那須〈板室温泉大黒屋〉で
アートと温泉に浸かる

下野の薬湯、板室温泉

那須連山の西端、深い山間に佇む湯治の里「板室温泉」。
その歴史は古く、平安時代に発見され、
「下野(しもつけ)の薬湯」と親しまれるように。
今では昔ながらの情緒と温泉文化が残る通りにモダンな旅館が立ち並び、
懐かしさと新しさが調和する温泉地として観光客を集めています。
その板室温泉に佇む老舗宿が、〈板室温泉大黒屋〉。

保養とアートの宿〈板室温泉大黒屋〉。

保養とアートの宿〈板室温泉大黒屋〉。

こちらは、アート愛好家やアーティストから噂を聞いて、
いつかは泊まってみたいと思っていた場所。
1551年に創業した老舗旅館でありながら、
ギャラリーや〈菅木志雄 倉庫美術館〉を併設し、
館内のあちこちに作品を配した、アートを取り入れている宿なのです。

小川に架かった小さな橋を渡り敷地に入っていくと、
鳥居のような形をした木の門が現れ、庭が見えてきました。
この庭は、世界的に知られる現代美術作家、菅木志雄さんの作品。
絶妙なバランスでもみじや岩石、オブジェなどが配されており、
そばを流れる川の向こうには紅葉した山肌が迫っています。

菅木志雄『木庭・風の耕路』(2009)。木の門は、大黒屋代表の室井俊二さんの「風」をつくってほしいという希望に菅さんが応えて手がけたもの。(撮影:宮越裕生)

菅木志雄『木庭・風の耕路』(2009)。木の門は、大黒屋代表の室井俊二さんの「風」をつくってほしいという希望に菅さんが応えて手がけたもの。(撮影:宮越裕生)

傍らの囲炉裏からは煙があがっており、薪の上には、大きな鉄瓶が。
宿泊客はここで自由にお茶を淹れて飲めるのですが、
その一服が、何とも言えずおいしい。
山の空気とともにいただくお茶の味は、格別です。

玄関

囲炉裏のそばには作家ものの湯呑みが多数置いてあり、好きな器で飲めるようになっています。

囲炉裏のそばには作家ものの湯呑みが多数置いてあり、好きな器で飲めるようになっています。

客室はすべて、那珂川に面した南向き。
窓からは山の緑が見え、川の音が聴こえてきます。
室内は黄土の壁や木目の美しい家具など、自然の素材を生かした落ち着く空間。

フロント主任の池田春子さんによると、
シングルルームは、物書きの方も気に入っている部屋なのだとか。
突然訪れ、一気に仕事を仕上げていくこともあるそうです。

松の館のシングルルーム。このほかに梅の館、竹の館があり、和室や和洋室もあります。

松の館のシングルルーム。このほかに梅の館、竹の館があり、和室や和洋室もあります。

朝ごはんと夜ごはんは、お部屋で(写真は朝食)。体の中から健康になるように、化学調味料などは一切使わず、地のものを生かし、ていねいにつくられた料理がいただけます。料理の味は、もちろん絶品。

朝ごはんと夜ごはんは、お部屋で(写真は朝食)。体の中から健康になるように、化学調味料などは一切使わず、地のものを生かし、ていねいにつくられた料理がいただけます。料理の味は、もちろん絶品。

楽しみにしていた温泉は、こんな感じ。

源泉かけ流しの「露天の湯」。このほかに「ひのきの湯」や「たいようの湯」、黄土浴「アタラクシア」があります。

源泉かけ流しの「露天の湯」。このほかに「ひのきの湯」や「たいようの湯」、黄土浴「アタラクシア」があります。

露天風呂も川に面しており、川のせせらぎを聞きながら温泉につかれます。
泉質はアルカリ性単純泉で湯温は約40度。
刺激が少なくいつまでも入っていられるので、ゆっくり温まれました。

食も観光もまちの文化も楽しめる
「わたしのまちにある道の駅」


今月のテーマ 「わたしのまちにある道の駅」

ドライブ途中のひと休みに欠かせない道の駅。
産地直送の野菜などが購入できたり、
ご当地グルメが食べられたりと、
最近では旅の目的地のひとつとしても人気のスポットとなっています。

そこで今回は、〈地域おこし協力隊〉のみなさんに
近隣の道の駅について教えてもらいました。

そのまちの自慢の味や品々、土地に根づく文化を
ぜひ体験してみてください。

【秋田県秋田市】
まちを見下ろせる〈道の駅・ポートタワーセリオン〉

タワー型の道の駅として、
市民に愛されているポートタワーセリオンを紹介します。
おもしろい道の駅なので、今回はたくさんの写真とともにご覧ください。

まちのシンボルとして愛されています。

まちのシンボルとして愛されています。

その特徴は、地場産商品のラインナップもさることながら、
地上100メートルの展望台に無料で登れてしまうところが最大の魅力です。

日本酒大国の秋田。種類豊富なのでどれにするか迷ってしまいます。

日本酒大国の秋田。種類豊富なのでどれにするか迷ってしまいます。

ガラス張りのエスカレーターは景色も抜群です。

ガラス張りのエスカレーターは景色も抜群です。

まちを一望でき、晴れた日には奥に太平山を見ることができます。

まちを一望でき、晴れた日には奥に太平山を見ることができます。

港に沿って建てられているので、
道の駅で釣りもできちゃいます。
なんでも、光ものや高級魚のハタハタも釣れることがあるとか。

平日でも釣り人が常駐。家族連れで賑わいます。

平日でも釣り人が常駐。家族連れで賑わいます。

そして私が一番紹介したいのが、「うどんそば自販機」。
全国的にも大変珍しく、こちらの自販機をお目当てに訪れる観光客もいるほど。

ものの10数秒で熱々の出汁が効いたうどん、そばができ上がります。

ものの10数秒で熱々の出汁が効いたうどん、そばができ上がります。

その価格、なんと250円と格安。
写真をよく見てみるとわかるのですが、
自販機左側に天井から七味がぶら下がっているという
ユニークさもたまりません。

うどんそば自販機と同じカップ・麺・つゆ・天ぷらを使用した〈お持ち帰り用うどんパック〉250円(税込)も販売されています。

うどんそば自販機と同じカップ・麺・つゆ・天ぷらを使用した〈お持ち帰り用うどんパック〉250円(税込)も販売されています。

日本海に沈む夕日もよく見えます。

日本海に沈む夕日もよく見えます。

夜になると、季節や天気によって
電飾が異なって光るのも楽しみのひとつです。
撮影した日はクリスマスカラーになっていました。

見どころ盛りだくさんの秋田市の道の駅。
みなさんもぜひ遊びにいらしてください。

information

map

道の駅あきた港 ポートタワーセリオン

住所:秋田県秋田市土崎港西1丁目9-1

TEL:018-857-3381

営業時間:9:00〜(季節と施設によって異なります。詳しくはHPをご覧ください)

交通アクセス:秋田自動車道 秋田北ICから車で約15分

JR秋田新幹線秋田駅から車で約18分

JR奥羽本線土崎駅から車で約7分

Web:http://www.selion-akita.com/

photo & text

重久 愛 しげひさ・いつみ

「死ぬまでには一度は行きたい場所」で知られる鹿児島県与論島出身。2019年に縁あって秋田県秋田市にIターン。よそ者から見た秋田市の魅力や移住に至る経験を生かして、秋田市の地域おこし協力隊に着任。YOGAを生かした地域交流を図る事業や、移住者を受け入れる市民団体事業をプロデュース中。山菜採りにすっかり夢中に。自称「立てばタラの芽、座ればバッケ、歩く姿はコシアブラ」。

東京下町・酎ハイ街道のれんめぐり
〈愛知屋〉常連さんのひと声で始まった
シャリシャリ酎ハイ

酎ハイ街道。
その名がつけられているのは、
東武伊勢崎線鐘ヶ淵駅と京成線八広駅を結ぶ、鐘ヶ淵通りを中心に広がる一帯。
そこにはなぜか酎ハイの名店が揃い、酎ハイを愛する人々が集まってきます。
さあ、酎ハイの聖地へ、いざ。

●東京下町でいただく今宵の酎ハイは……
シャリシャリ感がうれしたのし。アツアツ小鍋との温度差も下町のんべえの心を掴む

今回紹介するのは〈愛知屋〉。
まさに鐘ヶ淵駅と八広の間、酎ハイ街道の中心あたり。
8年前の平成24年に新築・移転と建物は新しくとも、
一歩中に入ればやはり45年重ねてきた歴史が、
自然と店の風格、空気に表れてくるようです。

鐘ヶ淵通りから少し住宅街に入ったところ。落ち着いた佇まいですが、不思議にすぐにここだとわかる存在感。

鐘ヶ淵通りから少し住宅街に入ったところ。落ち着いた佇まいですが、不思議にすぐにここだとわかる存在感。

そして大将の石川鉄之さんと、先代女将の幸子さんの元気な「いらっしゃい」の声、
カウンターを埋める常連さんのわきまえた活気で、
下町酒場の居心地の良さの中に入りこめます。

大衆酒場というイメージから連想する雰囲気ではなくきれいに磨かれ整頓されたカウンター。常連さんの過ごし方も想像できます。

大衆酒場というイメージから連想する雰囲気ではなくきれいに磨かれ整頓されたカウンター。常連さんの過ごし方も想像できます。

それでは最初の一杯といきましょう。
名物は“シャリシャリ”の〈下町の酎ハイ〉。
氷を砕いたものを入れるのではなく、
焼酎とエキスをシャーベット状にしておいたものと
炭酸をブレンド。すると表面は冷えたシャリシャリに。

下町の酎ハイ

口に触れた瞬間のひんやり感がありながらも、
氷ではないから中身は薄まらない。
シャリシャリもあって軽やかだけれど、
芯の部分はストンからドシンに変わるような、
しっかりヘビーな飲みごたえあり。
だんだん強さが上がってくるような感覚があります。

名物 “シャリシャリ”の〈下町の酎ハイ〉(300円)。レシピこそ創業から変わらないものの、シャリシャリのアイデアは実は常連客の思いつきから。愛知屋あっての常連、常連あっての愛知屋らしい逸話。

名物 “シャリシャリ”の〈下町の酎ハイ〉(300円)。レシピこそ創業から変わらないものの、シャリシャリのアイデアは実は常連客の思いつきから。愛知屋あっての常連、常連あっての愛知屋らしい逸話。

