全国の商店街には、その土地を物語る魅力がいっぱい!
そこでしかお目にかかれないおいしいものとの出合いも楽しみのひとつです。
酒ライターの岩瀬大二さんが、タカラ「焼酎ハイボール」〈ドライ〉に合う
最高のアテを探すべく、全国の商店街を巡ります。
これぞ! というアテをテイクアウトして、焼酎ハイボールとの相性をレポート。
思わず喉が鳴る至極の組み合わせをご覧あれ!
今回は、東京都北区の十条銀座商店街です。

商店街を歩く。
焼酎ハイボールのアテを求めて。
美味だけではない出合いがそこにはある。
今回訪れる十条銀座商店街は、
戸越、砂町と並ぶ「東京三大銀座(商店街)」と称されている。
規模、活気に加え、多くの人々に愛され、
創意工夫を受け継いできた伝統が認められてきたからこその称号か。
そして、人気の商店街は、たくさんの店がひしめくというだけではなく、
なかでも「これを求めにきた」というアイコン的な逸品がある。
十条銀座商店街で言えば、そのひとつが〈鳥大〉の「チキンボール」だろう。
しかも間違いなく焼酎ハイボールに合うはずという予感へ、
長年の「酒場感」「酒嗅覚」が導いてくれる。
平日の午後1時、
最寄り駅であるJR埼京線十条駅北口改札を出る。
右手に30秒ほど歩けばもうアーケードの入口だ。
JR埼京線というと東京と埼玉のベッドタウンを結ぶ通勤電車で、
高架が続く高速鉄道のイメージもあるが、
池袋から赤羽の間は、東京ながらどこかのんびりとしたローカル駅の風情があり、
周辺は昭和と下町の名残もある。
その中にあって十条銀座商店街のアーケードの入口も慎ましやか。
雑居ビルに挟まれた入口はそれほど間口も広くなく、
ここが「三大」と言われている場所とは思えない。
だが、いざ入口に立てば、驚きの光景が広がる。
駅側からは見えず、感じなかった商店街の活気が一気に押し寄せてきたのだ。
アーケードはこういう時に劇場感もある。
平日の昼だが、学校が多いという土地柄か、中・高校生たちから、
人生のベテラン勢まで、多くの人が行き交う。
地元のスーパー的な役割を担っていそうな八百屋、魚屋など日常を支える店が多く、
また惣菜店の多さも印象的だ。

まっすぐではなく緩やかに曲がっている十条銀座。先の先までは見通せないという、あけっぴろげではないところが、昼から酒のアテを探している身としては、なんだか心地いい。
加えて飲食店や和菓子店も店先にテーブルを出し
ずらりと商品を並べているから余計に活気を感じる。
どうにもたまらなくなって途中で寄り道。

煮物や和え物などの手づくり総菜が揃う〈おおつや〉さんにふらりと入れば、
アテにも白飯のお供にも垂涎のラインアップ。

ほっこり感があるお惣菜の数々。煮物も揚げ物もやさしいお味。焼酎ハイボールと合わせると焼酎のまろやかさをより感じられる。

「味噌なす」と「生姜なす」。悩みに悩んで両方購入。あるあるだ。
うれしいタイムロスだが行列必至と言われるチキンボール。
ちゃんと向かわなくては。

十条商店街の中ほどまで歩むと、右手に開けた道がある。
そこを曲がると10人ほどの行列ができている。そこが鳥大。
もともと鶏肉の専門店。その技術と徹底した品質管理が認められ、
店で鳥をさばいて売ることができる免許を持つプロフェッショナルの店だ。

朝4時まで生きていた鳥をさばいて店頭に並べるという「朝びき」こそ鳥大の誇り。鶏肉そのものに自信アリ。
それがチキンボールをきっかけに、
鶏肉を使った総菜の人気店としても知られるようになった。
行列に並ぶ人たちもチキンボールだけではなくそれぞれのお目当ての総菜があって、
「チューリップ」「チキンしゅうまい」「ねぎま串」「手羽中」と次々に注文の声が飛ぶ。

多彩な総菜は約70種類。不動の定番がチキンボールなら、最近のヒット作は「ヤンニョムチキン」。店主の大杉雄造さんは「レシピサイトを見ているといろんなアイデアが浮かんじゃって。つい試しちゃうんですよね」と笑顔。
さて、お目当てのチキンボールだ。
ざっくりいえば鶏ミンチにおからをまぜ、衣をまとわせ揚げたもの。
さくっとした嚙み心地、中はふわふわ、あつあつ。
旨みはしっかりあるけれど後味はあっさり。ソース不要。いくらでも食べられそう。
驚くのはそのお値段。1個10円。しかも税込み。

サイズは小さいけれど食べてみればそんな値段をつけていいわけがない、と思う。
鳥大の2代目、大杉雄造さんによれば多い時には1日1万個平均で売れていたのだという。
「一度に500個とかの注文もありました」(大杉さん)と言うから驚き。
それだけ売れているのなら、当然機械でつくっているのだろうと思ったら、
なんと、練りこむ工程から揚げるまですべてが手づくり。
それも1日何度も店の厨房でつくられるという。
信じられない気持ちで工程を見せていただくと、
「目にもとまらぬ」ってこういうことを言うのかという速さで、
どんどんボールの原型がフライヤーに投げ込まれていく。
もうひとつフレーズを重ねれば「ちぎっては投げ、ちぎっては投げ」。
その様子にただただ感心。

カメラも追いつけない早業でチキンボールを次々とフライヤーへ投入。「実は抜刀道を教えているのですが、その動きに似てるんじゃないかって言われたんですけど、どうですかね?」細かい動きはわからないが、どちらも間違いなく真剣勝負。

10時の開店から20時の閉店まで常に10人ほどの行列ができるという。その間つくり続けるというのだからすごい。
「ただ、ぶっちゃけ儲からないんですよ」と大杉さんは屈託なく笑う。
チキンボールが生まれて30年ほど。
原価も高騰するなか、ずーっと変わらぬ10円を守るために四苦八苦。
現在は1日5000個限定、ひとり30個まで、ほかの商品も併せて購入
といった制限を設けながらも、それでもつくり続けるのはお店の事情だけではないらしい。
「商店街の会長さんとも話していたんですが、
チキンボールがきっかけでここに来た人も多い。
メディアで取り上げてくださる際も商店街の代表的なものとして紹介してもらえる。
だから、うちの店のものというより、商店街のためにも続けていこうと思うんです」

2代目の大杉さんは婿養子。実は生家は同じ十条銀座の飲食店。「実家の店でこちらの卵を買っていたんですよ」との縁。商店街に生きて50年以上。苦境も発展も体感してきた。
「十条銀座は味の目利きも多く、惣菜店も高いレベルで競争してます」と大杉さん。
「でも、気取ったまちじゃないので、気軽に来ていただきたいです」
チキンボールを頬張って、レベルの高い惣菜店を巡る。
アテ探し中に満腹にならないように。