colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

〈ROKUMOJI〉
酒どころ、新潟で生まれた
サステイナブルなクラフトジン

Local Action
vol.162

posted:2020.12.7   from:新潟県南魚沼市  genre:活性化と創生 / 買い物・お取り寄せ

PR 新潟県

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

writer profile

Hiroyo Yajima

矢島容代

やじま・ひろよ●フリーライター。岐阜県生まれ。大学卒業後に上京。東京では『GINZA』などの雑誌でインタビューしたり、おいしいものを紹介したり。一度日本を離れてタイやドイツで生活したあと、田舎暮らしをしようと、山形県に隣接する新潟県村上市に移住。夫とともに新潟と山形の両方の文化を楽しむ日々。

credit

撮影:ただ(ゆかい)

6種類のボタニカルを使用

新潟の自然をビンの中にぎゅっと閉じ込めた、爽快なクラフトジンが登場した。
名前は〈ROKUMOJI(ろくもじ)〉。
手がけたのは、南魚沼市出身の今成高文さん、駿吾(しかご)さん兄弟。

「キャッチフレーズは“体内森林浴”です」と話すのは、弟の駿吾さん。
体の中からダイナミックな自然を感じられるジンというのが、その所以だ。

今成駿吾さん。この自然豊かな南魚沼で生まれ育った。

今成駿吾さん。この自然豊かな南魚沼で生まれ育った。

酒好きのあいだでは、すっかり市民権を得ているクラフトジン。
そもそもジンとは「ベースとなるニュートラルスピリッツに、
ジェニパーベリーを含むボタニカル(植物成分)を加えて香りづけした蒸留酒」のこと。
ジェニパーベリーを使うことは必須だが、ボタニカルの種類や数に決まりはない。
この自由度を生かし、カモミールやラベンダー、りんごや海藻など、
産地に由来するボタニカルを使ったジンが、世界各地でつくられている。

ROKUMOJIのボタニカルは6種類。
うち新潟産は、佐渡のアテビ(ヒバ)、南魚沼と長岡のクロモジ、
十日町のドライアップル、村上のほうじ茶の4つ。
そこにジェニパーベリーと、これらの香りをとりまとめるハーブ、
アンジェリカルートが加わる。

「口に含むと、まずアテビとクロモジの香りがふわっと広がり、
続いて、森の枯葉や土を連想させるほうじ茶、
最後にりんごの甘い余韻が残るよう設計しています」

佐渡固有のヒバともいわれるアテビ。アテビを守り、育てる活動をしている〈アテビの会〉から取り寄せている。

佐渡固有のヒバともいわれるアテビ。アテビを守り、育てる活動をしている〈アテビの会〉から取り寄せている。

「和製ハーブ」ともいわれるクロモジ。スパイシーな香りが心地いい。

「和製ハーブ」ともいわれるクロモジ。スパイシーな香りが心地いい。

香りの主軸となるのは、アテビとクロモジ。
アテビはヒノキ科の植物で、ヒノキに柑橘をプラスしたような馥郁たる香りを持つ。
クロモジは日本固有の香木として知られ、アロマやお茶などにも利用されている。

リンゴを加えることで、辛口なジンにほんのりやさしいフレーバーが加わる。廃棄される芯を再利用。

リンゴを加えることで、辛口なジンにほんのりやさしいフレーバーが加わる。廃棄される芯を再利用。

ジンに欠かせないジェニパーベリー。爽やかな香りが特徴。

ジンに欠かせないジェニパーベリー。爽やかな香りが特徴。

飲み方はストレートでもロックでも。
駿吾さんのおすすめは、フレッシュライムとソーダで割るジンリッキー。
カクテルにしても森の香りは健在だ。しかもこのジン、飲めば飲むほど
森が美しくなるという、環境にやさしい酒でもある。

次のページ
酒づくりを始めた理由

Page 2

森林資源をジンに活用

ROKUMOJIに使われているアテビやクロモジは、間伐材などの森林資源。
間伐材とは、過密になった森の木々を間引く際に出る木材のこと。

今成さん兄弟は、酒を生業にしてきたわけではない。
東京でサラリーマンをしていた駿吾さんは4年前、
生まれ故郷である南魚沼市にUターン。
地元の木材を使って、ものづくりがしたいとの想いから、
表札や看板などを手掛ける会社
〈新潟ものづくり製作所Niimo(ニーモ)〉を立ち上げた。