レシピはと言えば甲類焼酎に、
近隣台東区の〈天羽飲料〉製造、「天羽の梅」ラベルで知られる
ハイボールの液〈マルA〉をブレンドした、下町ハイボール。
炭酸は地元墨田区で製造される強炭酸。

ここまではオープン……というより、
「秘密にしてたんだけど、どこかで俺がしゃべっちゃったのかなあ。
いつのまにか知られちゃった」
と大将はあっけらかん。

でも、それがどのようにしてこの風味になるのか?
その秘密を握り続けているのは幸子さん。
45年前に開店し、14年目の平成2年に、息子の鉄之さんが修業から戻るまで、
ひとりで切り盛りしてきました。

豪快な笑い声とは一転。料理の間は寡黙で繊細な大将のもうひとつの顔。

豪快な笑い声とは一転。料理の間は寡黙で繊細な大将のもうひとつの顔。

当然この店の命である酎ハイも幸子さんの作品。
つくり方のコツや配合は大将にも明かされていません。
目の前でつくられていくところを見ていると、
お酒の強さだけではないなにかが、胸にこみあげてくるような気持ちにも。

肴に目を移していきましょう。
と、お品書きを開き、おススメのボードに目をやると
驚かされるのはその品数と多彩さ。
「100以上はあるのかなあ」と大将。
千住の魚河岸(中央卸市場足立市場)から仕入れる、
新鮮な魚から定番酒場メニューに、
チキンカツ定食をはじめとするボリューム飯まで、豊富すぎるバリエーション。
なぜこんなに? と聞けば
「いやあ、こういうのつくれないの? やれないの?
て聞かれて、できねえってのは言いたくないんですよ」
とカラッと笑う大将。

琵琶湖の伝統産業をモダンに再生。
〈ビワコットン〉と〈びわ湖真珠〉

写真提供:神保真珠商店

〈高島ちぢみ〉をもとに開発された〈ビワコットン〉の魅力

Tシャツ

琵琶湖の北西部に位置する、滋賀県高島市。
この地で江戸時代から発展してきた伝統産業のひとつに〈高島ちぢみ〉がある。
一番の特徴は、シボと呼ばれる生地表面の凹凸。
肌と接触する面積が少なく、シャリッとした独特の風合いで実に快適な着心地。
吸湿性や通気性にも優れ、高温多湿な日本でステテコをはじめとする肌着、
パジャマなどの素材として長く愛されてきた。
そんな〈高島ちぢみ〉の製法を継承し、
岡山のアパレルメーカー〈カイタックファミリー〉の開発により
現代的なアイテムに生まれ変わらせたのが〈ビワコットン〉だ。

製造は産地内一貫工程。職人から職人へ、
まさに技術のリレーといえる完全分業制のもと、高島市内の各所でつくられている。
その第1段階となるのが撚糸(ねんし)。
緯糸(横糸)は1メートルにつき1000回もの撚りをかけることで、強さと伸縮性が生まれる。
限界近くまで撚るため、
途中で撚りムラなどのトラブルが起きないよう調整するのも職人の腕の見せどころ。
経糸(縦糸)も専門の工場がある。
通常、縦糸は複数本を1本に合わせる“合糸”が一般的だが、
高島では伝統的に肌着の用途が中心で厚みが重視されないため“単糸”で加工する。
織りやすいよう均一に揃え、最後に糊づけすることで一定の強度を持たせる。

緯糸(横糸)の撚糸工場。上から下へ巻き取る際に糸をひねり、撚りをかける。撚りを安定させるため蒸す工程も。

緯糸(横糸)の撚糸工場。上から下へ巻き取る際に糸をひねり、撚りをかける。撚りを安定させるため蒸す工程も。

こちらは整経(縦糸を整える)工場の最終段階。ビームと呼ばれる筒状の器具に、糊づけされた数千本の糸が巻き取られる。

こちらは整経(縦糸を整える)工場の最終段階。ビームと呼ばれる筒状の器具に、糊づけされた数千本の糸が巻き取られる。

静岡県島田市〈カネロク松本園〉
カカオやウイスキー樽で燻製された
和紅茶の驚き

パッケージを開封した瞬間、芳しい燻製香が鼻をくすぐる。
それも、微かにではなくしっかりと。
初冬のティータイムにぴったりなスモーキーな香りは、
湯を入れ蒸らしたポットからも、注いだカップからも漂い、
冷めてもなおその薫香を損ねることなく、最後まで余韻を味わえた。

驚くことにこのお茶は“国産の紅茶”、つまり「和紅茶」であり、
そして、数十年使われたウイスキー樽の木片で燻製されているという。
パリの有名紅茶専門店で、
日本産の紅茶で唯一置かれている紅茶と聞けば、
食通でなくとも興味が湧くのではないだろうか。

燻製紅茶〈富士山小種(ふじさんすーちょん)〉。右はボトル入り。

燻製紅茶〈富士山小種(ふじさんすーちょん)〉。右はボトル入り。

この一風変わったお茶をつくったのは、静岡県島田市の茶農家、松本浩毅さんだ。

ニューノーマルな生活様式に寄り添う
「わたしのまちのスタートアップ」

今月のテーマ 「わたしのまちのスタートアップ」

日々、新しい商品やサービスが生まれ、
わたしたちの暮らしはどんどん豊かになっています。

今回は、〈地域おこし協力隊〉のみなさんに
お住まいのまちの新ビジネスやサービスについて教えてもらいました。

それぞれのまちの新しい企業の試み、サービスは
少しずつ地域に根づき始めています。
オンラインで受けられるものもあるので
ぜひチェックしてみてください。

【北海道下川町】
コロナ禍だからできることを一歩ずつ

コロナ禍だからできることをポジティブに捉え、
いずれもてたらと思っていた
アロマセラピーと漢方のリラクゼーションサロン
〈薬草庵〉を9月にオープンした塚本あずささんを紹介します。

オーナーの塚本あずささん。

オーナーの塚本あずささん。

人口約3200人の下川町に
コロナ禍の6月に2店舗、9月に1店舗新規オープンしました。

〈薬草庵〉の外観。

〈薬草庵〉の外観。

都内のサロンで経験を積み、
「身近にある植物や食材を使って、
自分の身体を自分自身でケアできるようになってもらいたい」
という想いから、町内で採れる植物を生かした
化粧品や精油をつくっている下川町に移住。

わずか1年もたたないうちにお店をオープンさせました。
新型コロナウイルスが広がる前までは店舗を構えず、
場所を借りて仕事をしていましたが、
流行以降は場所を借りることも、人と会うことも難しいことに。

そんなとき、
「家の裏に納屋があるけど、塚本さん使う?」
という情報が飛び込み、自分の手でサロンをつくろうと決意します。

DIY事業を行う先輩移住者とタッグを組み、築90年の納屋が3か月で見事なサロンへと生まれ変わりました。

DIY事業を行う先輩移住者とタッグを組み、築90年の納屋が3か月で見事なサロンへと生まれ変わりました。

施術室の様子。

施術室の様子。

個人の体調に合わせてブレンドする薬膳茶。じわじわとファンが増えているそうです。

個人の体調に合わせてブレンドする薬膳茶。じわじわとファンが増えているそうです。

一方、家にこもる時間が長くなったことで
不調を感じる方が増えるのではないかと考え、
今まで以上にお客さまに寄り添ったサービスをという想いから、
自宅でも受けられるオンラインセルフケア講座を計画中とのこと。

今後の〈薬草庵〉の展開は見逃せません。

information

map

AROMA & KANPO 薬草庵

住所:北海道上川郡下川町錦町34

営業時間:10:00〜17:00 ※完全予約制

休日:土・日曜

メール:aroma.kampo2019@gmail.com

Web:https://aroma-kampo.com/

photo & text

大石陽介 おおいし・ようすけ

1988年静岡県焼津市生まれ。大学卒業後、静岡県の小学校教諭として富士山の麓で8年間勤務。うち2年間は青年海外協力隊(JICA)としてモンゴルへ。世界自然遺産である『知床』での2年間の移住生活を経て、現在はSDGs未来都市に選ばれた北海道下川町を拠点にシモカワベアーズ(起業型地域おこし協力隊)として活動中。しもかわをぐるっとつなぐおもてなし宿の開業に向け準備を進める。第1弾として『ぐるっとしもかわ』というローカルガイドを期間限定でスタート。第2弾として、森の中でのサスティナブルキャビンを建設準備中。

東京下町・酎ハイ街道のれんめぐり
〈はりや〉
敏腕女将が仕切る墨田の酒場で、
自由なつまみと
強炭酸酎ハイに出会う

●東京下町でいただく今宵の酎ハイは……
キリッと強炭酸が心地よい酎ハイと、頬がほころぶ多彩なつまみたち

酎ハイ街道。
その名がつけられているのは、
東武伊勢崎線鐘ヶ淵駅と京成線八広駅を結ぶ、鐘ヶ淵通りを中心に広がる一帯。
そこにはなぜか酎ハイの名店が揃い、酎ハイを愛する人々が集まってきます。
さあ、酎ハイの聖地へ、いざ。

今回紹介するのは〈はりや〉。
鐘ヶ淵駅の改札を出て右手に2分ほど。
奥まっているとも、わかりやすいともいえる、ちょっと不思議なたたずまい。
その不思議さは暖簾をくぐった後も続きます。

小料理屋か創作和食屋か? という雰囲気の看板ですが、ちゃんと縄のれんが居心地の良い酒場であることを伝えてくれます。

小料理屋か創作和食屋か? という雰囲気の看板ですが、ちゃんと縄のれんが居心地の良い酒場であることを伝えてくれます。

ポップなデザインの装飾の一方で、昭和の名残のインテリア。
そして大衆酒場としての気楽な居心地と、
カフェのような温かみのある洗練された雰囲気があります。

店内の様子

その理由は? といえば、
酎ハイ街道の老舗の遺伝子と、跡を継いだ3代目、荘司美幸さんのセンス、
ということになるでしょう。
でもそれがわかったのは杯を重ね、
ずーっと続いている酎ハイと看板のつまみに、
新しく生まれたメニューの数々を味わってからでした。

