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新たな道に挑戦する職人魂で
デザイナーと協働する。
KIKOF後編

貝印 × colocal
これからの「つくる」
vol.040

posted:2015.2.10  from:滋賀県草津市  genre:ものづくり

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。

伊勢谷友介さんがパーソナリティを、谷崎テトラさんが構成作家をつとめる「KAI presents EARTH RADIO」と連携して、
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。

editor profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/

前編:伝統技術と斬新なデザインが融合した、陶器とは思えない薄さと軽さの器。KIKOF前編 はこちら

繊細なデザインを実現するため、初挑戦の数々

琵琶湖のほとりで長年培われてきた伝統工芸の技術を生かして、
現代のライフスタイルに合うプロダクト製作を目指していく
「Mother Lake Products Project」。
その一環として立ち上げられたブランドが「KIKOF」だ。

第1弾として発売された信楽焼で製作されたテーブルウェアは、
独創的なフォルムで、まるで紙のように薄い。
それはクリエイティブデザイナーが「キギ」だからかもしれない。
キギの植原亮輔さんと渡邉良重さんは、
「D-BROS」というプロダクトブランドを手がけている。
まずアイデアがあって、それを具現化できる業者を探すというやり方だったが、
今回のKIKOFでは、職人も技術も決まっているところからのスタート。
「最初はうまくできるか半信半疑でした」と植原さんも不安があった。

植原亮輔さんと渡邉良重さん

キギの植原亮輔さん(左)と渡邉良重さん(右)。

キギは、グラフィックデザイナーであって、プロダクトデザイナーではない。
それでも「自分たちらしさを出していこう。
グラフィックデザイナーがつくる陶器ってなんだろう?」と考え、
まずは2次元である紙でイメージをつくってみたという。

植原さんいわく「一番難しそうだったから」という理由で、
まずはピッチャーをつくってみようと思った。

「鳥のくちばしのような注ぎ口があまり好きではなかったので、
もっと自然なかたちでできないか考えてみました。
選択肢としては6角形か8角形か10角形かなと思ったんです。
6角形は尖っていてあまり美しくなく、10角形だと角がないのでうまく注げない。
ちょうどいいのが8角形でした。
紙でつくってみたら、けっこういい感じになったんです。
それならすべて8角形のデザインにしてみようと思いました」

このペーパークラフトをイメージサンプルとして、信楽焼の丸滋製陶に提案した。

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丸滋製陶は、明治10年創業。現代表の今井智一さんは5代目だ。
信楽焼は鎌倉時代から水がめや種壺、桃山時代は茶器、江戸時代は茶壺、
明治から昭和にかけては火鉢の製造が盛んだった。
丸滋製陶も同様に火鉢から取り組み、
大型植木鉢やガーデンテーブルなどのエクステリア、
そして手洗い鉢などのインテリアへと推移してきた。
大型陶器が信楽焼の特徴のひとつ。それなのに、このKIKOFの繊細なデザイン。

丸滋製陶の大きな窯

丸滋製陶の大きな窯では、大型エクステリアなどが焼成されてきた。

薄さを表現するのに、型でつくる鋳込み成形をしなければならなかった。
しかし丸滋製陶には、鋳込みの技術がない。
食器をつくることすら初めてという状態だった。

「周囲の仲間に鋳込みのやり方をいろいろ聞いて回ったんですが、
どこからも“陶器でそんなに薄いのはムリ”と言われましたね。
でも初めての挑戦だし、とにかく一度やってみようと思ったんです。
もし自分が鋳込みのノウハウを持っていたら、
逆に、やる前からムリだと諦めていたでしょうね。
“知らない”という勢いでできたことです」と今井さんは笑う。

今井智一さん

丸滋製陶代表取締役の今井智一さん。

鋳込み成形は、もともと瀬戸や多治見の技術。
信楽焼で鋳込みを取り入れているひとは、そちらの技術を応用しているので、
信楽の土を使っていない。半分、磁器なのだ。
信楽の土は完全な陶器なので、磁器より強度が弱く、みな使いたがらないというわけだ。
しかし磁器は火には弱く、KIKOFのプロダクトをつくるとなると、
ピッチャーやマグの薄い持ち手がたるんでしまう。
一方、火に強いのは信楽の土だ。
信楽焼という誇りのためにも、今井さんは信楽の土で鋳込み成形することに挑戦した。

KIKOFのボウルの型

KIKOFのボウルの型。ここに土が流し込まれる。

まずは鋳込みの石膏型をつくらなければならない。
その石膏型をつくるのには原型が必要となる。
通常の型屋さんに尋ねたところ「きれいにできる自信がない」と断られた。
そこで今井さんが目をつけたのが、鉄やアルミをカットする鉄工業者だ。
そうしてやっとアルミで原型をつくることができて、石膏型ができあがった。

