連載
posted:2020.12.7 from:新潟県南魚沼市 genre:活性化と創生 / 買い物・お取り寄せ
PR 新潟県
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Hiroyo Yajima
矢島容代
やじま・ひろよ●フリーライター。岐阜県生まれ。大学卒業後に上京。東京では『GINZA』などの雑誌でインタビューしたり、おいしいものを紹介したり。一度日本を離れてタイやドイツで生活したあと、田舎暮らしをしようと、山形県に隣接する新潟県村上市に移住。夫とともに新潟と山形の両方の文化を楽しむ日々。
credit
撮影:ただ(ゆかい)
新潟の自然をビンの中にぎゅっと閉じ込めた、爽快なクラフトジンが登場した。
名前は〈ROKUMOJI(ろくもじ)〉。
手がけたのは、南魚沼市出身の今成高文さん、駿吾(しかご)さん兄弟。
「キャッチフレーズは“体内森林浴”です」と話すのは、弟の駿吾さん。
体の中からダイナミックな自然を感じられるジンというのが、その所以だ。
酒好きのあいだでは、すっかり市民権を得ているクラフトジン。
そもそもジンとは「ベースとなるニュートラルスピリッツに、
ジェニパーベリーを含むボタニカル(植物成分)を加えて香りづけした蒸留酒」のこと。
ジェニパーベリーを使うことは必須だが、ボタニカルの種類や数に決まりはない。
この自由度を生かし、カモミールやラベンダー、りんごや海藻など、
産地に由来するボタニカルを使ったジンが、世界各地でつくられている。
ROKUMOJIのボタニカルは6種類。
うち新潟産は、佐渡のアテビ(ヒバ)、南魚沼と長岡のクロモジ、
十日町のドライアップル、村上のほうじ茶の4つ。
そこにジェニパーベリーと、これらの香りをとりまとめるハーブ、
アンジェリカルートが加わる。
「口に含むと、まずアテビとクロモジの香りがふわっと広がり、
続いて、森の枯葉や土を連想させるほうじ茶、
最後にりんごの甘い余韻が残るよう設計しています」
香りの主軸となるのは、アテビとクロモジ。
アテビはヒノキ科の植物で、ヒノキに柑橘をプラスしたような馥郁たる香りを持つ。
クロモジは日本固有の香木として知られ、アロマやお茶などにも利用されている。
飲み方はストレートでもロックでも。
駿吾さんのおすすめは、フレッシュライムとソーダで割るジンリッキー。
カクテルにしても森の香りは健在だ。しかもこのジン、飲めば飲むほど
森が美しくなるという、環境にやさしい酒でもある。
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ROKUMOJIに使われているアテビやクロモジは、間伐材などの森林資源。
間伐材とは、過密になった森の木々を間引く際に出る木材のこと。
今成さん兄弟は、酒を生業にしてきたわけではない。
東京でサラリーマンをしていた駿吾さんは4年前、
生まれ故郷である南魚沼市にUターン。
地元の木材を使って、ものづくりがしたいとの想いから、
表札や看板などを手掛ける会社
〈新潟ものづくり製作所Niimo(ニーモ)〉を立ち上げた。
木材と向き合ううちに、深刻な森の問題が見えてきたという。
「森林には、地球温暖化防止、生物の保全、土砂災害防止、
水源かん養など、さまざまな大切な機能があり、
森を守ることは、これらを守ることにつながっています。
でも、森を適切に管理するために欠かせない林業事業者は、
年々減っているのが現状です」
また、間伐後の問題もある。
「健全な森林を保つために、間伐は欠かせない作業ですが、
間伐材は流通しづらく、利用促進も大きな課題。
あまり知られていませんが、木って食べることもできるんですよ。
粉末状にして焼き菓子に加えたり、実はいろんな活用法があるんです」
クロモジが自生する山に連れていってもらった。
大きなブナの根元にひょろりと生えているクロモジは、
ブナの育成を阻害する雑木であるため、刈る必要がある。
「これがクロモジ」と、駿吾さんが差し出してくれた枝に鼻を近づけてみると、
清々しい香りが鼻腔を突き抜ける。
「クロモジは里山で生活する人たちに集めてもらい、買い取っています。
間伐材を活用することで、森を維持するための雇用が生まれ、
林業の衰退や里山の高齢化を食い止めることにも役立つんです」
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駿吾さんの環境への取り組みは、ジンづくりだけではない。
Niimoで使用する木材は、主に利用されなくなった
ブナの旧薪炭林(薪や木炭の原料となる木材)を活用。
また、サステイナブルな社会は、毎日の食にも深く関わっていると、
自身も菜食主義者となり、極力ゴミを出さない、ゼロ・ウェイストに取り組んでいる。
しかしひとりでは限界がある。
必要なのは、多くの人に森が抱える問題を知ってもらい、みんなで向き合うこと。
そんなとき、バーでふと、ボタニカルを使用するクラフトジンに目が止まった。
もしかして、森林資源を使ってクラフトジンがつくれるんじゃないか。
そして、より多くの人に森を守る大切さを知ってもらえるのでは。
そこで高文さんとともに、森林資源の新たな活用、地域の活性化、
持続可能な開発を目指す会社〈ろくもじ〉を設立。
実家の家業を継いでいる高文さんが経営、
森に詳しい駿吾さんが商品開発を担当している。
製造はジンの蒸留技術を持つ新潟市の〈新潟麦酒〉に依頼。
ひとつひとつのフレーバーを際立たせるため、ボタニカルを個別に浸漬、蒸留し、
最後にブレンドする「マセレーション」と呼ばれる方法を採用している。
試作を重ね、約1年かけて完成させた。
2020年6月、クラウドファンディングを利用して資金を募ると、
わずか6日で目標金額に到達。11月6日からオンライン限定で販売を開始している。
“自然とモノと人をつなぐ架け橋”になりたいと話す駿吾さん。
「ROKUMOJIを飲んで、自然を身近に感じ、
森林資源に興味を持ったと言ってもらえるのが、何よりうれしい」
と顔をほころばせる。
今後は、約2ヘクタールの土地にジェニパーベリーを植林して、森をつくる計画もある。
収穫できれば、新たな収益モデルもできる。
さらにROKUMOJIをベースに、別のボタニカルを加えた、
季節限定品の販売も計画している。こちらも楽しみだ。
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