連載
posted:2017.11.17 from:徳島県三好市 genre:暮らしと移住 / ものづくり
sponsored by 徳島県三好市
〈 この連載・企画は… 〉
ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。
writer profile
Chizuru Asahina
朝比奈千鶴
あさひな・ちづる●トラベルライター。“暮らしの延長線の旅”をテーマに、食の生産地、ハーブ、おいしい民宿、エコツーリズム、コミュニティなどを多角的に取材。ふだんの暮らしに新しい扉が開くような、わくわくする場所や事柄に出会う旅のかたちに興味があります。 Holistic Travel
photographer profile
Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。東京での仕事を続けながら、移住先探しの旅に出る日々。自身のコロカルでの連載『暮らしを考える旅 わが家の移住について』『美味しいアルバム』では執筆も担当。
取材班との待ち合わせ場所にやってきた井下奈未香(いのした・なみか)さんは、
つなぎを身にまとい、長年農に従事する人といった出で立ちだった。
彼女の手がける作物は、ブドウ。といっても食べるためのものではなく、
ワインをつくるためのもの。
ワインに惚れ込んでソムリエの資格を取得し、
奈良市内でワインショップを営んでいた奈未香さんは
結婚を機に30代半ばで徳島県三好市に移住した。
現在、長年の夢だったワイナリー設立に向けてブドウ栽培をしている。
市役所やスーパーなどがある市の中心地から車で約20分。
山を上がったところにある集落にたどりつくと、
谷を挟んだ向かいの山の上にも人の営みが見えた。
3年前、彼女はそのような傾斜地の一角に、ワイン用のブドウを180本植樹した。
3年前、奈未香さんが奈良から徳島に引っ越すことを決めたとき、
ワイナリーを始めると周囲に伝えたら、無謀だと大反対されたそうだ。
なぜなら、これまで徳島県でのワイン用ブドウ栽培に関する前例がなく、
どの品種がこの土地で栽培できるのか予想がつかなかったから。
ブドウが苦手とする湿気の多い土地ということで、周囲には先の苦労が目に見えていたのだろう。
「絶対無理、やめとけと言われるほど、やる本人が無理とは言っていないから大丈夫、
と思うようにしました。確かに、カビ系の病気や虫とは日々格闘していますけどね」
奈未香さんは、まずはブドウを家族として扱い、ともに暮らしていく生活を目指した。
基本的に肥料や農薬は使わないが、病気の予防には気をつける。
「土もブドウも日々見続けていないと相性が良いとか悪いとかわかりません。
植えてしばらくのブドウは赤ちゃんと一緒なんです。
必要に応じて薬をあげるなど対応してあげないと。
だから、こういう育て方でこんなワインにしてやると決めつけないことにしています」
幸いなことに畑を借りた緩やかな傾斜地は、四季を通して寒暖差があり、
北東から風が抜ける。ブドウ生産の条件として、まったくダメというわけではない。
定植して3年目を迎えた今年は8月にヤマソーヴィニヨン15キロを収穫し、
10月初旬に試験醸造を終えた。
来年には、徳島県初のワインがリリースされる予定だ。
現在はたったひとりですべての作業を行う彼女だが、
どんな作業もうれしくてしょうがないと笑顔を見せる。
「ワインのためと思うと苦労は感じないですね。自分でやりたいことをやっているから」
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奈未香さんには、夫と4人の子どもがいる。
奈良でワインショップを経営しながら、
ふたりの子どもをシングルマザーとして育てていた彼女は、
夫の井下泰憲さんと出会い、結婚を決意した。
ただし、泰憲さんは出身地である三好市に戻らなければいけない。
そこで、奈未香さんは、泰憲さん、ワイン、子ども、愛するものがすべて
離れ離れにならない方法を模索してみた。
そこで思いついたのがワイナリーだった。
同時に、酒飲みが多く飲み屋も多いのになぜかワイン文化が根づいていないこのまちで
ワインの魅力を伝えることができたら、と市内にショップを開くことを考えついた。
新しい世界を知るには出会いのシチュエーションやガイドの存在が大切だ。
奈未香さんは、20代のときに飲んだあるワインに衝撃を受けた。
そのことでワインを意識するようになったという。
さらに、時間をおいて、別場所で飲んだワインで次なる衝撃を受けた。
調べてみたら、2本とも同じ畑からとれたブドウでできたワインだったことが判明し、
その体験がワインの知識を深めるきっかけとなった。
「驚きました。まさか同じ畑のブドウからできたワインに、数年おいて再会し、
同じように感動するなんて。これはもう、ワインをやるしかないと思いました」
ワインという文脈を自分の生きる指針とした彼女は、
結婚で移住することを当初躊躇したが、それを逆手に受け取ることでチャンスにし、
自ら手繰り寄せるように夢を叶え始めている。
ちなみに、ワイナリー設立のための助成金や補助金は一切申請しておらず、
すべて自分の資金で賄っている。
「あちこち足を運んで相談してみたのですが、申請は難しかったですね」
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もちろん、畑を借りるのも簡単なことではない。
地元出身の泰憲さんや家族のサポートによって畑が見つかったので、
移住してすぐにブドウ栽培に着手することができた。
早くにとりかかれたのは、いずれワイナリーを手がけたいと
知識や経験を積んできた彼女の努力がベースにあったからこそでもある。
出産からまだ半年経っておらず、4人の子育てをしなければいけないが、
娘さんたちが赤ちゃんの面倒を見てくれるようになったのも幸いだった。
移住をして、意外と便利なことも体感した。
「買い物には困らないですね。ただ、いろんな情報が耳に入って、
子どもたちに将来の選択肢がいろいろあることがわかればいいなと思います」
夢に向かって一心不乱に歩んできたからこそ、
子どもやまちの未来を考えて辛口の意見もいとわない。
「三好市は、出産後から2歳まで育児用品購入補助費として
毎月5,000円が補助されるので何かと助かります。
その一方で、子どもがすぐに熱を出すので、すぐに連れていける病院ができたらうれしいですね」
自分の好きなこと、大切なことは、諦めたくない、
と確固とした思いを環境に寄り添わせながら着実に実現していく奈未香さんを、
家族も応援している。
「こんな感じですから、もしかしたらいずれ家族でイタリアに移住して
ワインをつくる、なんてこともあるかもしれませんね」と泰憲さんは微笑む。
夢に向かう選択肢はひとつだけではないことを、
身をもって体現している妻の最大の理解者だ。
彼女の愛が一心に注がれた、徳島県初のワインはどのような味がするのだろうか。
来年のリリースが楽しみだ。
information
育児用品購入補助費(三好市の子育て支援)
子育てを支援するために、三好市内で購入した育児用品代金の一部を補助します。
乳幼児1人(2歳未満児)につき月額5,000円。
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三好市へのお試し移住
「移住コンシェルジュ」によるサポート
・滞在中のおすすめプランの提案 ・移住支援制度の説明 ・最新のイベント、地域情報の提供 ・移住後の暮らしについての相談など
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TEL:090-1912-1617
Web:http://machitosora.com/otameshi2017/
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三好市移住交流支援センター(三好市地方創生推進課)
TEL:0883-72-7607
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