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無職からのスタート?
神山町で設計を始めた理由。
坂東幸輔建築設計事務所 vol.1

リノベのススメ
vol.111

posted:2016.5.14  from:徳島県神山町  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

Kosuke Bando

坂東幸輔

京都市立芸術大学講師/坂東幸輔建築設計事務所主宰。1979年徳島県生まれ。2002年東京藝術大学美術学部建築学科卒業。2008年ハーバード大学大学院デザインスクール修了。スキーマ建築計画、東京藝術大学美術学部建築科教育研究助手を経て、2010年坂東幸輔建築設計事務所設立。京都工芸繊維大学非常勤講師。徳島県神山町、牟岐町出羽島など日本全国で「空き家再生まちづくり」の活動を行っている。主宰する建築家ユニットBUSが第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2016)日本館展示に出展。

credit

main photo:伊藤暁

坂東幸輔建築設計事務所 vol.1

はじめまして。
建築家の坂東幸輔です。

東京の吉祥寺に設計事務所を構え、京都の大学で教鞭をとるかたわら、
全国の過疎地域で空き家のリノベーションをしてまちづくりをしています。
この連載ではこれまで行ってきた
徳島県神山町や出羽島での「空き家再生まちづくり」の活動や、
現在進行中のほかの地域のフレッシュな活動を紹介していけたらと思っています。
みなさま、半年間のおつき合いよろしくお願いします。

全国で地域に残る古民家や空き家、廃校などをリノベーションして、
ゲストハウスにしたり、カフェにしたりと
いまでは、コミュニティを盛り上げるまちづくりが活発に行われています。
私が神山町で空き家再生の活動を開始したのは、
今ほど空き家の活用が盛んではなかった2010年からです。
それよりも少し時間を遡って、
まずはどうして私が日本の過疎地域に関わるようになったかということから
ご紹介したいと思います。

リーマン・ショックで大きく変わった価値観

ハーバード大学大学院デザインスクールの卒業式の様子。

私は2006年9月から2年間、
ハーバード大学大学院デザインスクールで建築の勉強をしました。
世界中の有名な建築家や優秀な学生たちが集まるハーバード大学の授業は
大変刺激的なものでした。
スラムの健全化や公害・災害復興の支援など
社会的な問題をデザインの力で解決しようという、
建築による社会貢献の精神が教育の根底にありました。
設計の授業でトルコやギリシャ、ブラジルを訪ね、
社会問題解決のために実践している建築デザインを、
現地の建築家に建築や都市を案内してもらいながら学んだ経験は、
今でも私の活動の糧になっています。

いつかは指導をしてくれた建築家たちのように、美術館や音楽ホールといった
大きな公共的な建築を都市の中に設計して社会の役に立ちたいという夢を持って
ハーバード大学を出ました。

ハーバード大学を出たら世界中の設計事務所で働けると思っていたので、
設計を指導してくれた先生のオフィスに入ろうと願書を送る前から、
先生のオフィスのあるニューヨークに引っ越しをしました。
2008年9月のはじめのことです。

しかし、引っ越しをした翌週にリーマン・ショックが起きてしまい、
ニューヨークの会社はどこもリストラの嵐。
建築家を数百人抱える大手設計事務所が大規模なリストラをするなかでの就職活動は
ひとつも実を結びませんでした。
2010年に東京藝術大学の助手になるまでの2年間、
私はほぼ無職の状態でした。

リーマン・ショックによって失った海外の設計事務所での経験、
この頃から大きな企業や組織といったものに頼って
生きることへの疑問を感じるようになりました。
そういう疑問を抱えながら出会ったのが神山町でした。

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まちの運命を大きく変えるプロジェクト?

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神山町との出会い

京都の上賀茂神社での結婚式の様子。

リーマン・ショックから1か月後に京都の上賀茂神社で結婚式を挙げました。
披露宴では司会の人から「新郎は求職中で……」
と紹介してもらう情けない結婚式でしたが、
そんなどん底の頃に出会ったのが
私の建築家としての運命を変える神山町だったのです。

神山町で大南信也さんと運命の出会い。(写真:神山日記帳より)

アーティスト・イン・レジデンスをやっているおもしろそうなまちが
生まれ故郷である徳島市の実家のそばにあるということで、
結婚式の後で妻と神山町に行きました。
そこで〈NPO法人グリーンバレー〉理事長の大南信也さんと運命の出会いがありました。
当時まだほとんど移住者のいない神山でしたが、
アーティスト・イン・レジデンスの活動や
神山町で起きているさまざまな変化についてお話を聞きました。

アーティスト・イン・レジデンスや、道路の清掃活動、森づくりなど、
普通は行政主導で行うことを、住民自ら行うことでお互いに刺激し合い、
田舎のおじさん、おばさんたちが少しずつ積極的に
自分たちのまちを変えていっていたのです。

