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連載

備前市・頭島、岡山の最高の素材で
つくる極上のリゾット。
イタリアンシェフ、寺田真紀夫さん

BIZENうつわバー
vol.002

posted:2017.9.22   from:岡山県備前市  genre:暮らしと移住 / 食・グルメ

PR 備前市

〈 この連載・企画は… 〉  備前にゆかりのある人が店主となり、食やうつわを通じて人の交流を生み出す場(バー)となる。
そんなプロジェクト〈BIZENうつわバー〉がいま、備前市で新しく生まれようとしています。

writer profile

Asako Otomo

大友麻子

おおとも・あさこ●東京生まれ。上総掘りと出会い日本とフィリピンで井戸掘りに従事。フィリピン残留日本人問題などに関わったのち、ライター・編集者に。游学社(当初は編集プロダクション・現在は出版社)にて、さまざまなものづくりに携わる。若松プロダクションでの映画づくりにも参加。ものづくりが好き。

credit

撮影:池田理寛

瀬戸内に浮かぶ日生諸島。都会の喧騒から遠く離れて

備前市に在住、あるいは備前にゆかりのある人が店主となり、
食やうつわを通じて人の交流を生み出す場、〈BIZENうつわバー〉。

連載第2回目は、岡山の食材から究極のひと皿を創作し続ける
イタリア料理のマエストロ・寺田真紀夫さん。
寺田さんの店〈kashirajima restaurant cucina terada〉を、
備前市・頭島に訪ねた。

姫路駅で山陽新幹線を降り、山陽本線で播州赤穂(ばんしゅうあこう)駅へ。
そこからさらに、2車両だけのローカルな赤穂線に乗り換えた。
山陽の田園風景の中をローカル列車はひた走る。

無人駅をいくつも通り過ぎ、刈り入れのときを待つばかりの
黄金色に実った田んぼに見とれているうちに目的の日生(ひなせ)駅に到着。
ホームに降り立つと、秋の午後のやわらかな日差しに輝く
瀬戸内の海が目の前に広がっていた。

日生と鹿久居島をつなぐ〈備前♡日生大橋〉は2015年に開通したばかり。

日生駅からさらに車で10分。
できたばかりという〈備前♡日生大橋〉を渡り、
野生の鹿たちが生息する鳥獣保護区を持つ鹿久居島(かくいじま)を通り抜け、
さらに頭島(かしらじま)大橋を渡ると、やっとのことで目的地の頭島に到着である。
日生諸島のほぼ中央にある、ぐるり一周が4キロほどの小さな島だ。
島を渡る橋の両側には、牡蠣の養殖場が広がっていた。

〈備前♡日生大橋〉から見る牡蠣の養殖筏。日生は瀬戸内でも有数の牡蠣の産地として知られている。

瀬戸内特有の、さらりとした甘い潮の香りが鼻をくすぐる。
人懐っこい猫が鳴きながら近寄ってきた。
漁港の脇では、牡蠣の幼生(赤ちゃん)がびっしりとついた
ホタテの貝殻を縄に通している女性がひとり。
これから養殖場に仕込まれていくのだろう。
秋晴れの午後、頭島には、ゆっくりと穏やかな時間が流れていた。

姫路からわずか1時間ほどだが、日常の喧騒から遠く離れた静かな小島で、
これから出会うシェフのひと皿へのワクワクが次第に高まっていった。

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岡山の食材で最高のひと皿をつくる

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岡山のよさを伝える、表現者としての料理人

頭島漁港から路地に入ると、オリーブ色の趣ある〈kashirajima restaurant cucina terada〉の建物が見えてくる。

漁港から細い路地に入るとすぐ、ひときわ目立つオリーブ色の建物が目に入った。
かつては島の郵便局だったという趣ある建物が、
地元の旬の食材から魅惑のひと皿を生み出し
国内外の舌を魅了し続ける寺田真紀夫さんの新たな挑戦の場、
kashirajima restaurant cucina teradaである。

