連載
posted:2017.10.4 from:兵庫県三田市 genre:食・グルメ / ものづくり
PR パティシエ エス コヤマ
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Chizuru Asahina
朝比奈千鶴
あさひな・ちづる●トラベルライター。“暮らしの延長線の旅”をテーマに、食の生産地、ハーブ、おいしい民宿、エコツーリズム、コミュニティなどを多角的に取材。ふだんの暮らしに新しい扉が開くような、わくわくする場所や事柄に出会う旅のかたちに興味があります。『Holistic Travel』
photographer profile
Kazue Kawase
川瀬一絵
かわせ・かずえ●島根県出雲市生まれ。2007年より池田晶紀が主宰する写真事務所〈ゆかい〉に所属。作品制作を軸に、書籍、雑誌、Webなど各種メディアで撮影を行っている。
yukaistudio.com
スイーツファンなら一度は訪れてみたい、
兵庫県三田市にある〈パティシエ エス コヤマ〉。
ショコラ専門店〈Rozilla(ロジラ)〉をはじめ、
パティスリー、マカロン&コンフィチュール専門店など
7つの店舗のあるスイーツのワンダーランドだ。
車でなければ電車やバス、タクシーを乗り継がなければ
いけない場所にあるのにもかかわらず、
連日全国から多くのスイーツファンが押し寄せるという。
なんといっても新興住宅地に位置する、ケーキを中心としたスイーツショップの
駐車場のキャパシティが100台分もあるのだから、度肝を抜かれてしまう。
パティシエ エス コヤマを全国区にしたのは、
看板商品のロールケーキ〈小山ロール〉や
エンタテインメント性のある店づくりによるところは大きい。
けれども、その名を世界規模に押し上げたのは、
オーナーシェフである小山進さんの手がけるショコラと
彼のショコラティエとしての評価だ。
小山さんは、世界最大のショコラの祭典〈サロン・デュ・ショコラ パリ〉で発表される
C.C.C.(クラブ・デ・クロクール・ドゥ・ショコラ)コンクールで
6年連続最高位を獲得し、
I.C.A.(インターナショナル・チョコレート・アワーズ)では
金賞の常連として知られている。
彼の手がけるショコラの魅力は、
素材の組み合わせの妙味にあるといっても過言ではない。
和の素材使いにも定評があり、2017年のI.C.A.アジア太平洋予選で受賞した
ボンボンショコラやタブレット(板チョコレート)のラインナップには、
完熟赤山椒やふきのとう、生姜の醤油漬け、吉野川産の青のり、
そして発酵食品の酒粕や豆腐の味噌漬けまでずらり。
一見、ショコラと組み合わせたらどんな味になるのか想像ができないようなものばかり。
さて、どのような味がするのだろうか。
ショコラトリーRozilla内にあるセミナースペース〈a・ZITTO(アジト)〉は、
まるで母親の胎内にいるかのような丸みを帯びたスペースで、
神経を研ぎ澄ませて味を利きわけるのにふさわしい環境だった。
ひと口食べてみる。食材の味はすぐにはわからない。
ふた口目は、柑橘なのか、スパイスなのかという素材の傾向が香りから伝わってくる。
繊細な味覚を持つ審査員はひと口で何が入っているのかわかるというが、
素人の舌には頭と味覚をリンクさせるのが精いっぱい。
まさか生姜をたまり醤油に漬け込んで浸透圧で染み込ませ、
フリーズドライでフレーク状にし、アーモンドのプラリネと合わせているとは
事前情報なしにひと口食べただけではピンとくる人はそう多くないだろう。
それくらい、どのボンボンショコラもショコラティエが厳選したカカオの特性と
お互いの素材を引き立て合うことに成功しているということだ。
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「(ボンボンショコラをつくるための)クーベルチュールは100種類常備しています。
約半数は独自につくっていただいたものです」
小山さんは、素材の特徴を五味(甘味、酸味、苦味、辛味、渋味)に分解して捉える
料理人的な感覚を持っている。徹底的に素材とカカオとの相性を研究、模索し、
最高のボンボンショコラへと昇華させるという。
「ボンボンショコラのひとつ、完熟赤山椒を例に挙げると、
和歌山のぶどう山椒を木の枝につけたまま完熟になったものを
枝ごと生クリームで煮出してペルーのカカオと合わせています。
これは枝ごとというのがミソで、ご年配の方の多い生産者の方々の
労力を減らすことにつながっています。
山椒はミカン科なので枝に香り成分を含んだオイルがあるので、
生産者の方には枝ごと欲しいと伝えました」
毎年、カカオの産地を訪ね歩いている小山さんらしく、
その発想は食材供給元で働く人への配慮にもつながっていた。
日々書き溜めたアイデアから、100以上の素材の組み合わせの
ショコラを創作することができると小山さんは言う。
その湧き出るような発想の源はどこにあるのだろうか。
「子どもの頃、京都のまちなかで育ち、路地が遊び場でした。
