2022年の6月、清永浩文さん自らが立ち上げたアパレルブランド〈SOPH.〉を
退任するというニュースは、ファッション界に驚きを与えた。
そしてその翌月、清永さんが〈Jリーグ〉のクリエイティブダイレクターに
就任するというニュースもまた意外性のあるものだった。
ほかのアパレルブランドならばいざ知らず、Jリーグではどんな仕事をしていくのか?
Tシャツやプロダクトをつくり、ファッション性を高くしていくのかと思えば、
どうやらそうではないらしい。
Jリーグの野々村芳和チェアマンからは
「清永さん、Jリーグをかっこよくしてください」というひと言だけだったという。
その“ラフ”なスルーパスを清永さんはどのように受け取ったのか。
結論からいえば「自分が適任者だと思った」と言う。
大分が地元である清永さんは、1998年にSOPH.を立ち上げる。
99年には〈FCレアルブリストル〉というサッカーアパレルラインを立ち上げ、
大分トリニータへのスポンサーも開始。
「サッカー好きというサポーター目線。そしてスポンサー目線。
一時期、取締役や株主もやっていたのでチームの運営目線。
このように多方面の目線を持っている人はほかにいないのではないかと思います。
そんな僕のような人物が関われば、
今後のJリーグにとって有益なのではないかと思いました」
たしかにJリーグを、
もっといえばサッカー界をさまざまな角度から見ることができる人物だろう。

会議室、その名も「OLD TRAFFORD」にて。
就任して約1年、Jリーグでは開幕30周年記念という大きなイベントがあり、
まずはそれらに携わることになった。
Jリーグ30周年コンセプトワード「よっしゃ いこ!」は、
かつてのSOPH.で展開されていたコピーを知る者にとっては清永さんらしいと思える。
「まいったな2020」や「最後の戦術。」などのコピーを
SOPH.として世に出してきたからだ。

Jリーグ30周年のコンセプトメッセージ。

Jリーグ30周年のロゴ。
またJリーグはオフィスを移転したばかりであり、その監修も担当をした。
「僕が出したアイデアは『オフィスに入るときの高揚感を大事にしてほしい』というもの。
選手がピッチに入っていくシーンをイメージして、
出社する社員やゲストが高揚したらいいなと」
ガラス扉のエントランスの向こうには、大画面が広がっている。
パスをかざして自動ドアが開くと、
スタジアムでサポーターが熱狂する姿が映し出された。
たしかに気分は高揚する。
さらにオフィスが移転するタイミングで、
名刺や封筒などのデザインも清永さんのディレクションで変更することになった。

メインカットでは「アルビレックス新潟」の背景だったが、チームは毎回変わり、これは「川崎フロンターレ」バージョン。
ただし、ひとりでディレクションし決定したわけではなく、
チームで行ったことだと清永さんは強調する。
なんだかサッカーっぽい。
「30周年も、新オフィスも、”僕がやった”わけではありません。
僕が来てすべてをガラリと変えるわけではなく、長く見て、
なんとなくJリーグのイメージがいい方向に高まればいいと思っています」
ファッションの世界でいうと、
スターデザイナーがメゾンブランドなどに就任すると、
ガラッと方向性が変わることが確かにある。
しかし今回はそんなことを目指してはいない。
「確かに僕が今までSOPH.でやってきたことは、ゼロからイチを生み出すこと。
自分のトップダウンで始めたことです。
でもそれとはまったく違って、僕ひとりで完結することではありません」
Jリーグ30周年記念アンセムとして
RADWIMPS「大団円 feat.ZORN」が発表された。
これも清永さんが積極的に絡んでいるのではないか、と勘繰ってしまう。
「そのように、僕が関わり始めたことで
『最近、Jリーグおもしろいですね』と言ってもらえたり、
すこしでも興味を持ってもらえればいい。
それだけでも僕がここに来た価値はあるかなと」
Jリーグが開幕して30年経った。当初の若者も30年、歳を重ねている。
となると、次なる世代にまた30年、100年と
長くJリーグを応援してもらわなくてはならない。
だから清永さんが「気がつかない程度に、ゆっくり良くなっていきたい」という戦略に
納得できる。
- スクリーンにはチームだけでなく、スタジアムで働くスタッフなどさまざまなものが写し出される。
- スクリーンにはチームだけでなく、スタジアムで働くスタッフなどさまざまなものが写し出される。