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連載

リファインされた京都の伝統工芸が
ヨーロッパで人気に。
GO ON 前編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.044

posted:2016.3.22   from:京都府京都市  genre:ものづくり / 活性化と創生

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!

writer's profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog//

ヨーロッパ目線のデントウコウゲイ

京都で伝統工芸や芸能に横串を通し、新しい動きを生み出している〈GO ON〉。
そのプロデューサーとして活動しているのは、各務(かがみ)亮さんだ。
広告代理店に勤務し、かつては海外に赴任。
日本の大手メーカーの商品をPRする役割を担っていた。

「10年間、海外、特にアジアで働いていました。
行った当初は、クルマが増えることで移動が自由になるとか、
冷蔵庫があることで食の安全が保たれるといった、
その国における日本のものづくりの意義を感じていました。
でもだんだんと国が発展してきて、状況が変わってきたんです。
これからの日本はクルマや家電を届けるだけはなく、
世界に対して新しい役割を果たすべきなのではないかと感じるようになりました」

そんなタイミングで日本に帰国することになった各務さん。
京都に赴任し、これまで海外で感じていたような、
これからの日本の役割を具現化する〈GO ON〉(ゴオン)というプロジェクトを
2012年に始める。それは日本、特に京都の伝統工芸に光をあてること。
京都であっても、日本全国と同様に、伝統工芸は衰退気味。
呉服などは、この20〜30年の間に10分の1規模まで落ち込んでいるような現状がある。

GO ONのプロデューサーである各務 亮さん。さまざまなプロジェクトを企画している。

〈Japan Handmade〉の商品。(写真提供:GO ON)

まずはGO ONのなかで、海外向けの商材をつくる
〈Japan Handmade〉というプロジェクトを、6社の職人たちへ提案した。
西陣織の〈細尾〉、竹工芸の〈公長齋小菅〉、木工芸の〈中川木工芸〉、茶筒の〈開化堂〉、
金網工芸の〈金網つじ〉、茶陶の〈朝日焼〉の6社で、
なかでも若手後継者で構成されている。
それぞれ個別には海外に打って出たり、現代的解釈の商品なども開発していた。
それでも、各務さんのような外部の存在には、構えてしまうのが京都人。

「金網つじの辻くんからは、“最初に話をもらったときは、あり得ないと思った”
と言われましたよ」

それでも地道に活動して、6社の気持ちを揃えていった。
つくられた商品は、たとえば中川木工芸のスツールや、公長齋小菅のiPhoneケース、
開化堂のティーポットやプレートなど。

「海外に持っていくときは、海外のライフスタイルに溶け込むように編集しないと」
と各務さんが言うように、
日本の技術を使い、ミニマルな美意識をうまく海外向けにアレンジしている。
プロダクトのデザインは、デンマークのデザインスタジオ〈OeO〉が参画している。
各務さんとOeO、そして職人さんと3者ですり合わせていった。

「最優先しているのは、職人や工芸会社が何をしたいのか、ということ。
本人がどうなったら一番ハッピーだと思っているのか。
5年後、10年後、100年後、どういう会社になっていきたいのかという挑戦への
第一歩になっていないと意味がないと思っています」

中川木工芸のスツールとシャンパンクーラー。(写真提供:GO ON)

まずは、当時勢いのあった上海に進出する。
ラグジュアリーなホテルに、部屋に6社のすべての商品を置き、
全部まとめて購入できるような仕掛けにした。

「でも、結果的に中国よりも、
そこに来るヨーロッパのバイヤーたちが興味を示してくれることが多かった。
そこで軸足をヨーロッパに移していきました」

現在ではミラノやパリなどに発表の場を移している。

開化堂のティーポットやウォーターピッチャー。(写真提供:GO ON)

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伝統工芸を見る目が日本一厳しい京都で、反応は?

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問屋のいなくなった伝統工芸の進む道

それにしても、ここは京都。
伝統工芸を見る目が日本一厳しい土地といってもいいだろう。
いくら若い世代がやったこととはいえ、反発はなかったのだろうか。

「当然、多くのお叱りを受けてきました。
“各務は伝統をつぶす気か”みたいな声も聞こえてくる。
でも僕たちがやりたいことの想いが広まっていくにつれて、少しずつ変わってきました。
たとえば細尾くんは、150センチの織機を開発して、
西陣織をテキスタイルとして海外に展開しています。
だから着物を捨てたのかというと、まったくそんなことはない。
当然、帯も着物も着ていただきたい。
でもそれだけやっていたら革新は起こらない、だから着物さえも残らない。
だったら西陣織の新しいやり方を探り続けながら、
伝統的なものと一緒に成長し、共存していく状況にしたい」

かつては問屋さんがいて、プロデューサー的な機能を持っていた。
どんな商品をつくれば売れるかを知っていた。
しかし今は問屋がなかなか機能しなくなり、プロデューサー不在の状態だ。

「だからといって、それを嘆いてもいても仕方ない。
職人自身が、リサーチ能力やマッチング機能を持たなければならないし、
世界の流れを知るコミュニケーション能力も必要です」

それらは職人が得意な仕事ではないだろう。しかし現実は待ったナシ。

「彼らが苦手な部分のサポートはしますが、
それはファシリテーションに過ぎないので
すべてをやってしまってはダメだと戒めています。
ビジネスの最終的な部分は、それぞれが責任を持たないとうまくいきません」

