連載
posted:2016.3.1 from:宮城県石巻市 genre:食・グルメ / 活性化と創生
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
歴史と伝統のあるものづくり企業こそ、革新=イノベーションが必要な時代。
日本各地で行われている「ものづくり」もそうした変革期を迎えています。
そこで、今シーズンのテーマは、さまざまなイノベーションと出合い、コラボを追求する「つくる」Journal!
writer's profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog//
三陸で、水産業を盛り上げようと活動している〈フィッシャーマン・ジャパン〉。
漁師のイメージアップや商品販売、
さらには都会で漁師直送の食材が食べられる〈FISHERMAN BBQ〉、
水産業に特化した求人サイト〈FISHERMAN JOB〉などの活動を通して、
水産業全体の底上げを図ろうとしている。
そのひとつが〈TRITON PROJECT〉である。
それぞれの浜(港)に、漁師たちの拠点となるような
〈TRITON BASE〉を設置する場づくりだ。
現在はTRITON ONAGAWA、TRITON13、TRITON UTATSUの3つが稼動している。
どれも古民家をリノベーションし、ウッドを基調にしたモダンな内装になっていて、
若者にも受け入れてもらえそうだ。
3つのBASEには統一したコンセプトはあるが、それぞれ地元の漁師たちが管理している。
〈フィッシャーマン・ジャパン〉の代表理事であり、
ワカメ漁師の阿部勝太さんが管理するTRITON13は、石巻の十三浜にある。
3部屋あり、現在はひとりがワカメ漁師として在住している。
「もっと漁師を雇って、まずはこの3部屋を埋めたいですね。
この部屋から漁師を始めて、給料が上がってきたり、結婚したりして、
このTRITON BASEを巣立っていく。そしてまた新しい人が入居する。
漁師が住んでいるということに意味のある交流の場にしていきたいと思っています」
と言う阿部さん。
〈フィッシャーマン・ジャパン〉の発起人でもあり、
事務局を務める長谷川琢也さんも言う。
「期間雇用しかできない漁師さんも多いんです。
だから漁の時期に合わせて、何月から何月まではTRITON ONAGAWA、
何月から何月まではTRITON UTATSUみたいに、
“ローテーション漁師”のような取り組みをしたいという想定も含まれていますね」
十三浜のTRITON13では、地域のおじいちゃんやおばあちゃんが来て、
一緒にバーベキューすることもあるという。
地元の人と移住者の自然な交流が生まれているようだ。
「移住や定住に必要なのは、住居とコミュニティだと思っています。
TRITON BASEは、拠点であり、起点です。
ここに住みながら漁師になって、巣立っていく。
先輩漁師が顔を出したり、僕みたいなのが遊びに行ったり。
そうした交流を通して、ちょっとずつ地元に根が生えていく場所にしたい」(長谷川さん)
現在、4つ目のTRITON OSHIKAを荻浜に施工中。
ここは漁師ではなく、フィッシャーマン・ジャパンが管理する
フラッグシップのベースになる。
コミュニティをつくるというのは、漁師にとってあまり得意なことではないかもしれない。
でも場所があれば自然とやりやすくなっていくのだろう。
〈フィッシャーマン・ジャパン〉は漁師の学校にも取り組み始めている。
第1回目が、2月12〜14日にかけて、〈牡鹿漁師学校×TRITON SCHOOL〉として開催。
漁師の仕事を学ぶ2泊3日の短期研修プログラムである。
〈宮城県漁業協同組合石巻地区支所〉とTRITON PROJECTが、
これまで牡鹿半島で〈牡鹿漁師学校〉の実績があった
筑波大学の貝島桃代研究室と組んで行われた。
その牡鹿漁師学校のプログラムを下敷きに、上記3者で、プログラムが練られた。
「直接、漁師さんにコンセプトや必要性を話しにいって、
興味を持った方たちにお願いしました。
そして漁師学校としてやりたいことと、私たちが知っている漁師との、
最適な組み合わせを考えていきました。漁師さんと一緒につくりあげた感じはあります」
と言うのは、宮城県漁業協同組合石巻地区支所の三浦雄介さん。
当の漁師たちも、将来に対しての危機感は持っていたようだ。
「私も正直意外だったんですが、みんな担い手の必要性を感じていて、
好意的かつ協力的でした。
“急に来ても漁師の仕事ができるわけでもないし、わかるはずもないから、
一度体験してもらうのはいいことだ”という反応だったんです」(三浦さん)
〈牡鹿漁師学校〉を主宰する筑波大学貝島桃代研究室の佐藤布武さんは、
何度か漁師学校を行っているが、普段は、ひとつの浜で行っている。
今回はいくつかの浜を飛び越えながら行われたことに特徴があるという。