さあ、まずは酎ハイで乾杯。
口に含む前からスッキリ感がわかる香り。
グラスを近づけると強炭酸とわかる
細かく勢いのある気泡を目でも音でも感じます。

ジョッキに角氷を入れ、すでに前割された酎ハイを一気に注ぎ込みます。強炭酸ながらやわらかさも感じるのはこの泡立ちもひとつの要因でしょう。

ジョッキに角氷を入れ、すでに前割された酎ハイを一気に注ぎ込みます。強炭酸ながらやわらかさも感じるのはこの泡立ちもひとつの要因でしょう。

「とりあえずビール」ではなく、最初の1杯から飲める、スッキリ、爽やか、のどごしもうれしいはりやの酎ハイ(300円)。もちろんあとからくる味わいもあって、深まってきてからも存分に。置かれた札は、オーダーごとに1枚ずつ。これで杯数を計算するのが伝統ですが、お客さんも自分の酔いをこれで確認。足を取られる前に切り上げるのが、粋。

「とりあえずビール」ではなく、最初の1杯から飲める、スッキリ、爽やか、のどごしもうれしいはりやの酎ハイ(300円)。もちろんあとからくる味わいもあって、深まってきてからも存分に。置かれた札は、オーダーごとに1枚ずつ。これで杯数を計算するのが伝統ですが、お客さんも自分の酔いをこれで確認。足を取られる前に切り上げるのが、粋。

口に含むとガツンというよりはスッキリ。
爽やかさが抜けていったあとすぐに、
ほのかな甘みが口の中に広がります。
しかしその後味はしつこくなく、べたべたもせず、すーっと消えていくのです。
中身は昔から変わっていないということですが、
都会的な洗練というか、新しさも感じるソーダ割り。

アルコールよりも炭酸感か。
と、ちょっと油断して飲んでいたら……あとから追いかけてきました。
しっかり、おいしい酒感が。
なるほど、見た目のスッキリ、爽やかに反して、中身は濃厚でやんちゃ。

懐かし感のあるメニュー札もきちんと端正。そして並ぶメニューは荘司さんいわく「食べたいもの、つくりたいもの」。和洋アジアという枠でもない自由さも楽しい。

懐かし感のあるメニュー札もきちんと端正。そして並ぶメニューは荘司さんいわく「食べたいもの、つくりたいもの」。和洋アジアという枠でもない自由さも楽しい。

日本遺産・鎮守府の
歴史を辿る
ディープな佐世保の楽しみ方

「日本近代化の躍動を体感できるまち」として、
横須賀・舞鶴・呉とともに日本遺産に認定されている佐世保鎮守府。

鎮守府とは、日本海軍の本拠地のことで明治期に築かれました。
そのひとつである佐世保には、
今でも数多くの近代化遺産や海軍由来の食文化が残っています。

そんな佐世保鎮守府を中心に、
2018年に世界文化遺産に登録された黒島の集落にある〈黒島天主堂〉とあわせ、
ガイドブックには載っていない、
よりディープな佐世保の歴史を辿る旅をご案内します。

1.日本遺産・佐世保鎮守府の歴史を辿る

佐世保海上自衛隊

佐世保には明治22(1889)年に鎮守府が開庁。
大小の島々が複雑に浮かぶ海、小高い山々に囲まれた湾口など、変化に富んだ地形は、
天然の要塞として理想的な条件を満たしていました。
明治から大正期にかけて、最先端の技術と優秀な人材が投入され、
艦艇をつくる海軍工廠(軍需工場)など、さまざまな施設がつくられ、
水道や鉄道などインフラも続々と整備されたといいます。
現在、佐世保市では27項目、503の構成文化財(平成29年4月現在)が
日本遺産として認定されています。

切妻屋根を正面に見せた左右対称の外観。

切妻屋根を正面に見せた左右対称の外観。

はじめに訪れるのは、大正12(1923)年に
第1次世界大戦の凱旋記念館として建てられた
〈旧佐世保鎮守府凱旋記念館(佐世保市民文化ホール)〉。
ここでは、旧海軍の催事が行われ、戦後は米軍のダンスホールや映画館として
利用されていました。

建物は、レンガと鉄筋コンクリート造りの2階建。
外観は、古典的なデザインで、随所に細かい装飾が施されています。
敗戦後は、米軍に接収され、白く塗りつぶされてしまいましたが、
平成28年(2016)年に建設時の姿に改修されました。
現在は、市民の演劇や音楽の発表の場として利用されるほか、
鎮守府に関する写真やパネルが展示されています。

information

map

佐世保市民文化ホール(旧佐世保鎮守府凱旋記念館)

住所:長崎県佐世保市平瀬町2

料金:無料

TEL:0956–25–8192

アクセス:佐世保駅から車で6分

時間:9:00〜22:00

定休日:火曜及び、年末年始(12月29日〜1月3日)

東京下町・酎ハイ街道のれんめぐり
〈亀屋〉琥珀の酎ハイに隠された
「秘密」とは

●東京下町でいただく今宵の酎ハイは……
母と息子と常連が守り続ける、琥珀の味わい

酎ハイ街道。
その名がつけられているのは、
東武伊勢崎線鐘ヶ淵駅と京成線八広(やひろ)駅を結ぶ、鐘ヶ淵通りを中心に広がる一帯。
結ぶといっても、鐘ヶ淵通りは鐘ヶ淵駅から八広駅まで歩いて15分ほど。
広がるといっても、隅田川と荒川に囲まれた、
タクシーを使うのも申し訳なく思うほどの距離。
そこは、小さな家々が迷路のように誘う、地番だけでは探れない複雑な細い、細い路地。
ともに各駅停車しか止まらない、だから残されたのか、とも感じる、
昭和、下町という場所と時間。
ライトアップされた東京スカイツリー、
拡張され区画整理された道路や新しい建物はあっても
東京になんとか残されたある種のノスタルジー。
そこになぜか酎ハイの名店が揃い、酎ハイを愛する人々が集まってきます。

東京スカイツリー

今回から始まる酎ハイ街道の旅。
その1軒目は〈亀屋〉。創業昭和7(1932)年。
現在のご主人、小俣光司さんの父である2代目が、
時代の先鞭となって亀屋の酎ハイを考案。

2007年に道路拡張などの再開発で現在の場所に移転し、
外観内観からは昭和の面影はなくなりましたが、伝統の酎ハイは変わりません。
いや、変わらないのではなく守り続けています。
さあ、暖簾をくぐりましょう。

鐘ヶ淵通り沿い、八広駅からのほうがやや近いけれど、鐘ヶ淵駅との中間あたり。まさに酎ハイ街道の一丁目一番的な場所。場所は変わっても3代88年、守り続けた亀屋ののれんは今日もあたたかく客を迎えます。

鐘ヶ淵通り沿い、八広駅からのほうがやや近いけれど、鐘ヶ淵駅との中間あたり。まさに酎ハイ街道の一丁目一番的な場所。場所は変わっても3代88年、守り続けた亀屋ののれんは今日もあたたかく客を迎えます。

カウンターと小あがり。大衆酒場というよりきれいな小料理屋の感じもしますが、肩ひじ張らずリラックスできる雰囲気、そして地元の常連さんたちが亀屋と一緒につくり上げるやわらかい空気感もあります。

カウンターと小あがり。大衆酒場というよりきれいな小料理屋の感じもしますが、肩ひじ張らずリラックスできる雰囲気、そして地元の常連さんたちが亀屋と一緒につくり上げるやわらかい空気感もあります。

定番とホワイトボードに書かれた今日のおすすめ。つまみはだいたい400円~500円とわかりやすい設定。計算というよりも単純な足し算で飲み代がわかるのも下町の酒場らしさ。

定番とホワイトボードに書かれた今日のおすすめ。つまみはだいたい400円~500円とわかりやすい設定。計算というよりも単純な足し算で飲み代がわかるのも下町の酒場らしさ。

店内に入ってすぐ右手、カウンターの端は、
酎ハイをつくる道具が置かれています。
ここは3代目の母、女将の美代子さんの指定席にして、
伝統の酎ハイが注がれる場所。
聖地があけっぴろげに待っていてくれている、なんという贅沢。
こうなればさっそく、酎ハイを注文しましょう。

冷えた強炭酸をシュワシュワっと注いでから、琥珀色の焼酎を注ぐ。氷なしでも心地よい喉越しと温度に。これも女将の変わらぬ技術。

冷えた強炭酸をシュワシュワっと注いでから、琥珀色の焼酎を注ぐ。氷なしでも心地よい喉越しと温度に。これも女将の変わらぬ技術。

亀屋のスタイルは「氷なし」。
タンブラーの真ん中あたりに厚めに輪切りにしたレモンを入れ、
そのレモンに当てるように、まずは炭酸を注ぎ込みます。
炭酸は地元墨田区の業者の強炭酸。
この炭酸の強弱も酎ハイの味わいに個性をもたらす大切な要素です。
そして最後に注ぎ込まれる琥珀の液体。
甲類焼酎とお店それぞれの個性あふれる「企業秘密」がミックスされた、
この液体こそが、酎ハイの命。
もちろんその中身は明かせないですよね?
と恐る恐る3代目に尋ねると、
ニッコリと柔和な笑顔で「秘密」を少しだけ話してくれました。

「毎晩、店を閉めた後に母が仕込んでいます。
私もレシピは知っているんです。
でも、隠し味がわからないんですよ」

レシピとして見せてくれたのは、25度の〈宝焼酎〉と、
台東区で製造されている梅のエキス。
これがなければ亀屋の酎ハイではないし、
でも、これだけでも亀屋の酎ハイではない。

「実は……」と明かしてくれたもうひとつの裏話。
商品開発のために、
やっきになってそのアイデアを求めていた宝酒造の社員が足繁く通い、
惚れ込んでいたのが〈亀屋〉の酎ハイ。
その熱意に負け、ヒントを教えたのだとか。

やや濃いめの琥珀。梅系のエキスだけではきっとない……そんな「?」も酎ハイの楽しみ。

やや濃いめの琥珀。梅系のエキスだけではきっとない……そんな「?」も酎ハイの楽しみ。〈焼酎ハイボール〉(300円)。

物語にあふれる琥珀の「企業秘密」が、
タンブラーにあふれんばかりに注がれます。
この「なみなみ」は先代のこだわり。
たっぷり飲んでほしいという思い。
口元にもってくるのが大変、なんていう幸せな不満をいいながら、
口元をタンブラーに寄せていきます。
味わえばまったりと、でも心地よいさっぱり感。
そして喉を通った瞬間に、小気味よく細やかな強炭酸のパンチ。
氷がない分、シャープすぎず、焼酎と琥珀のやさしい味わいも堪能できます。

最初の1杯を楽しんで、そろそろおかわり視野という頃に、おつまみが登場。
下町の大衆酒場よりも、下町のおうちに遊びに来たような
飾らない家庭的な料理がしみじみと合います。

地元の魅力がぎゅっと詰まった
「わたしのまちのタウン誌」


今月のテーマ 「わたしのまちのタウン誌」

WEBで手軽に情報が手に入る時代ですが、
時間をかけて編集された紙媒体は私たちにとってまだまだ馴染み深いもの。
最近では、ZINEと呼ばれる個人の趣味でつくる雑誌も人気となっています。

そこで今回は役場が発行する広報誌をはじめ、
店舗や有志が集まってつくるフリーペーパーなど、
まちの今を伝えるさまざまな冊子を
日本各地の〈地域おこし協力隊〉のみなさんに教えてもらいました。

写真集から観光ガイド、ZINEまで、
趣向を凝らしたタウン誌をぜひご覧あれ!

