連載
posted:2016.5.11 from:兵庫県篠山市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer's profile
NOTE
一般社団法人 ノオト
篠山城築城から400年の2009年に設立。兵庫県の丹波篠山を拠点に古民家の再生活用を中心とした地域づくりを展開。これまでに、丹波・但馬エリアなどで約50軒の古民家を宿泊施設や店舗等として再生活用。2014年からは、行政・金融機関・民間企業・中間支援組織が連携して運営する「地域資産活用協議会 Opera」の事務局として、歴史地区再生による広域観光圏の形成に取り組む。
http://plus-note.jp
こんにちは。第11回を担当します、ノオトの伊藤です。
いよいよ書き尽くされてきた感じがありますが、
今回は、これまでに語られた内容もピックアップしながら、
大阪→東京→兵庫へと移り住んだ自身の視点も交えて、
空き家とまち、空き家と人、そしてまち同士の結びつき方についてお話したいと思います。
vol.8の後半でも触れられていますが、ノオトが空き家活用の計画づくりを支援するときには、
空き家単体ではなく、必ず地域としての視点がセットになっています。
「Aさんの空き家」を「Bさん」が活用する、と考えるのではなく、
「地域の空き家群」を「地域」のために活用する、と考える。
集落をリノベーションする、城下町をリノベーションする……(vol.8より)
上記のとおり、目の前のひとつの建物だけを見て
「これは何に使えるか」と思案するだけでなく、
集落や小学校区といったひとつのまとまりのなかで、
複数存在している空き家をどう活用していけば、
その地区・地域がよりすてきになっていくかを考えています。
また、増え続ける空き家問題について、現在全国各地で声高に叫ばれている
「地域課題であり負の遺産である空き家問題をどう解決するべきか?」
というアプローチではなく、
「日本の文化を表現したすてきな建物がなくなっていくなんてもったいない。
どうすれば、この資産を生かしたすてきな場所にできるか?」
という視点をノオトでは、スタート地点としています。
vol.2でご紹介した集落丸山での取り組みは、
この集落の景観の美しさを残したい、
残すためには建物の内側から中身を充填しなくては、というところから
プロジェクトが始まっていたことは、ご紹介したとおりです。
今では私もすっかりそういった視点で考えるようになりましたが、
最初にこの考え方を聞いた時には、あーなるほどなぁ……と思ったものです。
同じく連載されていた香川県の仏生山まちぐるみ旅館も
「どうやったら、にやにやしながら暮らせるか」と表現されていますが、
着想は同じところにあるのだと感じています。
そして、たいていの地域でこのような視点で考えることができるはずですが、
どうしても「課題解決」というアプローチが主流になっており、
マイナスの視点からスタートすることが多いのは、とてももったいないことだと思います。
どうすればより楽しくなるかを考えるほうがワクワクしませんか?
建物とまちを結びつけて考えて、それぞれの建物の活用イメージができ上がると、
次は、建物の中身を充填するために、不可欠な「人」のマッチングが
必要になっていきます。
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「どうやって空き家と事業者をマッチングしているんですか」
と視察で訪れる方からよくご質問をいただきます。
ノオトは、この7年の間に、篠山で50棟近い空き家改修に関わっていますので
私自身も、代表の金野と出会った頃に、同じような質問をしましたし、
自分がノオトのメンバーになってからも、しばらく疑問のままでした。
vol.8では、
「空き家をレストランに再生したら、シェフがやってきた、
ということは実際にあります。
シェフが来たいというので、空き家をレストランに再生する、
ということも実際にあります」
と書いてありますが、この質問が出ると、たいてい、
「建物を改修し始めると『いい人』がやってくるんですよ~」
という表現で金野が答えますので、それを聞かれた方は決まって、
ちょっと狐につままれたかのような顔をされます。
そんなことを言われても、ただでさえどこの地方も人口減少や
人材不足だと騒がれているのですから、にわかには信じられませんよね。
ここで言う「いい人」というのは、単に人柄がいいというだけではありません。
自分でなりわいをつくることができる(もしくはつくろうとしている)人、
それも職人や料理人で言えばかなり腕のいい、
アーティストや商売人であれば、優れた感性の持ち主といった感じでしょうか。
実際に、この8年ほどの間に篠山にお店や工房を移された方のなかには、
都市部でいろいろと経験を積まれた方がたくさんいらっしゃいます。
もともと人とのつながりがあって篠山へ通われていた方、
そろそろ新たなチャレンジをしてみようと物件を探されていた方など
出会いのシチュエーションはさまざまですが、
みなさん、とてもいいタイミングで「建物」とつながり、
