連載
posted:2016.3.4 from:香川県高松市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer profile
SHOHEI OKA
岡 昇平
1973年香川県高松市生まれ。徳島大学工学部卒業、日本大学大学院芸術学研究科修了。みかんぐみを経て高松に戻る。設計事務所岡昇平代表、仏生山温泉番台。まち全体を旅館に見立てる「仏生山まちぐるみ旅館」を10年がかりで進めつつ、「仏生山まちいち」「ことでんおんせん」「50m書店」「おんせんマーケット」などをみんなで始める。
ぼくは、香川県高松市の仏生山町というところで、
建築の設計事務所と、仏生山温泉を運営しています。
ここでにやにやしながら暮らすために、まち全体を旅館に見立てる、
〈仏生山まちぐるみ旅館〉という取り組みを10年がかりで進めています。
今回、ご紹介するのは〈四国食べる商店〉です。
場所は仏生山温泉から徒歩2分、北に100メートルほどのところにあります。
温泉の窓から見える(笑)。
オープンしたのは2015年の4月です。
店主の眞鍋邦大さんは、高松出身です。
大学進学時に高松を離れ、東京をはじめ県外で暮らしたあと、
香川県の小豆島に3年滞在し、
昨年生まれ育った仏生山にUターンしました。
四国食べる商店となった建物も、眞鍋さんの実家です。
四国食べる商店は、もともと
『四国食べる通信』という活動から派生しています。
食の情報誌でありながら、
食材が付録のように一緒に送られてくるユニークな仕組みです。
会員になると、2か月に1度、つくり手の想いが冊子+食材という
組み合わせとなって手元に届きます(詳しくはこちらでも)。
最初は東北から始まった、この『食べる通信』という取り組みは
全国に広がりつつあり、その四国地域の編集長を務めるのが眞鍋邦大さんです。
眞鍋さんのすてきなところは、
四国食べる通信の拠点をただの編集室にしないで、
商店という形式にしたことです。
四国食べる通信の仕事としては、
取材や編集、発送が中心だから、
ふつうの事務所のような感じでも大丈夫なんだけど、
商店という形式にすると、店になる。
それがとてもいい。
閉鎖的な事務所と、開かれた商店では
0と100ほどの違いがあります。
場所があってもみんなが日常的に利用できなければ、ないのと同じだからです。
まちのなかで、みんながその場所を利用できて、
価値の受益者になれる、ということがとっても大切です。
実際に四国食べる商店は、店として食材や調味料などを販売しているし、
食にまつわるイベントも不定期に開催しています。
さらに、商店の中には、
リンパドレナージュ(マッサージ)の〈巡舎〉(金・土曜日営業 予約制)、
グラノーラの量り売りカフェ〈寧日〉(月曜日営業)、
というふたつの店が場所の一部を借りて営業しています。
商店では場所を借りて、飲食や販売ができるようにもなっていて、
これからもそういうお店が増えていく予定です。
つまり、売る側、買う側、どちらにも開かれた自由な場所になっているのです。
これはもう、プラットフォームですね。
単に開かれた編集室、っていう感じではなくて、
四国食べる商店というプラットフォームがあって、
そのうえに、
①四国食べる通信の編集室と作業場、
②食材を販売する商店、
③〈巡舎〉〈寧日〉という独立したお店、
さらに段階的に整備しつつある四国食べる農園、
なども増え、さまざまな活動が乗り入れている。
そういう状況では新しい動きが偶発的に生まれやすくなります。
この、開かれてて、自由で、親しみやすい感じは、
おもしろいことに、眞鍋さんの人柄といっしょ。
店は人そのものって、よく言われていますけれど、
それは本当です(笑)。
すてきな店は、店の人の顔が見えること。
そういうお店が集まって、
人の顔が見えるお店が集まると、
すてきなまちができあがると思っています。
なので逆に、
人の顔の見えないチェーン店なんかは、いらないわけです。
暮らしのなかで、にやにやできませんから。
そんなわけで、なんでもできるような場所をつくりたいと依頼がありました。
リノベーションを行ったのは、
眞鍋さんが幼少のころ暮らしていた実家、2階建ての住居です。
現在ご両親は別のところで暮らされているので、
空き家になっていました。
Page 2
工事はすべてセルフビルドで行われました。
四国食べる商店には、リノベーションに適性のある
白石雄大さんというスタッフがいます。
施工のプロではないけれど、もともと器用で洞察力もあるから、
チャレンジしながら、自分でどんどん進めていけるタイプ。
そのうえ、デザインもできるから仕上がりにへんなところがない。
工事はその白石さんと眞鍋さんのふたりが中心となって進められていきました。
まずは解体から。
1階はキッチンとバックヤードを残して、
すべての間仕切りを撤去。
天井も落とし、床も全部ない状態にしましたから、
構造材がむき出しの大きなワンルームになりました。
2階に一部屋あった寝室は、そのままにして〈巡舎〉が使用しています。
Page 3
1階のワンルーム部分の内装は、
一体感をもたせるため同質の木材を使用して、
コストもかからず、施工が簡単な
既存のシマシマパレットを使いました。
パレットとはフォークリフトなどでよく用いられる
荷物を運ぶ架台で、安価につくることができます。
同じ製造方法で仕様をカスタマイズしたものが
香川県産ヒノキでできた、シマシマパレットです。
普段は一時的なイベントの会場構成などに使用していますが、
今回は壁面全部をぐるりとシマシマパレットで被い、内装として固定しました。
シマシマパレットは素材に厚みがあるから自立もするんだけど、
より安定させるために少し角度をつけて、
ジグザグに配置することにしました。
もともと壁面だったところにはパレットが
皮膜のような役割になってすっきり見えます。
窓だったところは、シマシマ部分から光が透過するようになっています。
また、シマシマのすき間に板を差し込めば、
すぐ棚になるし、何かを吊るすこともできるから、什器としても便利です。
ワンルームの真ん中には大きなテーブルがあります。
みんなでテーブルを囲む感じがいいという、眞鍋さんの希望です。
これもパレットでできていて、
フレキシブルに配置して使えるようになっています。
スツールももちろんパレットです。
大きなテーブルというのは不思議なもので、
そのまわりに座ると、そこで生まれた空気感のようなものを
みんなで共有することができたりします。
このワンルームと大きなテーブルは、
プラットフォームの象徴的な存在だと思っています。
あるときは食べる通信の編集会議や配送作業が行われ、
月曜日は〈寧日〉のグラノーラやキッシュをここで食べて、
不定期に行われる、さまざまなイベントのよりどころにもなっています。
四国食べる商店は、
ひとつの店ではありますが、
ひとつのまちを凝縮したような存在でもあります。
開かれていて、自由な感じ。
仏生山ではそういう気分がもともとあるし、
少しずつ広がっているように感じています。
自由でいられること、というのは
まわりのだれかの許容があることだと思うのです。
許されている感じ。
ずっとそこに居ていいと、言われている感じ。
そういう自由さが仏生山全体にもっと広がっていって、
まち全体が気持ちよく感じられるようになるといいなと思っています。
information
四国食べる商店
Feature 特集記事&おすすめ記事
Tags この記事のタグ