【長野県下伊那郡天龍村】
日々変化する村の景色を伝える写真季刊広報誌『天龍百景』

わたしの住む天龍村は秘境と呼ばれるだけのアクセスの悪さを誇り、
気軽に来れる場所とも言いにくい場所。

新型コロナウイルスの影響で、
地方と首都圏・大都市間の往来が難しくなっている昨今。
村に来てほしいと思う反面、SNSなどで大々的に観光情報をPRしたり、
イベントで外部から人を呼ぶことも、積極的にとは言い難いのが実情です。

天龍百景表紙

そんな状況の中でも、「天龍村に行きたいけど行けない、
もっと日常の様子が知りたい」という方々に、
春夏秋冬に各1冊ずつ、写真を通して村の近況を伝える
写真季刊広報誌『天龍百景』の発行を始めています。

天龍百景中ページ

村のごく一部分を切り取るのではなく、あらゆる場所からの風景や、
日々変化する景色を見てほしいという気持ちでこのタイトルがつきました。
こちらは現在、天龍村ふるさと納税寄付者の方々にお送りしています。

天龍百景中ページアップ

春夏秋冬のうつろい、村人たちの暮らし、
大自然の厳しさと美しさ、古来から続く伝統行事など、
ここに暮らしているからこそダイレクトに見ることができる一瞬一瞬を、
簡素な文章とぎっしり詰まった写真の数々でお届けしてます。

見た人の心に何かが残るような冊子になってくれたらいいなと思います。

photo & text

本多紗智 ほんだ・さち

信州最南端、県内で一番早く桜の咲く村「天龍村」で地域おこし協力隊をしています。ないものづくしといわれる「ド」田舎ではありますが、ちょっと視点を変えてみれば、ここにはまだ「かろうじて残っているもの」がたくさんあります。秘境と呼ばれるこの村から、鮮やかな四季のうつろい、なにげない暮らしの風景をお届けできたらと思っています。

九十九島アクティビティも!
飲み歩きも!
佐世保を遊びつくす体験ガイド

2018年4月、国際NGO〈世界で最も美しい湾クラブ〉に
加盟認定された九十九島(くじゅうくしま)。
長崎県佐世保湾から北へ、平戸までの約25キロの海域には複雑に入り組んだリアス海岸と
208の島々が織りなす美しい自然景観が広がっています。
大自然を満喫できる九十九島のアクティビティを中心に、
佐世保の魅力を詰め込んだ、とっておきの旅をご案内。

世界文化遺産に登録された集落のある黒島や佐世保で話題のはしご酒スポットまで。
佐世保のよくばりなアウトドアトリップへ、出かけてみませんか?

遊び方いろいろ。
人々に愛される
ちょっとユニークな
「わたしのまちの公園」

今月のテーマ 「わたしのまちの公園」

原っぱで子どもたちが駆け回ったり、
ベンチで読書をしたり、園内をランニングしたりと、
自粛期間中もまちの憩いの場として活用されていた公園。

最近では、公園内にカフェやBBQ場があるなど、施設も充実。
公園での過ごし方も変化しています。

今回は、日本各地の〈地域おこし協力隊〉のみなさんに
お住まいの地域にある公園をご紹介いただきました。

遊具とベンチだけがある一般的な公園とは
ひと味もふた味も違うユニークなところばかり。
3密を避けた遊び方もできるようなので、
自身に合った楽しみ方で公園ライフを過ごしてみてはいかがでしょうか。

まちの歴史を知り、
地域に愛される「わたしのまちの老舗」


今月のテーマ「わたしのまちの老舗」

味や技を守り、歴史と伝統のあるお店は
「老舗」と呼ばれ、地域内外の人から愛されています。

今回は全国の〈地域おこし協力隊〉のみなさんから
まちにある老舗店を紹介してもらいました。

和菓子から、染物屋まで日本の伝統を受け継ぐお店ばかり。
オンラインで手に入る商品も多いので
ぜひこの機会に100年続く味や技術を楽しんでみてください。

【秋田県秋田市】
TVでも紹介され、秋田っこに知られる和菓子店

地元に愛され、TV『嵐にしやがれ』でも取り上げられたほど有名な
和菓子の老舗が秋田市にあります。
秋田の和菓子といえば、と言われるほどの老舗〈三松堂〉。
創業当時は煎餅屋から始まったとされ、
洋菓子の提供なども経て、現在は和菓子に特化した専門店として営業しています。

古き良き面影の残る店舗は大正13年創業。

古き良き面影の残る店舗は大正13年創業。

長きにわたり修業を積んできた4代目イケメン店主の後藤さんは、
秋田の和菓子の開拓者でもあります。

一番のこだわりは“あんこ”。
通常の菓子店だと、既製品の餡に砂糖を加え、
どの和菓子にも同じあんこを使用するのですが、
〈三松堂〉では、厳選された小豆から丁寧に、粒あん・こしあん別、
さらに商品ごとにあんこをつくり分けるところまでこだわり抜いています。

店内にもあんこに命をかける工程がコミカルに描かれたポスターも。

店内にもあんこに命をかける工程がコミカルに描かれたポスターも。

こだわりはあんこだけではありません。
わらび餅や生地にも店主の想いが詰まっています。
通年人気商品の〈千秋最中〉は、自分であんこを挟めるように工夫され、
パリッとした食感も楽しめます。

生地が口裏に付く最中が苦手だった私ですが、〈千秋最中〉を食べて眼から鱗! 大好きになりました。

生地が口裏に付く最中が苦手だった私ですが、〈千秋最中〉を食べて眼から鱗! 大好きになりました。

その他、ロングセラーには、〈あんドーナツ〉や〈いちじくパイ〉。
季節限定の商品もあり、夏は〈若桃大福〉や〈麩饅頭〉が。
もちろん、どのあんこも違ったテイストです。

秋田はいちじくを好んで食べる文化があり、〈いちじくパイ〉も地元の味。

秋田はいちじくを好んで食べる文化があり、〈いちじくパイ〉も地元の味。

また、夏季限定のかき氷も。
和菓子屋さんが提供するかき氷はとはひと味違います

人気商品〈黒蜜きなこあずき〉700円(税込)。6月中旬~9月上旬頃までの夏季限定です。

人気商品〈黒蜜きなこあずき〉700円(税込)。6月中旬~9月上旬頃までの夏季限定です。

食べなきゃ損! お取り寄せもできますので、
ぜひ秋田市の老舗〈三松堂〉の和菓子を堪能してみてください。

information

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三松堂

住所:秋田県秋田市中通5丁目7−8

TEL:018-833-8401

営業時間:9:30〜18:00

定休日:日曜・祝日

Web:https://www.wagashi-otoriyose.jp/

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重久 愛 しげひさ・いつみ

「死ぬまでには一度は行きたい場所」で知られる鹿児島県与論島出身。2019年に縁あって秋田県秋田市にIターン。よそ者から見た秋田市の魅力や移住に至る経験を生かして、秋田市の地域おこし協力隊に着任。YOGAを生かした地域交流を図る事業や、移住者を受け入れる市民団体事業をプロデュース中。山菜採りにすっかり夢中に。自称「立てばタラの芽、座ればバッケ、歩く姿はコシアブラ」。

コーヒー片手にほっとひと息
「わたしのまちの喫茶店」


今月のテーマ 「わたしのまちの喫茶店」

ふらりと入った喫茶店やカフェのコーヒーがおいしかった。
それだけで、ちょっぴり幸せになりませんか。
地元の方々に愛され長く営業している喫茶店、
新しくオープンしたおしゃれなカフェ。
歴史は違えどオーナーのこだわりは、味はもちろんのこと
内装からティースプーンひとつに至るまで広がっています。

今回は日本各地の〈地域おこし協力隊〉のみなさんが住むまちにある
喫茶店やカフェをご紹介いただきました。

ニューノーマルの生活が始まり、
外出する機会が増えた方も少なくないのでは?
まだまだ注意は必要ですが、まちにある喫茶店やカフェでほっとひと息ついて
リフレッシュしてみてはいかがでしょうか。

【山口県萩市】
市指定文化財の中にある喫茶店

萩市土原にある市指定文化財「小川家長屋門」。
その敷地内に今回ご紹介する自家焙煎珈琲店〈長屋門珈琲 カフェ・ティカル〉と
土原の歴史を伝える小さな資料室があります。

カフェ・ティカルの外観

観光地にありながら「いつものコーヒー」と注文する
常連客もいらっしゃるような地元の方に愛されているお店です。

長年続けてこられたのはコーヒーへの情熱と技術。
そして、いつも笑顔で「いらっしゃいませ」と迎えてくれ
「ホッとする」場所を提供してくれるマスターとその家族の存在があるからこそです。

カフェ・ティカルのコーヒー

コーヒーは世界各地の農園から取り寄せた新鮮な生豆を焙煎、ドリップ。
常時20種類以上用意されていいます。
そのなかには萩の味のコーヒーと名づけた、やさしい味わいの「箱入娘」、
酸味苦味の調和した「勝兵衛」、やや強口の「ふくみみ」の3タイプも。
自宅でもおいしいコーヒーが楽しめるように
自家焙煎されたコーヒー豆の販売も行っています。

