小学生デザイナーは
札幌の市電をどうデザインした?
SIAFデザインプロジェクト

札幌国際芸術祭(以下、SIAF)2017のテーマは「芸術祭ってなんだ?」。
それに呼応し、芸術祭にまつわるデザインも
「デザインってなんだ?」という問い直しから始まった。

カラフルなグリッドに文字が踊る芸術祭のメインビジュアルや
シンボルマークはどうやってつくられたのか、
また、そこから派生した、小学生デザイナーによる
ラッピング電車〈SIAF号〉はどう生まれたのか。
さらに札幌のデザインの歴史をたどる展覧会『札幌デザイン開拓使 
サッポロ発のグラフィックデザイン~栗谷川健一から初音ミクまで~』まで。

これら一連の「札幌国際芸術祭デザインプロジェクト」について、
SIAFの“バンドメンバー”と呼ばれる企画メンバーのひとり、
アートディレクターの佐藤直樹さんの話を交えて紹介しよう。

芸術祭のメインビジュアルやシンボルマークはこうして生まれた

ゲストディレクターの大友良英さんから、アートディレクターの佐藤直樹さんに
SIAFのアートディレクションが依頼されたのは、開催の1年半以上前。
大友さんの2009年のプロジェクト
「ENSEMBLES 09 - 休符だらけの音楽装置」でもデザインを担当した佐藤さんは、
展覧会をつくる一員となってデザインを考えていくような人だ。

「大友さんが多様性のある芸術祭にしたいと言っているのに、
外から来たひとりのデザイナーが統括的にデザインして、
その成果物をみんながただ使うというのはちょっと違うなと。
札幌のデザイナーをはじめ地元の人たちと、
ワークショップなど共同作業を通じて組み立てていこうと思いました。
その過程を重視し、開催期間に合わせてデザインも変化させていく。
プロジェクトとして1年半くらいかけて制作していったんです」

バンドメンバーのひとり、アートディレクターの佐藤直樹さん。

こうして2016年4月から「札幌国際芸術祭デザインプロジェクト」がスタート。
〈ワビサビ〉の工藤“ワビ”良平さんと〈COMMUNE〉の上田亮さんほか、
札幌で活動するデザイナーや来場者が意見を交わす
「SIAFデザインミーティング」が数回行われた。

札幌のクリエイティブサロン〈MEET.〉で開催された「第1回SIAFミーティング」。

メインビジュアルやシンボルマークは、まだ芸術祭の参加アーティストや
作品、展示場所、制作予算も確定していない時期から使用を求められる。
佐藤さんは「キーカラーや単一のマークといった
ひとつのアイデンティティを決めるのではないやり方」を模索し、
まず全面に1色ずつ蛍光色を使った大きなボードを数枚試作。
5月には、一般参加者も募ってまち歩きワークショップを行った。

「まちなかで展示やイベントなど何かやろうとしていることはわかっていたから、
にぎやかなすすきのや狸小路でどう見えるかなと。
グラフィックを場所から切り離すのではなく、実際に試してみたんです。
あえてストイックなデザインで日常空間と隔てる手もありますけど、
やっぱりそっちの方向性ではないなとか、
けれど単に目立つだけでは一般の人の興味は引かないなとか、実感としてわかりました」

まちなかでポスターや看板がどんなふうに見えるか考える、まち歩きワークショップ。

メインビジュアルやシンボルマークは、その芸術祭を象徴する「顔」だ。
ポスターやチラシ、ウェブサイトなどのメディアに載って広報的役割を担い、
まちなかや野外などでは会場の目印となり、グッズなどにも展開される。

「芸術祭はたくさんあるけれど、各地事情が違う。
札幌では都市機能がしっかりあり、そこに新たな軸を入れることになるので、
混ぜつつも竣立させるにはどうしたらいいかと。
こうして、その場でできる最善のことをしてみて、
それをつないでいくようなプロセスを経て、いまのデザインが生まれたんです」

メインビジュアルも数パターンある。

どの印刷所でもできるよう、
C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)という色材の三原色に加えて、
R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の光の三原色も
印刷適性を考慮して新たな色へと変換し、基本の6色を用意した。
そのことで、6色の色面の割合や形、“ズレ”たようなリズムのある
黒や白抜きの文字を、パズルのように組み合わせるデザインが可能になった。

組み合わせには数パターンあり、それは芸術祭を象徴する
大風呂敷プロジェクトとも印象が重なり、変化があっても「SIAF」だと認識できる。
また、モエレ沼公園、札幌芸術の森など、
会場ごとにメインの色が顔を出すように変化しているが、
それらはそれぞれの現場をよく知る人と決めており、
プロセスに参加した全員にとっておもしろく愛着の湧くデザインとなった。

じいちゃんばあちゃんを ストリート感覚の写真集に! 『鶴と亀 禄』発売

日本のおじいちゃん・おばあちゃんが
ヒップホップスタイルでグラビアに!

長野発の衝撃のフリーペーパー『鶴と亀』が、このたび株式会社オークラ出版より
集大成となる写真集『鶴と亀 禄』として発売されました。
発売日当日には2,000冊を超える注文が集まるという、
大注目の1冊になっています。

『鶴と亀』は、長野県飯山市に住む小林兄弟(兄=徹也、弟=直博)が
制作してきたフリーペーパー。
おじいちゃん・おばあちゃんををHIPHOP、ストリートカルチャーの視点から切り取り、
2013年8月の創刊後、現在までに5号を刊行。
日本全国の書店やカフェ、ゲストハウスなど約200ヶ所以上で配布を行ってきました。

斬新な内容が話題を呼び、配布する約10,000部はすぐに品切れ。
このたびの写真集の刊行に繋がりました。
フリーペーパーでは表現できなかった数々の特別企画も収録しています。

紙面でおなじみの企画、「お薬調査」「謎の施設への潜入レポ」
「パンチライン」「ファッション特集」。
ほか、じいちゃんばあちゃんたちの伝説エピソードを漫画化したり、
長野を飛び出し、北は秋田、南は沖縄へと飛んで現地のじいちゃんとばあちゃんを
取材したり……。聞いたことない方言、未知の風習など、
波乱万丈の取材になったんだそう。

〈鉄工島FES〉開催!
鉄工のまち、大田区「京浜島」で
いま何が起きている?

