augment5 Inc 井野英隆さん
地域の生の魅力を、デジタルメディアで伝える。
デジタルコンテンツの制作やメディア事業コンサルティングを手がける
「augment5 Inc(オーギュメントファイブ株式会社)」。
2009年に創業したばかりの小さな会社だが、デザイナーやプログラマーや
ディレクターなど、プロジェクトに応じてメンバーが集まり、
現在オフィスには常に10名前後のスタッフがいるという。
「会社なんですけど、“集団”と言ったほうがいいかもしれないですね」と語るのは、
経営者でありプロデューサーの井野英隆さん。
もともと上場企業を対象にインターネット事業のコンサルティングをしていたが、
クライアントが求めるような短期的な収益モデルをつくって儲けるだけではなく、
長期的に価値を残せるようなモデルをつくりたいと考えていた。
「インターネットはバーチャルだなどと言われますが、実態としては
あらゆる仕事や生活の局面に必要な技術、情報源として根づいています。
インターネットそのものが水道や電気と同じように
ビジネスやライフスタイルのプラットフォームになっただけで、
そこで何かを生産したり、消費しているのも当然、人間ですよね。
ただ、まったく新しい領域なので、
コンテンツ制作者にはもともとプロフェッショナルがいなかったり、
国を超えた競争に巻き込まれるリスクも大きく、プレイヤーの変動も激しい。
だから10年、20年を見据えて、戦略や覚悟をもって取り組む人が
とても少ないように感じていました。
きちんと時間をかけてつくって、それが20年後、30年後、そしてもっと先の未来まで
“いいもの”として残るようなウェブのコンテンツやサービス。
巨大なデータベースを永続的にストックできるという
デジタルの本当の強みはそこにあると思っています」
Kusatsu Oct 26, 2011
2009年に仲間たちとaugment5を立ち上げ、
これまでさまざまなコンテンツを制作してきた。
今年に入り、ディレクターの柘植泰人さんと組んで制作を進めてきた、
日本の地域にある風景を切りとったショートムービーがネットで話題をよんだ。
無駄のない動きで和紙を漉く職人、立ちのぼる温泉の湯気、空、光、緑、人々の笑顔。
何の説明もないが、その場所にあるいいものが映し出され、行ってみたくなる。
そして、日本にはこういう風景がまだ無数に残っているんだろうなということに
気づかされる。
Mino Aug 1, 2012
これらの映像は、クライアントから依頼されてつくったわけではない。
それまでも日本のよさを伝えたいと感じていた井野さんが、
たびたび仕事で海外に行くようになり、よりその想いを強くしたのだという。
「東京にいるとなかなか気づけないですが、特に地方に行くたびに、
素朴な暮らし方、風景、初めて会う人との会話など、
一見ありふれたような部分がとてもいいなと思うんです。
たとえば美濃では、渓流で釣った鮎を、その場で炭をおこし、塩焼きにして食べる。
それがシンプルなのに驚くほどおいしかったりする。
その映像を見た、まったくその地域に関心のなかった若者や、
六本木や浅草を決まったように案内されていた外国人観光客が、
美濃に行ってどうしても鮎の塩焼きを食べたい! と思うかもしれない。
これまでの観光業や地域活性として取り組んできた手法と異なるアプローチをすることで
日本のさまざまな地域の可能性を引き出すことができるかもしれません」
Lake Shikotsu Feb 8, 2012
映像はある紹介記事をきっかけにFacebookなどSNSで話題になり、
150か国以上の人々に閲覧され、記事ページは2万以上の「いいね!」を集めた。
映像を見て旅に出たいと思う人もいれば、
カメラを買って自分も撮影をしてみようと思う人、音楽を気に入って、
このアーティストのライブに行ってみようと思う人もいるかもしれない。
見た人がそれぞれ自由に楽しんでくれればいい。
実際にいろいろな反応が起き、その大多数がポジティブな評価であったことは、
自信になったという。
そして、まだまだ自分たちにできることがあるということも確信した。
「日本の地域って観光業が発展した分、
見えなくなってきたところがたくさんあると思います。
でも日本中どこに行っても、地域で毎日、丁寧にものをつくっている人がいて、
おいしいものもある。過疎化の問題や農業の問題もいろいろありますが、
地域の価値や資源が、あまりうまく伝わっていないんじゃないか。
でもいまのテクノロジーを駆使してできることがまだまだあると思うし、
僕らが発信することで伝わることもあるんじゃないかと思います」
会いたい人に会いに行き、そこで出会った人に、地元で食べるべきものを聞き、
ひとりになりたいときに行く場所を聞いて、連れて行ってもらう。
そんなふうにして、そこでしか生まれ得ないものをすくいとり、映像に落とし込んでいく。
そのあとの編集作業や音楽も、ディレクターの柘植さんを中心に
時間をかけて丁寧に仕上げていく。そのクオリティは、映像を見れば一目瞭然だ。
Kyoto Nov 4-5, 2011
日本のいいところを海外に向けて発信したいと考える井野さんは、
同時に、いかに自分が日本のことを知らないかということも痛感するという。
だから、時間とお金と仲間を見つけては、
今後もこうした地域の映像をつくっていくつもりだ。
「まず自分たちがいちばん楽しんでますからね。
いつもすごくリッチな体験をして帰ってきています」
最後に、これから映像に取り組みたいという人たちに向けて、思いを語ってくれた。
「僕とディレクターの柘植は、10年くらい前からこうした映像を撮り始めていましたが、
いまはデジタル一眼カメラで、プロ顔負けの画質でHD映像を撮ることができます。
これは当たり前の状況ですが、映像をつくりたい人にとって、とても大きなチャンス。
とにかく思いたったら、撮りまくって、WEBにアップする。
そうすると僕らのように必ず反響が返ってきます。
感性の若いうちにどんどん世の中にメッセージを投げ、僕らの映像よりもっといい作品が
日本各地からバンバン出てくるようになるといいですね。
そんな、地域と人とデジタルとの可能性に、いまはとてもワクワクしています」