連載
posted:2018.5.27 from:香川県三豊市 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
text&photograph
Kiyoko Hayashi
林貴代子
はやし・きよこ●宮崎県出身。旅・食・酒の分野を得意とするライター・イラストレーター。旅行会社でwebディレクターを担当後、フリーランスに転身。お酒好きが高じて、唎酒師の資格を取得。最近は野草・薬草にも興味あり。
いまや、日本の食文化に大きく編入してきた「アボカド」。
サラダ、ハンバーガー、スムージー、最近はお漬物にする人もいるとか!
コックリ、ネットリとした、独得の風味が好まれ、
栄養価も高いことから“森のバター”とも呼ばれる果物。
日本ではメキシコから多く輸入しているが、
いま日本各地で、ごく少量だがアボカドが生産され始めている。
しかも、実が青い時期に収穫し、コンテナで運ばれてくる輸入アボカドと違って
樹になったまま完熟させるため、
味・オイルの乗り・栄養価が違ってくるそう。
香川県三豊市にも、アボカド栽培に乗り出した生産者が。
トロピカルフルーツ栽培と、
自身で栽培した果物を使ったスイーツを提供するカフェを営む、
安藤貫介吉(あんどうかずよし)さんだ。
現在、マンゴーとアボカドの主力商品に加え、
ドラゴンフルーツ、パッションフルーツ、インドナツメといった
南国フルーツを多く育てている。
安藤さんがこの2品種を主軸としているのには訳がある。
まずアボカド。
品種がさまざまに揃えば収穫期は長く、9月から翌年の6月くらいまで収穫が可能。
つまり、主に冬場に出荷する果実。
いっぽう、マンゴーの旬は夏。収穫期間は5月~8月頃。
このふたつの果物があれば、年間を通してフルーツの出荷ができるのだ。
「もしマンゴーのみを栽培をして、夏場だけ出荷するとなったら、
冬場は遊んでないといかんやろ?
だからアボカド栽培は冬場の対策にもなるんや」
現在、安藤さんのハウスには約100株のアボカドの木が。
青果店やスーパーでは見たことがないような、ビッグサイズの実が枝をしならせている。
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マンゴーとアボカドを選んだ理由がもうひとつ。
マンゴーは繊細な果物であり、ブランドマンゴーとして出荷するには
摘果をほどこすなど、管理や育成に手間がかかるのだが、
アボカドはほとんど手のかからない果樹なのだとか。
夏場、約500株のマンゴーの手入れに追われても、アボカドは放っておいても育つ。
手間がかからない分、高齢の方、仕事を引退した人、
サブの作物として、場合によっては仕事に行きながらでも栽培できる、と語る安藤さん。
「例えば、今日雨が降っちょると思ったら、来週収穫したらいいわけや。
今月頭は忙しい思うたら、月末やればいいんや。
採ってから1週間、追熟の期間を設けるけど、
いつ採ってもその1週間の追熟は変わらない。
だから自分の予定にあわせられるのもメリットやね。
薬もとくに不要やから、いわゆる“無農薬”で育てられるしなぁ」
安藤さんが果樹園をスタートさせたのは約7年前。
それまでは養豚や建設業を経営し、さまざまな困難と苦労を経験してきたそう。
「昔から、思うたらなんでもすぐやるほうやったんや。
だから何回も何回も失敗して、周りから『貫介吉さん、また変なことしてる』
っていわれるんやけど、そんなのかまへん。
まあ、金銭面で苦心して、ほんまにみじめに思うこともあったけどな(笑)」
20代の頃は、仕事で東南アジアにおもむく機会が多く、
当時、日本では見かけないような南国フルーツを現地で食べ、
そのおいしさに驚いたという安藤さん。
その頃の南国フルーツへの強い印象があってか、
だんだんと果樹園の構想を思い描き、60歳を機に農家に転身。
これまでに20種ほどの果物の栽培に挑戦してきたが、
最終的には、はじめから構想にあったマンゴーと、
冬場に出荷ができ、手間のかからないアボカドに到達したという。
もちろん栽培には諸条件があるが、
台風の直撃が少なく、気候が穏やかな瀬戸内のこのエリアは、
気候的条件も、土質も、果樹栽培にマッチした土地なのだとか。
暖かい国で育つ果樹なので、冬場はハウス内に暖房を入れるものの、
アボカドに関しては熱帯エリアなみの暖かさは不要で、
暖房費もたいしてかからないそう。
「金かからん、手間いらん、収穫期が長い。一番効率がいいんや」
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現在、収穫数が増えてきたマンゴーは、
ネット販売や、安藤さんが経営するカフェ〈アンファーム〉で販売しているが、
アボカドは収穫数がまだまだ少ないため、
アンファームでの販売と、東京、大阪、高松の取引先に少量を卸しているのみ。
いつか三豊エリアをアボカドの産地にしたいという夢を持つ安藤さん。
その夢を実現させるために、アボカド栽培のノウハウを教える
〈アボカドプロジェクト〉を開催しているという。
「育て方、ポット栽培方法、水耕栽培方法、接ぎ木の仕方など、
いままで僕がこしらえたものを全部見せて、説明して、食べてもらう。
もしやり方がわからなくなれば、アドバイスをしたり、実際に見に行ったり。
いま、香川で少しずつアボカドを育てる人が増えてきおるよ」
アボカド農家が増え、コンスタントに出荷できるようになれば、
三豊や香川でグループをつくり、ブランド化していきたいと考えているそうだ。
安藤さんのようなイノベーター的生産者がいなければ
残念ながら、完熟アボカドは日本では滅多に食べることはできない。
その希少さや、食育の観点からみても、アボカド栽培には “夢”がある。
「輸入に頼るのもええと思うよ。ちゃんと熟した、本当の味のするものやったらね。
でもいまの輸入ものは青ちぎりやけんな。
やっぱり木で熟成させたもんと違う。
『完熟したアボカドってこんなにおいしいんやな』って知ってもらいたいな」
完熟アボカドが、普段の食卓に気軽にのぼってくる日が待ち遠しい!
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安藤果樹園 アンファーム
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