連載
posted:2023.2.17 from:神奈川県茅ヶ崎市 genre:エンタメ・お楽しみ
〈 この連載・企画は… 〉
ジャズ喫茶、ロックバー、レコードバー……。リスニングバーは、そもそも日本独自の文化です。
選曲やオーディオなど、音楽こそチャームな、音のいい店、
そんな日本独自の文化を探しに、コロカルは旅に出ることにしました。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者
『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多
音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディスティネーションは
神奈川県茅ヶ崎市。
コロンボ(以下コロ): 茅ヶ崎の宮治淳一さんのお店に行って来たよ。
カルロス(以下カル): 宮治さんって、あの“日本一のレコード大好き男”の?
コロ: そう、“めったにないマニアックな音楽番組”
『宮治淳一のラジオ名盤アワー』の宮治さん。
山下達郎さんのラジオ番組『サンデー・ソングブック』の
新春放談でもおなじみ。
〈BRANDIN〉っていう茅ヶ崎のすてきなカフェだったよ。
カル: 藤沢に住んでいた頃、行ったことがある。10年くらい前かな。
レコードライブラリーみたいになっていたので、ディグろうかと思ったんだけど、
あまりに多過ぎてどこから見たらいいのかわからなくなって、やめちゃった。
コロ: お店だけでも1万枚はあるからね。
そもそも、レコードの重みで家が傾いてきたので、ここを始めたらしいよ(笑)。
カル: ボクが行ったときは、帰り間際に宮治さんが散歩から戻って来て、
あまりに気さくでフレンドリーだったので驚いたよ。
“サザンオールスターズの名づけ親”ってことで、
勝手にボクがハードルを上げてしまった。たから余計に。
コロ: 普通にいるから驚くよね。うれしいけど、たしかに緊張する。
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カル: 宮治さんがお店の選曲しているわけじゃないんでしょう。
コロ: 宮治さんはもっぱらレコード整理に明け暮れているみたい。
お客さんが棚からレコードを選んで、かけてもらうというスタイル。
なんたって、レコードのかけ方を知らない若者がいるらしいよ。
レコード盤のレーベルのほうに針を置いたりするんだって。
カル: レコード世代ではないからしょうがないね。
でもレコードに興味を持ってもらえるのはいいこと。
コロ: とはいえ、曲はよく知ってるみたい。
カル: サブスクのおかげでそれなりの基礎知識はあるんだろうね。
コロ: サブスクで聴いた曲をレコードで聴きたくなるんだって。
アナログの音でね。
それもアルバム単位でなくて、あくまで曲が主体らしいよ。
カル: レコードといえども、オンデマンドなんだ。
曲主体といえば、宮治さんもこの間、
『サンデー・ソングブック』で”楽曲オタク”だって言ってた。
コロ: アルバムより曲、アーティストより楽曲。
好きな曲が実はオリジナルじゃなかったなんて知っちゃうと、
もう我慢ができずに、地の果てまで掘り進めちゃうんだって。
カル: そのあくなき楽曲主義が
『ポップ・ロック・ナゲッツ』や『ドゥー・ワップ・ナゲッツ』シリーズなどの
コンピレーションCD制作の源泉なんだろうね。
コロ: 昔のコンピレーションといえば、
ヒット曲がたんまり入っているものだったけど、
宮治さんのコンピは知らない曲がいっぱい入っていて、
ありがとうって感じだもの。
カル: さぞかし契約関係のクリアが大変だっただろうね。お気持ち察します。
ところで、宮治さんが好きなレコードってなんなんだろう。
コロ: シングル志向なのでオムニバス・アルバムが好きみたいだね。
出してくれたのは〈ロス・リーダー・シリーズ〉の
『The Big Ball』という2枚組のオムニバス。
通販のプロモーション用のサンプルなんだけど、有料。
でもたった2ドル。
ニール・ヤングやビーチ・ボーイズとかも入ってるんだ。
1曲聴かせて、アルバムに誘導しようっていう魂胆だったらしい。
カル: 販促ツールなのに通販なんだね。
もちろん、売れてないアーティストの曲も入っているんでしょう。
コロ: Fifth Avenue Bandなんかはこのレコードで知ったそうだよ。
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カル: そうそう、ジュークボックスもあったけど、まだあった?
コロ: あるある、1曲100円でまだまだ現役。
曲のメニューを覗いたらディランもドアーズも入っているけど、
達郎さんもユーミンも、茅ヶ崎ということで南佳孝の「モンローウォーク」もあり。
カル: 聞くところによると日本製なんでしょう?
コロ: 〈TSUGAMI・AMI〉っていうブランドで、
正確にいうとハーフというか、日米合作。
外側の箱が〈津上製作所〉というところで、
レコードなどを送る心臓部は〈AMI〉という
アメリカのジュークボックスメーカーのものだそう。
中を見たらアンプは〈SANSUI〉だったんだって。
カル: やっぱり、いなたい音がするのかな?
コロ: 宮治さん曰く、
CDがパチンコ玉を30個くらい投げつけたようなシャープな音だとすると、
ジュークボックスは、ドッチボールをドーンと投げたような、
ボーリング場とかのいかにもアメリカンな音だとか。
カル: ジュークボックスには60年代の曲かー。
7インチでも構造上、
いわゆるドーナツ盤という穴の大きなものしかかからないんでしょう。
コロ: そうらしいよ。昔のアメリカのシングル好きな宮治さんにはぴったりだね。
シングル志向になったのは、レコードを買いたく買いたくてという青春時代には、
お金がなくてシングルしか買えなかったからなんだって。
LPなんか買おうものなら4か月くらい飲まず食わずだったとか(笑)。
カル: きっと、その頃のトラウマというか怨嗟だね。復讐かも。
なんか甘酸っぱくて、楽しそうなお店。
コロ: 最近は、若い子を含め、いろいろなお客さんが来るけど、
初めて会った人でも、どんなに年齢差があっても、1曲がきっかけで話が弾む。
まるで、10年来の知り合いのようにね。
カル: 音楽のいいところはそこだね。10年ぶりにまたいってみようかな。
information
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
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