連載
posted:2020.9.17 from:新潟県新潟市 genre:食・グルメ / 活性化と創生
PR 新潟県
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Hiroyo Yajima
矢島容代
やじま・ひろよ●フリーライター。岐阜県生まれ。大学卒業後に上京。東京では『GINZA』などの雑誌でインタビューしたり、おいしいものを紹介したり。一度日本を離れてタイやドイツで生活したあと、田舎暮らしをしようと、山形県に隣接する新潟県村上市に移住。夫とともに新潟と山形の両方の文化を楽しむ日々。
credit
撮影:嶋田健一
コーヒーのサードウェーブにより、
日本でもいままで以上に豆に注目が集まるようになった。
スペシャルティコーヒーが定着し、好みに合わせて
テロワールやロースターを選ぶ時代に。
しかし自分で栽培している人は少ないのではないだろうか。
コーヒー豆は見た目こそ似ているが、ワインのぶどうのように土壌や気候によって香りや味わいが異なるという。
実は新潟にコーヒー豆の栽培をサポートする活動がある。
〈新潟県立植物園〉と〈新潟バリスタ協会〉が中心となり、
県内約30のコーヒー専門店などが協力して実現した〈にいがたコーヒープロジェクト〉。
コーヒーを味わうだけでなく、自分たちでも育ててみようというのが、
活動の基本コンセプトだ。
リーダーを務めるのは新潟県立植物園の園長である倉重祐二さん。
「活動のキーワードは育てる、味わう、楽しむ。
苗木を育て、豆を収穫し、自分だけのコーヒーが味わえたら
おもしろいと思いませんか」(倉重さん)
倉重祐二さん。専門はツツジ属の分類と近代園芸史。コーヒーと紅茶の愛好家でもある。
活動の拠点は植物園のある新潟市秋葉区。
東西に阿賀野川、信濃川が流れ、南に丘陵地帯が広がる自然豊かなエリアだ。
ここでカフェの営業や講座、体験型セミナーなど、
コーヒーを丸ごと楽しめる活動を展開している。
コーヒーノキの苗木。これを機に緑に親しんでほしいと倉重さん。(写真提供:にいがたコーヒープロジェクト)
この活動は、農園を所有してコーヒー豆を栽培するのではなく、
一般の人たちが各自で苗木を育てるというのがミソ。
コーヒーノキが自宅で手軽に育てられるという点に着目した。
「コーヒーノキはアカネ科の常緑低木で、
もともと観葉植物として日本でも人気があります。
室内で育てられ、上手に管理すれば
3年から5年でコーヒー豆を収穫できるんです」(倉重さん)
園内で育てているコーヒーノキ。ジャスミンのような香りの白い花が咲く。
同プロジェクトでは、2017年に沖縄からコーヒーノキを取り寄せたのを皮切りに、
倉重さんが中心となってさまざまな種類を集めてきた。これらは園内で観賞できる。
また沖縄のコーヒーノキのタネから育てた苗木は、
園内にある週末限定カフェ〈にいがたコーヒーラボ〉で販売。
すでに200人ほどのコーヒー&植物愛好家たちが育てているという。
品種はブラジルやブルーマウンテンといった
レギュラーコーヒーの原料となるアラビカ種。
初心者でも育てられるよう、植物園では講座やSNSなどを通じて
育て方のサポートを行っている。
「アラビカ種の原産地は通年20度程度のエチオピアやスーダンの山岳地帯。
生育適温は15~25度程度で、日本では春と秋によく育ちます。
直射日光を避け、夏は涼しく、冬は暖かく管理するのがポイント。
5度以上あれば冬を越せます」(倉重さん)
苗木を購入した人のなかには、すでに花を咲かせたという上級者も。
順調に育てば、3~4年で白い花が咲き、翌年に真っ赤な実となる。
果実はほんのり甘みがあり、生で食べることができるのだそう。
この種子を乾燥させて焙煎すれば、自分だけのコーヒー豆の完成だ。
植物園では昨年度、熱帯植物ドームの改修に伴い、14本のコーヒーノキを植えた。
Page 2
カフェはガラス張りの開放感ある空間。窓越しに植物園の美しい緑を楽しめる。テラス席も心地いい。
同プロジェクトでは、コーヒーにより親しんでもらおうと、
新潟バリスタ協会のメンバーが中心となって週末限定のカフェ、
にいがたコーヒーラボを運営している。
カフェではスペシャルティを中心に約8種の豆を用意。