東京の小さな人工島「京浜島」

東京にしばらく住むと、ある程度の地理感が身についてくるものだ。
TVや雑誌でまちの雰囲気を知ったり、こんなお店があるんだ、と足を運んでみたり。

そんなふうに、いつの間にか慣れっこになってしまう東京にも、
名前を聞いても、どんなまちなのかイメージしにくい場所がある。
大田区の湾岸エリアにある「京浜島」は、まさにそれだ。

そんな京浜島が、注目を集めつつある。
昨年、シェアアトリエと作品展示スペースを併設したアートファクトリー
〈BUCKLE KÔBÔ(バックルコーボー)〉がオープンし、
今年の秋には、芸術・音楽・映画・キャンプなどのジャンルを融合させた
アートの祭典〈鉄工島FES〉が開催される。

なにやらおもしろくなりそうなエリアだが、そもそも京浜島ってどんな場所? 
いったい何があるのだろう? 
知られざる東京の小島に、一歩足を踏み入れてみた。

image by Tohru Matsushita

京浜島にオープンしたアートファクトリー〈BUCKLE KÔBÔ〉とは?

羽田空港の隣に位置する、面積1.03平方キロメートルの人工島、京浜島。
戦後、近代化を目指した企業が移転し、鉄工を中心に工業団地として栄えた島だ。
しかし、機械化と低コスト化が進み、昔ながらの職人の手を必要としなくなったいま、
大田区内ではこの30年で約40%の鉄工所が衰退。
島のいくつかの工場跡地も、廃棄物処理場や
リサイクルセンターに変わりつつあるという。

そんな京浜島に、BUCKLE KÔBÔが参入したのは2016年。
ここの運営を担い、鉄工島FESの実行委員でもある、
〈寺田倉庫〉の伊藤悠さんに話を聞いてみた。

BUCKLE KÔBÔの2階ギャラリー。これまでに多くの作品展示やアートイベントを実施。

「京浜島って、大型の工場が多いんです。
でも空きスペースになったとき、その大きさゆえに使える会社がなくて、
ごみ処理場やリサイクルセンターになっていくそうなんです。
ものづくりの島が、かつてつくったものを処理する島になっていく現状を知ったとき、
リサイクルの価値の転換とか、空きスペースをおもしろく使えるアイデアとか、
発想の転換みたいなことをしてみたくって」

もともと寺田倉庫が見つけた、2階建ての〈須田鉄工所〉の空きスペースを
アートファクトリーにする案が立ち上がり、クラウドファンディングを開始。
クリエイターやミュージシャンなどを含む、83人のメンバーが賛同し、
目標金額を大きく上回ってスタートしたという。

BUCKLE KÔBÔで開催した「GROUP EXHIBITION『SCENERY』」の展示風景。

BUCKLE KÔBÔの1階は、ひとつの大きな空間を
アーティスト同士で譲り合って使うシェアアトリエ、
2階は、作品展示・イベントスペースや、BUCKLE KÔBÔ事務所になっている。

シェアアトリエで制作した大型作品。アトリエには壁がない分、都内ではなかなか実現が難しい大きな作品の制作が可能だ。(Akira Fujimoto “2021” 3600×10000mm wood 2016)

工業専用地域である京浜島は、音や火を出すことへの規制が比較的ゆるいエリア。
そういった地域的メリットもBUCKLE KÔBÔの魅力のひとつ。
さらに1階の隣のスペースには、現役の旋盤工職人が火花を飛ばしながら、
半導体部品などの製造に精を出している。

現在、シェアアトリエで大型作品の制作に取り組むアーティスト根本敬。その隣の工場では、旋盤工の職人が半導体部品をつくっている。

BUCKLE KÔBÔオープン後、京浜島で働く人にも、おもしろい波及が。

「ここで制作した作家の作品が上野の美術館に展示されたとき、
わざわざ上野まで作品を観に行ってくれた方もいて。
あと、アーティストの壊れた自転車を、鉄工組合の方が
あっという間に直してくれたこともあったみたいです(笑)」

アーティストも、鉄工所の人も、同じものづくりをする人同士。
それぞれに影響し合うものがあるのかもしれない。
京浜島に関わる人のあいだで、ほんの少しの変化が起こりつつあるようだ。

芸術祭って、子どもも楽しめる!?
キッズと巡る札幌国際芸術祭2017
リアルレポート

1日目はモエレ沼公園へ。バルーンの中をかけまわって

子連れで展覧会に足を運ぶのは、かなり骨が折れる。
親からすれば、騒いで走り回らないかとヒヤヒヤするし、
子どもからすれば、退屈でもその場にいることを強いられるし、
ハッピーだった思い出は正直ほとんどない。

けれど筆者はアートやデザイン専門の編集者。
この夏開催中の札幌国際芸術祭(SIAF)2017は、
北海道在住の身としては必ず見ておきたいイベントだ。

ということで、きっとハプニングが起こるだろうなぁと不安を抱えつつも、
土日を使って思い切って出かけることに。
SIAFの会場の中でも、子どもが喜びそうな場所を選ぶことにし、
1日目はモエレ沼公園、2日目は円山動物園というプランを立てた。

