これまで5シーズンにわたって、
持続可能なものづくりや企業姿勢について取材をした〈貝印×コロカル〉シリーズ。
今回からは、刃物やキッチン用品などの
商品企画・デザインを手がける貝印株式会社のスタッフが、
コロカル編集部と共に日本全国の未来志向のクリエイターを訪ねて、
ものづくりの技術から、デザインフィロソフィー、
ビジネススキームの話まで引き出していきます。
九州新幹線800系〈つばめ〉やクルーズトレイン〈ななつ星 in九州〉など、
JR九州の鉄道関連の仕事で有名なデザイナーの水戸岡鋭治さん。
最近では横浜駅から伊豆・下田まで走る豪華列車〈ザ・ロイヤルエクスプレス〉などの
デザインも手がけた。
昨年、長良川鉄道の観光列車〈ながら〉を手がけたときは、
食堂車の展示スペースに物販コーナーを設け、貝印の商品を陳列して販売した。
列車が走る場所の地域性を考える水戸岡さんだけに、
岐阜に拠点を置く貝印の商品は適していた。

週末を中心に運行している長良川鉄道の観光列車〈ながら〉。

〈ながら〉もり号の客室イメージイラスト。
「包丁などの製造から始まったメーカーだと思いますが、
今では美容ツールにも進化している会社ですよね。
うちでも鍋を使っていますよ」と水戸岡さん。
実際にその〈ながら〉に乗ったという
〈貝印〉商品本部デザイン室チーフマネージャーの大塚 淳さんは、
なんとお子さんが水戸岡さんの大ファン。
毎晩、水戸岡さんの著作『ぼくは「つばめ」のデザイナー』を読み聞かせしているという。
そこで、貝印としても、大塚さん個人としても縁の深い水戸岡さんを訪ねた。

大塚さんが持参した水戸岡さんの著作『ぼくは「つばめ」のデザイナー』。

2004年3月に生まれた九州新幹線800系〈つばめ〉。
水戸岡さんはもともとイラストレーター。
しかし次第にJR九州の車両デザインの仕事に携わるようになり、
以降、話題となる列車デザインを数多く手がけている。
水戸岡さんの話を聞いていると、すべてが当たり前のようで、だからこそ普遍的。
突き刺すようなことではなくボディブローのように効いてくる。
「ミュージシャンズ・ミュージシャン」ならぬ
「デザイナーズ・デザイナー」という言葉があるならば、
水戸岡さんのような人を指すのではないか。デザインの職人とも思える。

九州新幹線800系〈つばめ〉の木製シートを配したゆとりのある座席イメージ。
水戸岡さんのデザインは、いわく「自己表現ではなく代行業」。
すべては利用者や公共のためである。
「お客様にとっては、美しく、楽しく、おもしろく、
リーズナブルでなければなりません。
しかし、それらをただ積み重ねていくだけだと予算が膨らんでしまいます」
予算もスケジュールも決まっているなかでどうしていくか。
その答えは、自分たちでやること。そしてその能力をアップしていくこと。
「能力をアップするためには、まずは知ることです。
人より多くの色を知っている。多くの形を知っている。多くの素材を知っている。
多くの経験がある。長く生きている、とか(笑)」

いまでも全国を飛び回っている水戸岡鋭治さん。
たとえば電気屋さんは電気パーツや配線に詳しいし、
八百屋さんはたくさんの野菜や調理法を知っている。
同様に、デザイナーはデザインの要素(言語)を人よりたくさん知っていなければならない。
「経験といっても、ただの経験ではなく成功体験・感動体験でなくてはなりません。
その数がその人の感性に比例します。
人は感動体験を求めて生きています。思い出の量が人生の幸せをつくるといえます。
すると人にもいい思い出になる感動体験を提供したくなる」
利用者の立場に立つということを徹底している水戸岡さんだが、
それでも迷ったり、ブレてしまったりしそうなときは、
「子どもたちのため、次世代のため」と考える。
「子どものときにどういう環境だったか、
どういう人、コト、モノの経験をしたかというのは、
一生を左右する可能性があります。
無意識で見たもの、聞いたもの、感じたものが掘り起こされるのです。
ぼくたちは最高の舞台をつくる義務があるし、
子どもたちはそれを享受する権利がある。
人は感動的な舞台だと、おのずと演技をしてしまうものです」
人はいい環境を与えられると、みずから成長する。
するとその体験を伝えるため、次代にも好環境が整う。
こうしたスパイラルをつくるのもデザイナーの役割なのだ。

〈貝印〉商品本部デザイン室チーフマネージャーの大塚 淳さん。