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〈おりつめ木工〉
スギの森に新たな価値を。
スギの小割材を使った
ユニークな家具。

木のある暮らし
ーLife with Woodー
vol.042

posted:2015.1.27   from:岩手県岩手郡雫石町  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。

text & photograph

Atsushi Okuyama
奥山淳志

おくやま・あつし●写真家。1972年大阪生まれ。 出版社に勤務後、東京より岩手に移住し、写真家として活動を開始。以後、雑誌媒体を中心に東北の風土や文化を発表。 撮影のほか執筆も積極的に手がけ、近年は祭りや年中行事からみる東北に暮らす人の「今」とそこに宿る「思考」の表現を写真と言葉で行っている。また、写真展の場では、人間の生き方を表現するフォトドキュメンタリーの制作を続けている。 著書=「いわて旅街道」「とうほく旅街道」「手のひらの仕事」(岩手日報社)、「かなしみはちからに」(朝日新聞出版)ほか。 個展=「Country Songs 彼の生活」「明日をつくる人」(Nikonサロン)ほか。
http://atsushi-okuyama.com/

おりつめ木工からつながる岩手の森のはなし

本州一の森林大国「岩手県」。森林面積1,174,000ヘクタール、
森林蓄積(森林の立木の幹の体積で木材として利用できる部分)は
220,000,000立方メートル。
ともに岩手県の森林資源をデータ化してみたものだが、
ここで示されるのは北海道に次ぐ森林大国としての姿だ。
本州で最大の面積を持つ岩手県。
その広大な県土の中央には、北の大河、北上川が南北を貫き、
西側には奥羽山脈、東側に北上高地の山並みで占められている。
岩手県の森林資源の豊かさは、このふたつの山並みの広さと
深さに支えられているといっても過言ではないだろう。
飛行機に乗って眺めてみるとよくわかるのだが、
いわゆる「平地」と呼ばれる地域は、北上川に沿ってわずかに存在するだけで、
県土のほとんどは、人工林、天然林を含めた「山また山」である。
こうした背景から岩手県では、県産材の地産地消や木質バイオマスといった
森林資源の活用促進に熱心に取り組んでいる。

小割材に価値を与えていく

岩手県雫石町を拠点に活動する木工作家、和山忠吉さんの工房には、
製材の現場で〈小割材〉と呼ばれる36ミリ角のスギ角材が積み上げられていた。
最近の和山さんにとって、この小割材が
家具やオブジェ作品をつくり上げる材料となっている。
一般的に、家具職人が使う樹種は、ナラやサクラ、クリといった広葉樹が多い。
木目が詰まった広葉樹は細く加工しても高い強度を誇り、
イスやテーブルなどの強度が必要な家具には適した素材とされてきた。
また、広葉樹ならではの変化に富んだテクスチャーや色味も
家具の表情を出していくうえで重要な要素だった。

製作を行う和山忠吉さん。とにかく木が大好き。四六時中、次につくる木工作品のアイデアを練っている。

中学卒業と同時に木工の現場に飛び込み、現在まで家具職人を続けてきた和山さんも
当然、家具の材料としての広葉樹の良さは承知済みだ。
過去においては、幾種類もの広葉樹を扱ってきた経験もある。

しかし、現在の和山さんがもっとも多く扱う素材がこの小割材だ。
町内の製材所から直接買い付けてくるという小割材は、一本4メートル。
それを一度に何十本と購入するのだが、そのなかには、白っぽい辺材、
赤みの強い芯材が区別なく混入し、また、大小の節もたくさん混じっている。
正直なところ、これらの材は、家具製作に適した素材とは呼べないだろう。
それでも、この小割材さえも和山さんの手にかかれば個性的な家具に生まれ変わるのだ。

岩手県雫石町内にあるおりつめ木工の工房。製作中の家具がたくさん並ぶ。

和山さんによると、現在の日本では、集成材を使う家具職人は存在しても、
こういった小割材を使い家具を製作する職人は皆無に近いという。
「家具はいい材料で手間ひまかけてつくるというのがこれまでの家具製作の流れでした。
もちろん、いまもそうです。私も少し前まではそうやってつくってきましたよ」
と和山さん。

