連載
posted:2016.3.30 from:愛媛県今治市 genre:食・グルメ / 買い物・お取り寄せ
sponsored by 愛媛県
〈 この連載・企画は… 〉
愛媛のフルーツ、おいしいのは柑橘だけではないんです!
イチゴ、柿、栗、キウイなども実は愛媛の銘産です。
愛媛県産フルーツの生産者さんたちを訪ね、愛情をたっぷり注がれて育つフルーツを見てきました。
さらに、秋から冬にかけてぐっとおいしくなる愛媛県産フルーツを使った、
松山市と東京のスイーツ店もご紹介します。
writer profile
Miki Hayashi
林 みき
はやし・みき●フリーランスのライター/エディター。東京都生まれ、幼年期をアメリカで過ごす。女性向けファッション・カルチャー誌の編集を創刊から7年間手掛けた後、フリーランスに。生粋の食いしん坊のせいか、飲料メーカーや食に関連した仕事を受けることが多い。『コロカル商店』では主に甘いものを担当。
credit
撮影:小川 聡
supported by 愛媛県
2015年11月より連載してきた〈愛媛県 × colocal えひめスイーツコレクション〉。
これまで愛媛県産フルーツの生産者さんを中心にさまざまな記事をお届けしてきましたが、
最後にご紹介するのは愛媛県を訪れた際にぜひ足を運んでいただきたいスポット。
この連載を読んでくださった“食”やおいしいものに興味があるみなさんなら
100%満足いただけると思う、今治市の〈さいさいきて屋〉です。
越智今治農業協同組合の運営する直売所を中心とした複合施設〈さいさいきて屋〉。
初めて訪れた人がまずビックリすると思うのが、売り場の広さ。
“直売所”という言葉のイメージから大きくかけ離れた、
まるで大型スーパーのような売り場の面積は直売所としては日本一なのだそう。
この売り場に並ぶのは果物や野菜などの生鮮食料品をはじめ、
お肉や魚に卵、乳製品、飲料、ジャムやお茶などの加工食品、お惣菜、パンなど、
毎日の食卓に欠かせないものばかり。そしてなんと、その8割が今治産のものなのです。
「今治市の農協には、そこまでこれという産地品がないんですよ。
例えばみかんだと、愛媛県でいったら南宇和のほうには負けてしまう」
と話してくれたのは、越智今治農業協同組合の武内 玄さん。
「でもいろいろなものが生産されていて、
直売所にこれだけたくさんのものを揃えることができるというのがうちの特徴なんです。
ここまでさまざまなものを取り扱っている道の駅も珍しいと思いますね」
店内にずらりと並ぶ、見るからにおいしそうな食べ物の中には、
県外の人間にとっては珍しいものもたくさん。
おいしいもの好きの方なら、テンションが上がってしまうこと間違いなしです。
そんな〈さいさいきて屋〉ならではの特徴は、野菜や果物といった生鮮食品の新鮮さ。
「大体のスーパーで売られている野菜は、まず収穫されたものが農協に行き、
農協から市場へ行き、市場から卸に行って、そこからスーパーへ行く。
なので店頭に並ぶまでかなりの時間がかかるんですよ」と武内さん。
「でもうちは毎朝、生産者さんに売れるだけ直接搬入してもらうかたちをとっているので、
野菜なんかは朝採りや前日に収穫されたものを売ることができるんです。
で、売れ残ってしまったものは、その日に引き下げてもらっているので
毎日新鮮なものを店頭に置けるんです」
そして目を見張るのが、その価格。特に都市部に住んでいる人であれば、
“採れたてのものが、このお値段!?”と驚かずにはいられないほど、どれもがお手頃価格。
どうしてそんな価格設定ができるかというと
「生産者さんに直接お店まで持ってきてもらっているので、
流通コストがかからないからです」と武内さん。
「あと今治も島があって、一番遠いところだと
ここまでくるのに橋をふたつ、3つ渡らないといけなくて橋代がかかってしまう。
なので島の人をうちで雇って、出勤しながら品物を集めてもらい、
売れ残ってしまったものは帰宅しながらお返ししてもらうようにもしています」
さらには「陸地部でも高齢で車を運転できなくなってしまった生産者さんがいるんですよね。
そんな方々のなかでも品質のいいものをつくり続けている方や、
