連載
posted:2020.10.13 from:長崎県佐世保市 genre:旅行 / アート・デザイン・建築
sponsored by 佐世保市
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Miyuki Nakamura
中村美由希
なかむら・みゆき●佐賀県出身。佐賀を編集するWEBマガジン「EDITORS SAGA」の編集長を経て、2020年よりフリーで活動。佐賀県20市町の地域プレイヤーを繋ぐことをモットーに、観光×暮らしのあり方を模索している。
credit
撮影:保利一誠
「日本近代化の躍動を体感できるまち」として、
横須賀・舞鶴・呉とともに日本遺産に認定されている佐世保鎮守府。
鎮守府とは、日本海軍の本拠地のことで明治期に築かれました。
そのひとつである佐世保には、
今でも数多くの近代化遺産や海軍由来の食文化が残っています。
そんな佐世保鎮守府を中心に、
2018年に世界文化遺産に登録された黒島の集落にある〈黒島天主堂〉とあわせ、
ガイドブックには載っていない、
よりディープな佐世保の歴史を辿る旅をご案内します。
佐世保には明治22(1889)年に鎮守府が開庁。
大小の島々が複雑に浮かぶ海、小高い山々に囲まれた湾口など、変化に富んだ地形は、
天然の要塞として理想的な条件を満たしていました。
明治から大正期にかけて、最先端の技術と優秀な人材が投入され、
艦艇をつくる海軍工廠(軍需工場)など、さまざまな施設がつくられ、
水道や鉄道などインフラも続々と整備されたといいます。
現在、佐世保市では27項目、503の構成文化財(平成29年4月現在)が
日本遺産として認定されています。
はじめに訪れるのは、大正12(1923)年に
第1次世界大戦の凱旋記念館として建てられた
〈旧佐世保鎮守府凱旋記念館(佐世保市民文化ホール)〉。
ここでは、旧海軍の催事が行われ、戦後は米軍のダンスホールや映画館として
利用されていました。
建物は、レンガと鉄筋コンクリート造りの2階建。
外観は、古典的なデザインで、随所に細かい装飾が施されています。
敗戦後は、米軍に接収され、白く塗りつぶされてしまいましたが、
平成28年(2016)年に建設時の姿に改修されました。
現在は、市民の演劇や音楽の発表の場として利用されるほか、
鎮守府に関する写真やパネルが展示されています。
information
佐世保市民文化ホール(旧佐世保鎮守府凱旋記念館)
住所:長崎県佐世保市平瀬町2
料金:無料
TEL:0956–25–8192
アクセス:佐世保駅から車で6分
時間:9:00〜22:00
定休日:火曜及び、年末年始(12月29日〜1月3日)
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次に向かったのは、第2次世界大戦中に、
旧宮村国民学校(現 佐世保市立宮小学校)の教師と児童たちが掘った
防空壕〈無窮洞(むきゅうどう)〉。
空襲時、全校児童約600人が避難できたというほど広く、中に入って見学ができます。
教壇を備えた教室をはじめ、トイレや炊事場、食糧倉庫、
さらには天皇の写真を奉ずる奉安室まで設けてあり、
戦時下の時代背景を知ることができます。
教師の指示に従って、4年生以上の男子児童がツルハシで掘り進み、
女子児童が成形をして仕上げたという無窮洞。
天井は美しいアーチを描き、柱や棚はまっすぐ形成され、
小学生の手によってできたものとは思えないほど。
「ここは、凝灰角礫岩(ぎょうかいかくれきがん)という地質でできています。
昭和18(1943)年から始めて、昭和20(1945)年8月15日の終戦まで掘り続けました。
全児童が避難したとき、みんな逃れたけど、
下級生が『(息ができずに)苦しい苦しい』と泣いていて……
上級生が農家から唐み(風力を起して穀物を選別するための農具)を借りてきて
入り口から空気を送って難を逃れたんです」
より一層、平和について考えさせられた保存会の稗田武吉さんの言葉。
当時を知る方の想いと共に無窮洞は受け継がれています。
information
無窮洞
住所:長崎県佐世保市城間町3-2
料金:無料
TEL:0956–59-2003
時間:9:00〜17:00
アクセス:佐世保駅から車で25分
定休日:年末年始(12月29日〜1月3日)
