連載
posted:2016.1.8 from:兵庫県篠山市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer's profile
NOTE
一般社団法人 ノオト
篠山城築城から400年の2009年に設立。兵庫県の丹波篠山を拠点に古民家の再生活用を中心とした地域づくりを展開。これまでに、丹波・但馬エリアなどで約50軒の古民家を宿泊施設や店舗等として再生活用。2014年からは、行政・金融機関・民間企業・中間支援組織が連携して運営する「地域資産活用協議会 Opera」の事務局として、歴史地区再生による広域観光圏の形成に取り組む。
http://plus-note.jp
皆さん、こんにちは。ノオト代表の金野(きんの)です。
前回は、理事で事務局長の伊藤が、
〈篠山城下町ホテルNIPPONIA〉にまつわる物語を紹介しました。
ファンドなどの難しい話が続いていたので、
彼女としては「箸やすめのつもりで気楽に書いた」らしいのですが、
たくさんの方に読んでいただいたようで、本人もご満悦です。
彼女は大阪府豊中市生まれ。東京のIT企業でばりばりと働いていました。
ある日のこと、いつものように左手のハンバーガーをかじりつきながら、
右手でキーボードをがりがり打っていて、
この数字を追いかける世界には終わりがなく、
その意味も行き先も見定めることができない、と気づきます。
パソコンから視線を上げると、
ガラスの向こうには、流れゆく雑踏と車列がありました。
彼女はさらに視線を上げて、空を仰ぎました。そして決断します。
まずは、香川県の仏生山、徳島県の神山、神戸市の岡本商店街、
岡山県の西粟倉を巡って薫陶を受けます。
信念を持って、こんなに生き生きと働いている大人たちがいる、
それをこんなに楽しそうに話す人たちがいる、
だいたい、働いているのか遊んでいるのかわからないじゃないか、
彼女はそのように感極まって、
岡 昇平さん、大南信也さん、松田 朗さん、牧 大介さんの前で、
それぞれ泣き出したそうです。
それから、かつての上司が「地域づくり」をしている兵庫県の篠山へ、
ふらふらとやってきました。それが2年前のことで、
いまは、ノオトの事務局長、CCNJ(創造都市ネットワーク日本)事務局として、
ばりばり働いています。
前にも書いたようにノオトはフラットな組織なので、
私などは日々ダメ出しをいただいています。
ノオトは現在、理事4名、社員5名の9名で運営しています。
最近になって気がついたのですが、ノオトには勤務時間という概念がありません。
だから労務管理もありません。
事務所のほか、自宅、行きつけのカフェ、食堂、コンビニの駐車場が仕事場です。
9名のうち、伊藤や私を含む6名がIターン、2名がUターンで、
拠点としている篠山市においてもヨソ者の集団ということになります。
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地域再生に外部者(ヨソ者)が果たす役割は何でしょうか?
地元の人たちが気づきにくい地域の価値を発見することだと、よく言われています。
それを外部者のノウハウで商品化したり、産業化できるとなおいいでしょう。
そうやって、地域に新しい風を吹かせるのが外部者の役割なのでしょう。
先人たちが残した技術や資産に、
現在の私たちの知恵を重ねて、生業として継承していく。
それがその土地の文化ということであり、伝統ということです。
これまでも、外部者は、地域に新しい知恵を持ち込み、
変化をもたらすことで地域の文化創造に貢献してきたのでしょう。
それでも、地域づくり、地域再生の主役はあくまでその土地の人たちです。
ですから、中間組織としてのノオトは、「◎◎◎+NOTE」というかたちをとります。
例えば、
NPO法人集落丸山 + NOTE
篠山城下町 + NOTE
ということですね。
外部者として、地域=コミュニティのパートナーとなる。
NPO法人集落丸山と一般社団法人ノオトは、
実際にLLP(有限責任事業組合)を組成して、
10年間という期間限定の宿泊施設経営を行っています。
非営利法人と非営利法人のLLPはめずしいのではないかと思います。
篠山城下町=篠山小学校区はコミュニティのサイズが大きくなり、
ステークホルダー(利害関係者)の立ち位置も多様なので、そう簡単ではありません。
私たちは、いろいろな局面で、自治会の皆さんや個別の事業者と意見交換して、
地域の総意を汲み取りながら、+NOTEの考え方で事業を展開してきました。
一般論として、小学校区やそれ以上のサイズになると、
事業の実施について、地域の総意で意思決定するということは困難です。
小学校区を単位とした「まちづくり協議会」の設立と運営が盛んですが、
その組織は、あくまで情報共有や合意形成の場であって、
「よっしゃリスクを取って事業をおっぱじめようぜ」
という意思決定の場にはなりません。
実際に意思決定して、事業を実施するのは、
地域=コミュニティのなかの“有志たち”ということになります。
① 地域=コミュニティの有志たちが、
② 一緒に乗り合わせるビークル(株式会社、NPOなど)をつくって、
③ 地域=コミュニティに認知されながら、
④ 自分たちの責任で事業を展開する
というのが、現実的な運動体の姿です。
リスクを取るのは有志たちですが、ここで、大切なのが③の条件です。
これを外してしまうと、運動は不幸な姿になって、やがて瓦解します。
もう1点付け加えると、
⑤ そのビークルには外部者が乗っているほうがよい
ことが経験的にわかっています。
地域=コミュニティに新しい価値観を持ち込むのは、外部者ですからね。
移住者がいなくても、都会で働いていてUターンした若者やリタイア層が、
外部者として機能することはよくあることです。
いかがでしょうか?
