連載
〈 この連載・企画は… 〉
ジャズ喫茶、ロックバー、レコードバー……。リスニングバーは、そもそも日本独自の文化です。
選曲やオーディオなど、音楽こそチャームな、音のいい店、
そんな日本独自の文化を探しに、コロカルは旅に出ることにしました。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者
『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多
音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅。
次なるディストネーションは静岡県浜松市。
カルロス(以下カル): 「リスニングバーの店主は、
音楽に情熱を持っているロマンティスト」。
ピアニストの上原ひろみさんはリスニングバーの店主についてこう言っている。
コロンボ(以下コロ): それって、〈ハァーミット・ドルフィン〉の店主、
檀和男さんのことかな。たしかにミュージシャンと変わらないほどの音楽愛を感じる。
檀さんって、そんな人。
カル: 浜松出身の上原さんは、ちょくちょくこのお店に来るらしいじゃない。
コロ: それもプライベートでふらっとやって来るんだって。
急に来るから、檀さんが「事前に言ってちょうだい」と言うと、
「こういうのがジャズっぽくていいの」ってさらっと返すみたい。
カル: たしかにその方がジャズっぽい。
コロ: しっぽりレコードを聴くだけじゃなくて、
お店にあるピアノを弾き始めちゃったりもするもんだから、大サプライズ!
カル: シークレット・ギグ!? たまらない夜だね。
〈ハァーミット・ドルフィン〉は
ライブとリスニングバーのハイブリットなんでしょう?
コロ: コロナ前は年間100本くらいのライブをやっていたらしい。
前のお店を含めて今年で24年目で、
綾戸智恵さんなんかは、メジャーになる前から、
仲間と会場を借りてライブに招いていたそう。
今の店舗になってからは大西順子さん、川崎燎さん、
亡くなった村上ポンタさんはじめ、日本のメジャーどころがこぞって、やって来るんだ。
カル: ブッキングは直接やっているのかな?
コロ: アーティストのほうからお願いされるんだって。
檀さんいわく、分不相応なミュージシャンが来てくれるって(笑)。
ツアーのゲネプロがわりにこの店から始めるってパターンも多いみたいだよ。
カル: お店にある〈ヤマハ〉の小さなグランドピアノ、よく鳴るって評判らしいじゃん。
コロ: 中古で手に入れて、お店に導入の際、
ハンマーと弦をワンランク上のものに総入れ替えしたんだって。
おまけに錚々たるミュージシャンに弾いてもらったおかげで、
独特のグルーブを発するんだろうね。
響板に書かれたミュージシャンのサインを見るだけでも楽しいよ。
宝探しをしているみたいで。
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カル: ピアノといい、集まるミュージシャンといい、
さすが音楽のまち、浜松の底力を感じる。
コロ: 〈ヤマハ〉〈河合楽器〉〈ローランド〉にはじまり、
日本のほとんどの楽器メーカーはここ浜松を拠点としているもんね。
カル: そうそう、浜松は楽器のまちでもあるわけだ。『ブラタモリ』でやっていた。
コロ: そもそも、のちに〈ヤマハ〉を創設する山葉寅楠が
壊れたオルガンを修理するために、細工大工を集めたことが、きっかけなんでしょう?
カル: 一時は日本製のピアノの99%はメイドイン浜松だったんだって。
ピアノだけじゃなくて、ピアニカを開発した〈東海楽器製造〉や
鍵盤ハーモニカ(メロディオン)の〈鈴木楽器製作所〉などもあるし。
〈浜松国際ピアノコンクール〉〈浜松市楽器博物館〉とか、
とにかく、音楽にゆかりが深い。
コロ: 浜松駅にストリートピアノがあったり、
東名高速の浜松サービスエリアの上りには〈ヤマハ〉、
下りには〈ローランド〉のミュージックスポットがあったりと、
まあ、とことん音楽押しのまちです。
カル: ところでリスニングバーとしてはどんな感じ?
コロ: そもそも檀さんはレコード派で、
こんなにいいレコードがあるのになんでライブなの? って感じだったそうだ。
カル: ばかばかとタバコを吸って、ジャズに熱狂してたんだね。
コロ: そもそも浜松は、音楽は聴くより、やるのが好きって土地柄なんだそうだ。
それもそうだよね。
なので、リスニングのほうはまた違ったカルチャーみたい。
それでもあのお店のオーディオを通したレコードの音は、
空気に転がるように鳴っていたなあ。
上原ひろみの弦楽四重奏とのクインテッドのアルバム……。
カル: 『シルヴァー・ライニング・ スイート』。
コロ: それそれ。クリアーというと陳腐な表現だけど、
なんていうのかな、氷の上を滑るようにスムースなんだよ。
カル: ビル・エヴァンスの『Waltz for Debby』の
PREMIUM HQ-180盤もやばかったんでしょう。
コロ: やばいなんてもんじゃないよ。ライブより生々しいし、拍手でさえも名演。
たぶん録音されたニューヨークのジャズクラブ〈ヴィレッジ・ヴァンガード〉より
いい音だよ。
ボクも持っているけどこんな感じには聴けないですって言ったら、
「同じように聴けたら商売になりません」だって。
カル: 奥行き感が違うのは、きっと何か秘密があるんだよ。
コロ: スピーカーケーブルが純銀なんだって、
ブラシの音やベースの輪郭がすっきり、はっきりするのは、
ケーブルのおかげらしいけど……。
カル: まあ、ケーブルだけでなくて、オーディオ機器を含めて、
お店自体が楽器なんだろうね。
お店に飾ってある上原ひろみさんとのポートレートのサインに、
「継続は力なり」と書いてあるけど…。
コロ: 最近の、イヤホンで聴く若い人たちのリスニング環境に憂いたりと、
時代に生き残れるかと弱気になる檀さんへの励ましのメッセージなんだとか。
カル: 同感! 〈ハァーミット・ドルフィン〉という名機だもの、
ずっと鳴っていてほしいな。
information
ハァーミット・ドルフィン
住所:静岡県浜松市中区田町326-25 KJスクエア2F
TEL:050-5307-3971
営業日時:[ランチ]金・土・日曜 11:30〜14:30 [バー]金・土曜 19:00~23:00
*営業日、定休日などはホームページを参照。
Web:ハァーミット・ドルフィン
【SOUND SYSTEM】
Speaker:JBL4344
Power Amp:CUSTUM(based on McIntosh)
Pre Amp:CUSTUM
Turn Table:LUXMAN VS300
そのほか秘密機器あり。
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
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