連載
posted:2016.3.14 from:愛媛県伊予市 genre:食・グルメ
sponsored by 愛媛県
〈 この連載・企画は… 〉
愛媛のフルーツ、おいしいのは柑橘だけではないんです!
イチゴ、柿、栗、キウイなども実は愛媛の銘産です。
愛媛県産フルーツの生産者さんたちを訪ね、愛情をたっぷり注がれて育つフルーツを見てきました。
さらに、秋から冬にかけてぐっとおいしくなる愛媛県産フルーツを使った、
松山市と東京のスイーツ店もご紹介します。
writer profile
Miki Hayashi
林 みき
はやし・みき●フリーランスのライター/エディター。東京都生まれ、幼年期をアメリカで過ごす。女性向けファッション・カルチャー誌の編集を創刊から7年間手掛けた後、フリーランスに。生粋の食いしん坊のせいか、飲料メーカーや食に関連した仕事を受けることが多い。『コロカル商店』では主に甘いものを担当。
credit
撮影:小川 聡
supported by 愛媛県
料理や飲みものに爽やかな風味をプラスしてくれるだけでなく、
彩りも鮮やかにしてくれるレモン。
四季を通して食卓に登場するレモンは、
普段の暮らしにおける一番なじみ深い柑橘とも言える存在。
その果汁と果実だけでなく、果皮も料理や製菓などに使われるレモンですが、
家庭で調理するときにどうしても気になってしまうのが農薬。
輸入されたレモンは輸出時に防カビ剤などの
ポストハーベスト農薬がかけられていることもあり、
家庭でレモンを使うときは国産のものを選んでいる人も少なくないと思います。
国産のレモンと聞いて瀬戸内をまずイメージされるかもしれませんが、
柑橘王国である愛媛県でもレモンの栽培はもちろん行われています。
そのなかでも伊予灘に面した伊予市双海町(ふたみちょう)にある、
愛媛県農業指導士の山崎章吉さんの園地で栽培されているレモンには、さまざまな驚きが。
普通のレモンとはひと味もふた味も違う、
おいしさと驚きたっぷりの〈ハウスレモン〉をご紹介します。
その名前が示すように、ハウスで栽培される〈ハウスレモン〉。
その一番の特徴は、ご覧の鮮やかな緑色の果皮。
レモンといえば黄色、というイメージが強いですが
「レモンは熟しすぎると皮が黄色くなるんです」と山崎さん。
「そして熟しすぎると香りが薄くなる。
レモン本来の香りが出るのは、皮が緑色のときなんですよ」
“果皮が緑色なのに熟している……?”と不思議に思っていると
「葉っぱに隠れていて収穫し忘れたのがあるから、話の種に切ってみましょうか」と、
まだ熟していない若い実、ちょうど食べごろの実、そして熟しすぎた実と、
3つの異なる状態の〈ハウスレモン〉を山崎さんが持ってきてくれました。
「じゃあ、まだ熟してないのから切ろうか」と、まず山崎さんが手にしたのは、
まだ実が小さく、皮の表面がゴツゴツしている濃い緑色のレモン。
小さめな実からレモン特有の香りはするものの、
カットされた断面を見ると果実の粒に水気が感じられなく、見るからにパサついた状態。
「この皮が鮫肌のはまだ果汁がのってなくて、皮も厚いんですよ。
レモンにも若取り(野菜や果物を、まだ若いうちに収穫すること)があるんですが、
僕はこの手のレモンは絶対に出荷しない」と山崎さん。
ちなみに取材後に調べたところ、
日本に輸入されるレモンの多くは熟しきっていない状態で収穫したものを
エチレンガスで追熟させ、果皮の色を黄色くしてから出荷されたものなのだそう。
「消費者の方が一番嫌うのは、しぼっても果汁が出ないレモンなんですよ。
果汁がのったものだけを出荷することに、僕はこだわりを持っているんです」
続いて山崎さんが切ったのが熟したてという果皮が緑色のレモン。
丸々とふとり、皮の表面がなめらかに整ったレモンがカットされた瞬間に