「今日は、でっかい公園に“風船お化け”を見に行くよ〜」
そんなわたしの誘いに、3歳の娘は大はしゃぎ。
しかし、小学1年生の息子は疑いの眼差しを向けている。
彼は幾度となく、わたしにつき合わされて、
アート関連のイベントやシンポジウムに連れていかれているので、
「またか!」といった顔つきだ。

乗り気でない息子に、噴水や水遊びができる場所もあると言い聞かせ、
なんとか出発することができた。

モエレ沼公園は、わたしの住む岩見沢から車で1時間ほどのところにあり、
彫刻家イサム・ノグチが設計した約189ヘクタールにもなる超巨大な公園だ。

〈ガラスのピラミッド〉内部にある黄色いバルーンは、松井紫朗による『climbing time / falling time』。

メイン会場となる〈ガラスのピラミッド〉のガラス越しに見えるのは、
高低差16メートルにもなるバルーンを用いた
松井紫朗の作品『climbing time / falling time』。
「ほら、“風船お化け”があるよ〜」と言うと、
子どもたちはワーッと歓声を上げながら屋内へと駆け込んでいった。

大友良英+青山泰知+伊藤隆之『(with)without records』。

ガラスのピラミッドの中では、不可思議な音が響いていた。
大友良英+青山泰知+伊藤隆之による『(with)without records』は、
市民が金属やプラスチックなどの素材を自由に組み合わせて、
ノイズを発する楽器につくり変えたレコードプレーヤーを約100台設置した作品だ。

遠くにあったプレーヤーが音を発していたかと思うと、
急に近くにあるプレーヤーが動き出したり。
子どもたちは、どのプレーヤーが音を出しているのか見つけるのに夢中。

「ここ鳴っているよ〜!」と、教えてくれる子どもたち。

2階にのぼって展示室を抜けると、またもや駆け出す子どもたち。
松井紫朗のバルーンの中に入ることができたのだ。
あたり一面黄色い世界。広いのか狭いのか距離感がつかめず、
いままで体験したことのないような、言葉で言い表すのが難しい感覚がわきあがる。
子どもたちはトンネルの中でキャッキャと笑いながら、何往復もしていた。

3階にもバルーン内部に入ることのできるトンネルが。ワーッと騒ぎながら走り去る。

レコードプレーヤーを発見。「ここにもあった!」と大喜び。

予想以上に楽しい体験だったようで、「次はなにがあるの?」とワクワク顔。
ああ、普段行く展覧会では、「早く帰ろ〜」と文句ばかりだが、
今日は生き生きとした表情を見せてくれたので、ホッと胸をなで下ろし……。

しかし、この会場の最後の展示室で3歳の娘は号泣した。

ARTSAT×SIAFラボによる
『Sculpture for All of the Intelligence 全知性のための彫刻』は、
室内が真っ赤なライトで照らされ、巨大な鉱石検波ラジオが
宇宙から受信したという電波音を鳴り響かせる。
この衝撃を感じる電波の音が、とにかく怖かったようで、
順路を逆走しようとする娘をつかまえて、目をつぶらせて部屋を走り抜けた。

ARTSAT×SIAFラボ『Sculpture for All of the Intelligence 全知性のための彫刻』。中央には正24胞体の「4次元プラント立体」が置かれている。

部屋の外でも娘はワンワン泣いていたが、出口になんと“救世主”が。
救世主とは、SIAF2017の子ども向けスタンプラリー。
泣いていた娘はスタンプを押したら、あっというまにご機嫌に……(助かった)。

「おばけのマール」とコラボしたSIAF2017のスタンプラリー。会場を巡ってスタンプを集めると、オリジナルグッズがもらえるというもの。

〈ART CAMP TANGO 2017 音のある芸術祭〉開催中。 京丹後市で「音」の芸術が鳴り響く

京都府北部に位置し、日本海に面した京丹後市。
ここで、2017年9月24日(日)までの金土日祝、
“サウンドアート” をテーマにした芸術祭
〈ART CAMP TANGO 2017 音のある芸術祭〉が開催されています。

“サウンドアート” とは聞き慣れない方も多いと思いますが、
「音」にまつわるアートのこと。ここ丹後地方は、日本のサウンドアーティストの
草分け的存在である鈴木昭男さんの活動拠点。

長年にわたり、音やアートにまつわる多様な活動が行われてきたことから、
「聴くこと、見ること」についての芸術体験が培われ、
地域の理解がある土地柄なのだそうです。

そういった土地の由来もあって、〈ART CAMP TANGO 2017〉は、
地域アートの中でも珍しく、「音」に焦点を当てた芸術祭。
日本とアジアから、サウンド・アートや現代美術、音楽、ダンスなど
さまざまなジャンルで活動するアーティストが丹後の地に集まることになりました。

旧郷小学校

芸術祭では、廃校となった旧郷小学校を会場に展開する
現代美術展〈listening, seeing, being there〉や
古い街並みが残る京丹後市峰山地区を、「音」を切り口に
訪ね歩くサウンドウォーク〈峰山まち音あるき〉、コンサートなど、
アートを通して丹後の魅力を体験できるプログラムを多数実施します。

京都丹後鉄道を舞台にしたオープニングパフォーマンス、

札幌国際芸術祭2017レポート 
ライブで会いましょう。
いま、そこで、
何かが生まれる芸術祭

『After the Echo』撮影:佐々木育弥

開催中の札幌国際芸術祭(SIAF)2017のスケジュールカレンダーを見てみると、
展示だけでなく、美術・音楽・演劇といった既存のカテゴリーには当てはまらない
ライブイベントがあふれんばかりに開催されていることがわかるだろう。

それらは、ゲストディレクターを務める大友良英さんが
「何かが生まれる生の状態を見せてしまうような、生きた芸術祭にしたい」
と語るSIAFの特徴をよく表す、見どころのひとつとなっている。

