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京の伝統工芸が、食が、芸能が、
次々とつながるおもしろさ。
GO ON 後編

貝印 × colocal
「つくる」Journal!
vol.045

posted:2016.3.29   from:京都府  genre:活性化と創生 / エンタメ・お楽しみ

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!

writer's profile

Tomohiro Okusa
大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer

Suzu(Fresco)

スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog//

前編【リファインされた京都の伝統工芸がヨーロッパで人気に。 GO ON 前編】はこちら

世界から京都に来てもらう〈Beyond Kyoto〉

京都の伝統工芸や伝統芸能に光を当て、新たな動きを起こしている〈GO ON(ゴオン)〉。
まずは〈Japan Handmade〉というプロジェクトを起こし、
西陣織の〈細尾〉、竹工芸の〈公長齋小菅〉、木工芸の〈中川木工芸〉、
茶筒の〈開化堂〉、金網工芸の〈金網つじ〉、茶陶の〈朝日焼〉の、
若手後継者たちで海外向けに商品開発し、成功を収めた。
それでもプロデューサーの各務(かがみ)亮さんは、まだまだ先を見据える。

「確かな手応えは感じていますが、それで50年後、100年後、
京都に伝統工芸がきちんと残るのに十分かといえば、そうとも言えません。
そこで〈Beyond KYOTO〉というサービスも開始しました。
さきほどの6社は、毎年のようにミラノに行ったり、パリに行っています。
しかし、行くよりも来てもらったほうが、
もっと踏み込んだ京都や、いろいろな京都に巻き込めるのではないかと思ったんです」

簡単に言うと、観光コンシェルジュ。
京都には約3,600社の工芸会社があるというが、「見学できる工房が少ない」というのだ。
Beyond KYOTOでは、
GO ONメンバー自らの工房を見てもらうことはもちろん、
京都で活動している人たちだからこそできるおもてなしで迎える。

「工房などを見てもらいながら、文化的背景もお伝えしたいと思っています。
たとえば西陣織も、お茶やお花、そしてお寺などの文化と連携して案内すれば、
西陣織がどう使われ、育まれたのかなど、より深い魅力を感じていただけると思います」

これまで海外の文化人やセレブリティなども訪れているという。
彼らに工房を案内すると「道具の使い方が美しい」など、
自分たちでは気がつかないような視点も教えてくれて勉強になることもある。
しかしもっとも重要なのは、やはり人間関係だ。

「彼らにとって、京都人とつながりができることが一番ではないかと思います。
京都で何百年と築かれてきた伝統文化の後継者たちと、友だちになれるんですから」

そこで得たものや築いた関係性は、“京都を越えて”いく。
これは京都を踏み台にしているということではなく、
革新こそが伝統を守るとGO ONは信じているのだ。こうして京都の文化が拡張していく。

GO ONのほか、京都でさまざまな仕掛けを試みる各務 亮さん。

華やかなりし京文化、太秦江戸酒場

GO ONでは、さまざまな取り組みをしながら、
伝統をどう未来へつなげるかということに挑戦している。
その思いを理解してもらって、同じ未来を見据える仲間を増やすことが、
これからのGO ONのミッションといえる。
そこで〈Beyond KYOTO〉体験版として、
各務さんに京都の若手の仲間たちを紹介してもらった。

より大きな枠組みでとらえたイベントが〈太秦江戸酒場〉。
太秦映画村のセットで時代劇のなかに迷い込み、京都の伝統工芸・芸能を体感できる催し。
昨年秋に3回目が開催された。
〈いづう〉や〈中村楼〉といった老舗食事処のほか、
京都の24の酒蔵の日本酒が楽しめたり、
東映の役者が営む浪人BAR、新選組BAR、丁半BARなどもある。
もちろん伝統工芸の職人たちが教えてくれるワークショップや展示も。
京都のさまざまな伝統文化を、
タイムスリップして楽しめるエンターテイメントパークとなっている。

時代劇が、目の前で、ライヴで行われる。写真提供:太秦江戸酒場

お寺で行われた京焼インスタレーション

〈太秦江戸酒場〉内では、
〈京・焼・今・展2015〉と〈RIMPA400 Project〉の展示も行われた。
このふたつも、各務さんがプロデュースを手がけた。

〈京・焼・今・展2015〉は、毎年異なるテーマで、京焼の“いま”を伝えていくものだ。
昨年のテーマは“琳派”。ユニークなのはその会場で、〈建仁寺山内 両足院〉で行われた。
6人の作家が両足院のひと部屋ずつを使って、
自らの世界をつくっていくインスタレーションだ。
副住職の伊藤東凌さんもキュレーターのひとりとして名を連ねている。

「かつてお寺も一緒に“その当時の現代アート”に取り組んできたら、
それがいま、伝統と呼ばれるものになっているのです。当時は挑戦だったわけです。
千利休にしても、世阿弥にしても、アバンギャルドですよね。
きっと批判も大きかったことでしょう。
いまというものの捉え方によって、表現方法や伝え方は変わっていかないといけませんね。
昔からの伝統行事をそのまま引き継ぐだけではなく、
いまから新しい行事が生まれていって、
それが未来には伝統になっているとすごくすてきなことだと思います」と言う伊藤東凌さん。