KIKOFの商品はすべて石膏型でつくられている。
まずは型に泥を流し込んで一杯にする。すると石膏が水分を吸収し、石膏面が肉厚になる。
だいたい3mmくらいになったところで、余分な泥を捨てて型からはずす。
3mmを保つには、泥を入れている時間で調整する。
通常、鋳込みでつくられるのは9mm〜10mmほどだというから、
今井さんがどれだけ緻密な作業に励んでいるかがわかる。

KIKOFのボウルに釉薬を吹きつける

KIKOFのボウルに釉薬を吹きつける。

「元がないから、正解がわからないので大変でした。
やるたびに問題点が出てきて、探りまくりました」と今井さんは苦労を語る。

そしてKIKOFは滋賀県内で注目を浴びるようになってきた。
「先日、滋賀の職人の会合に顔を出したのですが、全員がKIKOFを知っていましたね」
とうれしい反応。

もちろん本丸の信楽焼でも若い世代が意欲的になってきたという。
「20〜30代の若い子たちで展示会をしたりと、やる気のあるひとたちが出てきています。
みんな“信楽焼とは何か?”という問いを、改めて考え直したりしているんですよ。
信楽焼には、たぬき、焼き締め、薪窯などのイメージがあると思いますが、
もともとその時代に必要とされた暮らしの道具をつくってきました。
それならば、いま必要とされるKIKOFのようなものをつくるのは必然。
これからは信楽焼のイメージのひとつにKIKOFを加えていきたいです」

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やってみたら“理に適った”イスが完成した

KIKOFの第2弾として、滋賀のスギを使ったテーブルとイスも完成した。
製作を担当したのは、以前にも廃校舎をリノベーションした自宅兼カフェ兼仕事場を
コロカルに披露してくれた「COUSHA FURNITURE」の川端健夫さん。
最初に、またもやペーパークラフトをつくって川端さんに渡したキギのふたり。
受け取った川端さんの第一印象は「ありえへん」。

KIKOFのイスの脚を製作中

日の当たる工房にて、KIKOFのイスの脚を製作中。

とはいえ、まずはひとつ試作してみた。
「イスの座面を厚さ30mmでつくりました。
家具の常識でいうと、厚くてもそれくらいなんです。
でも、もっと厚くしたいといわれて(笑)。そこで発想をガラッと変えました。
ちょうどスギを使ってみたいと思っていたんですよ」

一般的にスギは、建築材としてはすぐれているが、やわらかいので傷が付きやすく、
強度も弱いので、家具には適していないといわれる。
それでも一度、指定の座面の厚さで、スギを使って試作してみたという川端さん。
これが功を奏した。

「やってみたら、意外と理に適ったものになったんです。
座面が50mmのイスなんて、広葉樹のナラでつくったらとても重くなる。
でもスギだと半分くらいの重量です。
厚いことで強いほぞ組み技術なども可能になって、強度もクリアしました。
垂直なデザインの背もたれと、座面にも、
快適性のために身体のラインに合わせた彫り込みを20mm程度入れていますが、
もともと30mmの厚さの座面を使っていたら、当然こんなには彫り込めません。
おかげで座り心地も、かなりよくなりました」

川端健夫さん

COUSHA FURNITUREの川端健夫さん。

“やってみなければわからない”、これですべてが好転した。
固定観念にとらわれず、外からの知恵を取り入れることで、
「発見の連続でいい経験になりました。
家具をやっているひとにはありえへんデザインになったから(笑)、
コラボした意味がありましたね」と川端さんという。

結果的には滋賀のスギを使って製品化できたことで、
滋賀のものづくりを強く発信できるプロダクトとなった。

KIKOFのスツール

座面と背板は木目を生かしているが、全体にエッジの利いたデザイン。

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“アイデア”と“感覚”のコラボレーション

KIKOFを立ち上げるにあたって、キギのふたりは地域の職人を何度も訪れ、
交流を深めていった。そのうえであえて、
信楽焼の特徴を無視したり、家具の常識からはずれたデザインを提案した。

「私たちは土のことも木のことも、職人さんより知りません。
そんな私たちの提案でも、
チャレンジしようという気持ちが強い職人さんばかりで良かった」とキギの渡邉さん。

「手を動かしてものづくりしているひとたちは、風合いとか肌合い、
素材や感触を知っていて、そこから発想することができます。
一方ぼくたちデザイナーは考え方やアイデアがあって、それをどう具現化するか。
その融合が面白い」というのは植原さん。

その“ムチャなアイデア”の解決策を知っているのもまた、ものづくり職人なのだ。
それがコラボの意味かもしれない。
そうしないと、伝統技術も進化していかないのではないか。

KIKOFでは、これからも第2弾、第3弾と商品が控えている。
どれも職人の手がかかっているので、決して安いものにはならない。
「だからこそ直営店がほしい」とキギのふたりは望んでいる。
近い将来、東京でも琵琶湖の風や波を感じることができそうだ。

テーブルとイスのダイニングセット

KIKOFのテーブルとイスのダイニングセットは、カラーオーダー可能。

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