篠山市の城下町を中心に、おしゃれなカフェやレストラン、雑貨店、
ギャラリー、工房などクリエイティブな場所が増えていきました。
実は、ノオトにはまだ仕組みと言えるほどのマッチングのシステムがありません。
空き家になっている建物の情報は、
篠山城下町ホテルNIPPONIAのように新しい場所ができるタイミングで、
メディアを通じて私たちの活動を発信いただくことによって、
持ち主の方から活用について直接ご相談をいただくことがほとんどです。
そして、そこに入ってくださる人(事業者)探しについては、
「これこれこういうプロジェクトがあってね……」
「こんな物件があるんだけど、いい人いないかな?」
といった話を、たとえそれがまだ構想どころか妄想段階の話であったとしても、
プロジェクトメンバーが(主に金野と藤原ですが)その時々に出会う方に話をしていきます。
そうすると、不思議なことに「いい人」とのご縁が生まれて、話がまとまっていくのです。
こう書いても、まだかなり怪しい話ですね(笑)。
要は、ある意味、人づたいの関係性のみでマッチングの営業をやってきたということです。
どうなりたいか、どうしていきたいかを口にすると、それが実現していくというのは、
あながち嘘ではないのだと思います。
ただ、国内には約149万棟の歴史的建築物(古民家)があり(※)、
ノオトでは、
その約2割の30万棟を活用することで残していくという目標がある一方で(vol.5参照)、
今の状態のままでは、なかなか事業のスピードが追いつかず、
こうしている間にも、活用方法が見出されないまま、
まだ使える建物がどんどん壊されていっています。
本当に時間がなくなってきてしまっているので、
今後は、もう少し情報を整理し発信しながら、
より多く実りあるマッチングが実現できるような仕組みにしていければと考えています。
※歴史的建造物の件数や活用については、日本政策投資銀行からレポートが出ています。
http://www.dbj.jp/pdf/investigate/etc/pdf/book1504_01.pdf
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よりよいマッチングには、周辺地域のつながりも大切です。
空き家の利活用と事業者のマッチングを軸に
現在ノオトでは、篠山・朝来(あさご)・養父(やぶ)・豊岡と、
主に兵庫県の中~北部の丹波・但馬地域を中心に活動を展開してきましたが、
同じ兵庫県内であっても、もともとの文化圏が違うこともあり、
地域によって建物のつくりや、食文化、伝統行事などの違いが豊かな個性となっています。
その個性を生かすことで、よりよいつながりが生まれます。
特に丹波・但馬地域でつくられている農産物などの食材は、
本当に質が良く、在来作物もあるなどバリエーションが豊富です。
この特徴をしっかり生かして、食材や人材の交流を行うことで、
お互いの地域としての価値を高め合うことができると考えています。
例えば、2011年から篠山で行われてきた〈ササヤマルシェ〉。
ノオトも立ち上げ支援に関わってきましたが、丹波篠山の事業者だけでなく、
近年では大阪、神戸、京都など都市部からの出店者も増えており、
2014年は3日間で91店舗、2015年は4日間で126店舗と
出店者数は右肩あがりになっています。
この立ち上げノウハウを生かして、
2015年10月には地元を中心とした事業者を集めた
豊岡の昔ながらの市場で開催される新感覚フードマーケット
〈あおぞらブランチ〉が開催されました。
地元の方に大変好評で、この2016年5月の連休にさっそく第2回が行われました。
また、2016年2月には、但馬の厳選食材と関西の一流シェフが食都神戸に集う、
食の饗宴として、『Tajima meets Kobe』が神戸の〈デザイン・クリエイティブセンター神戸〉(KIITO)で行われました。
このイベントをきっかけに、神戸のファーマーズマーケットとも
「何か連携できないか?」という動きも始まっています。
そして、それぞれの地区で少しずつ空き家の活用件数を増やしていくことで、
歴史地区の再生を進め、新たな観光のかたちも築いていきたいと考えています。
この考え方に賛同する団体で組成された〈地域資産活用協議会Opera〉では、
コロカルのこの連載で紹介したようなプロジェクトの情報・ノウハウを共有することで、
空き家の利活用、事業者のマッチング、人材・物の交流促進を支援し、
歴史地区の再生を目指しています。
この地を訪れる観光客にも、
ただ観光名所を巡っておいしいものを食べるだけの日帰り旅行ではなく、
少し長めに滞在しながら、その地域の暮らしのルーツを辿る。
そんな体験に溢れた旅ができるようになれば、
地域の魅力がより伝わりやすくなるとともに新たな産業も生まれます。
また、その体験をきっかけに移住につながることもあるでしょう。
建物と人とまち。それぞれがゆるやかにネットワークを形成しながら、
事業展開していくことが、今後ますます重要になっていくと考えています。
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