地域づくり、地域再生に取り組んでいて、
運動体の組織論に悩んでいる方は、参考にしてみてください。
実は、ノオトは、外部者(ヨソ者)の集団でいて、
任意の地域=コミュニティと結びつく(+NOTE)ことで、
①〜⑤を実現できるように設計した中間組織(ビークル)なのです。
平成21年秋に開業した集落丸山は、集落のリノベーションでした。
12戸のうち7戸が空き家。うち3戸を再生してオーベルジュに。
それを集落に残る5世帯19人が運営。
谷奥の集落に人が行き交い、人口増、耕作放棄地解消、里山再生の効果が発現。
その成功に気を良くした私たちは、
篠山城下町でも同じことができるだろうと考えました。城下町のリノベーション。
丸山という集落サイズのコミュニティを、
篠山城下町という(ワンランク大きい)小学校サイズのコミュニティに置き換えて、
事業展開ができると考えたのです。
篠山城下町では、〈NPO法人町なみ屋なみ研究所〉(通称“町屋研”)が、
既に古民家再生プロジェクトの活動を始めていました。
古いまち並みをボランティアの力で残そうというもので、
古民家再生運動の普及、技術の継承を図りながら、低価格での改修を実現しています。
毎月第1、第3土曜日を活動日として、
これまでに230回を超えるワークショップが開催されています。
町屋研が、ボランティアによる低価格の再生手法であるのに対し、
ノオトはプロによる改修事業を展開することで、
修復産業を育てることを目標にしました。
手法や目的はそれぞれ異なりますが、
私たちノオトの社員2名が町屋研に参画していることもあって、
町屋研とノオトは付かず離れずの連携関係にあります。
町屋研とノオトは、これまでに城下町で、15店舗の開業を支えてきました。
カフェ、レストラン、工房、ギャラリーなどです。
城下町以外の地域も含めるとその2倍くらいになります。
これくらいの集積ができると、『篠山本』が出版されるようになり、
いままでとは違う種類の観光客が篠山を来訪されるようになりました。
このころ、私たちが多用した事業スキームが、
空き家の所有者から10年間無償で借り上げ(固定資産税相当額を負担)、
資金を投下して改修し、これを入居する事業者にサブリース(又貸し)し、
10年間の家賃収入で資金回収する、というサブリース方式です。
所有者にとっても、固定資産税の負担がなくなる、
草刈り・修繕などのメンテナンスが不要となる、
10年後には再生された物件が戻ってくる、というメリットがあります。
10年間での投資回収が厳しい場合には、
施設に公共性を付与して補助金を導入することになります。
私たちは社会実験として取り組んだので、家賃に経費や利益を乗せませんでしたが、
せめて正当な経費は乗せて事業設計することをお勧めします。
私たちは、限界化が進む篠山城下町を「ひとつのホテル」に見立てて、
そこにある歴史資源にもう一度光を当て、
それを新しいかたちで活用することで未来に継承しながら、
これから100年のまちづくりに取り組むのだと考えていました。
それから5年が経って、
カフェやレストラン、工房やギャラリーが次々と開業するわけですが、
肝心の客室が整備できませんでした。
集落丸山では、「農家民宿」という制度で実現したのですが、
城下町ではそれが適いません。
当初から宿泊施設を用意したかったのですが、
旅館業法の許可を受けることができなかったのです。
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それが、このたび、国家戦略特区の議論を経て、城下町においても、
玄関帳場(フロント)設置義務などが規制緩和されることになりました。
同時に、これまでの事業実績が評価され、
政府系ファンドからの出融資が決定したことは、これまでにレポートしたとおりです。
資金調達と規制緩和の問題が一気に解決して、
篠山城下町に、分散型の古民家ホテルが実現したのでした。
手探りでも、あきらめずに進んでいれば、道が開かれることもあるようです。
空き家の活用を地域再生と結びつけて考えてみましょう。
空き家をレストランに再生したら、シェフがやってきた、
ということは実際にあります。
シェフが来たいというので、空き家をレストランに再生する、
ということも実際にあります。
工房と作家、宿泊施設とホテル事業者、サテライト・オフィスとIT技術者
などの関係も同じです。
つまり、空き家を活用することは、事業者の移住・定住につながります。
事業者がやってきて、店舗や会社ができると小さな雇用が発生します。
農家、シェフ、パティシエなどの事業者が集まると、食文化産業が起こります。
林業、家具、木工などの事業者が集まるとクラフト産業が起こります。
宿泊やレストランが集まると観光産業が起こります。
何より、空き家の再生工事が盛んになると、修復産業が起こります。
こうして、地域にクリエイティブな人材がやってくること、
小さな雇用や小さな内発型産業が次々に起きることが、
地域再生にとって、とても重要です。
「Aさんの空き家」を「Bさん」が活用する、と考えるのではなく、
「地域の空き家群」を「地域」のために活用する、と考える。
集落をリノベーションする、城下町をリノベーションする……
という発想を持つことですね。
これが昂じると、
価値観の転換、日本社会のリノベーションという話になるのですが、
その話は次の機会に。
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