8月25日〜27日、駆け足ながら、日中は展示を巡り、
夕方から夜間はライブを鑑賞する旅をしてきた。
まったくカラーの異なる4つのライブを中心にレポートしたい。

アイヌ音楽とコンテンポラリーダンスが出会った
『raprap』の新たな風景

まずは、8月23日〜26日に中島公園近くのシアターZOOで行われた公演
『raprap(ラプラプ)』から。「rap」とはアイヌ語で「翼」を意味する。

2016年、アイヌの伝承歌「ウポポ」の再生をテーマに活動する
女性ヴォーカルグループ〈マレウレウ〉と、
札幌を拠点に活躍するダンサーの東海林靖志、
韓国と日本で活動する振付家でダンサーのチョン・ヨンドゥとで共作した
アイヌ音楽とコンテンポラリーダンスの舞台が好評を博し、
今年は東京から若手ダンサーの渡辺はるか、有泉汐織、
フランスから札幌に帰ってきた菊澤好紀が参加。
4月から共同制作を重ね、新作を披露した。

photo:matsumura saki

公演では、まず導入として、観客全体でマレウレウの真似をしながら、
『フンペ ヤンナ』という曲から「モッケウ ケ ピッソイ ケ」という一節の
ウコウク(輪唱)を行った。
美しい音の響きだが、実は「首肉とろう、腹肉とろう」という意味で、
浜に上がった鯨をとりにいく力強い歌だと教わる。

そのおかげで、本編のダンスでは、ほかの楽曲の言葉の意味はわからないながらも、
懐かしいどこかへ遡っていくような感覚に誘われ、
北海道の自然や人々の営みの風景を想像させられた。

撮影:高橋克己

実際に、作品づくりは白老や二風谷、北海道博物館などを訪ねるところから始まり、
アイヌの踊りや音楽、儀式などに触れるなかで、文様がダンサーの動線になったり、
子どもの遊びから振付が生まれたりしたという。

撮影:高橋克己

最後は観客もステージに移動して、演者とともに輪になって歌い踊った。
いまを生きる世代としてどのようにアイヌ文化を “再生”するか、
あるいは音楽としての可能性をどのように広げていくか。
異なる文化や身体表現をもつ人々との出会いによって、新しい扉が開かれたようだった。

SIAF2017公式ガイドブック『札幌へアートの旅』では、
マレウレウのマユンキキさんがアイヌ文化に触れる旭川の旅を綴っている。
SIAFから足を延ばしてみてはいかがだろうか。

〈鮫ヶ浦水曜日郵便局〉 プロジェクトとは。 水曜日にだけ開く架空の郵便局!?

1週間にたった1日、水曜日にだけ開く架空の郵便局〈水曜日郵便局〉プロジェクト。
熊本県で始まったこのプロジェクトが、次は宮城県にて〈鮫ヶ浦水曜日郵便局〉として
オープンすることを目指し、このたびクラウドファンディングを開始しました。
2017年12月6日からの開局を目指しています。

〈赤崎水曜日郵便局〉のシンボルである灯台ポスト

〈水曜日郵便局〉プロジェクトが始まったのは、2013年6月のこと。
児童数の減少で2010年3月に閉校となった、
旧赤崎小学校を舞台に〈赤崎水曜日郵便局〉が開局。
熊本県津奈木町の〈つなぎ美術館〉が主体となり、郵便受けを設置。
“水曜日の出来事が綴られた手紙”を全国から募集しました。

〈赤崎水曜日郵便局〉オリジナル封筒と便箋

集まった手紙は、個人情報を伏せて無作為に交換したあと、転送されます。
手紙を送った人の元に、まったく面識の無い誰かの
水曜日の出来事が綴られた手紙が届く仕組みなんです。

旧赤崎小学校が、水曜日の小さな出来事が行き交う拠点に。
海外も含めて全国から手紙が集まるなど、じわじわ人気を集めていました。

しかし〈赤崎水曜日郵便局〉は、惜しまれながらも2016年3月に閉局。
プロジェクトの発案者のひとりである映画監督の
遠山昇司氏(2017年9月開始のポイントホープ ディレクターディレクターも務める)
は、〈水曜日郵便局〉の次なる開催地を求めて全国各地を巡っていました。
そして出会ったのが、宮城県東松島市宮戸島にひっそりと存在する、
使われなくなった漁港〈旧鮫ヶ浦漁港〉でした。

旧鮫ヶ浦漁港

〈暮らしかた冒険家〉が考える、
これからの暮らしと
オフグリッドライフ

暮らしがアートに? 芸術祭を機に札幌に移住

前回の札幌国際芸術祭(SIAF)2014を機に、札幌で暮らすようになった人たちがいる。
「高品質低空飛行」をモットーに、理想の暮らし方や働き方をつくっていく
〈暮らしかた冒険家〉。クリエイティブディレクターの伊藤菜衣子(さいこ)さんと、
ウェブディベロッパーのジョニイ、こと池田秀紀さんの夫婦ユニットだ。

東京でカメラマンや広告制作の仕事をしていた菜衣子さんと
大手クライアントのウェブ制作をしていたジョニイさんは、
東日本大震災後、熊本市の築100年の家に移り住む。

「どこでもよかったんですけどね。20年近く空き家だった家で、
水道管もだめで電気もつながっていなくて、リアルオフグリッド(笑)。
全然問題ないと思ってたけど、大問題でした」と菜衣子さん。

大家さんに相談して水道工事と電気工事はしてもらったが、
暮らしをゼロからつくっていくことに。
そんななかで、「自分たちがつくった野菜と交換でウェブサイトをつくってほしい」
という農家と、貨幣以外の価値の交換をしたりする暮らしを、SNSで発信していった。
さらに、人が人を呼んでおもしろい人たちとつながり、
何かが起こりそうなおもしろい状況をつくりだしていった。