“いまは”伝統であっても、“かつては”伝統ではない。
だから結局、いまを一生懸命やる以外にない。

「これは目新しいことではありません。
本来、お寺は、学校や美術館のような、学びの場としても機能していたのです。
いまそれらはほかで満たされているので、
それならばお寺ならではの学び方もできるのではないかと考えています。
それは、はっきりとした答えを出すことではなく、“良質な問い”を出し続けること。
京焼とは何か? 琳派とは何か? 答えは出ないわけです。
ただし、そこに問いがあることによって、自分たちの才能がぶつかり、発揮できる。
お寺はその受け皿としてもあるべきです」(伊藤東凌さん)

〈両足院〉副住職の伊藤東凌さん。

凛とした空気のなかで、坐禅体験も行っている。

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茶事にお花とお能を加えて

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樂焼から考える、茶事が持つコミュニケーション

両足院で行われた〈京・焼・今・展2015〉には、
樂焼作家の小川裕嗣さんも参加している。やはり工芸や伝統に対しての思いは近い。
もともと樂焼は千利休がお茶専門のために起こしたもので、
お茶碗ばかりをつくってきたジャンルではあるが、
小川さんはそこにとどまらない作家活動を送っている。

「私は必ずしも茶碗をつくるだけが現代の樂焼とは思っていません。
茶碗をどんどん解体しています」(小川さん)

しかし小川さんもまた、伝統から逸脱したものを目指しているわけではない。
あくまで基本は茶碗である。

「我々の仕事は“伝統”という名前がつきますが、やっている側は伝統とは思っていません。
普通のこと、継続しているものだと思っています。
挑戦するということも、特別なことではありません。
もちろん過去から伝わってきたものを大事にして、
それを守ることもしないといけませんが、
同時に、いまに生かされている人間として何を問うていくか。
自分がやっていることを突き詰めたかたちのものを、世に出していきたいと思っています。
そうした取り組みに対して、各務さんに協力してもらっています」(小川さん)

〈太秦江戸酒場〉では、小川さんの茶事に、
お花とお能を加えてひとつのストーリを紡ぐコラボレーションが行われるなど、
お茶に対して難解だと思われていることを打破しようと試みた。

「お茶に決まりごとはたしかにありますが、
そのなかに押し込められている状況は、本来のお茶のあり方ではありません。
お茶室の中では、亭主とのやりとりのなかで、いろいろなことが起きていきます。
ルールよりも、感じる心にフォーカスしていけば、
お茶会がひとつの忘れられない体験となって、実生活でもいろいろなものに影響していく。
結果的にお茶の世界でなくてもかまわない。それが本来の姿です」(小川さん)

「洗練されたスタイルはすばらしいけれども、
そもそも茶事は、人と人とのコミュニケーションを表現する場所。
でもそこが洗練されすぎて、近づきがたいものになっていることも事実です。
そういったお茶が持つ本質を演出するものとして、
裕嗣くんは樂焼で活動していると思います」(各務さん)

作陶中の小川裕嗣さん。樂焼はろくろを使わず、削り出しでつくる。

小川さん宅の茶室にて。

お能でお酒を飲んで、モッシュなんてアリ!?

〈太秦江戸酒場〉にて小川裕嗣さんのお茶とコラボレーションして行われた能の舞台は、
各務さんも「月夜の下ですごく魅力的だった」という。
そこで能を舞ったのが、宇髙竜成さん。
26代続く金剛流の能楽師であるが、能の世界にも新しい風を持ちこもうとしている。

「芸能なんて、最初につくった時点では
“これ、おもしろい”くらいの気持ちのはずなんですが、
そのうち残そうという気持ちがだんだん強くなって、形式的になってきたわけです。
でも演じている役者にとっては、
650年前と同じことをやっていたら、僕たちはただの劣化コピーになってしまう。
常に、いまが一番おもしろいと思いながら工夫することが大切だと思います」(宇髙さん)

宇髙さんが主催する公演では、初めて能を観る人や、
演劇を志そうとしている人に向けた「次世代シート」を安く販売したり、
子どもがある程度騒いでしまっても良しとする「親子シート」も販売している。
また、現代語訳歌詞カードつきCDも事前に販売。
音楽ライヴでも知っている曲が流れると盛り上がれるのと同様、
事前にインプットしておけばより楽しむことができるだろうという配慮だ。
また詩人の谷川俊太郎さんを招いて、朗読と共演するなど、
敷居を下げる努力をしている。
なぜなら、まずは生の舞台を体験してもらうことが一番だからだ。

「すごくいい舞台は、初めて観た人にも伝わるんですよ。
だから観に行きたくなる仕掛けを増やしたいです。それには場所も重要。
もともと能はストリートパフォーマンスもしていました。
芝居という言葉は、芝生の上という語源があります。
室内で集中して観るというスタイルは、ここ130年くらいの歴史なので」(宇髙さん)

