連載
posted:2016.3.25 from:愛媛県松山市 genre:食・グルメ / 活性化と創生
sponsored by 愛媛県
〈 この連載・企画は… 〉
愛媛のフルーツ、おいしいのは柑橘だけではないんです!
イチゴ、柿、栗、キウイなども実は愛媛の銘産です。
愛媛県産フルーツの生産者さんたちを訪ね、愛情をたっぷり注がれて育つフルーツを見てきました。
さらに、秋から冬にかけてぐっとおいしくなる愛媛県産フルーツを使った、
松山市と東京のスイーツ店もご紹介します。
editor’s profile
Miki Hayashi
林 みき
はやし・みき●フリーランスのライター/エディター。東京都生まれ、幼年期をアメリカで過ごす。女性向けファッション・カルチャー誌の編集を創刊から7年間手掛けた後、フリーランスに。生粋の食いしん坊のせいか、飲料メーカーや食に関連した仕事を受けることが多い。『コロカル商店』では主に甘いものを担当。
credit
撮影:小川 聡
supported by 愛媛県
みかんをはじめとする柑橘類、イチゴ、柿、栗など
さまざまな愛媛の銘産をご紹介してきたこの連載。
キウイフルーツやグレープフルーツなど、“日本の気候でも育つんだ!”
と驚いてしまうものもありましたが、愛媛県で育つ意外な国産フルーツはまだあります。
そのフルーツとは、愛媛県松山市が生産量日本一を目指し、
産地づくりに取り組んでいるアボカド。
いまやすっかりなじみのある存在となったアボカドですが、
原産はメキシコや中央アメリカ。まだ日本ではほとんど生産されていないため、
市場に流通しているアボカドの99%が輸入されたものなのだそう。
そんな中、松山市では2008年からアボカドの産地づくりに取り組み始め、
苗木の供給や栽培指導などの支援を行ったり、
2015年11月には第1回「日本アボカドサミット」を市内で開催しました。
現在では市内で約70名の方がアボカドを栽培しており、
その栽培面積は3ヘクタールにまで拡大し、全国有数のアボカド産地となっています。
風光明媚な森さんの広大な園地。この写真はほんの一角。
県内外でも注目されている松山市のアボカド産地づくりですが、
実は取り組みへのきっかけを生んだのが、20年以上前に植えられたというアボカドの木。そのアボカドの木が育つ、森茂喜さんの園地を訪れました。
松山市のアボカド産地づくりのきっかけとなった木。この大きさ、伝わるでしょうか?
松山市高浜にある森さんの園地。
その地名からもわかるように、海に面した園地です。
この園地の中腹に近いところに育っているのが、ご覧の立派なアボカドの木。
取材に訪れた10月下旬、大きな実がいくつも生っていました。
「これは〈フェルテ〉という品種で、来月の収穫までにもう少し大きくなります」
と園地を案内してくれたのが、環境にやさしい農業生産の発展を目指し、
愛媛県の農家が集まってできた〈のうみん株式会社〉の原田博士さん。
「この品種に関しては油分も多くてトロッとしているだけでなく、
アボカド特有のえぐみや苦味が少ないんですよ」
立派に実ったアボカド。「虫除けとなる樟脳の原料であるクスノキ科に近いので、あんまり虫がつかないんですよ」と原田さん。
そんなおいしい実をつけるこのアボカドの木ですが、
実は栽培を目的に植えられたものではなかったのだそう。
「平成4年に台風がきたとき、海からの潮風の影響で園地の木が一面枯れてしまって。
その後、木を植え替えたときに、記念樹としてアボカドの木を植えたそうです。
それから20年ほどして実がなっているのを当時の松山市の農林水産課の方が見て、
アボカドの産地化に取り組もうということになったんです」と原田さん。
あけびを思わせる、小さな実。「小さいのは未熟で、種がないんですよ」と原田さん。
園主の森 茂喜さん。広大な園地を、ほぼひとりで管理されています。
「植えた当時は実がならないと思っていたんですよ、寒さで冬は朽ちてしまうかなって。
本当に手入れを何もしてないのに実がなりだしてのでビックリしましたね」と園主の森さん。
園地には〈フェルテ〉だけでなく〈ピンカートン〉という品種のアボカドの木もあり、
松山市ではこの2本の木から穂木をとり、苗木をつくったのだそう。
「でも今の品種は木が大きくなりすぎるし、寒さにも弱い。
あと結実性ももうちょっと安定しないと商業生産は
ちょっとしんどいやろうなというのがあって。
私は日本にあった品種をなんとかつくりたいなという想いでやっているんですよ」と森さん。
「研究者の方に聞いたらね、柑橘の新しい品種は
1,000〜10,000本にひとつしか出ないんだけど、
熱帯果樹は使える品種が出る確率が高いらしくて。
100〜1,000本で1系統は出ると思うし、日本でできた品種だと