そんなふたりの活動が、坂本龍一さんの目にとまったのは2012年。
2014年に初めての開催を控えた札幌国際芸術祭の
ゲストディレクターに就任した坂本さんは、Facebookのメッセージで
「札幌に住んで、芸術祭に参加してほしい」と要請。
ふたりは最初、ウェブ制作の手伝いか何かと思ったら、
アーティストとして、ということだったのだ。

「『君たちの暮らしはアートだ』って言われて、
自分たちがアーティスト? この暮らしが芸術祭の作品? という動揺とともに、
もうひとり客観的な自分が、こういうことも含めて芸術祭とするなんて、
坂本さんは本当におもしろいなぁ、と思って」と菜衣子さん。

実は菜衣子さんは3歳から9歳まで札幌で暮らし、
その家がまだ札幌にあったということもあり、札幌に移住することに。

熊本から札幌に持ってきた薪ストーブ。

2014年に札幌の家に引っ越し、暮らしながら家を改装。
SIAF2014会期中は土日にオープンハウスとして家を開放した。
とはいえ、改装中の家はまるで工事現場。

「これまで私たちがやってきたことや、
Facebookを見て来てくれればわかると思いますが、
芸術祭のガイドブックだけ見て来た人は『これのどこが作品なんですか?』
という人も多くて。怒っちゃう人もたまにいました」

社会と自分たちとの距離感やズレを感じたり、
コミュニケーションの難しさを感じることもあったという。

一方で、多くのボランティアスタッフが支えてくれた。
多い日は、1日50人もの人がオープンハウスに訪れる。
当時、今年3歳になる息子を妊娠中だった菜衣子さんを気遣って、
「もう奥で休んでなさい」と声をかけてくれるお母さんたちや、
すてきな差し入れを持ってきてくれる人たち。
みんなでDIYで家をつくっていくのは楽しかったようだ。

札幌のオルタナティブな発信地
〈OYOYO〉ってどんなところ?

〈指輪ホテル〉羊屋白玉×
〈OYOYO まち×アートセンターさっぽろ〉黒田仁智対談

開催中の札幌国際芸術祭(SIAF)2017で、重要な拠点となっているスペースがある。
電車通りと中通りの間に建つ昭和38年築の第2三谷ビル。
昭和感漂う独特の雰囲気を持つこの文化雑居ビルの6階にある
〈OYOYO まち×アートセンターさっぽろ〉は、
札幌のあらゆるカルチャーを発信するオルタナティブスペースとして
多くの人々に親しまれてきた。ビルの取り壊しが決まり、
本年いっぱいで営業を終えるOYOYOを、SIAF2017会期中は
夜のインフォメーションセンター&オフィシャルバーとして開放している。

まちの移り変わりと札幌のカルチャーを見守ってきた
OYOYOオーナーの黒田仁智さんと、
以前OYOYOで公演を行い、今回は市電を舞台に演劇を行う
指輪ホテルの羊屋白玉さんによる、どこか通じ合うふたりの”黒白“対談。

「あそこに行けば、何かおもしろいことや人が集まっている」

羊屋白玉: 私は今回のSIAFで市電を使った演劇をやるんですが、
OYOYOも市電通り沿いにあって、
まさしくここに「都市と市電」の縁を感じてます。

黒田仁智: ここは6丁目だから、市電の駅でいうと「西8丁目」と「西4丁目」の間だね。

羊屋: OYOYOの由来って何なんですか?

黒田: この第2三谷ビルが面している中通りが昔「オヨヨ通り」と呼ばれてたの。
西5丁目界隈には映画館やストリップ劇場もあってね。
いまの65歳くらいの団塊世代の人たちが20~30代だった頃、
映画や音楽、演劇をつくる連中がオヨヨ通りで飲んでは
喧嘩したり暴れたりして文化をつくっていこうとしてたんだよね。

羊屋: 黒田さんより少し上の世代が築いたカルチャー通りだったのかな。

黒田: めちゃくちゃやって反体制的で、でも自分たちで
何かつくっていこうとしてたんだろうね。
そのかわりヤクザにもやられたと思うよ。
でも俺たちのシーンをつくっていこうってことだから、
おもしろかったと思うな。

羊屋: 「オヨヨ」ってちょっと流行ったフレーズだったんですよね。

黒田: 当時、桂三枝がオヨヨって言ってたとか、
“オヨヨ大王のなんとかかんとか”とか諸説あるんだけど、
「あそこに行けば、何かおもしろいことや人が集まっている」って感じが
オヨヨ通りの代名詞だったみたいだね。
要はその辺でみんなダラダラ飲んでたんじゃない?

羊屋: いまで言うサブカルチャーみたいなもの?

黒田: サブカルすら確立してなかったんじゃないかな。
映画も音楽もきっとどうやって世に出していったらいいか
わからなかった時代だね。

羊屋: この第2三谷ビルが今年いっぱいで姿を消すって知ってるのかな、皆さん。

黒田: わからないな。でも文字にすると美しい話で終わっちゃうかもしれないね。

羊屋: みんないい思い出になっちゃう。
でも本当は言い切れないものがたくさんあったはずだと?