厚みのあるやわらかな木の扉を開けると、無垢のフローリングの床に淡い照明。
センターには長いテーブル。左手には清潔でシンプルなオープンキッチン。
余計な飾りの一切ない静かな空間が出迎えてくれた。

かつては郵便局だったという店内は、どこか懐かしさ漂うシンプルで温かな空間。

寺田さんが長年腕をふるってきた〈ristorante Terada〉は岡山市内にあった。
ここ、備前市日生の頭島に拠点を移したのは2016年9月のことである。

「料理とは、僕にとって表現の手段。料理人は、それぞれの地元のよさを
人々に伝える表現者としての役割を担っているはず」

と語る寺田さんは、岡山市内の店でも地元の食材にこだわり続けた、
情熱の料理人である。

岡山生まれ、岡山育ちという寺田さん。
その自分が料理人として何かを表現するならば、
岡山の食材を最高なかたちのひと皿にすること。
そう信じ、よりよい食材を求めて生産者たちとの信頼関係づくりに注力したという。

「24年も前のことになりますが、僕が料理人を志すようになった当時、
手にとったイタリアのシェフたちの本に、僕はとても心を動かされました。
それらは、料理の本でありながら、シェフの地元の海や山の景色、
生産者たちと肩を組むシェフの姿など、シェフ自身がいかに地元を愛し、
いかに地元と深くつながっているかを感じさせる写真がたくさん載っていたのです」

自分自身をかたちづくってきた岡山の気候、風土、食、気質。
それらを料理というひと皿で表現する。
それが、自分の料理人としてとるべき方向性だと確信したのだという。

カウンター越しにシェフの手さばきが見えるのもうれしい演出。

「2000年、岡山市内に自分の店をオープンしたばかりのときは、
手打ちの生麺パスタなどもつくっていました。
でも、そのうち、わざわざ自分がつくらなくても、
よそのお店でも食べられるものではないか、と思うようになった。
それよりは、岡山のおいしい米を使った特別なひと皿をつくりたい、と思ったんですね。
それが、僕のスペシャリテがリゾットになっていった理由です」

岡山の土壌が育んだ食材の数々で、最高のひと皿をつくっていくという決意。

島の景観に溶け込んだオリーブ色の木製の外壁に、シンプルながらひときわ目を引くお店の看板。

「別に、岡山の食材が常にナンバーワンだ、というつもりはないですよ。
岡山の生産者の皆さんとともに日本一のクオリティを目指していこう
という意気込みは持っていますが、一方で、日本の全国各地に
それぞれが誇るすばらしい食材があるであろうことは認識しています。

とはいえ、ほかの地域の食材のことを僕はそこまで詳しく知りませんから、
わざわざ取り寄せてメインに使おうとは考えません。
全国的に知名度のある食材を集めて料理をつくるのではなく、
岡山にある素材で、何ができるのかを突き詰めていきたいと考えているからです」

そして、2016年9月、寺田さんは備前市日生諸島の頭島に、
その拠点を移すという大きな決断を下す。

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出会ったことのない食材に出会う

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よい食材を追求し、生産地のできるだけ近くへ

島の港には小型の漁船が並び、中腹にはみかん畑が広がる。海と陸の恵み豊かな島である。

「生産者に近づけば近づくほど、
消費地からますます遠くなるのでは、という意見もありますが、
何か、そうした計算に基づいて動いているわけではありません。
料理人として、いいものをつくりたいからここにいる。
ここにいれば、最高の食材に出会えます。
それらの食材があってこそ、自分のリストランテは成立するのです」

実際、岡山市内にいたときには知ることのなかった食材に、
日生漁港の競り場で出会うことになる。

「天然のハカマエビやスクモエビなど、ここ地元でなければ
お目にかかることのできないような、非常に良い状態の食材たちに出会えました。
目の前の海で揚がったものですから、どれもこれもピチピチと鮮度は抜群。
小さなメバルですら元気よく泳ぎ回る状態で競りにかけられますからね。
都心の市場ではまず考えられないことですが、
ここでは生きている魚たちしか流通していません」

