連載
posted:2020.12.22 from:滋賀県高島市、大津市 genre:ものづくり / 買い物・お取り寄せ
PR 滋賀県
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
editor’s profile
Aya Honjo
本庄 彩
ほんじょう・あや●京都府生まれ、転々とした後京都在住のライター。食や暮らし、旅などに関する記事を寄稿。
credit
撮影:吉村規子
琵琶湖の北西部に位置する、滋賀県高島市。
この地で江戸時代から発展してきた伝統産業のひとつに〈高島ちぢみ〉がある。
一番の特徴は、シボと呼ばれる生地表面の凹凸。
肌と接触する面積が少なく、シャリッとした独特の風合いで実に快適な着心地。
吸湿性や通気性にも優れ、高温多湿な日本でステテコをはじめとする肌着、
パジャマなどの素材として長く愛されてきた。
そんな〈高島ちぢみ〉の製法を継承し、
岡山のアパレルメーカー〈カイタックファミリー〉の開発により
現代的なアイテムに生まれ変わらせたのが〈ビワコットン〉だ。
製造は産地内一貫工程。職人から職人へ、
まさに技術のリレーといえる完全分業制のもと、高島市内の各所でつくられている。
その第1段階となるのが撚糸(ねんし)。
緯糸(横糸)は1メートルにつき1000回もの撚りをかけることで、強さと伸縮性が生まれる。
限界近くまで撚るため、
途中で撚りムラなどのトラブルが起きないよう調整するのも職人の腕の見せどころ。
経糸(縦糸)も専門の工場がある。
通常、縦糸は複数本を1本に合わせる“合糸”が一般的だが、
高島では伝統的に肌着の用途が中心で厚みが重視されないため“単糸”で加工する。
織りやすいよう均一に揃え、最後に糊づけすることで一定の強度を持たせる。
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そして、横糸と縦糸は織布工場へ。
ふたつの糸が出会い、いよいよ布が生まれる瞬間だ。
「ポイントは、糸と糸の間に隙間をあけて織っていること。
こうすることで、風通しのいい生地になります」と話すのは
〈ビワコットン〉の仕掛け人のひとり、杉岡定弘さん。
布が織り上がり、これで完成……と思いきや、まだまだ大事な工程が残っている。
生成色の生機(きばた=加工前の生地)が運ばれた先は〈高島晒協業組合〉。
まず生地を巨大なローラーにかけて型押しし、シボをつける。
“力”のある未晒しの状態で型押しするのがポイントだそう。
生地を型押し後すぐに熱湯に通すと、ぐっと幅が縮む。
これこそ〈高島ちぢみ〉の名の由来だ。
そして釜で糊を抜き、ゴミや不純物を落としてから漂白を行う。
この「晒し」の工程で欠かせないのが大量の水。
潤沢な水に恵まれた高島で、織物が発展してきたことがうなずける。
Tシャツを中心に展開し、
〈高島ちぢみ〉に馴染みのなかった層からも注目を集めている〈ビワコットン〉。
遠目にはシボ感がないが、着るとサラッ、シャリッとした肌離れのよさ、
綿100%の布帛と思えないストレッチ性に感激する。
「幅が半分ほどに縮んでしまうため、縫製にあたって効率よく生地を取るのが難しく、
コストもかさむ。つくり手としてはかなり骨が折れる素材ですが、
“一度着ると手放せなくなる”といううれしい声に支えられています」と杉岡さん。
「工程は違っても、“自分の仕事がビワコットンの仕上がりを支えている”という矜持は同じ」
という言葉も印象的だった。
職人たちの想いが詰まった一着が、伝統文化を次世代につないでいく。
information
ビワコットン
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滋賀県のシンボルである琵琶湖。
豊かな生態系を持つこの湖で、真珠がつくられていることは
あまり知られていないかもしれない。
万葉集に「近江の海沈く白玉知らずして恋ひせしよりは今こそまされ」
と詠まれているように、
長い歴史を持つびわ湖真珠。その加工・販売を行う、大津市〈神保真珠商店〉を訪ねた。
同店は1966年に創業。
養殖と貿易を手がける親戚から真珠を仕入れ、販売していたという。
店舗を持たないかたちで営業していたが、
現店主の杉山知子さんが3代目を継いだ2014年、初の実店舗をオープン。
そこには、どんな思いがあったのだろう。
「びわ湖真珠の母貝となるのは、湖の固有種である池蝶貝(イケチョウガイ)です。
第二次世界大戦後に養殖が始まり、昭和40年代には生産のピークを迎えました。
ただ、99%が海外に輸出されていたので日本での認知度は高くなかったと思います」
やがて昭和末期になると琵琶湖の環境が悪化し、貝が十分に育たない状況が続く。
養殖業者が次々と廃業に踏み切る苦境に見舞われたものの、
貝の品種改良や水質改善など少しずつ対策が進んでいった。
一方、杉山さんは故郷を離れてCAD設計士として長く活躍。
「家業を継ぐ予定はまったくなかったんですが、異動などの事情で退職したこともあり
“真珠の在庫を売り切るまでやってみよう”と思い立ちました」
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だが養殖場に足を運ぶうち、
池蝶貝の絶滅は回避できたものの依然として厳しい現状を知った杉山さん。
「びわ湖真珠の文化を守るため、魅力を積極的に発信したい」と一念発起し、
店舗を構えた。
びわ湖真珠は、核を入れず真珠層だけでできた「無核真珠」と、
華やかな「有核真珠」がある。
凛とした美しさを引き立てるため、デザインは極力シンプルにしているそう。
貝を育てるのに3年、さらに真珠を巻くまでに3年という年月を要するびわ湖真珠。
店舗での販売のほか、全国各地で展示販売会やオーダー会も開催し、
着実にファンを増やしている。
自然の神秘と養殖業者の技術、杉山さんの情熱のコラボ。これからも目が離せない。
information
神保真珠商店
住所:滋賀県大津市中央3丁目4-28 1F
電話番号:077-523-1254
営業時間:10:00〜18:00
定休日:火曜・第2第4水曜・祝日(不定休あり)
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