連載
〈 この連載・企画は… 〉
毎月コロカル編集部からテーマを出し、
日本各地で活動している地域おこし協力隊の方から集まった写真とメッセージを紹介していきます。
その土地ならではのものだったり、自分の暮らしと変わらないものだったり……。
どんな暮らしをしてどんな景色を見ているのか、ちょっと覗いてみませんか?
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Sachi Honda, Chihiro Ogawa, Saki Kunishige, Naoko Shindo, Itsumi Shigehisa, Mina Oba
本多紗智/小川ちひろ/國重咲季/進藤菜央子/重久 愛/大場美奈
地域を走る電車から見える風景はまちによってさまざま。
海が見えたり、山沿いの木々の香りを感じたり、
トンネルを抜けた時に現れる田植えをした水田だったりと、
そのまちを感じられる景色が広がっています。
今回は日本各地の〈地域おこし協力隊〉のみなさんに
お住まいの地域を走る電車やバスの車窓から見える風景を切り撮ってもらいました。
ご自宅の周囲とはひと味違う
まち並みや自然を感じてみてください。
JR飯田線のローカル駅が5つ存在している南信州の秘境・天龍村。
今回は「車窓からの風景」がテーマということで、
村内に点在する小さな駅の風景をご紹介します。
気軽に旅に出ることが難しくなってしまっている昨今ですが、
秘境駅にただよう初夏の風を感じていただけるとうれしいです。
駅直結の宿泊施設〈龍泉閣〉が併設されており、
村内5つの駅の中で唯一、特急列車が停まる「平岡駅」。
無人駅ではありますが、構内に入ればお土産などを買うことができます。
また、季節に合わせて駅周辺で開催される〈秘境駅ツアー〉は、
リピーターのお客さまも多く、毎回大人気のイベントとなっています。
幻の銘茶の産地でもある「中井侍駅」の周辺には、
美しく手入れされた茶畑が広がっており、新緑の季節の山々と茶葉の緑、
天竜川と空の青が織りなす景観は「すばらしい」のひと言。
そして、「伊那小沢駅」周辺のカンザクラは、
県内で最も早く咲く桜として、毎春の開花宣言が恒例となっています。
「信州に春を告げる村」というキャッチフレーズの、
原点のひとつとなった場所でもあります。
気兼ねなく旅ができる日々が戻ってきた暁には、
のんびりとローカル線に揺られて秘境駅巡りをしてみてはいかがでしょうか?
四季それぞれの雄大な自然と、あたたかい人々、
なによりもゆったりとした時の流れが、
最上級のおもてなしをしてくれることでしょう。
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本多紗智 ほんだ・さち
信州最南端、県内で一番早く桜の咲く村「天龍村」で地域おこし協力隊をしています。ないものづくしといわれる「ド」田舎ではありますが、ちょっと視点を変えてみれば、ここにはまだ「かろうじて残っているもの」がたくさんあります。秘境と呼ばれるこの村から、鮮やかな四季のうつろい、なにげない暮らしの風景をお届けできたらと思っています。
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夏が近づくとJR水沢駅はいつもよりなんだかにぎやかに。
その正体は岩手県の伝統工芸品〈南部風鈴〉。
「鋳物のまち・奥州市水沢」をPRするために、
1962年から水沢鋳物工業協同組合によって例年6〜8月に
駅構内のホームにたくさんの〈南部風鈴〉を飾る取り組みが続けられ、
いまではすっかり夏の風物詩となっています。
伝統的な釣鐘型のものから動物や果物をかたどった色とりどりなものまで、
さまざまなスタイルの風鈴が吊るされているので、
耳だけではなく目でも楽しむことができます。
そんな水沢駅の〈南部風鈴〉の音色は、
環境省が選定した「残したい日本の音百選」にも選ばれているそうです 。
いつもなら待合室でスマホにイヤホンをつなげて
音楽を聴きながら時間をつぶす私。
そもそも移住してから車移動中心となり
電車に乗ること自体めっきり減ってしまったのですが、
この時期になるとホームから聞こえてくる音色に癒されるために
わざわざ駅に立ち寄ってしまうほど。
私の地元で慣れ親しんでいる風鈴はガラス製で
「チリンチリン」と軽く短い音なのに比べ、
〈南部風鈴〉は「リーン」と長く響き渡り澄んだ音色。
より涼しげな印象を与えてくれるのです。
風が吹いてホームで鳴り響くたくさんの〈南部風鈴〉。
その音色と景色は、ここ水沢に毎年夏の訪れを伝えています。
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小川ちひろ おがわ・ちひろ
東京都品川区出身。大学で移民を学び、言語や異文化に興味を抱く。オーストラリア留学、台湾ワーキングホリデーと海外生活を経験。着任前は都内ギャラリーカフェに勤務。2018年5月岩手県奥州市地域おこし協力隊着任。今年度は台湾向けに東北のリアルライフスタイルやカルチャーシーンを伝えるウェブメディア立ち上げを目指し、自身も旅する様に東北でしか味わえない経験を堪能中。
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にかほ市は山形県との県境にあり、
北は秋田市内、南は山形、新潟方面へと線路が続いています。
市内を走る電車は羽越本線とその特急電車である〈いなほ〉があります。
海沿いのまちならでは、車窓からは真っ青な日本海が広がります。
タイミングが良ければ、夕陽が沈んでゆく地平線を眺めることができます。
そして海の反対側に見えるのは、日本百名山の鳥海山です。
田畑から鳥海山へと広がるのどかな風景を眺めていると、
