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静岡県島田市〈カネロク松本園〉
カカオやウイスキー樽で燻製された
和紅茶の驚き

Local Action
vol.163

posted:2020.12.10   from:静岡県島田市  genre:食・グルメ / 買い物・お取り寄せ

sponsored by 静岡県島田市

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

editor’s profile

Yu Ebihara

海老原 悠

えびはら・ゆう●コロカル編集部エディター。埼玉県出身。出張先でのおいしいもの探しに余念がない。

パッケージを開封した瞬間、芳しい燻製香が鼻をくすぐる。
それも、微かにではなくしっかりと。
初冬のティータイムにぴったりなスモーキーな香りは、
湯を入れ蒸らしたポットからも、注いだカップからも漂い、
冷めてもなおその薫香を損ねることなく、最後まで余韻を味わえた。

驚くことにこのお茶は“国産の紅茶”、つまり「和紅茶」であり、
そして、数十年使われたウイスキー樽の木片で燻製されているという。
パリの有名紅茶専門店で、
日本産の紅茶で唯一置かれている紅茶と聞けば、
食通でなくとも興味が湧くのではないだろうか。

燻製紅茶〈富士山小種(ふじさんすーちょん)〉。右はボトル入り。

燻製紅茶〈富士山小種(ふじさんすーちょん)〉。右はボトル入り。

この一風変わったお茶をつくったのは、静岡県島田市の茶農家、松本浩毅さんだ。

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伝統農法を守りながら挑戦を続ける茶農園

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県産茶葉で燻製紅茶を。松本さんと燻製紅茶の出合い

松本さんは、江戸時代から約200年続く日本茶の茶農家の家系に生まれ育つ。
先代までは栽培したお茶を問屋に卸すのが中心だったが、
商品の販売も始めるようになり、お客さんとのコミュニケーションが生まれたことで、
この仕事をおもしろく感じるようになってきたと話す。
よく、日本茶は浅蒸し茶・深蒸し茶と、茶葉の蒸し方で分類されるが、
松本さんのお茶はその中間の中蒸し茶。
濃い味わいと香りを両立させた一杯だ。

「ですが、おいしいお茶は、静岡の農家みんなつくっているんです。
だから今までになかったお茶をつくりたくて。
おいしくて当たり前というお茶でなくて、楽しんで飲んでもらえるお茶。
もっとお茶の新しい楽しみ方を提案したかったんです。
島田茶や静岡茶という名に縛られない、自分のスタイルを見つけたかった」と松本さん。

あるとき、純喫茶を営む知人に誘われ、気楽に出席したお茶会で、
中国で伝統的に飲まれているという、松葉で燻製された紅茶に出合った。
「まず紅茶を燻製するという発想に驚きました。
当時はまだ和紅茶という言葉もなかった時代ですが、
日本ならではのフレーバーで、しかも香料無添加でつくれないかと考えたんです」

現在では、日本茶(煎茶、玄米緑茶)のみならず、4種類の燻製ほうじ茶、
農薬不使用栽培の15種類の燻製紅茶、さらには烏龍茶を、“自園自製”で販売している。

日光に生葉を日干しして香りを発揚させる紅茶や烏龍茶。本格的な製法でつくられている。

日光に生葉を日干しして香りを発揚させる紅茶や烏龍茶。本格的な製法でつくられている。

特に、燻製紅茶のラインナップはおもしろい。
「サクラ」や「ヒノキ」のような、燻製チップの代表的なものから、
世界でも珍しい、冒頭で紹介した「ウイスキー樽」や「カカオ」まで。
はて、「カカオ」とは――? 味が想像できないことを伝えると、松本さんは笑って、
「『カカオ』は、鹿児島産のカカオの枝を使っています。
チョコレートっぽい味になるか? それは……」
気になるその味は、ぜひご自身で確認していただきたい。

