連載
posted:2020.11.13 from:東京都墨田区 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉 「和酒を楽しもうプロジェクト」シーズン4。舞台は東京都墨田区の「酎ハイ街道」へ。実はここは、知る人ぞ知る酎ハイの名店が揃う地域なのです。今宵も酎ハイを愛する人々が集う酒場を訪ねます。
editor’s profile
Daiji Iwase
岩瀬大二
いわせ・だいじ●国内外1,000人以上のインタビューを通して行きついたのは、「すべての人生がロードムーヴィーでロックアルバム」。現在、「お酒の向こう側の物語」「酒のある場での心地よいドラマ作り」「世の中をプロレス視点でおもしろくすること」にさらに深く傾倒中。シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。シャンパーニュ騎士団認定オフィシエ。「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本ワイン専門WEBマガジン『vinetree MAGAZINE』企画・執筆
credit
撮影:黒川ひろみ
酎ハイ街道。
その名がつけられているのは、
東武伊勢崎線鐘ヶ淵駅と京成線八広駅を結ぶ、鐘ヶ淵通りを中心に広がる一帯。
そこにはなぜか酎ハイの名店が揃い、酎ハイを愛する人々が集まってきます。
さあ、酎ハイの聖地へ、いざ。
今回紹介するのは〈はりや〉。
鐘ヶ淵駅の改札を出て右手に2分ほど。
奥まっているとも、わかりやすいともいえる、ちょっと不思議なたたずまい。
その不思議さは暖簾をくぐった後も続きます。
小料理屋か創作和食屋か? という雰囲気の看板ですが、ちゃんと縄のれんが居心地の良い酒場であることを伝えてくれます。
ポップなデザインの装飾の一方で、昭和の名残のインテリア。
そして大衆酒場としての気楽な居心地と、
カフェのような温かみのある洗練された雰囲気があります。
その理由は? といえば、
酎ハイ街道の老舗の遺伝子と、跡を継いだ3代目、荘司美幸さんのセンス、
ということになるでしょう。
でもそれがわかったのは杯を重ね、
ずーっと続いている酎ハイと看板のつまみに、
新しく生まれたメニューの数々を味わってからでした。
さあ、まずは酎ハイで乾杯。
口に含む前からスッキリ感がわかる香り。
グラスを近づけると強炭酸とわかる
細かく勢いのある気泡を目でも音でも感じます。
ジョッキに角氷を入れ、すでに前割された酎ハイを一気に注ぎ込みます。強炭酸ながらやわらかさも感じるのはこの泡立ちもひとつの要因でしょう。
「とりあえずビール」ではなく、最初の1杯から飲める、スッキリ、爽やか、のどごしもうれしいはりやの酎ハイ(300円)。もちろんあとからくる味わいもあって、深まってきてからも存分に。置かれた札は、オーダーごとに1枚ずつ。これで杯数を計算するのが伝統ですが、お客さんも自分の酔いをこれで確認。足を取られる前に切り上げるのが、粋。
口に含むとガツンというよりはスッキリ。
爽やかさが抜けていったあとすぐに、
ほのかな甘みが口の中に広がります。
しかしその後味はしつこくなく、べたべたもせず、すーっと消えていくのです。
中身は昔から変わっていないということですが、
都会的な洗練というか、新しさも感じるソーダ割り。
アルコールよりも炭酸感か。
と、ちょっと油断して飲んでいたら……あとから追いかけてきました。
しっかり、おいしい酒感が。
なるほど、見た目のスッキリ、爽やかに反して、中身は濃厚でやんちゃ。
懐かし感のあるメニュー札もきちんと端正。そして並ぶメニューは荘司さんいわく「食べたいもの、つくりたいもの」。和洋アジアという枠でもない自由さも楽しい。
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これに合わせるつまみ。まず定番からいきましょう。
「私の代の前のものでいくつか残しているのがあるんです。
これが食べたくてという人もいてくださるんで」
それが、〈キャベツ炒め〉と〈ゲソ天〉。
昔からの看板のつまみ〈キャベツ炒め〉(420円)。見た目は野菜多めの焼きそば。味も確かにそうなんですが、でも焼きそばではなく、ちゃんとつまみという不思議。
これも昔からの定番〈ゲソ天〉(420円)。ちびちびとつまみながら酎ハイを楽しめるひと皿。序盤にも中盤にも、そろそろお腹が膨れてきたけどもう少し飲みたい、という終盤にも。
どちらも一般的なイメージとは違うもの。
キャベツ炒めは、ざく切りキャベツともやしに、桜エビと麺。
軽めの焼きそばというところですが、
