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荒れ放題の空き家が、
ここまで変わる?
子育てママにやさしい一軒家。
ASTER vol.5

リノベのススメ
vol.107

posted:2016.4.5  from:熊本県熊本市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer profile

SHOTARO NAKAGAWA

中川正太郎

ASTER代表。1977年熊本市生まれ。20代前半から建築現場や家具店など内装に関わる職を経て、
2003年よりASTERで活動開始。ASTERは、熊本県内を拠点に個人住宅、店舗、賃貸物件などデザイン・設計・施工を一貫して行うリノベーション集団。ほかに、運営する“街のよろず屋”KUHONJI GENERAL STOREや、熊本のマニアックな物件を紹介するサイトあんぐら不動産なども企画運営している。

ASTER vol.5

こんにちは、ASTERの中川です。
今回はこれまでと少し変わり、賃貸物件のご紹介をしたいと思います。
古くて不便な場所にあり、大家さんも困っていた空き家が、
新たな入居者によってセルフリノベーションで変化、いや進化し、
ママやパパが、子どもを連れて集まる憩いの場となっています。
そんな場所のお話です。

僕らは熊本で〈あんぐら不動産〉 という不動産物件紹介サイトを運営しています。
あんぐら不動産の“あんぐら”とは“アンダーグランド”の略。
熊本に眠っている、アンダーグランドで、マニアックで、
普通じゃないけどすてきな、
そして実際に住むこともできる、物件を紹介するWEBサイトです。

そこには普通じゃない物件を探している人からも、
普通じゃない物件を所有する人からも(笑)、連絡があります。
今回はそんな双方からの要望がちょうどマッチングできた事例だと思います。

リノベーションもしがたい木造平屋

ある日、
あんぐら不動産へある物件を所有するオーナーさんから相談がありました。
「自分の所有する物件が数年空き家で困っている。
築年数も古いし、内装は傷んでるし、場所も不便な所にあるので、
入居者が見つからない。どうにかしたい」とのこと。

さっそく見に行くと、まず場所がたしかに不便。
物件の住所は熊本市西区島崎。
熊本市内でも中心地から離れた金峰山という山の麓にあり、
最寄り駅からは徒歩20分以上かかり、車でしか行けない。
途中、坂を登って、下りて、すぐまたV字に角を曲がり、
車同士がすれ違えない道を進んだ突き当たり……という場所にありました。

外観はこんな様子でした。

その建物は築38年経った木造平屋のごく普通の家。
前入居者が退去して約4年も空いている状態でした。
たしかに建物は古い。内装もボロボロ。庭はすごいジャングル!

どうしましょうか……。

普通に貸すのは難しそうだ……
リノベーションしても結構費用がかかりそう……
とりあえず庭の剪定からでしょ……

いろいろと考えた結果、
デメリットだらけのこの物件もよく考えれば
庭もあるし、周辺環境も自然豊か。
戸建の賃貸物件で家賃もお手頃だし、どうにかなるんじゃないか?
と思い始めました。
このままじゃ普通にリフォームされるか、取り壊される運命。
それもなんか悲しいし。

そこで、水廻りなど最低限の設備と内装の下地までを僕らがつくり、
内装の仕上げは入居者が自由にDIYできる、
〈下地の家〉というコンセプトで募集することになりました。

オーナーにとってコスト軽減できるのと同時に、
入居者にとっても、自分の好きな内装にできるのが大きなメリット。
まだまだ熊本では少ないセルフリノベーション可能物件。
これなら不便な場所や古い内装のデメリットも解消できそうだと思いました。

そんな時期にちょうどあんぐら不動産へ、
今度は変わった物件を探している方から連絡が入りました。

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ボロボロの空き家に、奇跡のマッチング?

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幼なじみふたりが始めたのは、ママを応援するプロジェクト

「子どもたちと一緒にわいわいするスペースがつくれる賃貸物件を探している」

そう、連絡してきたのは、〈Sakuraki(サクラキ)〉という、
ユニット名で活動しているふたりの女性からでした。

Sakurakiとは、幼なじみのエミちゃんこと葛西江美さんと、
ムッちゃんこと濱田睦さんが始めた、
家族の記念日に、
映像制作やホームパーティなどを企画プロデュースするユニット。
その拠点にできる場所を探していました。

左から、Sakurakiのムッちゃんと、エミちゃんと息子さん。

そもそもそんなサービスを始めるきかっけになったのもふたりの経歴から。
ムッちゃんは以前、映像制作の仕事をしていた経験があり、
写真と映像で家族の記録を残していくようなことがしたいと思っていました。

一方、エミちゃんは以前は歌手を目指し、ロサンゼルスに8年間在住。
しかし歌手としての活動は道のりも険しく帰国。
好きな音楽ができないもどかしさで2年ほど廃人生活を送る日々(笑)。
そんななか、東京で知り合った方と結婚し、息子さんがひとり生まれました。
その後シングルマザーとなりますが、子どもができたことにより、
音楽以外で自分がやりたいことが見つかります。

「子育て中のママは大変。
特にシングルマザーとなるとさらに大変。
小さい子どもをかかえて何ができるのか?」
という思いがあったエミちゃん。
きっとほかにも自分と同じような環境で大変なママさんがいるはずだ。
もっと子どもたちを安心して自由に遊ばせながらも、
ママたちもたまにはリラックスできる場所があったらいい。

そんな場所をつくろう!