日本の気候にやっぱり合うでしょうからね」
木の上のほうにも、いくつもの実が。
そんな森さんや、アボカドの産地づくりに参加している農家さんたちによって
生産量が少しずつ増えている松山市育ちのアボカド。
また、のうみんでは松山大学と共同開発した、
アボカドのエキスとオイルの無添加の美容石鹸〈媛肌せっけん・鰐梨〉も
製造販売しているのだそう。
実に広大な森さんの園地。取材中、まるでハイキングをしているような気分に。
今後さらなる注目を集めそうなアボカドですが、
松山市が産地づくりに力を入れているもう青果がもうひとつあります。
その青果も森さんの園地で育てられていたことがきっかけとなり、
産地づくりへの取り組みが始まったのです。
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レモンと同じく四季咲きのライム。訪れた10月下旬にも花が咲いていました。
アボカドと並び、松山市が産地づくりに取り組んでいる青果とはライム。
輸入されたものと比べて香りが強く、果汁が多いと既に評判を得ています。
その産地づくりへの取り組みもアボカドと同じく、
松山市の農林水産課の方が
森さんの園地で育てられているライムの存在を知ったことをきっかけに始まったのだそう。
森さんにライムを栽培し始めた理由を尋ねると
「一番はじめは自分が飲むお酒、ジン・ライムのためにつくったんですよ。
それをここに来るバイヤーさんたちが欲しいと言ってくれたので商品にしたんです。
趣味を商売にしちゃって、ちょっとみっともない話ですけどね」
丸々と実ったライム。そのずっしりとした重みから、果汁をたっぷりと含んでいるのが伝わってきます。
アボカドにしかりライムにしかり、先見の明があるとも言える森さんですが
「今まで自分が好きな品種を作ってきたのが、
たまたま商品になったみたいなところがあるんですよ」と実に謙虚。
現在、アボカドとライムのほか、20種類近くの柑橘を育てている森さん。
そのなかには原種に近い品種や、珍しいものもあるのだそう。
育てる品種を選ぶ基準はというと
「自分が好きな品種かどうか、そのほうが気合いが入るんですよ。
でもひと儲けしようとかいう気がないから、家族には期待されてなくて。
“いいやな、ひとりで畑に行って機嫌良く遊びよるんやから”って言われてます(笑)」
結実した、小さなライムの実。数か月かけて、丸々とした実へと成長していきます。
先祖代々、受け継いだ土地で40年前に就農した森さん。
当初は農協に所属していましたが
「農協の方の言う通りにつくるのに飽きたのでしょうね」と、
20年ほど前に農協から離れ、そして農薬を可能な限り使用しない農法を実践するように。
「無農薬ではなく特別栽培クラスですが、
今は通常の3分の1ほどまで農薬の使用量をおさえられています。
贈答品みたいにピカピカの見た目のものをつくってくれと言われたらしんどいですけどね」
とはいえ木々になっている実は、どれも丸々としていて見た目も十分おいしそう。
実にさまざまな柑橘が栽培されている園地。「この園地は1年中、何かしら稼動している感じですね」と原田さん。
芝刈りがしにくいということもあり、色づけする品種以外は樹の下にシートを敷かないのだそう
また森さんの園地では除草剤の使用も年に1回のみというかたちにして、
牧草や雑草を生やして土の表面を保護しながら地力を維持させる
草生栽培にも取り組んでいるのだそう。
その効果なのか、取材中にはバッタや大きなクモをはじめとする昆虫、
そしてヘビまでも見かけ、
園地とはいえ自然に近い状態が保たれているように感じられました。
「僕はすくすく育った実の味のほうが好きなんですよ」と森さん。
「人間が手を加えて甘くしたりする方法もありますけど、
うちはすくすくと育てています」
柑橘以外の果物の栽培にも挑戦している森さん。「じいさんの時代には夏リンゴをつくっていたと聞いたので、いまは〈グラニースミス〉という加工用のリンゴを試験的に育てています」
品種改良された農産物をハウス栽培で見た目の美しさにもこだわりを持って育てる方もいれば、
森さんのように環境へのやさしさにこだわって
可能な限り自然に近い状態で育てる方もいる。
ひとくちに“生産者”といっても、愛媛県内だけでも
実に多様化していることを実感させられた今回の取材。
でも、どの農法にもそれぞれの長所と短所があり、
どれかひとつだけが正しいとは一概には言い切れません。
消費者である私たちにいくつもの選択肢が与えられている恵まれた環境のなか、
何をどのようにバランス良く選んでいくのかが大切なのでは———
そんなことも考えさせられた取材となりました。
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