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佐世保市の最南、西海橋の近くに行くと見える巨大な塔。
国の重要文化財であり、日本に残る唯一の長波通信施設です。
旧佐世保無線電信所(針尾送信所)は、日露戦争を契機とし、
無線連絡体制の強化のため、
大正7(1918)年から大正11(1922)年にかけて建設されました。
敷地内には、高さ136メートルもある3本の電波塔がそびえ立ち、
見る人を圧倒します。
これらは、太平洋戦争の開戦を告げた暗号文「ニイタカヤマノボレ1208」を送信したと
伝えられ、国内外から観光客が見学に訪れているそうです。
中に入ると、当時のはしごが残っており、今でも技術者は利用可能。
無線塔に使用されたコンクリートは、セメントに川砂と玉砂利を混ぜつくられたもので、
一段一段丁寧に積み上げて建設されました。その数は、なんと100段。
当時の建築技術が、東京タワーやスカイツリーにも生かされていると聞けば、
佐世保で発展した鉄筋コンクリート技術がいかにすごかったかがわかります。
1辺300メートルの正三角形に配置された無線塔の中心には、
電信室と呼ばれる鉄筋コンクリート造りの通信施設があります。
半地下式一部2階建、床面積約380坪と広大な建物。
現在は、ツタで覆われ、
まるでジブリの世界に迷い込んだかのような気分にさせられます。
旧佐世保無線電信所(針尾送信所)施設内には、
そのほかにも、油庫や貯水槽、兵舎や港湾施設など当時の建物が残されており、
エリア一帯が日本の技術発展を象徴する近代化遺産なのです。
information
旧佐世保無線電信所(針尾送信所)施設
住所:長崎県佐世保市針尾中町382
料金:無料
TEL:0956–58–2718(針尾無線塔保存会)
時間:9:00〜12:00 13:00〜16:00
アクセス:佐世保駅から車で約30分
定休日:年末年始(12月29日〜1月3日)
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ここでちょっとランチタイム。
歴史旅のお供にサンドウィッチはいかがでしょう?
佐世保駅近くにあるデパート、玉屋にある〈ラヴィアンローズ〉でテイクアウトし、ひと休み。
地元の人には「佐世保バーガーより玉屋のサンド派」と言う人もいるほど、
愛されている名物グルメです。
具材は、トマトやキュウリ、ハム、卵と至ってシンプルですが、
マヨネーズが甘いのが特徴で、一度頬張ると止まらないおいしさ。
サンドウィッチ一筋50年。昔ながらの誠実な味わいが、ほっとさせてくれる逸品です。
information
ラヴィアンローズ
住所:長崎県佐世保市栄町2-1(佐世保玉屋1階)
TEL:0956–23–8181
時間:10:30~18:30
アクセス:佐世保駅から車で約8分
定休日:不定休
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日本遺産の旅を続けましょう。
俵ヶ浦半島に渡り、訪れたのは、
〈丸出山堡塁観測所(まるでやまほうるいかんそくじょ)跡〉。
佐世保軍港を防備する佐世保要塞に属する砲台として
明治34(1901)年に築かれました。装甲掩蓋が国内に現存しているのは、
丸出山と由良要塞(和歌山市)のみとなっており、
貴重な観測所跡として知られています。
丸出山堡塁は、曲射砲の砲戦指揮のために建設されました。
直射砲に比べ、弾道が山なりになるため、
運用には緻密なデータと計算が必要だったのです。
そのため、この観測所では、
装備された測遠機で敵艦船との距離や着弾地点を観測して
砲台に連絡する役割を担っていました。
現在は、砲台跡として、
そして九十九島の絶景を眺めることができる展望台のひとつとして
楽しめる場所になっています。
心地よい風を感じ、海と島々の美しさに癒されるひととき。
この場所の歴史を知れば、より深く、心を動かされるはずです。
information
丸出山堡塁観測所跡
住所:長崎県佐世保市俵ヶ浦町
料金:無料
TEL:0956–22–6630(佐世保観光情報センター)
アクセス:佐世保駅から車で約25分
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佐世保鎮守府めぐりの最後は、させぼ自衛隊グルメがいただけるスポットへ。
護衛艦の写真を横目に〈海上自衛隊カレー〉で入隊気分を味わうのはいかがでしょう?