と、同じ時期に熊本に帰ってきた幼なじみのふたりは意気投合し、
動画制作やイベント企画の拠点となりながらも、
ママたちが子どもを連れて気軽に集える場を運営しようと決めます。
そこで、場所を探し始めました。
託児所じゃない、大っきなキッズスペースがイメージ。

そのタイミングであんぐら不動産を見つけ連絡をもらったわけです。

ボロボロ空き家に、奇跡のマッチング

僕らがちょうど〈下地の家〉の企画ができたタイミングだったので紹介すると、
ふたりの希望が叶いそうな唯一の物件だったため、
内覧前に即入居申し込み(笑)。
戸建で音も気にすることもなく、庭もある。
そして最大の決め手となったのは、賃貸でDIY可能だったことでした。

物件オーナーさんからも承諾をもらい、
借り手として初めて物件を見に行ったムッちゃんエミちゃん。
まだ施工前のジャングル状態を見た彼女たちの最初の感想は、
「正直、失敗した……」と思ったそうです(笑)。
しかし、逆にこの状態だから伸びシロも大きい!
とポジティブなふたりは期待を膨らませました。

いよいよ工事開始。
まずは僕らの出番。
古い壁や床を撤去していきます。
天井も一部解体し、開放感を出すため部分的に高くしました。

電気や水道設備など素人では難しい部分はすべて僕らがやります。
お風呂、洗面台、キッチンは交換しました。

キッチンはシンプルでローコストな業務用を選びました。

手際のいい職人さんの仕事により、
1か月も経たないうちに下地の状態完了。

大家さんには僕らからこの状態でお引き渡し。
業者の立場からすれば、工事途中で引き渡すというなんとも複雑な感じでした。

これより第2期、入居者のふたりにバトンタッチして
セルフリノベーション開始。

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木工経験ゼロのふたり……大丈夫?

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みんなと共有できる空間づくりの楽しさ

壁の塗装から、サッシの塗装。
子ども用の家具もつくるし、外部の柵や庭のデッキまでDIY!
木工経験もないふたりに電動ドライバーの使い方から塗装の仕方まで
僕らASTERのスタッフや職人さんがサポート。

息子の十音(とおん)くんを背負い作業するエミちゃん。

とにかくがんばるムッちゃんエミちゃんの周りには
自然と友だちや知人が集まり
DIYを手伝ってくれました。

デッキを塗装するムッちゃん。

作業を手伝いに来てくれた友人たち。

そうして約半年かけてでき上がったママたちがくつろげるスペース
〈SAKURAKI no ie (サクラキノイエ)〉は
もとのジャングルハウスからは想像もできない完成度です!

完成後は完成お披露目オープンハウスをやりました。
当日は庭でBBQも。
大家さん、入居者のふたり、手伝ってくれた人、
不動産屋さん、僕ら工事関係者など、みんなでワイワイやりながら。
内覧者の方にはお肉のお裾分けサービスも。

BBQの様子。

そんな感じで誕生した下地の家は
サクラキノイエとして現在は家族パーティが行われたり、
子どもを持つママ同士が集まってお茶をしたり、
ふたりが思い描いていた場所に近づいています。

ムっちゃんエミちゃんにセルフリノベ−ションの感想を聞いてみました。

「楽しかったことは、
やっぱり空間ができていく過程を自分たちで見ることができたこと。
あと、友だちや知人みんなが助けてくれて、
空間づくりを一緒に体感できた楽しさもあった」そうです。

逆に辛かったことは、ひとつの作業をするまでの準備。
「壁を塗装するにも、
まずはほかのところが汚れないようにマスキングテープで養生、
そして、下地をフラットにするためにパテ打ちして、ようやく目的の塗装。
塗装ひとつだけでなく、
家づくりの大変さがわかったし、意外に大変で辛かった。
あと、お金がなかったのも辛かった(笑)。
本当はフローリングも無垢材を張りたかったけど、
お金が足りなくて泣く泣くコルクにした。
でも結果的に、
子どもたちにはコルクのほうがやわらかくてよかった」そうです。

サクラキノイエはまだ未完成。
これからもまだまだ進化していく予定です。
駐車場が少ないことや、場所がわかりづらいなどまだまだ課題もあります。

でも、この場所が誕生したことで
たくさんのママたちや家族の大切な時間ができました。
大家さんが困っていた空き家がママたちのくつろげる空間に生まれ変わりました。
市場では、一見必要とされなくなった物件でも、
すてきな人たちに出会うと
決してお金をたくさんかけずとも、すてきに生まれ変わることがあります。
これからもそんな出会いが
ひとつでも多く熊本のまちにできていけばいいなと思っています。

次回、最終回は築130年、
城下町にある元酒蔵の木造倉庫のお話をご紹介します。
お楽しみに。

information

map

SAKURAKI no ie 
サクラキノイエ

住所:熊本県熊本市西区島崎3丁目17−28

TEL:080-9446-1101

営業時間:10:00〜17:00

定休日:不定休

http://www.sakuraki.jp/

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