頭島漁港の脇では、ホタテの貝殻についた牡蠣の幼生が、養殖筏へと運ばれるのを待っていた。

もはや、見知らぬ業者を介して流通しているような
死んだ魚や遠方の食材は怖くて使えない、と寺田さんは言う。

「目の前で生きた魚が揚がり、競り落としてもらって購入する。
ここ日生ではブラックボックスがどこにもないんです。
野菜も同様です。生産者の方たちと顔の見える関係で
信頼関係を築くべく心を注いでいるので、“ください”と言えば、
こちらの予想のさらに上をいくようなとびきりいいものを提供してくださる」

決してアクセス至便とはいえない、瀬戸内の小島に移転して1年。
とびきりの食材に出会えたとはいえ、移転当初から順調だったわけではない。
寺田さんは、屈託なくほほえみながら語る。

「移転当時は、岡山時代の料理の延長としてやっていましたが、
何か違和感がぬぐえずにいました。何かが違う。
何が違うんだろうと考え続けて、気づいたんです。
岡山時代と同じことをやっていては、当時よりも劇的によくなっている
ここの食材を使いこなすことはできないんだ、ということに」

備前市の食材について語るとき、寺田さんの声には熱が帯びる。

例えば、岡山時代に愛用していたコンベクションオーブン。
厚みのある食材にも均一に火を入れることができるので重宝していたという。
しかし、日生で揚がった魚たちに使ってみたところ、違和感が増した。

「火の入り方がおもしろくないんですよね。
なぜだろう、と考えた末に出た結論が、
生きている食材には、生きた火の入れ方をしなければ、
食材の勢いを生かすことができないのだ、ということ。
日々、大きさや厚みの異なるさまざまな生きた素材が入ってくるのですから、
それらの素材の勢いを生かすような火の入れ方をすべきなんだ、と気づいたのです」

焼いていくというよりも、やわらかい火で水分をじゅわっと抜きたい、
と考えた寺田さんが、最終的に選んだのは「炭」。
素材の形ごとに絶妙な焼きムラができて、日々変化する食材が
躍動する生命の勢いそのものを表現してくれるのだという。

自然界の豊かな恵みを、それぞれの状態に適した最高の状態で提供する。
生産地の目の前だからこそできるひと皿を追求する。
これこそ、寺田シェフの真骨頂といえるだろう。

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シェフのスペシャリテ登場!

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備前焼の皿で備前の恵みを表現

寺田シェフのスペシャリテであるリゾット。ハカマエビと白貝に、カラスミの風味がほんのりとアクセントを添える。

この日、取材に訪れた私たちのためにシェフがつくってくれたひと皿が、
寺田シェフのスペシャリテであるリゾットだ。

今朝、日生漁港に水揚げされた、プリプリのハカマエビと白貝。
さらに、シェフの包丁が小気味よい音をたててスライスしたのが、
生産量日本一を誇る岡山の代表的な食材、マッシュルーム。
包丁の音とともに、ブラウンマッシュルームのよい香りがぷんと漂った。
そして地元で栽培されたバジル。米はもちろん岡山県東備地区産のものである。

水揚げされたばかりの新鮮な魚介とともに、地元のマッシュルームやバジルが鍋の中で優しく踊り、えもいわれぬいい香りが漂う。

寺田さんのリゾットはお米の粒が立っている。
スーブの味をしっかりとお米に吸わせてリゾットにするのではなく、
お米の香りや食感も生かせるよう、スープとお米を軽やかに融合させている。
このほうが、日本特有のお米の粘りも必要最小限となり、
全体の仕上がりがすっきりと軽くなる。お米の存在感も味わいながら、
海の幸や山の幸の香りをともに楽しむことのできる、まさしく極上のひと皿だ。

「岡山は、実は立派な米どころ。岡山で多く栽培されている
〈ヒノヒカリ〉や〈きぬむすめ〉という銘柄もありますし、
寒暖の差がある県北部の〈あきたこまち〉や〈コシヒカリ〉は
粒が小さく引き締まっていて、私のリゾットには相性が良いのです」