のんびりした気分になります。
1時間に1本とスローペースな運行ですが、
秋田と山形を縦断する旅路の際にはぜひ、山と海の車窓風景をお楽しみください。
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國重咲季 くにしげ・さき
京都府出身。秋田県の大学に進学したことを機に、東北各地の1次産業の現場を訪ねるようになる。卒業後は企業に勤めて東京で暮らした後、にかほ市で閉校になった小学校の利活用事業「にかほのほかに」に携わるべく秋田にAターン。地域で受け継がれてきた暮らしを学び、自給力を高めることが日々の目標。夢は食べものとエネルギーの自給自足。
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昨年皇位継承の重要祭祀「大嘗祭」で使われたお米は
〈とちぎの星〉という銘柄で、栃木県のお米が脚光を浴びましたが、
県北の矢板市も田園風景が広がる穀倉地帯。
私はご飯が大好きなので移住するならお米とお水がおいしいところ!と考えており、
まさに矢板はその条件にぴったりな土地。
毎日地元のおいしいご飯をいただいています。
いまの時期はちょうど田植えが終わったばかりの田んぼに空が映り、
水鏡となった美しい光景が広がっており、
車窓からもその美しさが堪能できます。
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進藤菜央子 しんどう・なおこ
お料理すること、食べることが大好きで、そんな豊かさで満たされる暮らしができるまちへの移住を希望し、2019年2月より栃木県矢板市地域おこし協力隊として着任。矢板の食の魅力、古道や史跡が眠る歴史の魅力にハマり、〈矢板リトリート〉という、都会からの観光客を惹きつける新しい観光スタイルを構築中。任期後には、カフェ&ゲストハウス起業も目指している。矢板リトリートFacebook
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東京の桜が散ったその頃、秋田市の桜は満開を迎えます。
今回はまちと自然が融合した秋田市を、ローカルバスの車窓からお届けします。
まちから農村地域に向かう路線に、〈高尾ハイヤー〉が運行している
〈マイタウン南部線 雄和・河辺行き〉があります。
こちら、毎日停車するバス停もあれば、予約制・定期路線なども混在。
市民の方でもハイレベルで使ったことのない道も案内してくれるんです。
運転手さんはとっても気さくで、移動中も観光気分を味わえます。
ときにはおやつまでいただいたり。秋田弁の勉強もできちゃいますよ。
徐々に桜満開のまち並みからから雪解け直後の景色に移り変わります。
まるで四季を遡っていくような感覚を味わえます。
バス停には地域特有のおもしろい名前が使われていたりしますが、
〈マイタウン南部線 雄和・河辺行き〉も例外ではありません。
途中、こんなバス停も。
終点は、市境。
川の流れと鳥のさえずりのみが聞こえ、そこはまるで桃源郷のような情景が広がります。
「昔は民家があった場所だよ」こう言って、
大自然のなかでも客人を楽しみに待っている運転手さん。
ひと昔前の風貌をした客人がバスに乗り込んだ……そんな幻影が浮かんできます。
猫バスに乗り込んだかのような気分にさせてくれるローカルバス。
秋田にお越しの際はぜひ乗ってみてくださいね。
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重久 愛 しげひさ・いつみ
「死ぬまでには一度は行きたい場所」で知られる鹿児島県与論島出身。2019年に縁あって秋田県秋田市にIターン。よそ者から見た秋田市の魅力や移住に至る経験を生かして、秋田市の地域おこし協力隊に着任。YOGAを生かした地域交流を図る事業や、移住者を受け入れる市民団体事業をプロデュース中。山菜採りにすっかり夢中に。自称「立てばタラの芽、座ればバッケ、歩く姿はコシアブラ」。
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広野町には常磐線が走っています。
震災の影響で運休していた区間がようやく開通し、
3月に全線開通したばかりです。
ところでみなさんは知っていましたか?
「いまは山中、いまは浜〜」と始まる童謡『汽車』の歌詞に
「闇を通って広野原」という歌詞があるのですが
実はこれ、広野町を指しているんです。
作者が常磐線開通の際に現在のいわき市久ノ浜から広野町までの景色を
歌にしたとされています。
童謡の通り、トンネルを抜けると海とのどかな田園風景が現れます。
作者はこの風景を見て歌詞を書いたのでしょう。
そしてもうひとつ忘れてはいけないのが火力発電の煙突です。
これも同じくトンネルを抜けると大きくはっきり姿を現します。
この煙突を見ると「広野町に帰ってきたんだな」と実感がわきます。
いまも昔と変わらないトンネルを抜けて広がる
のどかな風景を一度見に来てください。
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大場美奈 おおば・みな
1993年生まれ。福島県いわき市出身。医療系専門学校を卒業後、委託職員として広野町入庁。そのときに広野町に恋をして、まちと共に生きることを決意。まちづくりの修業のため、一旦まちを離れて山形県南陽市地域おこし協力隊に着任。2019年4月に広野町起業型地域おこし協力隊に着任。現在は民間がつくるコミュニティースペース〈ちゃのまベース〉を立ち上げ、運営を開始。地域課題を企業というかたちで解決しながら会社設立に向けて奮闘中。
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