抑制されている範囲で冒険をし、よく探していろんな遊びを生み出しました。
ショコラも小さな抑制された世界なので、そこに通じるものがありますね。
抑制のなかだからこそ、その状況を最大限に生かして遊んでやろうと考える癖が
いつの間にかついていたんでしょう」
2017年度、I.C.A.に出品した39種類のショコラは、
時間や場所、自分のなかで取り決めた“抑制”のなかから
イメージをまずつくり上げ、かたちにしていった。
「まずは、表現したい味のイメージを決めます。
例えば、マニアックなつくり手のお酒に出会って感動すると、
それをショコラに使いたくなります。
そのまま使うのは難しい場合、
それっぽい味にするには果実のピューレを使えばということになるんでしょうけど、
それでは自分が感動したところとは別のものを提供することになってしまう。
だから、最初に取り決めた“自分の感動”に従ってお酒を使うことに抑制し、
素材を生かし、引き出すカカオを合わせる実験を繰り返します」
そうして一粒一粒をつくり上げていくうちに、全体の方向性が見え、
「いま自分が表現したいのは、こういうことだったのか」
と全体的なテーマがそこで初めて浮かぶという。
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エスコヤマがオープンした2003年当初、三田は現在のような住宅街ではなく、
自然あふれる丘陵地だった。
なぜ、1日8000円の売り上げにしかならないと
コンサルティング会社が判断した三田に店を構えたのだろうか?
「幼い頃、夏休みは祖母の家に1か月ほど遊びに行っていたんですけど、
緑のある気持ちのいい場所で。三田にもそれと近いものを感じたんです」
ゼロから作品をつくり出して発表する小山さんらしく、
独立して店を開いた場所は縁もゆかりもない、
ましてや周囲に大反対されるような何もないまっさらの土地だった。
子どもの頃から、グラフィックデザイナー、ミュージシャン、映画監督、学校の先生、
陶芸家、プロデューサーなどなんでもやってみたかったという小山さん。
現在は、パティシエ、ショコラティエとして
それらがすべて実現できている環境だという。
「自らの目で発見したものをおもしろいとおかんに報告したり、
試行錯誤してつくったものを発表するような子どもでした。
そういう日常が現在につながり、作品になるわけです。つくって発表して反応を見る。
ダメだったら、着目する点がずれているのかなど検証しないといけない。
子どもの頃からおもしろいことを切り抜いて
人前で発表する機会を持ったほうがいいですね」
自身の経験を生かし、子どものためのお店〈未来製作所〉をつくった。
ここは、12歳以下の子どもしか入店できないことになっている。
子どもは、ここで経験したことで「表現力」を、
さらに自分の言葉で親に伝えることで「伝える力」を身につけていく。
日常のひらめきや疑問をかたちにしていく小山さんは、
“環境づくり”はいい仕事をするための重要なファクターだという。
毎年、コンクールに出品し続けるのも、環境づくりのひとつだ。
「僕がコンクールに出続けている理由のひとつは、
審査員が僕のつくったものを食べたら来年も期待してくれる。
だから、その期待値の分だけ自分のショコラの内容もよくなるとわかっているからです」
常にトップランナーの位置を走る小山さんは、自らを厳しい状況に追い込んでいた。
「コンクールの審査員のほかオープン以来、
僕のショコラを食べ続けてくださるお客様も審査員。
毎年、期待値も味覚も上がっていくし、
それが僕の表現の畑を自分で耕すということなんです。
コンクールに出続けるということは、来年の発表できるキャンバスを
自分でつくるということです」
緊張感のあるコンクールに向けた創作活動の日々とは裏腹に、
安らぎのある三田で日常を過ごす小山さん。
地元の里山で採れる、開ききる前の野性味溢れる香りを放つふきのとうや
熟成酒粕など、とっておきの地元素材をショコラにとり入れることも忘れない。
「興味はいつもいろんな方向に続いています。
昨年念願だったペルーに出かけたとき、カカオは発酵させてショコラにするので
そこを極めていけばもっとおもしろいものができるだろうと
酒粕などの日本の発酵食品をショコラに合わせるようになりました。
すると、古代から続いていることや
日本とは異なる発酵食文化に興味がわいてきましたね」
多くの人がおもしろいと思うところを飛び越えていく小山さんの脳内は、
泉のごとくアイデアが溢れている。
食べた人の味覚の世界を広げていくようなショコラは、
つくり手の尽きせぬ好奇心と探究心から生まれているのだ。
地元三田の丘陵地のジョギングを日課とする小山さん。
今日もまた、緑のなかを走りながら次なるショコラのアイデアを考えているのだろうか。
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パティシエ エス コヤマ
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