連載
〈 この連載・企画は… 〉
ジャズ喫茶、ロックバー、レコードバー……。リスニングバーは、そもそも日本独自の文化です。
選曲やオーディオなど、音楽こそチャームな、音のいい店、
そんな日本独自の文化を探しに、コロカルは旅に出ることにしました。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者
『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多
音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
熊本県熊本市。
コロンボ(以下コロ): いよいよ九州上陸。
ジャズ喫茶の見本のようなイカしたお店が熊本にありました。
カルロス(以下カル): 熊本はジャズ関連のお店が多いよね。
ライブなんかもにぎやか。
コロ: ここ〈Jazz Inn おくら〉も月に10本くらいのライブをやっているんだ。
ミュージシャンも九州ツアーを福岡の〈ニューコンボ〉あたりから始まって、
久留米→熊本→鹿児島と縦のラインでまわるんで、その影響もあるみたいよ。
カル: 熊本にはわりかし、いまでも残っているジャズのお店が多いんでしょう?
コロ: 〈Jazz Inn おくら〉はこの12月で43年だって。
それでも店主の小倉さんは「ボクはこの業界では若いほうにあたるから」と(笑)。
オープン当時は熊本のアーケード、「上通」の果てと言われたそうだよ。
カル: もはや最古参であり、最若手って存在ってことだね。
コロ: メインのアーケードの「上通」はディープな「下通」と違って、
若い人が多いんだ。
カル: 熊本大学も近いし、学生のまちって感じだったようだね。
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コロ: そもそもはジャズではなくて、オーディオに没入した結果として、
この世界に入ったそう。
カル: 電気好きの、ラジオ少年だったのかな?
コロ: ジャズにハマるきっかけは、熊本での大学時代の73年、
時を同じくして、福岡にマイルス・デイヴィスとサンタナが来たんだって。
どっちに行こうかと迷った末、マイルスを選び、それ以来ジャズにずっぽり。
カル: サンタナに行ったら、また違った人生だったんだね。
サンタナの73年の初来日ツアーといったら、
のちに「ロータスの伝説」としてライブ盤になった、あのツアーだよね。
コロ: そうそう、横尾忠則による22面体ジャケット!
カル: でも行ったのはマイルスだった。
コロ: 本人のうっすらした記憶によると『On the Corner』の頃のマイルスで、そりゃ、ガツーンと来ただろうね。
カル: コーキー・マッコイの『On the Corner』のジャケットのイラストも
イカしてるよね。ヘタウマの生みの親みたいな筆致で。
コロ: そんなこんなで40数年の歴史の片鱗はお店のそこかしこに見られる。
そもそも赤レンガの佇まいがマイルスのジャケットのようだし、住まいのようでもある。
カル: タバコに燻された感(条例により現在は店内禁煙)もたまらないよね。
ザ・昭和のジャズ喫茶って感じで。
店内もそうだけど、レコードジャケットの背もすっかり燻されている。
コロ: なかなか、このやれたヴィンテージ感は出せないよ。
フォトグラファーのJFKKは「本物はどこをどう撮っても絵になる」って大喜び。
カル: オーディオもこれまた年月の賜物なんでしょう。
熊本県の八代にある創業90数年の電気屋さん〈ラジオ クロネコ〉が
アンプを手がけているんだ。
コロ: パワーアンプは真空管の〈ラジオ クロネコ〉オリジナル。
管球式のCR型イコライザー・プリアンプは
〈ラジオ クロネコ〉にキットを組んでもらったんだって。
カル: 普通のまちの電気屋さんなんだけど、戦前から真空管の修理をやっているお店。
コロ: 売り上げの9割が家電の仕事なんだけど、
作業量の9割がオーディオの仕事なんだって。
カル: そりゃ、温かみのある音に違いない。スピーカーはJBL?
コロ: JBL4333A。中のコーンは入れ替えたみたい。
スピーカー内のケーブルを太くしたら、とてもまろやかになったらしいよ。
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カル: さぞ試行錯誤を繰り返したんだろうな。
コロ: 天井が漆喰で、壁がレンガだから、オーディオにはいいんだけど、
ライブには音がデッドだから、ドラムの上手い下手が出やすいらしい。
カル: 試されちゃうねー。
コロ: ピアノを入れた今のキャパは39人くらい。
トリオ時代は76人くらいは入っていたらしいけど。
カル: ライブのセッティングも撤収もマスターがせっせとやるんだってね。
で、昼間はコーヒーも出す文字通りのジャズ喫茶。
コロ: コーヒーはこれまた熊本の老舗〈まる味屋珈琲店〉のスペシャルブレンド。
しかも丁寧にドリップ。浅めのシティローストでジャズ喫茶とは思えない軽さなんだ。
マスターが「よそのジャズ喫茶のおやじと違うのは
パット・メセニーとかをかけるところ」っていってだけど、
なるほど、このコーヒーはパット・メセニーによく合う。
カル: 笑。ピアノでも軽快な感じが好きなんでしょう。
トミー・フラナガンとか。
コロ: よくかけるみたいよ。ハンク・ジョーンズとかもね。
カル: ちなみにお店のクロージングの曲はどんな感じなの?
コロ: ビリー・ホリデイの「I’m a Fool to Want You」を
ステレオからモノラルへと連続で。
カル: 哀愁たっぷり。晩年の出ない声が切なくて、切なくて。
コロ: でも、気分がどうにも暗くなるから最近はやめたみたい。
カル: あらあら。
information
Jazz Inn おくら
住所:熊本県熊本市中央区南坪井1-12
TEL:096-325-9209
営業時間:15:00~24:00
定休日:火曜(不定休)
Web:Jazz Inn おくら
【SOUND SYSTEM】
Speaker:JBL4333A
Power Amp:CUSTOM (熊本県八代市ラジオ クロネコ・オリジナル)
Pre Amp:CUSTOM (ラジオ クロネコにてキット組む)
Turn Table:audio-technica AT-LP7
CD Player:DENON DCD-1600NE
そのほか秘密機器あり。
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
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