木材と向き合ううちに、深刻な森の問題が見えてきたという。

「森林には、地球温暖化防止、生物の保全、土砂災害防止、
水源かん養など、さまざまな大切な機能があり、
森を守ることは、これらを守ることにつながっています。
でも、森を適切に管理するために欠かせない林業事業者は、
年々減っているのが現状です」

森を守るために間伐して、景観林として人が集まる観光資源にすることも必要だと話す駿吾さん。

森を守るために間伐して、景観林として人が集まる観光資源にすることも必要だと話す駿吾さん。

また、間伐後の問題もある。

「健全な森林を保つために、間伐は欠かせない作業ですが、
間伐材は流通しづらく、利用促進も大きな課題。
あまり知られていませんが、木って食べることもできるんですよ。
粉末状にして焼き菓子に加えたり、実はいろんな活用法があるんです」

キハダの樹皮。コルク層を除いた内皮を乾燥させたもの。健胃整腸作用があるといわれている。

キハダの樹皮。コルク層を除いた内皮を乾燥させたもの。健胃整腸作用があるといわれている。

クロモジが自生する山に連れていってもらった。
大きなブナの根元にひょろりと生えているクロモジは、
ブナの育成を阻害する雑木であるため、刈る必要がある。
「これがクロモジ」と、駿吾さんが差し出してくれた枝に鼻を近づけてみると、
清々しい香りが鼻腔を突き抜ける。

「クロモジは里山で生活する人たちに集めてもらい、買い取っています。
間伐材を活用することで、森を維持するための雇用が生まれ、
林業の衰退や里山の高齢化を食い止めることにも役立つんです」

クロモジは半年ほど乾燥させてジンに使用する。

クロモジは半年ほど乾燥させてジンに使用する。

次のページ
クラウドファンディング6日で目標達成

Page 3

“自然とモノと人をつなぐ架け橋”になりたい

駿吾さんの環境への取り組みは、ジンづくりだけではない。
Niimoで使用する木材は、主に利用されなくなった
ブナの旧薪炭林(薪や木炭の原料となる木材)を活用。

また、サステイナブルな社会は、毎日の食にも深く関わっていると、
自身も菜食主義者となり、極力ゴミを出さない、ゼロ・ウェイストに取り組んでいる。

さまざまな木材が置かれている駿吾さんのアトリエ。

さまざまな木材が置かれている駿吾さんのアトリエ。

しかしひとりでは限界がある。
必要なのは、多くの人に森が抱える問題を知ってもらい、みんなで向き合うこと。
そんなとき、バーでふと、ボタニカルを使用するクラフトジンに目が止まった。
もしかして、森林資源を使ってクラフトジンがつくれるんじゃないか。
そして、より多くの人に森を守る大切さを知ってもらえるのでは。

そこで高文さんとともに、森林資源の新たな活用、地域の活性化、
持続可能な開発を目指す会社〈ろくもじ〉を設立。
実家の家業を継いでいる高文さんが経営、
森に詳しい駿吾さんが商品開発を担当している。

Niimoのロゴが入ったミズナラ(ジャパニーズオーク)製のボトル。ウイスキーなどのお酒を入れることで、自宅で熟成酒ができるというもの。

Niimoのロゴが入ったミズナラ(ジャパニーズオーク)製のボトル。ウイスキーなどのお酒を入れることで、自宅で熟成酒ができるというもの。

製造はジンの蒸留技術を持つ新潟市の〈新潟麦酒〉に依頼。
ひとつひとつのフレーバーを際立たせるため、ボタニカルを個別に浸漬、蒸留し、
最後にブレンドする「マセレーション」と呼ばれる方法を採用している。
試作を重ね、約1年かけて完成させた。

2020年6月、クラウドファンディングを利用して資金を募ると、
わずか6日で目標金額に到達。11月6日からオンライン限定で販売を開始している。

“自然とモノと人をつなぐ架け橋”になりたいと話す駿吾さん。
「ROKUMOJIを飲んで、自然を身近に感じ、
森林資源に興味を持ったと言ってもらえるのが、何よりうれしい」
と顔をほころばせる。

今後は、約2ヘクタールの土地にジェニパーベリーを植林して、森をつくる計画もある。
収穫できれば、新たな収益モデルもできる。
さらにROKUMOJIをベースに、別のボタニカルを加えた、
季節限定品の販売も計画している。こちらも楽しみだ。

森を守り、環境を守りたい。熊の背中に森が描かれたろくもじのロゴマークには、そんな思いが込められている。

森を守り、環境を守りたい。熊の背中に森が描かれたろくもじのロゴマークには、そんな思いが込められている。

Information

ROKUMOJI 
ろくもじ

Feature  特集記事&おすすめ記事