黒田: そうだね。

岩手・奥州市にオープンした
カフェと託児所
〈Cafe&Living Uchida〉
始まりは、子育ての経験から。
COKAGE STUDIO vol.1

COKAGE STUDIO vol.1 
異業種を組み合わせ、みんなが豊かになれる場所に

はじめまして。〈株式会社COKAGE STUDIO(コカゲスタジオ)〉代表の川島佳輔です。
岩手県の奥州市で、妻の珠美(以下タマミ)と息子の空(以下ソラ)と
娘の海(以下ウミ)の4人家族で暮らしています。子育てで感じた思いをかたちにすべく、
今年6月にカフェと託児所が併設された
〈Café&Living Uchida〉(以下ウチダ)をオープンしました。

ウチダは3階建ての古ビルを自分たちでリノベーションした施設で、
1階はカフェ兼託児所、2階は古道具を売るお店〈古道具FUCHI〉と
コカゲスタジオ編集部のデザインオフィスがあります。
3階も空いているので活用を検討中です。

この連載ではカフェと託児所という
既存の業態を組み合わせることになったきっかけや
DIYでハーフビルドした様子などをお話します。
どうぞよろしくお願いします。

きっかけは子育てして初めて気づいたさまざまな課題

2012年から約3年間岩手県盛岡市で暮らしていた私たちは、
タマミの出産を機に2015年にふたりの地元である岩手県奥州市へとUターンしました。

これまでタマミは保育士として保育園や幼稚園で幼児教育をしていましたが、
産休に入りしばらく保育現場から離れることに。
普段から子どもと関わっているものの、初めての子育てに不安も多くありました。

当時私は、企業のウェブプロモーションを担当する仕事をしていて、
SNSの運用やマーケティングを行う「中の人」です。
「タマミの出産とそろそろ独立したい」
と思ったタイミングが重なりウェブやグラフィックのデザインを生業に
フリーランスとして活動することに。

地元に戻り、しばらくは夫婦ふたりの自由なペースで暮らしてきた私たち。
そんな中で「子育て」は暮らしを大きく変化させました。

キッズデザイン賞受賞! 日比野設計がつくる 子どもたちのための デザインプロジェクト

今年で11回目を迎える〈キッズデザイン賞〉。
子どもたちの安全・安心に貢献するデザイン、創造性と未来を拓くデザイン、
そして、子どもたちを産み育てやすいデザインを顕彰する制度です。

応募のカテゴリーは「プロダクト」「建築・空間」「コミュニケーション」
「調査・研究」「復興支援」など、多岐にわたります。
そして、受賞作品には「キッズデザインマーク」の使用が認められます。

今年行われた第11回キッズデザイン賞では、
神奈川県厚木市にある〈株式会社日比野設計+幼児の城〉による
8件のプロジェクトが受賞しました。

受賞者の日比野設計は、幼稚園、保育園など、児童施設に特化した建築設計事務所。
これまでに490以上の園舎を手がけており、いまも依頼が
国内外から殺到しているのだそう。

今回受賞したプロジェクトは、
保育園、幼稚園等の園舎から大型遊具や幼児家具、書籍まで様々。
それでは受賞したプロジェクトをいくつかご紹介!

KM Kindergarten and Nursery

都市型の認定こども園〈KM Kindergarten and Nursery〉。
計画地は狭隘な上、周りの住宅と距離も近いという環境のなか、
子どもたちの身体能力を養い、発想豊かに遊びを誘発する仕掛けに富んだ園舎。

NFB Nursery

こちらの保育園〈NFB Nursery〉は、
周囲が工場に囲まれているという一見ネガティブな環境を、
ポジティブに捉え直すことから生まれたデザイン。
随所に本来なら見えないものを見せる仕掛けを設け、
創造力や好奇心を育むきっかけとなっています。

Ouchi-Small House for Kids

こちらの〈Ouchi-Small House for Kids〉は、
既存の園舎の一部に「ゴッコ遊びの出来る場所を作って欲しい」と
依頼を受け、子どものための小さなおうちを作ったプロジェクト。

大阪の下町で、建築家と協働。
現場で広がるリノベの可能性!
いとうともひさvol.3

いとうともひさ vol.3 
建築家との協働だから生まれた、おもしろさ

前回はDIYのインストラクターの事例を交えて
空間のつくりかたを紹介しましたが、
今回はまた違った協働、設計者とのコラボレーションの話をしたいと思います。
大阪市此花区に事務所を構える設計事務所〈NOARCHITECTS〉から声をかけていただいて
工事に参加した「大辻の家」「スペース丁」という一連のプロジェクトをご紹介します。

NOARCHITECTSによるイメージスケッチ。左の棟が大辻の家、真ん中の入口がスペース丁。©NOARCHITECTS

大辻の家・2階の工事前写真。昭和に建てられたアパートによく見られる画一的な部屋割り。©NOARCHITECTS。

NOARCHITECTSの代表で、建築家の西山広志さんは、
僕が大学時代からお世話になっている同じ大学の先輩であり、
実務でも何回か協働させてもらっています。
西山さん夫婦の住まいとなった「大辻の家」は、
此花地区にある空き家を改修することとなりました。
(詳しい経緯は、リノベのススメにて紹介)

描きすぎない設計と考える施工のバランス。

大辻の家のつくり方で特徴的だったのは西山さんの図面と、
その指示をもとに施工することを基本にしているのは通常通りなのですが、
ところどころ図面に空白部分が残されているんです。
まるで「いとうくんならどうする?」という声が聞こえてきそう。
大工としてワクワクしながら工事したのを覚えています。

2階の工事中写真。テーブルになる大きな窓枠も現場で生まれたアイデア。

大辻の家の2階の工事後写真。天井はMICROCOSMOS、壁はいとうともひさが工事。©NOARCHITECTS

例えば1階のキッチンのシンクはもともとタイルが割れたり
汚れたりしていて汚いものだったのですが、
もとのかたちを生かしつつ、ステンレス製のシンクに交換。
キッチン全体をどういうかたちにするかは現場で、意見を交換しながら決めていきました。

材料は安くても、このキッチンはここにしかない一点もの。
すべて取り替えて新しいシステムキッチンを入れるという選択肢もあるなかで、
あえて手づくりにこだわる意味を考えました。