スギの小割材。樹種は同じでもさまざまな性質を持つ。そのため、選別が大きな仕事になるという。

では、なぜ、和山さんはこの小割材を使うようになったのだろうか。

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「理由は、いろいろとありますが、まず、木材資源の問題が大きいですね。
ひと昔前であれば、幅の広い無節材など、ほしいと思う材料が難なく手に入りました。
いまでもそういうものがないわけではないのですが、やっぱり少なくなった。
その点、いま使っているような節入りの小割材はたくさんあるわけです。
小割材は、たとえば一本の丸太から、
芯持ちの柱を取った後の余剰からでも生産することができます。
間伐材だろうがなんだろうが問題ない。
いまの林業を取り巻く環境を考えてみたら、
こういう小割材なんかに価値を与えていくことも大切なんじゃないかと。
雫石は、町の木にスギを指定するだけあってスギの植林が盛んだった土地です。
でも、いまはちゃんと手入れされているとは言い難い。
だからこそ、スギを建築用途だけではなく、
いろんな方向から利用していくことも必要だと感じますね。
いくら家具屋だって、自然環境のことを無視して、
好きな素材を使ってモノをつくる時代じゃないと思います」

小割材を加工する。4面すべてに狂いない加工が不可欠となる。

自由な発想を支えるたしかな技術

そして、スギの小割材を使った家具づくりにおいて、
和山さんを支えるのが、その圧倒的な木工技術だ。
若い頃には技能五輪の国際大会で活躍したほか、
多くの木工作品コンペティションで受賞してきた確かな技術が小割材に注がれる。

「小割材で家具をつくるためには、まず、材と材を接着して、
用途にあった大きさにしていくことが必要です。
その際に絶対に不可欠なのが、材料の4面をすべて真っ平らに仕上げること。
少しでもよれたり曲がったりしたら、均一な状態にはならず、接着強度が保てません。
材をまっすぐ、平らにするのは、機械も使って行いますが、
決して簡単ではありませんよ。案外、家具職人のなかには
このシンプルな加工ができないって人も少なくありません。
でもこれができると、ある意味、どんな幅、厚さの板でもつくっていけるわけですから、
ものづくりがとても自由になるんですよ」と和山さんは笑う。

加工後は接着作業に。木目や色味を合わせて接着するので、一枚板のようにも見える。

小割材を合わせることで幾何学模様にも思える意匠が現われる。

その一例として見せてくれたのが〈さちの椅子〉だ。
見る角度によって、“さ”と“ち”と読めるイスの素材はすべて小割材。
材同士を接着させることで生まれる摩訶不思議な木目も相まって
オブジェともいえるユニークなロッキングチェアだ。
それにしても、和山さんのつくる家具はいつも自由だ。
ちなみに接着強度については、スギの場合、しっかりと接着されたものは
無垢の状態よりも高い強度に保てるという。

〈さちの椅子〉は、和山さんの2014年の大作のひとつ。和山さんらしいユーモアあふれる作品。

このように和山さんの製作現場では
一本の棒にすぎない小割材を家具製作に適した材料に変えていくのだが、
ここはあくまでスタート地点。
実際の加工から組み立てもまた和山さんの腕の見せどころだ。

「スギは広葉樹に比べ、比重が軽い分、強度は落ちます。
だからこそ、いかに強度を保つ構造にしてやるか。
ホゾの組み方、素材の厚さ、過重の分散など、
さまざま側面を検証しながらモノをつくっていきます。
広葉樹を使えばラクだと感じることもありますが、
でも、いろいろと考えることは面白いですね」

和山さんは建具製作の中心に木工を行っていた時期があり、
スギ材の扱いや組み方のノウハウはそのとき身につけた部分も多いそうだ。
また、組み立てのみならず、仕上げもまたスギならではの工夫が必要。
やわらかいスギの表面は傷つきやすく、家具として日常で使用した場合、
どうしても傷が目立ってしまうこともあるという。
そのため和山さんは、仕上げとして必ず、
束ねた刈萱で材の表面のやわらかい部分を磨く“うづくり”処理を施す。

スギの家具で必ず行ううづくり。一面一面、丁寧に施していく。

「これをやれば傷がつかないってわけではないんですが、
表面をかたく締めてやることで、傷は目立ちにくくなるんですよ」
と丁寧に仕上げていく。
たしかに、うづくりを施されるとスギの表情が締まり、ツヤが増していく。

