KEM工房からつながる北海道の森のはなし
土地面積の71%が森林に覆われる北海道。
その広さは広大で、全国の森林面積の約22%を占めている。
日本を代表する豊かな森を擁する地域だ。
道土面積そのものが広く、道央・道南・道北・道東で気候や地形が異なることから、
トドマツやエゾマツなどの針葉樹、
ミズナラやカンバ、イタヤにブナといった広葉樹など、天然林の樹種が豊富。
山々は、四季折々で美しい表情を見せる。

植生の多様さから、紅葉の時季になると山は七色に染まる。
木でものをつくって、贈りものをするようにたくさんの人に届ける
「大切なものは、目に見えない」
サン・テグジュペリの名作『星の王子さま』の中に出てくる言葉だ。
この物語は私たちに、目に見えるものがすべてではないこと、
心で見ることの大事さを教えてくれる。
この作品から大きな影響を受け、心を育むものづくりを行う人がいる。
札幌にある〈KEM工房〉の煙山泰子さんだ。
煙山さんは、“子どもたちと、かつて子どもだった人への贈りもの”をコンセプトに、
30年以上、木のおもちゃをつくり続けている。

かわいいおもちゃが並ぶ工房で、優しく微笑む煙山さん。
煙山さんが木工を始めたのは、20歳の頃。
汚れた木材をカンナで削ると、美しい木目が現れ、
カンナ屑がくしゅくしゅっと丸まり、木の香りが漂った。
その瞬間、まるで恋に落ちるかのように、「私、木が好きだ」と感じたという。
「木で調味料入れや棚をつくると、母が
“わぁ、うれしい”って喜んで、毎日使ってくれたんです。
誰かのために木でものをつくることって素敵なことだな、
それを仕事にしたいなと思いました」
23歳のとき独立し、KEM工房を立ち上げた。
当時はまだ女性の木工家は珍しく、注目されたそうだ。
どんな製品をつくっていたのかって?

音を鳴らして赤ちゃんをあやすおもちゃ。ガラガラとも呼ばれる。
たとえば、〈カタカタNo.1〉。
赤ちゃんがいちばんはじめに出会うおもちゃだから、
木のものを使ってほしいと製作した。
煙山さんはこれをつくるために世界中のガラガラを研究。
余計なものを削ぎ落とし、ガラガラの原型ともいえる形にした。
針葉樹のエゾマツ、広葉樹のナラがあり、鳴らしてみると音の違いがわかる。
シンプルなので飽きられることがなく、
発売から何十年経っても変わらず売れ続けている。
もしかすると、この文章を読んでいる方の中にも、
“これ、家にあった”という人がいるかもしれない。

棒を押し出すと顔が飛び出し、引っ張ると隠れる。
こちらの〈イナイイナイ・バア〉もかわいい。
子どもに慣れていない新米のお父さんは、
照れくさくて“いないいないばぁ”ができないことが多い。
でも、このおもちゃを使えば、赤ちゃんをあやすことができる。
笑ってくれるとうれしい。もっと笑顔を見たくなる。
そうしていくうちに、自然と赤ちゃんとの接し方が上手になっていく。
「おもちゃは、人と人とのあいだにあるもの。
コミュニケーションを豊かにする道具だと思うんです」
おもちゃを開発していたとき、煙山さんの子どもは既に小学生になっていた。
「あの頃、こんなものがあったらよかったな」と思いながら創作していたそうだ。
子どもたちも「赤ちゃんだったらきっとこんなふうに遊ぶよ」
「こっちのおもちゃと組み合わせて、こんなこともできるよ」と、
アイデアを出してくれた。いわば、親子の共同作品、ということ。

まだ見ぬ誰かが喜んでくれるようにと、心を込めて試作する煙山さん。
そんなかけがえのない思い出が詰まった製品が、
全国の子どもたちにいまも愛されていることに、煙山さんは喜びを感じている。