長く愛してもらえるような、そしてここに流れる時間をイメージして

「日常に溶け込むようなキッチンを」

という気持ちで提案し、西山さんと話し合いながら工事はスタートしました。
こちらの提案を尊重してもらい、
タイルとステンレスの間に木材の層をサンドイッチしたキッチンができました。

大辻の家・1階の工事後写真。設備はPOS建築観察設計研究所・キッチンはいとうともひさが担当。

新潟市〈わらアートまつり〉 巨大スケールに愕然! 稲わらで作られた野獣がすごい

米どころ・新潟県新潟市の西蒲区。
広大な田園で育った黄金色の稲わらを使った“わらアート”の祭典、
〈わらアートまつり〉が、2017年9月2日(土)、3日(日)に
新潟市西蒲区の上堰潟(うわせきがた)公園で開催されます。

会場となる上堰潟と角田山

昨年の会場

会場には、迫力満点の5体の野獣たちを展示。
ほかステージイベントや特産品販売、体験コーナーなどの催しも。
動画共有サイトniconicoの公式イベント〈ニコニコ町会議〉も同時開催されます。

昨年の作品『キツネ』

昨年の作品『カメレオン』

昨年の作品『イカ』

そもそも“わらアート”とは何なのか……!?

それは10年前、旧岩室村と交流のあった武蔵野美術大学に、稲わらを活用した
催しが出来ないかと相談し、稲わらを用いてアート作品を作ったのがきっかけです。
稲わらは、お米の収穫が終わった西蒲区内の農家の方々から提供してもらいます。

武蔵野美術大学の学生がデザインしたキャラクターを、農家の方の協力のもと、
稲わらをひとつひとつ、とば編み(わら編み)していきます。
そして作られるのは、長さ5メートル、幅50センチ程度の“とば”。
田んぼ約5反の稲わらから、160個のとばが出来るのだそう。
このとばを骨組みに合わせて巻き付けることで、わらアートが完成するんです。

おしゃれなポスターも武蔵野美術大学の学生のデザイン

毛利悠子、大きな作品への旅。
札幌国際芸術祭2017
参加アーティストが旅する北海道

撮影:在本彌生

札幌市内各所で開催され、話題となっている札幌国際芸術祭(SIAF)2017。
公式ガイドブック『札幌へアートの旅』では、
参加アーティストたちによる北海道の旅も紹介している。
その中から、札幌市立大学で作品を展示中の毛利悠子さんの寄稿を掲載。
「スカイウェイ」と呼ばれる、キャンパスをつなぐ長い空中廊下で展開される作品に
インスピレーションを与えた旅。
ぜひこの文章を読んでから作品を体験してほしい!

北海道の海、そして炭鉱遺産へ

大きな作品がつくりたいと思った。
それは、今回のゲストディレクターである大友良英さんから
SIAF2017へのお誘いの電話をもらった時点でうっすらと考え始めたことなのだけれど、
それが、空間的に大きいものなのか、大きな彫刻のことなのか、
時間が長いものなのか、音が大きなものなのか、その時点ではまだ見当もついていない。

大きな北海道の大地で大きな作品を制作する! といささか単純すぎる思考回路に
自分でもあきれつつ、特に具体的な目標を決めずにふらっと旅に出ることにした。
偶然に出会った風景からひとつの道筋を見つけられればと淡い期待を込めながら。

とはいえ、選択肢がメチャクチャ多い北海道。
小樽、根室、別海、知床などを横断していたら、SIAFの会期が終わってしまう。
ひとまず気になっていた場所をさらっと2泊3日にあてはめてみると、
意外にすてきな道のりになった。
石狩の海から始まり、ゆっくりと河口の上流へと身を任せて
音威子府(おといねっぷ)まで北上する、という行程だ。

SIAFスタッフ斎藤ふみさんの運転で、まずは真勲別川(まくんべつがわ)のほとりにある
〈石狩川治水史資料館(川の博物館)〉へ。
ここは事前に電話予約することで、普段は水流管理をしている方が
わざわざ展示の説明をしてくれるシステム。

展示物からは、当時の水害から田畑を守るために
どのような土木の発展があったかが学べる。
実際につくられた人工の川(放水路)を眺めることもできた。
そこから少し北上すると、日本海側にある石狩湾に着く。
初めて訪れる北海道の海で、しばらく深呼吸をした。

数年前、詩人の吉増剛造さんが制作した多重露光写真の作品『廃バス』を購入した。
錆びた亡霊のような姿で写されたバスが
廃材のユートピアのように見えるところが気に入っているのだが、
実はこの光景は湾からもう少しだけ河口のほうに行ったところで撮影されたものだったと、
この数か月後に吉増さん自身から教えてもらうことになる。

前回のSIAFでは水が大きなテーマでもあり、川や海を見ることから旅がスタート。

水の流れをさかのぼるように移動し三笠市に到着。
前回のSIAFと同じ2014年、
ここで〈そらち炭鉱(やま)の記憶アートプロジェクト2014〉という
アートプロジェクトが展開されていた。

私は前回のSIAFに参加していたので、炭鉱の跡地で展示されている
岡部昌生さんや端 聡さんのインスタレーションの噂は耳にしていたのだが、
自分の展覧会準備に追われてしまい、結局訪れることはかなわなかった。
そういった経緯もあったので、アートプロジェクトが
行なわれている時期ではなかったけれど、訪れてみることにした。
かつて北海道の産業を支えた場所はどのようなところなのだろう。

夕張で炭鉱遺産を活用したまちづくりに取り組んでいる
〈清水沢アートプロジェクト〉の佐藤真奈美さんに案内していただく。
まずは幌内(ほろない)炭鉱跡地で、石炭を輸送した線路や
坑口跡(入口はブロックで塞がれていた)などを手づくりの路上地図に沿って見学する。