現在、させぼ自衛隊グルメは海上自衛隊、陸上自衛隊、海上保安部の
3つの部隊のカレーを市内飲食店などがレシピを元に再現しています。
各艦艇や部署ごとにレシピが異なっており、
市内24店舗に24種類の秘伝レシピが伝えられ、
お店ごとのアレンジが加わった特別なカレーが提供されています。
〈海上自衛隊カレー〉とは、
旧日本海軍で曜日の感覚を忘れないために提案されていたカレーのことで、
日本でカレーライスが普及したルーツとも言われています。
〈SASEBOX99+1〉の海上自衛隊カレーは、
〈護衛艦さわぎり〉で出されていたレシピを元につくられたもの。
牛すじでコクを引き出し、イカスミでまろやかさを増したルーに、
野菜の甘さを加えたカレーは、ほかでは体験できない深い味わいが特徴です。
佐世保市で開催されている護衛艦カレーNo.1を決める「GC-1グランプリ」という大会で、
2013年初代グランプリに輝いた栄誉あるカレー。
佐世保の歴史に想いを馳せつつ、
させぼ自衛隊グルメを堪能してみてください。
information
させぼ観光酒場SASEBOX99+1(サセボックス ナインティナイン プラスワン)
住所:長崎県佐世保市三浦21-1 佐世保駅東口前(えきまち1丁目佐世保内)
TEL:070–7652–2300
時間:10:00〜21:00※営業時間が変更になる場合もございます。事前にお問い合わせください。
定休日:年中無休
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平成30(2018)年7月に世界文化遺産に登録された
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」。
その構成資産に黒島の集落があります。
この島は、佐世保の名勝・九十九島のひとつで、
江戸時代後期に、平戸藩が入植を認めると潜伏キリシタンが多く移住しました。
国重要文化財に指定された〈黒島天主堂〉は、
明治11(1878)年にペルー神父が島を訪れ、木造による初代黒島天主堂を建設。
明治30(1897)年、マルマン神父の設計・指導のもと現在のレンガ造りの教会が
完成しました。
建築物としての価値はもちろん、
2世紀にも及ぶ長い潜伏時代を乗り越えてつくられたという歴史、
そして信徒総出で約40万個ものレンガをひとつひとつ積み上げたというほどの
強い想いが、唯一無二の荘厳な美しさの理由です。
そんな黒島天主堂は、平成31(2019)年3月より、
耐震化と老朽化した部分の修復を目的に、改修工事が行われています。
建立から100年以上経過し、雨漏りやレンガ・漆喰壁の割れ、
建具の破損など傷みが見つかった天主堂。
補強材をなるべく表に出さない工事は、非常に難易度の高いものですが、
現代の人々の手によって昔の信徒の強い想いを受け継ぐとともに、
新しく生まれ変わろうとしています。
令和3(2021)年の完了を目指し、工事が進められていますが、
令和元(2019)年11月から改修中も一般公開が可能になりました。
現在は、特定の見学台2か所から工事の様子や変わりゆく天主堂を観ることができます。
建物自体、下から見ることはあっても、足場から見ることはなかなかないもの。
さらに、国重要文化財の大規模工事。黒島天主堂をこんなに間近に見られるのは、
この機会だけかもしれません。
information
黒島天主堂
住所:長崎県佐世保市黒島町3333
TEL:095-823-7650(長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産インフォメーションセンター)
アクセス:相浦港から島まで船で50分
黒島港から徒歩30分
※見学の申込みは事前の連絡が必要です。
工事期間:2019年2月4日〜2021年3月まで(予定)
information
日本遺産week
日本遺産に認定された旧軍港4市(横須賀市、呉市、佐世保市、舞鶴市)が各地で10月、11月に普段は見ることができない施設などの特別公開を行います。佐世保市では俵ヶ浦トレッキングなどを行います。
公益財団法人佐世保観光コンベンション協会
TEL:0956-23-3369
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