一般社団法人ノオト vol.10
第10回目となる今回は、〈篠山城下町ホテルNIPPONIA〉をはじめ、
ノオトの古民家再生物件のほとんどに建築家として関わっていただいている、
才本謙二さんに執筆をお願いしました。
才本さんは、一般社団法人ノオトのメンバーであるとともに、
篠山を本拠とする才本建築事務所の代表として、
兵庫県をはじめ数多くの古民家再生を実施してきた、古民家再生の第一人者です。
今回は、実際の古民家再生物件を数多く手がける建築家からみた、
古民家再生に対する考え方をお聞きできればと思っています。
以下、才本謙二さんにバトンタッチします。
一般社団法人ノオト 区切りのvol.10に登場しました才本です。
vol.9までの執筆者とともに古民家に関わって12年、約200件のリノベを計画し、
100棟近く触ってきました。
話のネタは、みなさまに書き尽くされてしまいました。
コーディネーターの星野さんから、
建築家の立場から古民家改修について書いてほしいと
リクエストをもらっていましたが、
あまり面白くないので、日頃思っていることを、したためることにしました。
リノベのススメタクナイ
リノベーションとは、
『家とインテリアの用語がわかる辞典』によると、
建築物の修理、改造のこと。耐震性や省エネ性などの機能を高める、
事務所用ビルを居住用マンションに変更するなど、
既存の建物を大規模改装し新しい価値を加えることをいう。
用途変更や時代の変化に合わせた機能向上を伴う点でリフォームと区別することが多い。
と定義付けられています。
私がやっていることは、機能向上もしていないし、
まして大規模に改造もしていないのです。
今は、「快適でおしゃれな住空間なんてまっぴらごめんだ」と思っています。
しかし最初は、みなさんがやられているような真っ白な漆喰壁に間接照明と
ピカピカの無垢の床で仕上げたおしゃれなものにあこがれていました。
またそれが常道だと思っていたので、薄汚れた壁を全面塗り替えるなど、
できる限り汚いものを排除していました。
でも排除すればするほど、古民家らしさが消え去り、
いやらしい作家性が表へ出てきてしまって、とても居心地の悪いものに感じました。
ただ、私がやる物件は予算工期がないのがほとんどで、
「お金ないから」「平成の修理とわかるように……」と言い訳しながらやっていました。
現在の趣を残す改修方法を「これでいいやん」と自分の中で確信に変わったのは、
〈ささらい〉(篠山市日置 中西家)からだったように思います。
ささらいは、古民家レストランとショップからなる複合施設ですので、
それなりに改修費がかかっていますが、どこを直したかわからなく仕上がりました。
気の毒なのは工務店さんで、
「何もしてないやないか、ぼろ儲けやな」と言われてしまいましたが、
それも、
昔の佇まいのように趣のあるかたちで直せる技術があり、手間と時間をかけている証拠。
私としては、「しめしめ」と心のうちで思ったりするのです。

ささらい改修中の様子。

ささらいの改修後。趣をできるだけ残し、昔からそこにあるような佇まいに。
「建物が最も輝いた時代(=創建当時)に戻す」
と声高らかに、仕事をしてきました。
ボードに合板、床板を剥ぐと創建当時のすばらしい部材が顔を出します。
黒光りする梁に、1尺(約30センチ)近くある大黒柱の力強さに圧倒されます。
でも最近、直近のこの家の人々にとって、
都会に一歩近づいた昭和の改造こそ、
最も輝いた瞬間であったのではないだろうかと考えるようになりました。
「産まれてずっと、すすけた天井を見て育ったんだ」
「風呂炊きが一番いやだった」
「個室が欲しかった、プライバシーなんてなかったから」……
だから、すすけた天井に白いボードを張って、ガスを引いていつでも風呂に入れる。
襖を取っ払って壁をつくったから、音楽だって大きな音で聴けるんだ。
「昔の状態に戻す? 何を言っているんだ。バカじゃなかろうか!」

昭和の改造の例。合板やボードで床・天井・壁をつくる。
そうなんです、創建当時に戻すことは、家人からすればきっとバカなんです。
性能は確実に低下しています。
すすけた真っ黒な天井に払っても払っても取れない壁の汚れ、キズだらけの柱、
家全体は昼間でも暗いし、隙間風も入ってきて寒い。
ガスを止めて囲炉裏に五右衛門風呂とおくどさん(かまど)、
炭や薪を熱源にするなんて呆れていることでしょう。
よくするのがリノベでしょ、全然よくなっていないじゃないか。
大規模な工事かというとそうでもありません。
家人からバカにされつつ、昭和を取り去り現れた梁と柱を何回も雑巾で拭き取る。
壁は全面修理することなく、
欠け落ちた部分をまったく違った色の地元の土でちょこっと手直しするだけ。
我々のやっていることは、どうも一般的に定義づけられたリノベでは、ないようですね。
ただ言えることは、
時空に振れ、機能を超えるもっと大事なものが潜んでいることに気づき、
価値観を司る部分を刺激していることは確かなようです。
人の営みをむやみに取り去ることは、昭和の改造と何ら変わりませんね。
リノベとは、新しい価値を加えることだけで十分なような気がします。

天井を剥ぐと現れる創建当時の部材(集落丸山)。

才本建築事務所内のおくどさん(かまど)。



























































