大南さんもスタンフォード大学の大学院に留学した経験があり
お互い気が合ったのだと思います。
アメリカから日本に帰るたびに大南さんに会いたくて神山町を訪れるようになりました。

2010年の春、東京藝大の助手になったことを大南さんに報告すると、
「ぜひ学生を連れてきて一緒に空き家再生をやらないか」と声をかけてくれました。
改修を頼んでくれたのは、築80年の傾いた長屋の一角の空き家。
夏休みをすべて費やして改修したのが
クリエイターが神山に滞在して作品制作するための拠点〈ブルーベアオフィス神山〉でした。

東京藝大などの大学生たちと取り組んだブルーベアオフィス神山の改修工事。(設計:BUS/坂東幸輔 須磨一清)

この改修工事がきっかけで神山町にサテライトオフィスが生まれることになり、
人口が増えた過疎地域として日本中から注目されるようになりました。
小さな空き家の改修でしたが、
神山町の運命を大きく変えるプロジェクトに成長しました。

廃工場をコワーキングスペースにリノベーションした〈神山バレーサテライトオフィスコンプレックス〉。(設計:BUS/坂東幸輔 須磨一清 伊藤暁 柏原寛、写真:樋泉聡子)

神山バレーサテライトオフィスコンプレックス内観、消費者庁の業務試験が行われた部屋。(写真:樋泉聡子)

ブルーベアオフィス神山の改修工事の後も、
2016年3月に消費者庁が業務試験を行ったことで有名な
コワーキングスペース〈神山バレーサテライトオフィスコンプレックス〉、
築90年の古民家を改修した〈えんがわオフィス〉、
新築のゲストハウス〈WEEK神山〉など
たくさんの施設の設計に携わることができました。

東京の映像関係の会社のサテライトオフィスである〈えんがわオフィス〉。ガラス張りの外観から働いている様子がよく見える。(設計:BUS/坂東幸輔 須磨一清 伊藤暁)

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実績ゼロでも、任された理由とは

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神山町に育てられた建築家

私は神山町に建築家にしてもらったと思っています。
海外の大学院を出たとはいえ、ほとんど実績のない若者に
神山町の人たちは、「やったらええんちゃうん」
と空き家改修の設計を次から次へと頼んでくれました。

若者のやりたいことを応援してくれる神山町らしいやり方で、
工事で困ったことがあると解決するためのたくさんのサポートをしてもらいながら、
プロジェクトを実現していくことができました。

ハーバード大学で学んでいるときは
大規模な建築を設計してこそ建築家だと思っていましたが、
リーマン・ショックを経験した後で神山町に出会い、
人のために自分の手の届く範囲で建築の設計をすることの喜びを学びました。
神山町で設計していて何よりうれしいのは、
設計した建物を使う人の顔、それも笑顔が見えることです。
神山町に出会う前後にも大きな施設の設計に関わりましたが、
設計をしていて感謝されるということはほとんどありませんでした。

また、「やったらええんちゃうん」という
行き当たりばったりの精神を神山町で学んだことも自分にとって大きな変化でした。
国や地域が成長していた時代とは違い、
計画してプロジェクトを進めるということが難しくなっています。
いつか夢だった大きな施設を設計することになるかもしれませんが、
今はとにかく目の前の自分に与えられた仕事をがんばって、
それから未来のことを考えようという
ゆったりとした気持ちで建築に向かえるようになりました。

これからも少しずつ手の届く範囲を広げていき、
新しい価値観を提案できるような建築家になりたいと思っています。

全周4キロの小さな出羽島。

最近では神山町を飛び出して、
神山町で出会い、同じようにまちに育てられた地域コーディネーターや家具デザイナー、
シェフといったそれぞれの仕事を持った仲間たちと活動するようになっています。
人口70人の出羽島では、車が1台もない場所での古民家再生に挑戦しています。

漁師さんにヒアリングを行う大学生。

車が1台もない出羽島でどのように工事をするか、工事する人たちにとっても挑戦です。

出羽島では伝統的な古民家を再生するため、大工さんの育成も行っています。

今年度から新たに徳島県三好市、北海道浦幌町、
香川県丸亀市などでも空き家再生を行っていく予定です。

これから本格的に人口が減り始める日本にとって、
過疎地域がこれまでのように単に新しく建物を建てて問題解決に取り組むのではなく、
空き家を資産としてコミュニティを育成するために活用していくことは
とても大切なことになります。私が神山町に育ててもらったように、
今後「地域が育てる建築家」がこれからも出てくるといいなと思っています。

次回は、もう少し詳しく神山町プロジェクトの紹介をしたいと思っています。
ブルーベアオフィス神山のように小さな空き家改修から始まったプロジェクトが、
いかにして今年5月末から開催される
『ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展』に出展するまでに成長することになったのか。

お楽しみに。

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