連載
posted:2015.1.26 from:静岡県静岡市 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。
writer profile
Nobuhito Yamanouchi
山之内伸仁
やまのうち・のぶひと●編集/執筆。東京の下町で生まれ育ち、2010年に南伊豆へ移り住む。山のふもとで薪割りしたり、本をつくったり、子育てしたり……。目下の目標は、築100年を超える母屋の改築。
credit
撮影:岩間史朗
ヒノキクラフトからつながる静岡の森のはなし
富士山や南アルプスなど高地の針葉樹林から、伊豆半島の広葉樹林や海岸林まで、
静岡県には多様な森林が広がっている。
県土の約3分の2が森林で、
スギやヒノキなどの人工林は約2300平方キロメートルにおよぶ。
なかでもヒノキ人工林は全国第3位の面積を有し、
全国と比較して、木の成熟度が10年ほど早く、
人工林の約85%が、資源として利用可能な林齢41年生以上の木となっている。
地元の森を元気にする、ヒノキの家具
徳川家康が築城し、晩年を過ごした駿府城のある静岡市。
かつて家康は全国から優れた職人を呼び寄せ
静岡浅間神社の造営や、駿府城の改修にあたらせた。
この土地が気に入り、そのまま住み着いた職人たちにより、
木工技術を生かした家具や仏壇、下駄などの生産が盛んに行われた。
そんな木工のまちとしての歴史を持つ静岡市で、ヒノキクラフトは誕生した。
駿府城のほど近く、南へのびる遊歩道を歩いていくと、
ヒノキクラフトのお店が見えてくる。
その名の通り、店内にはヒノキを使った家具が並び、
爽やかなヒノキの香りが漂っている。
“自然第一主義”をキーワードに、安倍川沿いの小さな工房として2000年にスタート。
地元の山に人の手が入り、地元の森が元気になるようにと、
安倍川上流のヒノキにこだわり家具を生産している。
「なるべく環境負荷が少なく、少しでも自然にプラスになるような素材で
家具をつくりたいと思い、地元のヒノキに着目しました」
と話してくれたのは、代表を務める岩本雅之さん。
ヒノキクラフトを立ち上げる前は、
雑誌や広告のアートディレクターという経歴を持つ。
家具の設計から、カタログの製作まで、
デザインに関しては、岩本さんがすべてひとりで手がけている。
「エディトリアルなデザインも家具のデザインも出発点は同じです。
まずはそれを手にする人、使う人のことを考えてデザインしています」
使うお客さんもつくった職人さんも、さらには自然環境も含め、
みんなが幸せになるようなハッピーデザインを心がけているという。
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いまでは誰もが使うようになったイスやテーブルはもともと、海外からやってきたもの。
平均的な体格が異なり、室内で靴を履くといった生活様式も異なる。
それでも海外の規格のまま生産されている家具もまだまだ多い。
ヒノキクラフトでは、使い手の目線になって試作やテストを繰り返し、
使いやすさを追求する。
座面や背もたれの位置や角度、体があたる角の部分の丸みなど、
修正を加えながら、とにかく何度も座って試す。
商品化されたあとでも、ユーザーの声を積極的に取り入れ、
より完成されたものへと進化させていく。
使い手からの要望は、職人にとっての“やる気”となり、
喜んで使ってもらうことが、職人の“やりがい”となっている。
ヒノキは伐ってから200年ほどは強くなり続けるといわれる木。
ヒノキの家具はメンテナンスしながら使えば一生モノ。
「壊れたら捨ててしまうというのは、自然環境にとってもハッピーじゃないですよね。
ウチは一生直しますよ。永久保証です」と岩本さん。
無垢材の家具は、長く使い続けることで、エイジングしていく。
色合いや風合いがよくなり、より愛着も増してくる。
そして、自然への感謝の気持ちにもつながるという。
ヒノキの家具は扱いにくい!?
ヒノキやスギで家具をつくるのは難しいというのはよく聞く話。
やわらかな素材なので傷がつきやすいとか、乾くと材が縮んで暴れやすいとか。
「私はヒノキの家具だから難しいとは思いません。
たしかにヒノキやスギはやわらかいから傷がつきやすいけど、
広葉樹でも傷がつくことはある。縮むのだって同じです。
傷がつかないように、精度が狂わないように、
大切に扱いながら、丁寧につくれば問題ありません。
つくるときだけでなく、売るときや収めるときも大切に扱います。
大切に扱うというのは、ヒノキの家具だけでなく、
どんなものでも一緒じゃないですかね」と語る岩本さん。
ヒノキクラフトでは、原木から商品になるまで内製化を進めることで、
ヒノキに対する理解を共有し、製品クオリティを高めている。
新しく入った職人には、岩本さん自らがついてヒノキの扱い方を教え込み、
半年から1年かけてヒノキクラフトの職人として育て上げているという。
ヒノキの家具があまり認知されていない時代にブランドスタートし、
廃れかけていた静岡の木工文化を陰ながら盛り上げているヒノキクラフト。
その魅力が評価され、いまでは全国にたくさんのファンを持つ。
それでも決して慢心はしない。
「いま一度、家具づくりということについて初心に立ち返る時期だと思っています。
ものづくりの文化を継承し、次世代へ残していくためにも」
使い手とつくり手が木を生かし続けることで、地元の森を生かしていく。
これからもヒノキクラフトは、自然への感謝の気持ちとともに、
ヒノキの家具づくりの文化を築き上げていく。
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木のある暮らし 静岡・ヒノキクラフトのいいもの
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