しっかりとお米が存在を主張するリゾット。スープとお米の絶妙なバランスが寺田シェフならではの極上のひと皿に。

岡山の各地では、こだわりをもった生産者たちが、
コツコツとよい食材をつくり続けている。
市場に大量に出回るわけではないけれど、質のいい岡山の逸品たち。

「岡山県気質とでもいうべきものでしょうね。
よりよいものをつくるためならば労力を厭わない。
その気質があったからこそ、栽培に難しいといわれる桃やマスカットなどを
コツコツとつくり続け、岡山を代表する産物に育ててきたのです」

その岡山気質が育んだもうひとつのものといえば、備前焼だろう。
備前の肥沃な土と、土に向き合い続けた匠たちの技から生まれた備前焼。
ひとつとして同じものは存在しない生命力の溢れる器は、
多くの人たちを魅了し続けてきた。

備前の食のアンバサダーに任命された寺田シェフ。次なる挑戦は、備前焼とのコラボレーションだ。

「岡山で料理人としてスタートしたときから、
備前焼にはいつか向き合わなくてはならないときがくる、とは思っていました。
でも、備前焼のようなパワーのある器と向き合うには覚悟が必要で、
そこにたどり着くには時間が必要だとも思っていました」

備前の豊かな自然が生み出すエネルギッシュな創作イタリアンと、
備前の気候風土が育んできた匠の技・備前焼。
生半可な気持ちでは備前焼とは向き合えないと感じていた寺田さんだが、
備前焼と出会うべくして出会ったとも言えるだろう。

今年の11月にも、備前市内にて〈BIZENうつわバー〉が開催される。
備前焼作家の渡邊琢磨さんの器と寺田さんの料理とのコラボレーションイベントだ。

「そのイベントでは、当日に揚がった旬の魚介で
備前焼に乗せる一品をつくることになるでしょう。
器のパワーに負けないものをつくりたいと思っています」

備前焼の器の上で、寺田さんの料理はさらなる生命力を溢れさせる。
備前の魅力を国内外へと発信する美しい食のひとつの完成形ともいえるだろう。

「備前焼は、自然の豊かさと人の情熱との結晶のようなもの。
そして、それは僕の料理に対する姿勢と非常にシンクロしています。
自然ってなんてすごいんだろう、という気持ちが僕の料理のベースにあります。
この豊かな自然を表現するために料理人となったわけですから」

瀬戸内の豊かな自然に囲まれ、備前市日生諸島の小さな島の中心で、
今日も寺田さんは厨房に立ち、その日に日生港で水揚げされた魚介たちと
向き合っている。岡山の底力を世界に向けて発信する表現者としての情熱を胸に、
ここ備前でしか生まれない奇跡のようなひと皿をつくり続けているのだ。

information

map

kashirajima restaurant cucina terada 

住所:岡山県備前市日生町日生2766-3

TEL:0869-92-4257

営業時間:12:00~、17:00~(要予約)

*予約はHPからのみ。電話は問い合わせ専用。定休日は予約スケジュールにて要確認。

Web:http://www.okayamaterada.com/

event

map

うつわ​とくらす​ BIZEN

開催日時:9月23日(土)11:00~17:00、​9月24日(日)10:00~17:00​

イベント内容:“備前焼×暮らし”をテーマにしたイベントが大阪・天王寺で開催。6名の備前焼作家のほか、岡山で活躍するガラス作家や木工作家も登場。備前焼を使った多肉植物の寄せ植えや、備前焼とコーヒーを楽しむWSも開催され、さまざまな角度から備前焼を楽しめます。来場者でアンケートに回答いただいた方には、抽選でプレゼントもあります。(ワークショップは事前申込制です。詳しくはWEBページをチェック!)ぜひこの機会に自分の「暮らし」を見つめ直してみませんか?

Web:Facebook

Web:うつわとくらす

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