コーヒーカップ

もちろん、コーヒーだけではなく
夏みかんジュースや手づくりケーキ、トーストなどもあります。
萩市に遊びに来られた際は「ホッと」しに立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

information

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長屋門珈琲カフェ・ティカル

住所:山口県萩市土原298-1

TEL:0838-26-2933

営業時間:9:30〜19:00(日曜・祝日 9:30〜18:00)

※新型コロナウイルス対策のため、営業時間の変更や臨時休業の場合あり。

Web:https://localplace.jp/t200311134/

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古冨竜也 ふるとみ・たつや

山口県、兵庫県、新潟県、長崎県、広島県と全国各地で暮らし、趣味で海外を放浪する。2019年、理学療法士から山口県萩市の地域おこし協力隊に着任。3秒で地域に溶け込む力を生かし、地元の人が主役の持続可能な地域づくりを目指す。

宇都宮〈魚田酒場〉
オリオン通りの大衆酒場で、
抜群のマグロ刺と緑茶ハイに誘われ

旅の醍醐味はローカル酒場!
全国おすすめ酒場探訪記 宇都宮編
大人になったからわかるこのまちの魅力

今回のローカル酒場は、栃木県は宇都宮にご案内。
宇都宮といえば餃子がすぐに浮かびますが、
実はおもしろいカルチャーに溢れたまちでもあります。

例えば自転車。
ツール・ド・フランスなどにもつながる、サイクル・ロードレースの日本での聖地で
トップチームも本拠地を構えます。

そして、フェスでも盛り上がるジャズのまちでもあり、
酒好きには〈宇都宮カクテル〉を展開するバーのまち、
さらに、以前は北関東有数のファッションのまちでもありました。

酒場文化、スポーツ文化、音楽文化、服飾文化。
その中心となったのが「オリオン通り」。

シャッター商店街に活気が戻ってきたオリオン通り。これもここで商売をするみなさんの思いがしっかり行動や活動につながったから。魚田酒場もその担い手のひとつです。

シャッター商店街に活気が戻ってきたオリオン通り。これもここで商売をするみなさんの思いがしっかり行動や活動につながったから。魚田酒場もその担い手のひとつです。

オリオン通りは戦後間もない1948(昭和23)年に生まれ、
1967(昭和42)年には全長280メートルにおよぶアーケードが完成。
以降、文化と商業の担い手となりましたが、
時代の波の中でいわゆるシャッター通りになりつつありました。
しかし、そこから、全国から視察が来るほどの通りに復活。

そのアイコンのひとつが、今回ご案内する〈魚田酒場〉です。
旬の魚を出すうまい店であるだけではなく、
オリオン通りにあるからこその魅力があります。

オリオン通りに向かって思いっきり開放的な店構え。つい立ち寄りたくなる……のはしかたがない。

オリオン通りに向かって思いっきり開放的な店構え。つい立ち寄りたくなる……のはしかたがない。

窓から見えるまちのストーリー
「わたしのまちの車窓からの風景」

今月のテーマ 「わたしのまちの車窓からの風景」

地域を走る電車から見える風景はまちによってさまざま。
海が見えたり、山沿いの木々の香りを感じたり、
トンネルを抜けた時に現れる田植えをした水田だったりと、
そのまちを感じられる景色が広がっています。

今回は日本各地の〈地域おこし協力隊〉のみなさんに
お住まいの地域を走る電車やバスの車窓から見える風景を切り撮ってもらいました。

ご自宅の周囲とはひと味違う
まち並みや自然を感じてみてください。

【長野県下伊那郡天龍村】
秘境の夏を楽しめるローカル駅の景色

JR飯田線のローカル駅が5つ存在している南信州の秘境・天龍村。
今回は「車窓からの風景」がテーマということで、
村内に点在する小さな駅の風景をご紹介します。
気軽に旅に出ることが難しくなってしまっている昨今ですが、
秘境駅にただよう初夏の風を感じていただけるとうれしいです。

平岡駅の駅舎。構内を入るとお土産ショップがあり、〈秘境駅ツアー〉もこの周辺で行われています。

平岡駅の駅舎。構内を入るとお土産ショップがあり、〈秘境駅ツアー〉もこの周辺で行われています。

駅直結の宿泊施設〈龍泉閣〉が併設されており、
村内5つの駅の中で唯一、特急列車が停まる「平岡駅」。
無人駅ではありますが、構内に入ればお土産などを買うことができます。
また、季節に合わせて駅周辺で開催される〈秘境駅ツアー〉は、
リピーターのお客さまも多く、毎回大人気のイベントとなっています。

無人駅のため、きっぷの回収も箱にいれるだけ。

無人駅のため、きっぷの回収も箱にいれるだけ。

幻の銘茶の産地でもある「中井侍駅」の周辺には、
美しく手入れされた茶畑が広がっており、新緑の季節の山々と茶葉の緑、
天竜川と空の青が織りなす景観は「すばらしい」のひと言。

こちらは銘茶の産地中井侍駅。駅を降りて歩くと茶畑が広がっています。

こちらは銘茶の産地中井侍駅。駅を降りて歩くと茶畑が広がっています。

そして、「伊那小沢駅」周辺のカンザクラは、
県内で最も早く咲く桜として、毎春の開花宣言が恒例となっています。
「信州に春を告げる村」というキャッチフレーズの、
原点のひとつとなった場所でもあります。

伊那小沢駅の様子。近くには信州でいちばん早く咲くカンザクラが植えられています。

伊那小沢駅の様子。近くには信州でいちばん早く咲くカンザクラが植えられています。

気兼ねなく旅ができる日々が戻ってきた暁には、
のんびりとローカル線に揺られて秘境駅巡りをしてみてはいかがでしょうか?
四季それぞれの雄大な自然と、あたたかい人々、
なによりもゆったりとした時の流れが、
最上級のおもてなしをしてくれることでしょう。

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本多紗智 ほんだ・さち

信州最南端、県内で一番早く桜の咲く村「天龍村」で地域おこし協力隊をしています。ないものづくしといわれる「ド」田舎ではありますが、ちょっと視点を変えてみれば、ここにはまだ「かろうじて残っているもの」がたくさんあります。秘境と呼ばれるこの村から、鮮やかな四季のうつろい、なにげない暮らしの風景をお届けできたらと思っています。

自宅用にもギフトにも喜ばれる
「わたしのまちのお土産品」

今月のテーマ 「わたしのまちのお土産品」

ひと言にお土産と言っても、
地域を代表する銘菓や民芸、工芸品などさまざま。
そのまちでしか買えないものや地元の人しか知らないものも少なくありません。

今回は、日本各地の〈地域おこし協力隊〉のみなさんに
お住まいのまちを代表するお土産について教えてもらいました。

気になったものがあれば、お取り寄せして
次回の旅の予習をしてみてはいかがでしょうか。

【秋田県にかほ市】
昔ながらの製法でつくられるフルーツ甘露煮

秋田県にかほ市は、いちじくを栽培できる北限の地です。
ここで育つのはホワイトゼノアという加工向きの品種。
そんないちじくを秋田が得意とする保存食にしたのが〈いちじくの甘露煮〉です。

昔ながらの和釜で茹で洗いしたいちじくを、砂糖と水あめを加えながらじっくり6時間以上煮込んでつくられています。

昔ながらの和釜で茹で洗いしたいちじくを、砂糖と水あめを加えながらじっくり6時間以上煮込んでつくられています。

昔は甘露煮にも各家庭の味がありましたが、
時代が変わり残念ながらその文化が失われつつあります。
伝統食としての甘露煮文化を残そうと取り組むのが〈佐藤勘六商店〉です。

添加物を一切使わず、砂糖と水飴だけで煮た定番の甘露煮のほかにも
赤ワインエキスを加えて煮た赤ワイン仕立てのもの、
山ぶどうのジュレを使った山ぶどう仕立てのものなど、
現代風にアレンジしたものもあります。

甘さは控えめ。ひと粒ずつの個装になっているのもうれしいところです。

甘さは控えめ。ひと粒ずつの個装になっているのもうれしいところです。

パッケージもかわいくお土産にも最適!

パッケージもかわいくお土産にも最適!

そのまま食べたり、ヨーグルトのお供にしたりするのが定番ですが、
ホットサンドやパンの具材にするのもおすすめ!
にかほ市の伝統食を味わってみてください。

店舗ではいちじく加工品のほか、秋田の地酒の取り扱いもあります。

店舗ではいちじく加工品のほか、秋田の地酒の取り扱いもあります。

information

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佐藤勘六商店

住所:秋田県にかほ市大竹字下後26

TEL:0184-74-3617

営業時間:9:00~18:30 ※祝日は18時閉店

定休日:日曜 ※3連休の場合、日曜営業、月曜休業

Web:https://ichijiku-ya.com/

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國重咲季 くにしげ・さき

京都府出身。秋田県の大学に進学したことを機に、東北各地の1次産業の現場を訪ねるようになる。卒業後は企業に勤めて東京で暮らした後、にかほ市で閉校になった小学校の利活用事業「にかほのほかに」に携わるべく秋田にAターン。地域で受け継がれてきた暮らしを学び、自給力を高めることが日々の目標。夢は食べものとエネルギーの自給自足。

その地域の魅力に"泊まって”体感
「わたしのまちを体験する宿」

今月のテーマ 「わたしのまちを体験する宿」

TVやガイドブックなどでさまざまなまちの特集を
見聞きすることも少なくないですが
やはり地域のことを知るならば、行ってみるのがいちばんです。

「自分の住むまちを好きになってもらいたい!」
そんな想いから、地域の特性を生かしたユニークな宿が全国に増えています。

今回は、日本各地の〈地域おこし協力隊〉のみなさんに、
地域の魅力を体験できる宿について教えてもらいました。

【北海道羅臼町】
こだわりの手料理とアットホームな雰囲気が自慢の宿〈民宿本間〉

羅臼の前浜でとれる自慢の海の幸、
その素材のうまみを最大限に引き出すお母さんの手料理は、
民宿に泊まるお客さんの心を一瞬でつかみます。
地産地消をモットーに鮮度にこだわり、
添加物を一切使用しない安心できる料理を、満足いくまで食べられます。

羅臼の前浜で船上活〆した鮮度抜群のブリ大根。

羅臼の前浜で船上活〆した鮮度抜群のブリ大根。

宿の看板料理のメンメの湯煮。メンメ(キンキ)を羅臼の海洋深層水だけで煮た素材の味を生かしたシンプルな料理。こちらのメンメは大きさ約30センチ!