ふわっと立ち上ったのは、未熟のレモンとは比べものにならない爽やかな香り。
レモン特有の清涼感がありながらも、ツンとするような刺激は強すぎず、
さらに香りそのものからみずみずしさが感じられるほどのもの。
そんな香りを放つ断面を見ると、
果実の粒のひとつひとつがはちきれんばかりに膨らんでいて、見事なまでにつややか。
“レモン=黄色”のイメージをくつがえされて驚いていると
「僕らは飴色っていうんだけど、
皮が緑じゃなくてちょっと飴色のときが出荷のタイミングで。
皮も薄いし、果汁もたっぷり入ってる。
焼酎のレモン割りをするなら、こっちやな(笑)」と山崎さん。
そして最後に切られたのが、熟しすぎて果皮が黄色くなったレモン。
果実もふっくらとしていて、見た目はみずみずしいのですが、異なっていたのが香り。
レモンとしての香りはしっかりするのですが、
熟したてのレモンが放つ鮮烈な香りに比べると少しぼんやりとしていて、
良くも悪くも香りが落ち着きすぎている印象が。
最高の状態での香りを知ってしまったら、どうしても物足りなさを感じてしまいそう。
この切り比べを通して、レモンの緑色の果皮はとれたての証しであることを
実感させられました。
果皮が緑色のレモンは双海町だけでなく、県内のほかの地域でも栽培されているのですが、
その多くの収穫時期は秋から春先にかけて。
でも山崎さんが育てる〈ハウスレモン〉は夏にも収穫ができるのだそう。
その理由は露地ではなく、温かなハウスで栽培しているから。
「ハウス栽培の一番の特徴は、夏場の暑いときに青いレモンで出せることだな。
ハウスの中に暖房を入れなかったら収穫できるのは11月だけになるけど、
12月にも暖房を入れれば6月にも収穫できる。
輸入された黄色いレモンもたらふくある夏場に
果汁がのったグリーンのレモンを持っていくと、すごい人気になる。
やっぱり緑色の皮に清涼感があるからだろうね。
あと都会の方では塩レモンブームとかあるらしいな? それも追い風になったな」
実は山崎さんの本業はハウスみかんの栽培。
1972年に就農した際は露地みかん栽培をしていましたが、
1982年からハウスみかん栽培に切り替えたのだそう。
その長年にわたり培ったハウス栽培の知識とキャリアは、
2008年に農林水産省に〈農業技術の匠〉として選定されたほどの高さ。
そんな“ハウス栽培のプロフェッショナル”ともいえる山崎さんだからこそ
夏場にも出荷できる〈ハウスレモン〉を育てることができるのです。
そして山崎さんがその高い技術を生かして〈ハウスレモン〉とともに取り組んでいるのが、
ルビーグレープフルーツの栽培。
“日本でもグレープフルーツが育てられるの!?”と驚く人もいそうですが
「愛媛県だったら南のほうにいけば露地栽培できるかもしれないな」と山崎さん。
「ただ輸入されるグレープフルーツに負けないものを育てようとするなら、
やはりハウス栽培での暖房はどうしても必要だと思う。
いろいろと試験してみたところ、積算温度が足りないと果実が薄い桜色になるから、
ハウスで暖房しないと本来のルビー色が出てこないっていう結論になったんですよ」
〈ハウスレモン〉と同じく、山崎さんが育てるグレープフルーツも人気が高く
「もうリピーターの方が固定していて、
予約だけで収穫したもののほとんどが出てしまう」らしく、
一般の流通にのることがないほど。
取材に訪れた10月下旬、2月の出荷時期に向けて成長中のグレープフルーツを
「まだ酸っぱくて、十分な状態じゃないけど……」と山崎さんがカットしてくれました。
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カットして現れたのは、まさに“ルビー”という表現がぴったりな真っ赤な実。
粒のひとつひとつが、ふっくらと膨らんでおり、
その見た目からもジューシーなおいしささが伝わってきます。