 「サクラ」「ヒノキ」「りんご」「屋久杉」など、さまざまな燻材で紅茶やほうじ茶、緑茶を燻す。

「サクラ」「ヒノキ」「りんご」「屋久杉」など、さまざまな燻材で紅茶やほうじ茶、緑茶を燻す。

お茶の概念を打ち破るだけでなく、
日本茶、ひいては島田市産のお茶を再構築する松本さん。
そもそも、島田市のお茶にはどんな特徴があるのだろうか。

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日本有数のお茶どころ、島田市で営まれる伝統農法

島田市はお茶どころ静岡県の中でも、生産量は静岡市に次ぐ、一大産地だ。
市の中央を流れる大井川の右岸には、日本一の大茶園、牧之原台地が広がり、
北部は周辺を山々に囲まれる地。
日照時間も短く昼夜の寒暖差がはっきりしており、
そのうえ朝夕は川霧に包まれ直射日光を遮るため、お茶の生育に恵まれた環境なのだ。

島田市には、「島田茶」が生産されている島田地区、
前述の牧之原台地を擁し、「金谷茶」が生産されている金谷地区、
そしてこの3つの中では最も古い歴史のある「川根茶」が生産されている川根地区の
3つの産地・銘柄がある。
ちなみに、〈カネロク松本園〉は金谷地区に所在している。

地形の違う3つの産地でできるお茶は、それぞれ違った個性を有しているが、
一方で、変わらないこともある。
それが、静岡の文化、景観、生物多様性を次世代に継承すべく、
伝統的農法を守っている農家らが存在するということだ。
松本さんもそのひとり。

伝統的な農業や文化風習・生物多様性を守り、未来へ継承していくことを目的に、
世界の農林水産業の振興を司るFAO(国際連合食糧農業機関)が定めた
「世界農業遺産」に、静岡県の「茶草場(ちゃくさば)農法」が選出されたのは、
2013年のこと。

束ねられ、積み重ねられた枯れ草はかなりの高さに。

束ねられ、積み重ねられた枯れ草はかなりの高さに。

「この『茶草場農法』、とにかく土にいいんです」と松本さん。
大井川近辺の地域で冬の間に行っていた作業で、
ススキやササなど、茶園の周囲に育つ背の高くなる草を定期的に刈り取り、
十分に枯らして粉砕したのちに、肥料として畝(うね)に敷く。
この良質な土づくりに欠かせなかった伝統的な農作業が、
生態系の保全にも一役買っていた。

もちろん有機肥料なので土壌汚染の心配もなく、
草を刈ることで、陽が大地に注がれるようになり、命が育まれる。
「絶滅危惧種や稀少な野生動植物種と共存できるということなんです」と松本さん。
しかし、自分の背丈以上の草刈り後の草を束にして乾燥させるという作業の労力たるや、
松本さんも「大変ですよ」とこぼす。

粉砕し、畝に草を敷き込む。かなりの重労働だ。

粉砕し、畝に草を敷き込む。かなりの重労働だ。

だが、「茶草場農法」を世に広め、継承するためには、
まずは世界農業遺産の存在を広めなければならない。
そう考えた松本さんは、同じく世界農業遺産認定を受けた、
能登(石川)、国東(大分)、阿蘇(熊本)、佐渡(新潟)と連携したお茶をつくり、
世界農業遺産自体の認知度向上を狙う。

世界遺産の中でも、ユネスコが定める文化遺産や自然遺産は、
形あるものとして保全や修復がされるが、農業遺産は継ぐ者がいなくなればおしまい。
お茶とともにある文化も、景観も、生物も、一度絶えたら戻せない危機感。
松本さんのお茶づくりは、島田茶の未来と日本の農業の未来を見据えているのだ。

松本浩毅さんと、奥さまの早実さん。

松本浩毅さんと、奥さまの早実さん。

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まずは、「ふるさと納税」で島田市のお茶を味わってみる

自然環境や生態系の保全を考えられた、伝統的な「茶草場農法」は、
島田市の多くの茶農家で取り入れられている。
そのこだわりのお茶を、より多くの人に味わってもらうべく、
島田市では、年間を通して島田市産のお茶を「ふるさと納税」の返礼品として用意。
島田茶、金谷茶、川根茶、3種の島田市産日本茶を飲み比べるもよし、
〈カネロク松本園〉のようなほかでは飲めないお茶を飲むもよし。
自粛が続き家で過ごす時間が長い今日だからこそ、
急須やポットでていねいに煎れたお茶のおいしさをあらためて感じてほしい。

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カネロク松本園

住所:静岡県島田市切山1806-21

http://kaneroku-matsumotoen.com/

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