うづくりを施すと、杉材の表面がかたく締まり、ツヤを帯びる。

「いい材料が少なくなったからスギを使うようになったわけですが、
最近では、スギそのものがいいなとも感じます。というのは世の中は高齢化でしょ。
広葉樹を使った重くてかたい家具は嫌だという方も多いんですよ。
スギであれば軽くて動かすのも簡単だし、身体へのあたりもやわらかい。
より使う人に優しい家具。そういう家具が最近求められているような気がしますね」

そのことを意識して、和山さんの家具は、
いずれも角が面取りされ、なめらかなカーブを描いている。
フォルムの美しさももちろんだが、万が一ぶつかっても
怪我をしないようにという使い手の視点に立っての配慮だ。

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ものづくりの中心は、ユーモア

おりつめ木工の家具を求めるユーザーの中には、
「小割材を使って環境にも人にも優しい家具をつくろう」
という和山さんの意識に共感して、という人も少なくない。
しかし、家具を求める多くの人の理由は、和山さんがつくった
“小割材を使った家具”が何より魅力的だからだ。

和山さん手がける家具や作品群の自由な発想には、いつも驚かされてきた。
とことん使い心地を突き詰めた家具をつくる一方で、
前述の〈さちの椅子〉のような、「これが家具?」と感じずにはいられない
不思議なものもつくる。この振り幅の大きさがまさに和山さんらしさなのだ。
しかも和山さんの場合、人間の家具だけでは飽き足らず、犬や猫、
挙げ句の果てにはネズミ用の家具までつくってしまいそうな勢いなのだ。
事実、おりつめ木工のラインアップのなかには、〈どうぶつ家具〉シリーズがあり、
それらはどうぶつをモチーフにしたものではなく“どうぶつ用”の家具なのである。
こうしたものもきちんと小割材を使っているのだから、さすがというほかない。

愛犬の千吉と一緒に。動物が大好きだから動物用の家具をつくるのは至極当然とのこと。

和山さんによると自由な発想ができるきっかけを与えてくれたのは、
グラフィックデザイナーの福田繁雄氏(故)との出会いだという。
福田氏といえば“日本のエッシャー”とも呼ばれたトリックアートの名手。
和山さんは、あるプロジェクトを通じて福田氏のアシスタントを務めた経験があり、
氏との共同作業のなかで発想の大切さを学んだという。

「福田さんが大切にしていたのはユーモアでした。それには私も共感していました。
やっぱり会話でもなんでもユーモアがないとつまらない。
家具も同じこと。機能も大切ですが、ユーモアがある家具をつくりたい。
福田さんと会うなかでそう考えるようになりました」

和山さんが若い頃につくった作品。岩手県二戸生まれなので、「二=TWO」をモチーフに製作した。

福田氏と出会った頃の和山さんは、建具製作を中心とした工房を営んでいたという。
しかし、福田氏と出会うことで急展開。
注文家具や木工作品の製作を中心にしていこうと方向転換したのだ。
それは和山さんにとって、ユーモアを自らのものづくりの中心に置くという
決心でもあった。そして、その後の和山さんは
福田氏との出会いで得た思いを大切に抱きながら製作に励んできた。

そういう意味では、林業のことや木材資源について考えた末に
使うようになったスギの小割材だが、そこから生まれた家具や作品は、
「一本の棒にしか過ぎない小割材も寄せて束にすれば、
こんなに面白いものをつくれるんだよ」と、
和山さん流のユーモアを大きな声で表現しているのかもしれない。
雪の雫石で、和山さんは今日も工房にこもり、木を切ったり、
つなげたりと何かをつくっている。
そこから生まれるものは、それに触れる人に木の家具の面白さ、素晴らしさを、
小気味よく伝えていくのだろう。

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木のある暮らし 岩手・おりつめ木工のいいもの

ひじかけ椅子 価格50,000円(税別) 軽くて丈夫。しかも座りやすい。座面が低めで、奥行きもあるので、床の上に座ったかのようなくつろぎ感が楽しめる。

ねまーる杉ちゃん 30,000円(税別) 和山さんの椅子シリーズのベストセラー〈ねまーる杉ちゃん〉。“ねまる”とは岩手の表現で“休む”を意味する。スタッキングもできるすぐれものだ。

Information


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おりつめ木工

住所:岩手県岩手郡雫石町御明神赤渕74-12

TEL:019-692-6220

http://chukichi.com/

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