ここで売りたいと言ってくださる方もいるので、
陸地部でも朝に回って品物を集めることを始めています」と、
近年問題となっている生産者の高齢化にも対応しているのだそう。
価格は店舗側ではなく生産者さん自身がつけるというシステムということもあり、
同じ品種のものだと「生産者さん同士で競争になってしまうので、
安売りはできるだけしないように指導もしています。
“高くても、ものが良ければ売れるよ”って」と武内さん。
商品に貼られたシールには価格だけでなく生産者さんのお名前も印字されており
「誰がつくったかがわかるようにしているので、
同じみかんでも味がいいものをつくる生産者さんにリピーターがつくんですよ。
ここでは生産者さん、ひとりひとりがブランドなんです」
新鮮な食品が手頃な価格で手に入れられることもあり、
観光客だけでなく地元の人でも賑わう〈さいさいきて屋〉。
市場にほとんど出回ることがない糖度の高いニンジン〈おんまくキャロット〉、
愛媛県で開発された新品種のサトイモ〈媛かぐや〉、
さらにイタリア野菜や珍しい食材なども扱っていることもあってか
「朝は仕入れにやってくる割烹着やエプロンを着けた料理人の方が多いですね。
9時開店なのですが、どうしてもいいものは午前中に売り切れてしまうので」
それでもどうしても出てしまうのが、商品の売れ残り。
この売れ残りをゼロにするために、
〈さいさいきて屋〉ではいくつもの工夫がされていました。
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〈さいさいきて屋〉の施設内にある、
「今治をまるごと食べる」をコンセプトとしたセルフサービス食堂〈彩菜食堂〉と、
フルーツをたっぷり使ったケーキやタルトなどの
スイーツが味わえるカフェ〈SAISAI CAFE〉。
こちらの2店も人気が高く、
「朝にやって来られて、まず直売所で買い物をしてから食堂で食事をされて、
カフェでケーキを食べて帰るという人もいらっしゃいますね」と武内さん。
この2店での食材の仕入れは、直売所のものを優先しているのだそう。
「例えば大根の旬になったら売り場の棚一列の全部が大根になってしまい、
売れ残ったら生産者さんが持って帰らないといけなくなってしまう。
そこで売れ残りがあっても生産者さんに還元できるように、
この食堂とカフェでは旬の食材を使った食事などを提供しているんです。
わざわざよその産地から仕入れてまではつくらない、というスタイルです」
旬の食材が使われたおいしい食事をいただくことによって、
農産物の無駄な廃棄を防ぎ、生産者さんにより近いところで貢献もできる。
そう考えただけで、食事のおいしさと楽しさが増しそうです。
また直売所の裏手には、売れ残ってしまった野菜を加工する施設も。
「ホウレンソウなど、その日のうちに傷んでしまうものは、
ここでパウダー状に加工しています。パウダーにすれば長期保存できますからね」と武内さん。
外部に委託せずに、自分たちの手とアイデアで生産者さんたちが育てた食べ物を
最後まで大切にする〈さいさいきて屋〉のまっすぐな姿勢。
その姿勢をしっかりと守っているからこそ、
生産者さんをはじめとする多くの人に〈さいさいきて屋〉は支持されているのかもしれません。
国内だけでなく海外でも食品廃棄が取りざたされる昨今、
〈さいさいきて屋〉から学ぶべきことはたくさんありそうです。
直売所だけでも“今治に暮らす人がうらやましい!”と心底思ってしまう充実ぶりですが、
食堂とカフェのほかにも何度も〈さいさいきて屋〉へと足を運びたくなるサービスが。
そのひとつが、施設内にある料理教室〈SAISAI COOKING STUDIO〉。
この教室でも今治産の食材が使われるのですが教えてもらえる内容は
パン、お菓子、魚料理など料理教室として定番のものにはじまり、
郷土料理やフルーツのカッティング講座、英語を学びながら料理も学ぶ教室、
キッズ向けの教室などと、これまた多彩。
習ったばかりの料理を家でつくりたくなったら、
そのまま直売所へ行き食材をそろえることもできる便利さもうらやましいところ。
さらに今治市と越智郡の小学生を対象にした、