宿の看板料理のメンメの湯煮。メンメ(キンキ)を羅臼の海洋深層水だけで煮た素材の味を生かしたシンプルな料理。こちらのメンメは大きさ約30センチ!

元漁師の奥さんだからこそできる無駄の一切ない調理は、
今の時代ともマッチしています。
また、ジビエ料理も提供される数少ないお店のひとつでもあります。

鹿肉のローストは、お手製のたれを添えていただきます。

鹿肉のローストは、お手製のたれを添えていただきます。

食事中はもちろん、滞在する間に話されるお母さんの巧みな話術は、
実家に帰ってきたような居心地に変えてしまいます。
そのため、思う存分くつろいで心も体もリフレッシュできる旅になります。

民宿本間

羅臼の本物の味は〈民宿本間〉にあるので、ぜひお越しください。

information

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民宿本間

住所:北海道目梨郡羅臼町海岸町53

TEL:0153-89-2309

Web:http://minsyuku-honnma.jp/

photo & text

大石陽介 おおいし・ようすけ

1988年静岡県焼津市生まれ。大学卒業後、静岡県の小学校教諭として富士山の麓で8年勤務。うち2年間は青年海外協力隊(JICA)としてモンゴルへ。現地の小中高一貫校で先生方へのアドバイス・子どもたちへの指導にあたる。現在は、羅臼町の地域おこし協力隊として、「ソトから見た羅臼」という視点でまちの魅力を発信中。町内のあちこちへ出向き、取材から撮影、編集までをひとりでこなす。

熊本から世界へ!
画家・松永健志さんが描く日常の風景
夫婦の絆と夢を諦めない力

火の国、熊本に今注目の油絵画家がいる。名前は松永健志(たけし)さん。
インスタグラムのフォロワーは8.8万人!(2020年3月時点)
国内外にファンを持つ話題のアーティストだ。
そして隣にいつも寄り添うのは妻の裕子さん。
ふたりは熊本でちょっと有名なおしどり夫婦なのだ。

「牛が好きなんです」と、松永健志さんはゆっくりと話す。
1985年生まれ、丑年の35歳。
自然豊かな大地を有する熊本は、放牧された乳牛や赤牛が
草を食む姿を間近に見ることができる、そんな土地柄。
幼い頃から牛が大好きだった健志さんにとって、牛はいつも身近な存在だった。

熊日大賞を受賞した油絵作品『草原』 S80size(1450ミリ×1450ミリ)

熊日大賞を受賞した油絵作品『草原』 S80size(1450ミリ×1450ミリ)

あるとき、牛の親子が健志さんの背中を大きく後押ししてくれる。
熊日美術公募展『描く力コンテスト2018』(熊本日日新聞社主催)に出品した
『草原』がみごと熊日大賞を受賞したのだ。

それまでは入選止まりで悔しい思いをしてきた健志さん。
トレードマークの金髪×髭のインパクトもあいまって、
熊本中に一躍その存在が知られるように。
地道に絵を描き続けてきた努力が実った瞬間だった。

画家を志し、22歳で夢を叶えるために東京へ

画家になるまでの道のりは、決して平坦なものではなかった。
熊本で生まれ育ち、自然いっぱいの環境で成長した健志さん。
小学生の頃、課外授業で花を描いたことがきっかけで絵の魅力に気づいたという。
18歳の頃に画家を志し、22歳で夢を叶えるために東京へ旅立つ。

当時付き合っていた裕子さんを連れて上京し、
ふたりは路上で絵を売る生活をスタートさせた。

原宿での路上販売の様子。原画を1枚1万円、コピーを1000円で販売していた。月に20万円売り上げた日もあったそう。

原宿での路上販売の様子。原画を1枚1万円、コピーを1000円で販売していた。月に20万円売り上げた日もあったそう。

上京して2年目のある日、順調に思えた矢先に状況が一変する。
2008年、不況のあおりを受け絵が全く売れなくなったのだ。
次第に路上販売だけでは食べていけなくなり、
生活のためアルバイトに明け暮れるように。
生活は困窮し、やせ細っていったと健志さんは回想する。
絵を描くよりもまず生きること。
夢を追いかけてきたふたりにとって、辛く苦しい時期となった。

そして追い討ちをかけた出来事が、2011年に起きた東日本大震災。
社会が混乱するなか決断を余儀なくされたふたりは、
4年間の東京生活の末に、熊本への帰郷を選択した。
「本当に、辛かったです。画家の夢は諦めて故郷に帰ることに決めました」(裕子さん)

野毛〈酒蔵 石松〉
「ローカル酒場巡りは小旅行」
ツウから教わる、野毛の飲み方、愛し方

旅の醍醐味はローカル酒場!
全国おすすめ酒場探訪記 横浜・野毛編
酒場から知るまちのうつろい、新たな幸せ

今回のローカル酒場は、関東圏の聖地のひとつ、
神奈川県は横浜・野毛にご案内。
JR桜木町駅と京浜急行日ノ出町駅の間にあるこの地は、
横浜の昔と今、文化と喧騒が混在。
丘の上には緑と瀟洒(しょうしゃ)な世界、海に向かえばみなとみらい。
そして、まちなかはと言えば……。

昭和の時代は、港湾、市場関係者が元気と癒しを求めたまち。
ギャンブルも艶もあって、だからこその人情もある。
その歴史を見続けてきたのが立ち飲みの〈酒蔵 石松〉。

野毛のまちのネオンに誘われ、ふらりふらりとはしご酒を楽しむのも粋。

野毛のまちのネオンに誘われ、ふらりふらりとはしご酒を楽しむのも粋。

桜木町駅から〈野毛ちかみち〉を使ってわずか5分で酒飲みのパラダイスへ。複合施設ぴおシティ地下2階の一角にある〈石松〉。平日の午後3時でもカウンターはすでにこの様子。

桜木町駅から〈野毛ちかみち〉を使ってわずか5分で酒飲みのパラダイスへ。複合施設ぴおシティ地下2階の一角にある〈石松〉。平日の午後3時でもカウンターはすでにこの様子。

大将の早乙女節夫さんは、
「やんちゃなことは散々やってきたよ! 今はもう全部やめたけどさ。
昭和の時代にここにいたら、そりゃそうなっちゃうよ」
とカラッと明るい笑顔。

1968(昭和43)年にフルーツ屋として開業し、
1977(昭和52)年に立ち飲み屋に転業。
現在は〈ぴおシティ〉となっているビルが、
まだ〈桜木町ゴールデンセンター〉という名前だったころから、
この飲食店街で営んでいるのは〈石松〉を含めて
「もう4軒ぐらいになっちゃったかね」と早乙女さん。
今と昔のこの土地を感じる。それがローカル酒場の楽しみです。

今回の案内人は、ヘアスタイリストの平田克也さん。
趣味がローカル酒場巡りで、野毛はもうホーム感覚で、
お気に入りの店やコースはいくつもあります。

平田さんはヘアスタイリストという仕事柄、平日が休日。ローカル酒場を巡る人にとって週末の混雑を避けることができて好都合なのだとか。

平田さんはヘアスタイリストという仕事柄、平日が休日。ローカル酒場を巡る人にとって週末の混雑を避けることができて好都合なのだとか。

「血の一滴」なんて堅い言葉も早乙女さんの笑顔で聞くと心躍るひと言に。コップ酒(290円)、2杯分飲める徳利(530円)。

「血の一滴」なんて堅い言葉も早乙女さんの笑顔で聞くと心躍るひと言に。コップ酒(290円)、2杯分飲める徳利(530円)。

平田さんは、ローカル酒場巡りは「小旅行」と言います。
予定は詰め込まず、さっと飲んで食べて、
その時の気分で次へ、というのが彼のゆるやかな流儀。

「最初にハマったのは、4、5年前、大井町でした」。
狭い路地に並ぶ酒場を歩き、数軒はしごすれば
そのまちの昔と今が感じられる不思議。
初めて訪れるまちでも、ローカル酒場がその地のことを教えてくれる。
まさにそれは小旅行なのでしょう。

平田さんが独立し、〈TSUKI〉というサロンをオープンしたのは1年前。
自身がが手掛けるTシャツや、海外で買い付けてきたアクセサリーが並ぶ、
クリエイティブなスペースでもありますが、
ロケーションはと言えば、中目黒駅すぐの酒場街の雑居ビル。
変わりゆく中目黒の高架下、昭和の面影が残る酒場。
その両方を感じられる場所に引き寄せられたのは、
平田さんにとって自然なことだったのでしょうか。

高山〈みかど〉
ドライな焼酎ハイボールに最高のアテ
飛騨牛を朴葉みそで
“チリチリ”と焼く幸せ

旅の醍醐味はローカル酒場!
全国おすすめ酒場探訪記 飛騨高山編
こだわる。でも飾らず、自然体で

今回のローカル酒場は岐阜県高山市で創業約80年、
高山の郷土料理にこだわった〈みかど〉。
酒場であり、郷土料理の定食店としても人気です。
地元の人にも愛されつつ、多くの観光客も迎え入れ、
外国人客向けに英語のメニューも用意されています。
現在、店を引き継ぐのは地元出身の加賀江徹さん。
3代目としてお店を引き継いで20年になります。

昭和の風情も残る商店街に、昔ながらの純和風な建物。でも近づいてみると英語の表記もあって、高山の昔と今が一緒に感じられます。

昭和の風情も残る商店街に、昔ながらの純和風な建物。でも近づいてみると英語の表記もあって、高山の昔と今が一緒に感じられます。

もともとは〈みかど食堂〉という名で長年愛されていたお店ですが、
店の継承で困っていたところ、加賀江さんのお父様が権利を取得。
板前さんを雇い存続していました。
そのころ加賀江さんはバックパッカーとして世界を放浪。
25歳、バンコクに滞在していた時に一本の電話。
「母親から店を継いでほしいと連絡がありました。さすがに親不孝も続けられないなと」
調理師免許を持っていたことも幸いし、〈みかど〉の名を継ぐことを決断したのです。

