役割を担っているように見えた。
未来へ向かうためには、過去も見る必要がある。
藤井さんのようにこの土地の暮らしと密接に関わる
地域の歴史を研究する後継者を育成することも
Green Creative Inabeの重要な課題だといえるだろう。

発掘調査をした地元の畑から出てきた縄文の遺物、石器。歴史好きの藤井さんのもとに時空を超えてやってきた大切な宝物だ。




















































































