店に立つのはプロジェクトの中心メンバーであるバリスタの星野元樹さん。
コーヒーに詳しくないという人もご安心を。
飲みたい味のイメージを伝えれば、星野さんが好みの一杯を淹れてくれる。
取り扱う豆の特徴を熟知しているバリスタの星野元樹さん。コーヒー目当てに訪れる人も多い。
ユニークなのは店で扱う豆の選び方。
星野さんがひとつの業者から取り寄せるのではなく、
このプロジェクトに協力している約10軒のロースターから
それぞれおすすめの豆が届く。豆の種類も違えば、焙煎方法も各人各様。
たとえば、スペシャルティのニュークロップ(新豆)のみを扱う
〈LUXOSO(ルシュオーゾ)〉、
半熱風式焙煎機と直火式焙煎機とで焙煎した個性の違う豆をブレンドし、
新たなスタイルを提案する〈さかいわ珈琲焙煎所〉、
“普通のコーヒー”をコンセプトに生豆をハンドピックし、
酸味を抑えた焙煎を行う〈自家焙煎珈琲 十三夜〉など、個性豊かな顔ぶれ。
カフェで扱っているコーヒー豆は購入することもできる。
さらに毎週、豆のラインナップを変えるため、
ロースターが変わることもあれば、同じ店の違う豆が並ぶことも。
訪れるたびに新しい味に出合うことができる。
「コーヒーを楽しむためには、まずは自分の好きな味を見つけることが大切。
そのためにもいろいろなコーヒーを試していただきたいです」(星野さん)
フリーランスでコーヒーの魅力を広める活動を行っている。コーヒーを使ったビールの製造も計画中だとか。
カフェには県内のカフェやパティスリーから届く焼き菓子も揃う。
スコーンやタルト、パウンドケーキなど、こちらも週替わりで楽しめる。
やさしい味わいの手づくりスイーツに心がほっこり和む。写真は新潟市のカフェ〈ゲオルク〉から届いたもの。
Page 3
よりコーヒーの知識を深めたいという人のために、さまざまな講座が用意されている。
たとえばカフェで取り扱うコーヒー豆を一度にテイスティングする“カッピング”。
カッピングとはコーヒーの粉にお湯をかけるだけというシンプルな味わい方で、
いろいろな豆を試せるだけでなく、温度による味の違いも体験できる。
いろいろな豆を一度に試せるカッピングは好みの味を見つけるチャンス。比較することでより味の違いを感じられる。(写真提供:にいがたコーヒープロジェクト)
焙煎セミナーも定期的に開催。
受講者はガスコンロと小さな煎り器を使った焙煎方法を学ぶことができる。
また焙煎直後の豆と、数日経過した豆とでは味わいが異なるため、
その違いを比べてみるのもおすすめ。
焙煎セミナーの様子。生豆からの香りの変化も楽しい。(写真提供:にいがたコーヒープロジェクト)
バリスタによるドリップ講座。(写真提供:にいがたコーヒープロジェクト)
新潟県内の人気カフェが一堂に会する、年に1度のフェスティバルも楽しみのひとつ。
人気店のコーヒーが味わえるだけでなく、グッズの販売や
コーヒーにまつわる映画の上映、野外コンサートなど充実の内容に。
昨年10月に行われたフェスティバル「NIIGATA COFFEE GOOD TIME FES.2019」の模様。(写真提供:にいがたコーヒープロジェクト)
フェスでは多くのバリスタと会話できるのも魅力。(写真提供:にいがたコーヒープロジェクト)
現在、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、講座やイベントは行っていないが、
今後はオンラインを活用した講座などを計画している。
活動開始から4年目。
今年、ついに園内のコーヒーノキから400グラムほどの豆を収穫したという。
この新潟産コーヒーの試飲会も予定している。
また植物園から巣立っていった苗木もそれぞれの家庭で成長中。
プロのスペシャルティコーヒーには及ばないかもしれないが、
自分たちで育てた豆の味は格別に違いない。
写真提供:にいがたコーヒープロジェクト
information
にいがたコーヒープロジェクト
住所:新潟市秋津区金津186 新潟県立植物園
カフェ営業時間:9:30~16:00(金・土・日曜・祝日のみ営業、冬季1~2月は休業)
TEL:0250-24-6465
Web:にいがたコーヒープロジェクト
Feature 特集記事&おすすめ記事