やわらかい笑顔でお客様を迎える加賀江さん。世界を訪ねるバックパッカーから、世界から訪れる人たちを迎え入れる仕事へ。

やわらかい笑顔でお客様を迎える加賀江さん。世界を訪ねるバックパッカーから、世界から訪れる人たちを迎え入れる仕事へ。

今回の案内人のふたり、朝倉圭一さんと、飲み仲間の中島亮二さんも、
加賀谷さんと同じように、一度は県外に出て、そして戻ってきたUターン組。
この〈みかど〉を紹介してくれた朝倉さんは、名古屋に出て、27歳で高山に戻りました。

自営業を継ぐ同級生たちが多い中で、サラリーマン家庭育ちの朝倉さん。
「一生続けられる仕事ってなんだろう?」と自問し、
「ここでこそやれる仕事をしたい」という思いから、
地元の器や民芸品を扱う〈やわい家〉を開業。

「高山市は、市区町村の面積で日本一。とはいえ98%は山と山林ですからね(笑)」
と笑う朝倉さんですが、だからこそ木材に恵まれ、
生活道具にも毎日を豊かに暮らす知恵が込められます。
2階にサロン的な古本屋を立ち上げましたが、
これも知の部分から高山を掘り下げていく試みです。

中島さんも新潟の建築会社に就職し、設計の仕事をしていましたが、
ほうれん草などを栽培する実家を継ぐために帰郷。
その傍ら、地元ゆかりの若手クリエイター7人で、アートイベント「山の日展」を開催。
今年8月に2回目を終えたこのイベントは、
デザイン、絵、写真、左官、猟&レザークラフト、
生態学研究に、中島さんが手がける建築&農業と多彩。
第1回では中島さんの実家にある築150年の蔵を、
多目的スペースに転用する事例を展示したのです。
さらに今年は、温室を使った空間の展示や表現に挑戦しました。

この取り組みを紹介するパンフレットで中島さんはこんな言葉を残しています。
「盆地である高山に、新しい道を通すことにもつながるのではないか」
高山を囲む自然は大いなる恵みをもたらす一方、
交流を阻む要因ともなっていたかもしれません。
だからこそ大いなる自然が残り、そこで幸せに生きる知恵が生まれ
独自の食文化、郷土料理が育まれました。

しかし、高山は不思議なまち。
江戸情緒が残る「さんまち通り」などを歩いていると
多くの人たちが行き交う豊かな商都としての賑わいがあります。

江戸時代の趣を残す昼のさんまち通り。外国人観光客も多く、平日にも関わらず賑わっています。

江戸時代の趣を残す昼のさんまち通り。外国人観光客も多く、平日にもかかわらず賑わっています。

朝倉さんによれば、
「江戸時代は幕府の天領でした。ということはそれだけ豊かなものがあり、
交流の地でもあったんです」
郷土の恵みがあるからこそ人々が集う。
そして集った人たちとともになにかが生まれる。それが飛騨高山。

ほろ酔いの会話も次々とすてきな言葉になる朝倉さん。郷土への愛を軽やかな言葉にのせて語っていただきました。

ほろ酔いの会話も次々とすてきな言葉になる朝倉さん。郷土への愛を軽やかな言葉にのせて語っていただきました。

今夜の酒は、タカラ「焼酎ハイボール」〈ドライ〉。
強炭酸のガツンとしたキレと、宝酒造ならではの焼酎の旨みが楽しめるお酒です。
朝倉さんはぐっとひと口飲んで、
「スッキリ感がいいですね。高山ならではの濃い味の料理にも合いますよ」
そういいながら朝倉さんはメニューから
定番料理とちょっと変わったものをセレクトしました。

「定番といえばやはり飛騨牛と朴葉みそ。味は濃いめですよ。
そして、あまり知られていないものでいえば、こもどうふ。
それから……これは僕もよく知らないのですが、かわきも」

郷土料理のこもどうふは、わらを編んだ「こも」で豆腐を包み、
だし汁などで煮込んだもの。
豆腐の表面の模様と、食感が特徴的で、お盆やお正月のごちそうでもありました。

料亭のだし巻き玉子焼きにも見えるけれど、これが豆腐。高野豆腐ほど濃い出汁ではなく、素朴な風味も味わえます。400円(税抜き)

料亭のだし巻き玉子焼きにも見えるけれど、これが豆腐。高野豆腐ほど濃い出汁ではなく、素朴な風味も味わえます。400円(税抜き)

かわきもは、鶏の皮とレバーを、甘くて濃い醤油ベースのたれで煮た、岐阜・郡上の郷土料理。
これがまたドライな焼酎ハイボールとよく合う。

こちらがかわきも。タレのコクとドライな焼酎ハイボールの相性は抜群。お酒はもちろん、残ったタレを白米にかけたくなる誘惑。500円(税抜き)

こちらがかわきも。タレのコクとドライな焼酎ハイボールの相性は抜群。お酒はもちろん、残ったタレを白米にかけたくなる誘惑。500円(税抜き)

酒場の定番コロッケは飛騨牛入り。フライものも手は抜きません。600円(税抜き)

酒場の定番コロッケは飛騨牛入り。フライものも手は抜きません。600円(税抜き)

ひとり旅にうれしい定食は、昼夜問わず提供。定食なら飛騨牛も手軽にいただけます。〈飛騨牛陶板焼き定食〉2000円(税抜き)

ひとり旅にうれしい定食は、昼夜問わず提供。定食なら飛騨牛も手軽にいただけます。〈飛騨牛陶板焼き定食〉2000円(税抜き)

〈貝印スイーツ甲子園〉に
青春をかける高校生。
未来のパティシエたちが躍動する!

キャベツを使ったシュークリーム!?
有名パティシエを唸らせる高校生のアイデア!

ケーキづくりに青春をかける高校生たちの物語。
それは〈貝印スイーツ甲子園〉という舞台で花開く。
1年に1回開催されているこの“甲子園”を目指し、
全国のパティシエ志望の高校生たちがしのぎを削っている。

2019年9月15日、
第12回決勝大会が〈武蔵野調理師専門学校〉を会場として開催された。
春から行われていた全国予選を、全350チーム(125校)から勝ち抜いてきたのは、
東京のレコールバンタン高等部「Rig(リグ)」、
愛知の学校法人糸菊学園 名古屋調理師専門学校「amusant(アミュゾン)」、
大阪のレコールバンタン高等部大阪校「etoile(エトワール)」、
そして福岡の嶋田学園 飯塚高等学校「muguet(ミュゲ)」の4チーム。

決勝大会の直前、そのうちの1チーム、
飯塚高等学校「muguet」の練習風景を取材した。
メンバーは永末優華さん、近藤愛華さん、片桐野慧(のえ)さんの3人だ。

 「muguet」の3人が通う飯塚高校。

「muguet」の3人が通う飯塚高校。

飯塚高校では、まず2月に8チームをつくった。
そのなかから5月に校内での予選が行われ、5チームに絞られた。
今年はその5チームすべてがそのまま書類審査に応募したという。
そして書類審査、予選と突破し、本選に出場したのが
永末さん、近藤さん、片桐さんの「muguet」だった。

今大会のテーマは「カスタードを使ったケーキ」。
3人はまずはどんなケーキにするか考えなくてはならない。

「カスタードと聞いて、代表的なスイーツとしてシュークリームが思い浮かびました。
“シュー”は本来フランス語でキャベツだと知り、
今回、材料として使ってみたいと思いました。
周りにシューであるキャベツを巻いたら、シュークリームになるかなと」
と教えてくれたのはチームのムードメーカーである片桐さん。

「muguet」は、最近はやりつつある野菜を使用したケーキに挑戦することにした。

当初の試作では「まったくおいしくなかった」らしい。
顧問の林田英二先生も
「物語としてはいいけど、本物のキャベツを使うと
ロールキャベツのような感じで切れるかどうか不安でした。
そこでチョコレートなどを使ったキャベツ風でもいいのではないかと提案した」
という。

(左から)林田英二先生、永末優華さん、近藤愛華さん、片桐野慧さん。

(左から)林田英二先生、永末優華さん、近藤愛華さん、片桐野慧さん。

しかしメンバー3人で相談した結果、
本物のキャベツを使うことに挑戦すると決断した。ポイントはキャベツの甘み。
一番工夫し、労力を割いた点だという。

シロップで炊いてみると、キャベツが乾燥したように白くなってしまって、
切ることもできない状態に。
さまざまな手法を試したが、キャベツを茹でて、はちみつとレモンでつけ込むことになった。

ただおいしくつくるのと、予選や決勝ですぐに審査員に食べてもらうのでは
つくり方が微妙に変わってくる。
すぐ食べてもらうことを想定した甘みやかたさのバランスが必要になってくる。
そういった目線はすでにプロではないか。

学校での練習風景。

学校での練習風景。

はちみつとレモンでつけ込んでいるキャベツ。短時間で完成するよう試行錯誤を重ねた。

はちみつとレモンでつけ込んでいるキャベツ。短時間で完成するよう試行錯誤を重ねた。

「muguet」の3人は、飯塚高校・製菓コースのなかで、
部活動でも製菓部に所属している。
通常の授業コースでは、基本的なものを学ぶことに精一杯で、
細工などは部活動内で本などを見ながら、自主的に勉強しているという。

だからこのケーキの土台には、
ダックワーズ、サブレ、ダマンド、ババロアなど基本的なケーキが層となっている。
自分たちにできることの精度を高めつつ、さらに技術や知識を上乗せしているのだ。

大会序盤から真剣な眼差しだったリーダーの近藤愛華さん。

大会序盤から真剣な眼差しだったリーダーの近藤愛華さん。

土台をつくる永末優華さん。

土台をつくる永末優華さん。

初めてケーキをつくってみたときは、なんと5時間36分かかったという。
決勝大会の制限時間は2時間30分。
そこまで短縮するには、きっと練習・実習を繰り返し行ったに違いない。

林田先生は、全員がすべての作業をできるように指導したという。

「みんなでケーキをつくって、みんなで飾りをつくる。
もちろん基本的な担当分けはありますが、遅れたときに手伝えるように、
誰が何をやってもできるようにしておきました。
『考えてつくろうね』と、毎日、言っています」

バラの飾りひとつを1分半以内でつくるという細かい制約をつけて練習した。

バラの飾りひとつを1分半以内でつくるという細かい制約をつけて練習した。

予選も決勝も、その舞台は自分たちの慣れた環境ではないので、
現場対応力が求められる。
実際に決勝でも、冷蔵庫の“冷え”が悪いという事態も発生していた。
そんなときにでも、みんなでフォローしあえること、それがチームワークなのだろう。

小松理虔さん
外に出たからこそわかった
「ローカルのおもしろがり方」
福島県いわき市の
ローカルアクティビストってどんな人?