やっぱり焼きそばではなく、キャベツ炒めと言いたいのは、
酎ハイとの相性がとても良いからでしょう。
ゲソ天は、天ぷらでもフライでもなく、
上は、下町名物のもんじゃ焼き、下地はうすーくお好み焼き。
不思議な生地に細かく切ったゲソがからんでいるというもの。
その上に、ソースと鰹節、青のりがあしらってあります。
これも酎ハイとの相性抜群で、どちらも箸が止まらない。
多彩かつ、仕込みから手の込んだ料理が並びますが「原価がいくらとか細かくはしていません。損はしない程度で(笑)」と荘司さん。センスの良いしつらえの裏側に代々続く酒場の娘としての心意気も見えてきます。
新しいつまみもいただきましょう。
豊富なメニューですが、いずれも荘司さんの、
「食べたいもの、つくりたいもの」の集合体。
例えばビストロメニューのような〈アスパラの肉巻き〉。
サイドについているパンは自家製。
わざわざ手間をかけて……と聞けば
「だって、つくりたかったんですよ、パン」と笑います。
本日のおすすめから選んだ〈アスパラ肉巻き つぶマスタード〉(580円)。「発酵食品も好き」という荘司さんが天然酵母を使った自家製のパン付き。豆乳と出汁を絡めてつくったつぶマスタードのソースをつけて食べる幸せ。
小麦粉を使わず、出汁と10種のスパイスでまろやか、
〆にもつまみにもなると人気の〈はりやカレー〉も、
「だって、食べたいじゃないですか」
新しい名物〈はりやカレー〉はカレーのみ600円、玄米ご飯付きで800円。豚バラ塊肉の柔らかい食感がたまりません。スパイスは辛味ではなく複雑さ。お酒の邪魔をしない、のではなく手を取り合います。
この手間のかけ方で採算は?
など余計なことを考えてしまいますが、
それよりも、食べたいもの、つくりたいもの
という気持ちが大切、というのがはりやのスタイル。
〈煮卵サラダ〉(420円)。煮卵は荘司さんがはりやとは別に手がける食堂のラーメンのトッピング。薄口しょうゆと出汁の上品さにパンチのきいたニンニクを合わせたドレッシングとの絡みがたまりません。
〈赤いウィンナー〉(420円)。「ジャンキーなものだって食べたくなりますよね」と笑う荘司さん。タコとカニにカットする細かく楽しいひと工夫。
昔ながらの飲み方をする人生の大ベテランから
新しく常連になった若い女性まで、居心地よく酔えるのは、
昔と今が無理せず同化しているから。
気づけば流れているBGMはジャズ。
でもおしゃれとかという言葉でまとめたくない。
カウンターの上のガラスや角材は、取り壊される昭和のアパートから持ってきたもの。古びた、ではなくギャラリーに展示されるクラシックなガラス作品という趣。
お店に飾られている手ぬぐい。「絵を描く人、字を書く人、そういう人が集まってくれたんです」とのことで、はりやには、器をはじめ店内の雑貨いろいろなものにすてきなデザインが施されています。
1931(昭和6)年、酒屋の片隅で小さな角打ちからの創業。
今でこそ静かな下町の住宅地だけれど、
昭和の高度経済成長期には大手の会社の工場もあり
にぎわっていたこのあたり、そして酒場。
はりやの娘、荘司さんも
「もちろんちっちゃい頃から見てましたよ」
道路拡張でいったん2016年に暖簾を下ろし、2018年のリスタート。
仕込みの時点で食材はきれいに小分けされているなど、効率と清潔さも徹底的に。はりやの洗練はこうしたことからも生まれています。
やっぱりここには大衆酒場のDNAがあって、でも、新しいやり方と思いがあって。
変わらぬ酎ハイと、昔の看板メニュー。
創意工夫と気持ちのいい欲から生まれた新しいメニューも存分に味わえば、
ついつい杯が重なっていきます。
では、次の物語を求めて
酎ハイ街道へと、また迷い込みましょう。
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ガツンときて、ウマい! も実感。飲み応えも存分。それが下町スタイル。
東京・下町生まれの元祖チューハイ(焼酎ハイボール)の味わいを追求。
キレ味と爽快感、ガツンとくる喜びを強炭酸、甘味料ゼロのテイストで、
うまみと飲みごたえは、宝ならではの焼酎と、7%という絶妙なアルコール度数で。
下町の大衆酒場で愛されるスタイルだからいろいろな肴にぴったり。
糖質ゼロ、プリン体ゼロもうれしい一缶です。
information
はりや
住所:東京都墨田区墨田2-9-11
TEL:03-6657-5359
定休日:日曜・祝日
営業時間:17:30〜22:00(L.O.21:30)
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