「今回は、普段は分断されている浜に横串を通して、
いろいろな浜を横断的にやってみようと試みました。
また、教科書をつくったんですが、そのために取材が必要。
いろいろな地域を回ることができて、それぞれの特徴や浜同士の交流など、
こちらとしてもいい勉強になりました」(佐藤さん)
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今回の〈牡鹿漁師学校×TRITON SCHOOL〉には、
本気で漁師を目指している人もいれば、まずは体験してみたいという目的や、
フィッシャーマン・ジャパンのように
漁師の仕事を発信していくための勉強という目的の参加者もいた。
初日、夕方に集合し、まずは座学が行われた。
石巻の漁場の特徴、漁の現状と課題、そして実際に漁師になるための手段やステップなど、
具体的な内容も含まれていて、現実味を帯びている。
翌日の朝は侍浜にある〈JFみやぎ侍浜共同かき処理場〉で、
カキ揚げとカキ剥きからスタート。
大量のカキを揚げてきたはいいけど、一生分かと思えるようなカキを目の前にし、
それをすべて剥いていかなければならない。
最初はおぼつかない手つきだった参加者も、
漁師がマンツーマン状態で教えてくれるので、コツをつかみやすい。
漁師たちはひとつ剥くのに10秒もかからないが、
参加者は最後には20〜30秒まで短縮できた。
ただの体験イベントだったら、きっと5〜6個剥いて終わりだろう。
しかしここは学びの“学校”。
参加者たちは目の前にあるカキをすべて剥くことを目標に、ひたすら何十個も剥いている。
意外とハードなのがいい。漁師はそんなに生易しいものではないから。
その後は、荻浜にてナマコ漁。
船に乗って、箱眼鏡で海底を覗き、直接タモで採るスタイル。
海の中では、どれがナマコなのかなかなかわからない。
覗いてみると、思ったよりも白く見えた。
漁船は絶えず動いてしまうので、見つけたら素早く採らないといけない。
しかしタモはかなり長く、海中に入れると取り回しが難しい。
それでも参加者は次第に慣れていって、
最後は船ごとに10分間でどちらが多く採れるか競争していた。
夕方前には、刺し網をかけた。こちらは翌日の朝、揚げる予定だ。
これは通常の刺し網漁と同様のタイムテーブルである。
翌日、早朝から刺し網を揚げに浜まで行ったが、あいにくの荒天で中止に。
せっかくの刺し網を揚げられなかったことは残念だったが、これもまた漁なのである。
天候とは戦うことができないし、素直に従わざるを得ない。
これも漁の本質だから、天候不良での中止にも意味があったのではないか。
その後は魚さばき実習、ロープワーク講座という、
難しくなさそうなのに、やはり一筋縄ではいかない授業。
先生は、超ベテラン漁師の平塚仁太郎(ニタロウ)さんだ。
かつての漁の話など、貴重な話もたくさん聞くことができた。
また、このあたりで従事者の多いカキ養殖の座学も行われた。
講師を務めた利豊丸の豊嶋純さんは、自身もUターン。
その経験を交えて、漁師の世界に馴染むための難しさや苦労なども教えてくれた。
その後はワークショップ。5年後の目標を設定し、計画を立てていくというもの。
先輩漁師やフィッシャーマン・ジャパンのスタッフとともに、
参加者それぞれがプランを考えていく。
目標を立てることは、より現実的に考えることにつながる。
2泊3日の漁師学校は、こうして終えた。
ただの体験ではない、学びの場であること。
そして三者のリレーション、そして参加者と漁師が有機的につながった
すばらしい内容になっていた。
「私たちとしても初めての取り組みだったので、
漁師たちの反応というのが一番気になるところですが、
楽しんで教えているように見えました。
課題意識を持っている人も多いようです」(三浦さん)
参加者などから、「すごい!」「速い!」などと感嘆の声が上がると、
漁師たちも誇らしい気持ちになるだろう。
みんな、誰にほめられることもなく、当たり前にやっていること。
漁師たちのやる気にもつながっていくと、いい相乗効果が生まれそうだ。
「みなさん誇りには思っているはずなんですが、それを刺激されることがないんですよ。
水産物に対する反応は消費者からありますけど、
仕事そのものに対する敬意を感じさせる機会はありません」(三浦さん)
フィッシャーマン・ジャパンが
「フィッシャーマンを1000人増やす」というコンセプトのなかで、
〈TRITON PROJECT〉や〈牡鹿漁師学校×TRITON SCHOOL〉などは、
より現実的な取り組みだ。
漁や漁師についてわからないことは、漁師に聞くのが一番。
魚は身近なのに、遠い存在になってしまった漁師の世界と、
もう一度つながり直すのだ。
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