ローカルでアクティブするってどういうことだろう?

福島県いわき市小名浜。人口も面積も福島県で一番大きいいわき市の、中心街のひとつ。
県内最大の港である小名浜港や魚市場、
県内外にファンを持つ環境水族館〈アクアマリンふくしま〉や、
最近は県内最大規模となる商業施設〈イオンモールいわき小名浜〉が
オープンしたことでも話題になった。
そんな小名浜で「ローカルアクティビスト(地域活動家)」と名乗り活動しているのが、
小松理虔(こまつ・りけん)さんだ。

海の前に立つ理虔さん

実は、いわき市で地域づくり――いわゆるまちづくり的な活動――をしている人で、
理虔さんを知らない人はほとんどいないのではないかと思われるほど、
地元では有名人だったりする。
だがおそらく、地元の人たちのなかでも、「理虔さん像」はさまざまだろう。
地元・小名浜の魚屋さんを会場にした飲み会「さかなのば」を開催している人、だったり、
東京電力福島第一原子力発電所沖まで釣り船を出し、釣りを楽しんだあと、
釣った魚の放射線量を測る活動「うみラボ」をやっている人、だったり、
はたまた、昨年2018年に出版した初の単著『新復興論』が大佛次郎論壇賞を受賞した、
なんかすごい人なんじゃないか、とか……。

福島のメディアで働いていた時に、一度ローカルに失望した

「賞を取る前と取ったあとで、全然何も変わってないんですよ」と人懐っこく笑う理虔さん。
ラジオのDJになりたかったという少し大きめの声はよく通る。
新卒で勤めた福島のテレビ局では、取材や番組制作だけでなく、
ナレーションも務めたというのも納得だ。

そのテレビ局には、大学を卒業した2003年4月から丸3年勤務したが、
その頃にローカルというものが一時期嫌になったという。

「ローカルのテレビニュースは連続性がない。地域のイベントや祭りに行って、
参加者にコメントを取ってたった1分の枠を埋めるようなことばかりをやって
何の意味があるのかと」

それでいて特権階級のように、
会社の名刺ひとつでどんな立場の人にも取材に行けるという境遇にも違和感を覚えていた。
「いくら大きな取材をしてもそれはあくまでも会社の看板。
自分の力ではないから成功体験を積めない」と感じた理虔さんはテレビ局を辞め、
なんと単身上海へ。

上海を選んだ理由は、大学時代に関心を持って中国の勉強をしていて
中国語をある程度話せたことと、日本語教師としての勤務先があったこと、
そして、特に当時の中国は、日本にはない勢いがあり、
自身の力を試すことのできる環境であったからだった。

仕事中の理虔さん

上尾〈ただ〉
“渋イイ”酒場で見つけた、
秘密のチューハイと郷土愛

旅の醍醐味はローカル酒場!
全国おすすめ酒場探訪記 埼玉編
愛は叫ばず、そっと出す

都会だけれど都会じゃない。でもやっぱり都会。
郷土愛があるかと言われればそう強くもない。でもこの場所は気に入ってる。
埼玉県人が語る埼玉は、ちょっと自嘲気味。
「お店に旬の魚料理も多いですね!」と聞けば、
大将はニコっと笑いながら
「海もないのにね!」

上尾丸山公園

JR上尾駅からバスで15分ほどの〈上尾丸山公園〉。自然豊かな上尾市民の憩いの場です。園内には大きな池や滝、水浴び場と水辺の景観が楽しめます。

今回のローカル酒場は埼玉・上尾の〈ただ〉。
上尾は大宮からJR高崎線で2駅。
さいたま市、都心へのアクセスも良くベッドタウンとして発展してきました。
「昔は大きな工場もあり繊維製品のまちでもありました。
実はうちも転業。父は学校の制服を手がけていたんです」と大将の齋藤芳男さん。

上尾〈ただ〉の暖簾

変体仮名を使った印象的で力強い暖簾。でもその暖簾をくぐると居心地のいい空間が待っています。

昭和44年、このまま繊維関係を続けても先がないと考えたお父様の決断により開店。
「ただ」という店名は、お父様の名前「唯夫(ただお)」から。
最初は絞り切ったメニューのコの字型の小さな店。
料理といってもお新香、冷奴、焼鳥だけ。
それが少しずつ広がって今の店、そして多彩なメニューへ。
店がある上尾駅西口側は再開発以降、全国展開のチェーン店が多く、
また東口側も酒場通り的なところはなく数軒が点在している程度。
酒場というイメージのないまちですが、
酒飲み、おいしいもの好きが愛して支えてきた店はここにちゃんとあります。

今回の案内人、風間夏実さんは、
埼玉で育ち現在は都内住まい。渋谷で企業広報として働いています。
渋谷で広報。行く店はおしゃれなバルや流行りの店というイメージですが……
「渋谷でよく行くのは、のんべい横丁ですね(笑)」
知人のお店があることがきっかけで踏み込んだ酒場街。
ひとりで大人の酒場の暖簾をくぐるのは少し躊躇するけれど、
入ってみれば得難い居心地の良さがあることは知っているのです。

今回の案内人、風間夏実さん

「お酒は好きだけど、そんなに強いというわけではないので」と夏実さん。レモンサワーなどを3杯ぐらいが適量。だから最初の1杯からちゃんとおいしいものをいただきます。

「お客さん、店員さんとの距離が近い飲み屋さんが好き」と言う夏実さん。
もうひとつ、選びたい酒場は「世話焼きのおばあちゃんがいてくれるような店」。
東京・赤羽や埼玉・大宮にもそんな好きな店があって、今回は上尾。
埼玉の酒場のおもしろさを一緒に探ってもらいましょう。

では乾杯。もう飲むものは決めています。
その名も〈ただでしか飲めない特製チューハイ〉。通称“ただスペシャル”。
宝焼酎をベースにした、だれもが頼む人気メニューです。
焼酎のハイボールに“秘密の”エキスを加えたチューハイで、
レモンとソーダが軽やかな味わいに整えつつも、宝焼酎の風味もしっかり感じる、
正真正銘、初めてのチューハイ体験です。

夏実さんはひと口飲んで驚き、そして幸せな笑顔へ。
「口あたりがまろっとしていて、余韻が心地いい! そしてなんだかジューシーです」
なるほど、炭酸もほどよく、パンチや爽快感というよりもゆったり。
抵抗なく体に溶け込んだあと、レモンの爽やかさが上品にとどまり、
そしてゆっくり焼酎のコクが溶け合い続いていく。
それでもちゃんとキレもあるから、夏実さんはこんな感想。
「最初は度数が低く感じるんですけど……危ない気がします(笑)」

大将はそれを聞くと満足そうに
「そう。『低いんじゃない?』ってよく言われるんですけど、
3杯飲めばわかりますよ、って答えてます」
とこちらも笑顔。そして裏話。

「どうやったらほかにないおいしいチューハイができるだろうって、
いろいろと試作して味をみました。
毎日昼からやって、いつもほろ酔いで店を開けてたんです」
こうしていつも変わらぬまろやかな〈ただスペシャル〉の味が完成。
そして、夏実さんの目はたまらず料理のメニューへ。
「早くいろいろな料理に合わせたいです。私、結構食べますよ(笑)」

メニューは王道酒場モノから洋食系まで多彩。
夏実さんは「よく食べますよ」という言葉通り、
最初からなかなかのオーダーっぷり! 
並んだ料理を見ると、なんとも色合いのバランスがいいおひとり様のカウンター。
もともと女性や高齢の方でも足がつけられて居心地がいいようにと
カウンターと椅子を低めにしたと言う大将。

女性がひとりでも心地よくおいしい酒と料理を楽しめる店にしたい。
そんな大将の想いがこうやって重なっていくのでしょう。

「常連の女性のおひとり様がいらっしゃるんですけど、
最初に来られたのは上尾から大宮に引っ越すという直前。
もっと前に知っていたら引っ越さなかったのに、なんて言ってくださって。
その方、会社は都内なんですけど、いまだにわざわざ大宮越えて来てくれるんです」
埼玉を愛しているというよりも、埼玉に好きな店がある。
ことさら郷土愛なんてことを持ち出さなくても、愛着はある。

大将が言います。
「別に埼玉の郷土料理があるわけでもないし
そういう素材を使おうってわけじゃないんです。
ただ、ゆるりとしていただければうれしいんですよ」

〈ただスペシャル〉とごぼうのから揚げ

〈ただスペシャル〉は合う料理の幅も広いのです。滋味深さとサクっと軽やかな食感がいい〈ごぼうのから揚げ〉の魅力をさらに広げてくれます。

カウンター越しの大将と談笑中

「お店の人との距離が近いほうが好き」と夏実さん。それはもともとの部分と仕事で得た楽しさと。カウンター越しの大将との話も好奇心いっぱい。

そんななかで、夏実さんが気になったのはぎんなん。
「秋と言えばこれ。すごく好きなんですけどとても鮮やかな緑ですよね?」
そう、これは旬よりも“はしり”。
わずかな期間、鮮やかな緑が楽しめるものを岐阜から取り寄せています。
広い埼玉には、自然豊かな環境がすぐそばにある秩父のような地域や、
旬の名産品が身近な深谷や狭山のような地域もありますが、大部分は都市部。
毎日都内に通う、忙しい人たちも多いのです。
その忙しさの中でいつしか旬という感覚も失われてしまいそうに。
だから地元に、行くだけで旬や季節の変化がわかる店があるのは貴重なのです。

食感が楽しいぎんなん

しっとりモチモチとした食感が楽しいぎんなん。この弾力は“はしり”のものだからこそ。目にも楽しく食欲がそそられます。

パウチされた定番メニューも充実していますが、
白い紙に書かれた日替わりメニューも同じぐらいのボリューム。
「毎日仕事をしていて、定番だけじゃつまらないじゃないですか!」
それだけですよと笑う大将ですが、
やはり、せっかくなら旬を感じてほしいという思いがそこにあります。

夏実さんもどうやらそれを感じていたようで、
「目に見えないところかもしれませんけど、それこそコミュニケーション。
見習いたいなって思います。
私も人と会うのが好きで広報や取材の仕事をしています。
結局やりたいって気持ちがあるから仕事って楽しくなるんですよね」