食と農の大切さを学ぶ農業体験スクール〈saisai KIDS倶楽部〉という取り組みも。
その内容は直売所の裏手にある農園で田植えから稲刈りを体験するだけでなく、
収穫した稲を使ってお餅をつくり、参加する子どもたち自身で販売まで行うというもの。
農産物がどうやってできているかだけでなく、
生産したもので暮らしを支える方法まで身を持って知ることができるという
食育からさらに一歩踏み込んだスクールは、
“食と農”だけでなく“社会との関わり”の大切さも子どもたちに教えてくれそうです。
また2009年から取り組んでいるのが、
現在では今治を代表する名産品となったタオルの原料である綿花を栽培し、
市内の繊維・タオルメーカーと連携して衣料品を生産する〈コットンプロジェクト〉。
「今治はタオルで有名ですが、その原料となる綿の多くは輸入されたもの。
でも、せっかくだから綿も今治から発信しようと始まったプロジェクトなんです」と武内さん。
「地元の高校生たちに植えるのを手伝ってもらい育てた綿花を
市内の工場に出してタオルにしてもらっているのですが、
ここは有機JASを取得しているので染色にも天然素材を使ってつくっています」
果物や野菜から綿まで育てられているこの農園では、
越智今治農業協同組合の営農指導員による生産者さんを対象とした講習会も行われます。
取材に訪れた際、園地の中にあるハウスでは
高設栽培(パイプなどを使い地面より高い位置で栽培する方法)で
イチゴが育てられていましたが、これも生産者さんに向けて始められたもの。
「今治市のイチゴの生産量は高齢化によって減ってきているんです」と武内さん。
「今治のイチゴの生産者さんは基本、
土耕栽培(地面に畝をつくり、苗を植える昔からの栽培方法)をされているのですが、
高齢の方だとしゃがんでの作業はきつい。
でも、しゃがまずに作業できる高設栽培を取り入れたら、
少しでも長く生産を続けていってもらえるかもしれないと考え、
生産者さんたちに高設栽培を実際に見てもらうためにこれをつくったんです。
生産者さんがいないと、僕たち農協はやっていけないですからね」
農産物の直売、食堂やカフェなどの運営を支える〈さいさいきて屋〉のスタッフ数を尋ねると
「今は100人とちょっと。農協の職員は5人で、あとはパートさんなどです。
2000年に掘っ建て小屋みたいなところで始めた頃は3人でしたが、
順々に生産者の方もお客さんも増えてきてくれました」と武内さん。
これだけ大きな規模になるとフットワークが重くなり、
新しいことに取り組むのが逆に難しいのでは……と思いそうですが
「いや、何でもやらせてくれるので、新しい試みはどんどん取り入れているんですよ。
失敗もなくはないですけど、やっぱりみんなと同じことをしてもおもしろくないですし、
どんなこともチャレンジしていかないと成長しませんからね」
地域を活性化させ、コミュニティづくりの場としても機能している〈さいさいきて屋〉。
その根底にあるのは生産者さんからお客さんまで、
すべての人に食と農のおもしろさを感じてもらい、
楽しい気持ちで食と農に関わってほしいという想いなのかもしれません。
生産者の高齢化にはじまり、
近年ではTPP(環太平洋パートナーシップ)への参加がもたらす影響への不安など、
日本の食と農をとりまくニュースは決して明るいものばかりではありません。
でも、そんな状態だからこそ“おもしろい”や“楽しい”といった気持ちを忘れずに、
自分たちが何をできるかを前向きに考えていくことが大切なのだと
何度も感じさせられたこの連載。
“愛媛産には、愛がある。”———これは愛媛県の農林水産物統一キャッチフレーズですが
”愛”だけではなく、どんなことにもまさる人の“想い”も愛媛産にはありました。
information
さいさいきて屋
住所:愛媛県今治市中寺279-1
TEL:0898-33-3131
営業時間:
〈直売場〉
9:00〜18:30
〈SAISAI CAFÉ〉
9:00〜17:00
〈彩菜食堂〉
11:00〜15:00
17:00〜20:00(第3水曜日定休日)
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