でも山崎さんが言うには「これはまだ酸が高い。収穫する2月に入ると、
皮ももっと薄くなってくるんですよ」。
十分に赤く見える実も、これでもまだ透明度が高い状態で、
収穫時にはもっと赤みが増すのだそう。
試食すると、確かにまだ甘みよりも酸っぱさが勝っているものの、
渋みがないうえにみずみずしく食べやすい状態。
完熟して甘みが増したら、どれだけおいしくなってしまうんだろう……
と思わずにはいられない味。
四季咲きのレモンと異なり、グレープフルーツが花を咲かせるのは初夏のみ。
つまり収穫時期も年に1回だけなのですが、
グレープフルーツよりも〈ハウスレモン〉につけられる値のほうが高いのだそう。
「国産のグレープフルーツというのはまだ知られてない存在なんですよ」と山崎さん。
「輸入されるルビーグレープフルーツは中が桜色だけど安くて手に入りやすい。
だから桜色が当たり前だと思われているんですよね。
そんなこともあって、うちのグレープフルーツは
こだわりのあるお店にしか取引してもらえないんだな」
さまざまな難しさがありながらも、試行錯誤や研究を重ね続けている山崎さん。
そんな山崎さんが生涯のテーマとしているのが
化学合成農薬を使用しない農法を確立すること。
今回ご紹介した〈ハウスレモン〉もグレープフルーツも化学肥料は使わずに、
堆肥の熟成を促進する菌を使って自分で配合した肥料を与えながら、
化学合成農薬を一切使用せずに育てられています。
では、どうやって害虫を駆除しているのか? その答えは、害虫の天敵となる虫。
「天敵を使い始めて、これで7年目になりますね」という山崎さんが
まず取り入れた天敵が、オランダから輸入した〈スワルスキーカブリダニ〉。
この0.3ミリほどの大きさの目には見えないダニが
「ミカンハダニやチャノホコリダニ、アザミウマといった
悪さをする虫を食ってくれるんです。
それと土着天敵といってな、日本古来の天敵が自然界にはやっぱりおるんですよ。
今は〈スワルスキーカブリダニ〉にプラスして、
山で集めてきた〈ミヤコカブリダニ〉という日本古来の天敵にも働いてもらっていて。
ただ、定着させるのがなかなか難しくてね」
さらに「最近は天敵がわからないときはな、うちでとるんですよ」と話す山崎さん。
その捕獲方法を訊ねると
「10年間まったく農薬をやってないレモンとグレープフルーツの苗を肥料袋にはめて、
ハウスの外に置いてるんですよ。そこへ集まってくる色々な天敵をルーペ片手に採取して、
ハウスの中で増やすんです」と、虫の研究家さながら。
さらに驚かされたのが、地道にコツコツと積み上げている
天敵に関する貴重な技術を一切秘密にせず、公開しているということ。
「僕は技術を全部オープンにする主義なんですよ。
だから若い子が応えてくれれば、もう全部を教える。
最近はメーカーの視察とか問い合わせがぎょうさんあるけど、
なかなか地味な仕事なので若い子はついてこれなかったりするんですよ」
「歳が歳ですけんな、僕の生涯のテーマはこの天敵利用の技術確立。
これで一生を終われたらとは思うけど、頂点は見つからないと思うね。
それくらい奥が深いから」と山崎さん。
それでも前向きに研究に取り組み続けるのは
「食べていただく方も、化学農薬を使ってないと一番喜んでくれるんですよ」
と消費者の声があるからこそ。
自然本来の生態系が生かされ、
誰もが安心して食べられるおいしい果物を生産することを可能にする山崎さんの技術。
テクノロジーの分野においてオープンソースがさまざまな発展をもたらしたように、
自分への見返りを求めることなく山崎さんが公開する技術には、
愛媛県のみならず日本の農業に新たな発展をもたらす可能性も秘められているかもしれません。
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