自分たちで行動できる責任感。と同時に、若い世代だからできたという部分もある。
それはフットワークの軽さだ

「最初から答えなんてなくて、考えてもしょうがないと思っています。
まずは行動。自分たちの頭のなかで生まれてきたというよりは、
行動して、話を聞いていくなかで、気づきのなかから次のアクションにつなげています。
そうした行動力は、たしかに若い世代特有のものかもしれません」

上海進出も端から見れば失敗かもしれない。
でもそのおかげでヨーロッパからの需要を知ることができたのだ。

「GO ONの6人は違う業界ですが、それぞれが助け合っています。
職人といってもいろいろなタイプがいて、たとえば中川木工芸の中川さんは、
彼の手でしかつくれないものをつくっているクラフツマンシップの人。
彼に営業的なことを求めても、技術的な価値が薄れてしまいます。
一方、細尾くんはディレクター気質。だからお互いが助け合える。
うまく役割分担が生まれていることもGO ONの価値だと思います」

これまでも、業界内での協力や切磋琢磨もあった。
しかしGO ONではその垣根を飛び越え、横串を通した。
前述したとおり、この6社はそれぞれで意欲的な活動をしていたが、
1社だけだとなかなか難しい。
しかし連携して挑戦していくことで見えてくる地平もある。

〈金網つじ〉の辻さんが語るGO ONの本気度

協力関係を築きながら、お互いを高め合う存在でもあるというGO ONメンバー。
そのひとり、〈金網つじ〉の辻 徹さんを訪ねた。

ヒップホップやレゲエが好きという、ストリートマインドにあふれる〈金網つじ〉の辻 徹さん。

これまでは料理道具屋さんへ商品を卸すことが多く、
BtoBのビジネスが中心だった金網つじ。しかし徹さんの代で、小売りに大転換した。
もちろん家族や周囲からの反対も大きかったが、
これまでのシステムに頼っていると解決できないことが多く、
自分たちの手でそれらを取り戻そうとしたという。

「業界が先細りである現状で、やり方を変えないという人もいる。
でも変えないと絶対にダメです。
こういうことを、今までは10人に言っても1人にも響かなかった。
100人に言ってもゼロだった。
でも各務さんが来て、GO ONのみんなでわかりやすい結果を出していくと、
10人のうちの1人が生まれてきているんです」という辻さん。

これは大きな進歩だ。
GO ONのJapan Handmadeがうまくいったからといっても、
彼ら6人だけで終わってしまっては意味がない。“ポストGO ON”が出てきてほしい。
それに、各務さんがすべてを担っているわけではない。
それぞれが真剣に課題に向き合い挑戦したからこそ、うまくいった。
辻さんは、周囲の若手にそのような話をするが、
なかなか本気になってくれる人が少ないと嘆く。

「僕たちのような工芸は家業が多いので、逆に言えば、退路がないんですよ。
今は、伝統工芸がある意味で流行っているけど、
もしメディアが取り上げてくれなくなっても、
僕たちはこれで食べていかなくてはなりません」

京都高台寺にある〈金網つじ〉。

そのために、まずは自分でしっかりと考えていくこと。
当たり前のことのようだが、立ち行かない原因を責任転嫁してはいけない。
安易に見た目のデザインを良くしていけばなんとかなる、
というような風潮にも警鐘を鳴らす。

「デザインをこう変えなければならないというのは、
過去や現在の、親や自分を否定されることになるわけです。
そんなネガティブなスタートではなく、
“売る”ということまで含めてプロダクトデザインだと思うんです。
だからこれからは、デザイナーにも俯瞰した目線が求められると思います」

見た目にいいデザインにすればいいと思っているだけの職人も人任せだし、
同じように思っているデザイナーも真剣度が足りない。

各務さんも続ける。
「最終的にお客さんまで届けないといけないし、オーダーが入り続けないといけない。
そのためには、どこで、いくらで売るか。さらに問い合わせへの対応、人の育成など。
すべて含めてデザインしないと解決しない問題ですが、
今はみんな、どうしてもモノのデザインに全力を注ぎがち。
ただしそれらを全部やるのは難しいから、
役割分担して、ほかの部分をデザインしてくれる仲間を増やしていけばいいと思います。
業界がうまくいってない仕組みを少しずつ直していかないと」

今回はGO ONのなかで辻さんに話をうかがった。
ふたりの話を聞いていると、意見が合わないこともある。
しかし、それこそが強さに感じた。
辻さんと各務さんいわく、
「6人はそれこそケンカ腰になるまで激論すること」がしょっちゅうだという。
その結果、それぞれが高め合う相互作用につながる。

GO ONの本質が消費者にまで伝わればいいが、それには時間がかかるだろう。
だからその前に、消費者に伝えられる人をつくらないといけない。
それは実際にものづくりをしている職人だ。
1人の職人から10人、20人の消費者に伝播していけばいい。
次は、GO ONの6人から刺激を受けた京都の職人が登場してくるといいのだろう。

とうふ料理に華をそえる「菊出し」の技法から生まれた〈金網つじ〉の製品。ひとつずつ手で編んでいく。

後編【京の伝統工芸が、食が、芸能が、 次々とつながるおもしろさ。 GO ON 後編】はこちら

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