お能は、長期公演ではなく、ひとつの演目をその日1度しかやらない。
本番はジャムセッションのようなもので、ほかの出演者とも直前確認程度で、
一緒に練習はしない。一期一会になるような仕掛けになっている。
それこそが能のおもしろさ。ほかの芸能以上に、現場体験は何ものにも代えがたいのだ。

「〈太秦江戸酒場〉のときは、こちらが伝統的に演じても、
お酒と夜の雰囲気で、初めての人でもみなさんすんなり入ってくれました。
そういうカジュアルさも重要。過去の文献によると、武士は静かに観ていますが、
町民はモッシュのように騒いでいるものがあるんです。
だからどちらもアリ。その部分は現代の能では、失われているということですよね。
そういうコンセプトの公演も仕掛けたいです」(宇髙さん)

仮面の説明をしてくれた金剛流の能楽師の宇髙竜成さん。実際に着けてみると、かなり視界が狭い。

実際に舞ってもらうと、練習なのに、その迫力に圧倒された。

仮面に敬意を払う。物静かでやさしい印象の宇髙さんも「仮面を着けると人が変わります」という。

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そして、老舗料亭も……

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室町時代から続く老舗料亭〈中村楼〉が発信する祇園

〈太秦江戸酒場〉での和食は、伝統的な布陣が揃った。
なかでも八坂神社内に店舗を構える〈中村楼〉が参加したことに、斬新さを感じる。
「中村楼さんのような老舗が、あのような“遊びの場”に参加してくださったことには、
京都の人からすると、驚きだったと思います」と各務さんも言う。

イベントでは、中村楼の名物である豆腐田楽などが供された。

「うちはもともと門前茶屋から始まって、その後、料亭として発展してきました。
いまでも豆腐田楽はメニューにありますし、ルーツとも言えます」と言うのは、
中村楼の専務取締役である辻 喜彦さん。やはり次代を見据える若旦那である。

「料亭というと、宴会料理が主になるんですが、
時代も変わり、大人数よりもクオリティ重視になってきました。
それこそ料理屋の名前すら超えて、料理長の◯◯さんといわれる時代。
そこで(今回の取材場所となった)8席飲みのカウンター割烹〈㐂〉(よし)を
オープンしました」

ここは、中村楼の料亭と同じ総料理長・山本崇宏さんによる監修なので、
老舗の味をアップデートした料理が楽しめる。

「伝統を受け継ぎながらも、進化していかないといけません。
同じくうちがオープンしたフレンチの〈ランベリー〉とも、
ひと皿の上で和洋のコラボをするなど、実験的なことができる場所です」と山本さん。

「まさか〈太秦江戸酒場〉や各務さんの活動を通して、
伝統工芸の人たちとつながるとは思っていませんでした。
でもそうした関係を通して、ここ数年でどんどん考え方が変わってきています。
食の発信はもちろんですが、うちが八坂神社のなかにある意味、
その歴史をつないでいくことを発信していきたいです」(辻さん)

八坂神社といえば、祇園まつり。でも観光的に表面的に見学するよりも、
ちゃんとした歴史を知ることで、ぐっと京都が楽しくなるだろう。

中村楼名物の豆腐田楽。焼きたては特に美味。

「すべて八坂さんのおかげです」と話す中村楼の辻 喜彦さん。

いい悩みをどんどんつくっていく

みな同じように、“伝統を守りながらも、進化していく動き”を試みようとする。
もちろん難題も多い。それを突破するキーワードは、仲間たち。

「たとえば京瓦の阪田将揮くん。いい職人ですが、
なんとかしなきゃいけないという気持ちを持っていても、
本当に何から始めていいかわからない状況だったんです。
基本、工房にこもって孤独にものづくりしていますからね。
でも〈RIMPA400 project〉に参加して、仲間の職人たちとつながるうちに、
ホームページをつくったり、お客さんとのコミュニケーションの仕方がわかってきた。
当たり前のことなんですけど、当たり前のことすらままならない状況になっているんです、
伝統工芸の世界は」(各務さん)

阪田さんは〈RIMPA400 project〉に参加し、京瓦の素材と技術で花器をつくった。
実はもう、京瓦の職人は京都に1軒しか残っていない。
ここで注目されたことで、京瓦自体が継承されていることが認知され、
本業が忙しくなっているという。

「これはいい悩みだと思うんですよ。困れば人を雇えばいい。
いままでのみなさんのほとんどは、“どうしていいかわからない”という悩みだったんです。
でも、動けば具体的な悩みに変わっていく。
ぜひ、そこで前向きに悩んで、強くなってもらいたいです」

みんなそれぞれ、現代に合わせた取り組みをしている。でも簡単ではない。
そこで仲間をつくる。そうすればがんばっていける。
GO ONが志す未来は、思いを共有する仲間でつくっていく。

〈RIMPA400 Project〉にも参加していた〈小嶋商店〉も訪れた。創業は江戸寛政年間だという。親子3代揃い踏み。

京・地張り提灯をつくる〈小嶋商店〉親方の小嶋 護さん。かなり大きな提灯をつくっていた。

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