夏にぴったりなハイヒールを履いていたところ、佐藤さんに
「えーと、その靴だと一気にダメになります」と指摘され、
大荷物を積んだ車のなかから長靴を引っぱりだしてもらった。
ワンピースに長靴を履いて、なんだかグーニーズ気分(そんなシーンはない)。
建物跡には草木がまとわりついているが、当時の炭鉱仕事の様子へと想像が膨らむ。

続いて訪れた旧幌内変電所は、つい先日まで使われていたのではないかと思うほど
しっかりとした建物だった。
大正中期(約100年前)に建てられたというのに、やけに生々しい。

ふと足元を見ると、乳白色の茶碗のようなものがいくつも転がっている。
陶器でできた碍子(がいし)であった。
建物の外観と比べるとまだつるりと真新しく、握ると少しヒンヤリした。
思わず持ち帰りそうになったけれど、グーニーズ的には、
持って帰ることで大きな岩が転げ落ちてくる展開になるのでグッとこらえた。

送電などに使われる、絶縁のための陶磁器製の器具、碍子。作品に使いたい欲望が……。

さらに2、3分ほど歩いたところには、
炭山と地域守護の山神信仰を司る幌内神社の跡があった。
現在は本殿などの建物はすべて撤去されていて、
石が崩れた灯籠や鳥居だけが残されていた。
炭鉱は平成元年に閉山し、建物だけが残された。
草木がまとわりついて遺跡のようになったもの、まだ生々しく建ち続けるもの、
そして跡形もなく消えていったものが同居する、不思議な空気が漂う場所だ。

さらにもう少しだけ車を飛ばして、旧市街地をまわってみる。
そこで目にしたのは数々の廃屋だった。
建具や家具は瓦礫となって、将棋崩しの駒のように青空の下に積まれている。
これらは人の手によって積み上げられたのではなく、むしろ人が住まなくなった途端に
雪の重みによってきれいに押し潰されていったのだという。

瓦礫といえば、東日本大震災後の福島県浪江町を訪れた際に見た
トラクターによって道路脇に積まれた建具や街路灯が思い起こされたが、
ここの印象はそれとはまた少し違ったものだった。

雪で潰れていく炭鉱住宅。北海道の隆盛の象徴であり失われていく風景である炭鉱に、ぐっとくるという毛利。

大阪谷町〈山本能楽堂〉 が創設90周年。 grafがみんなの能楽堂を目指し 新たにデザイン!

大阪谷町のオフィス街にたたずむ〈山本能楽堂〉(国登録有形文化財)。
その建物のなかへ入ったことはありますか?
扉を開くと、辺りの喧噪からは想像もつかないような
異次元空間が広がり、初めて訪れた方は、大抵驚くのだとか。
その能楽堂が大規模改修を経て、今年で90周年を迎えました。

1927年(昭和2年)創設者・山本博之さんが創設した山本能楽堂。

改修の監修・設計を手がけたのは、
大阪を拠点に家具、空間、プロダクト食、アートなど
さまざまなクリエイティブ活動を展開する〈graf〉。

「ひとりでも多くの人に能を楽しんでほしい」という山本能楽堂の思いを受け、
「開かれた能楽堂」をコンセプトに、たくさんの人が行き交う
芸術創造の場となるような空間をデザインしたのだそう。

さらに山本能楽堂では、伝統芸能としての能を
もっと多くの人たちに伝えるため
海外公演や子ども向けワークショップなど、さまざまなイベントを行っています。

ブルガリアで行われた公演のようす。現地の俳優達が稽古を積んで能に出演し、現地でも大きく報道された。(2015年)

工業地帯から文化を発信する 〈鉄工島FES〉 クラウドファンド開始

東京都大田区の羽田空港の近くにある
鉄工島は、面積たった1.03平方kmの小さな人工島。

昔は鉄工所の町として賑わいましたが、現在は住民が1人しかいません。
過去にものづくりの場として賑わった鉄工所が、
廃棄物処理やリサイクルセンターに変わってきています。

その鉄工島で、音やアートや映画やキャンプ、
フェスを通じてクリエイティブな使い方をしたいという有志が集まって、
複合フェス〈鉄工島FES〉に向けてクラウドファンドが始まりました。

〈鉄工島FES〉は、鉄工所という「工場」を舞台に、
関わる人みんなでゼロから作るというDIY精神で、手仕事にもう一度目を向けるお祭りです。
ものづくりに新たな切り口の視点を増やし、新しい鉄工業や島の活用の可能性を探ります。

BUCKLE KOBOオープニングの様子 (c) 花坊

そして、普段なかなか協働することのなかった団体や市民をつなぎ合わせることで、
今までにない試みにチャレンジしていきます。
大田観光協会やしながわ観光協会と協力し〈運河FES〉とも連動させながら、
行政区をこえて、市民が自由に創造的な活動を行える土壌をつくっていきます。

BUCKLE KOBOオープニングライブ(LIVE:PBC(谷崎テトラ、ジャン・ピエール・テンシン、松蔭浩之))

BUCKLE KOBOオープニングライブ(LIVE:PBC(谷崎テトラ、ジャン・ピエール・テンシン、松蔭浩之))(c) 花坊

〈大漁居酒屋てっちゃん〉と
〈レトロスペース坂会館〉は
札幌の知られざる至宝!?

撮影:藤倉翼

現在開催中の札幌国際芸術祭(SIAF)2017。
まちなか会場の北専プラザ佐野ビルに展示されている
「大漁居酒屋てっちゃんサテライト」と「レトロスペース坂会館別館」は
ともに札幌に実際にあるお店や施設がもとになっている。
今回は、SIAFでもひときわ異彩を放っている、このふたつの展示について紹介。

ガラクタを集積し、唯一無二の空間をつくったふたりの男に注目せよ!

ガラクタ。
この言葉はSIAF2017を知る大切なキーワードだ。
ゲストディレクターとなった大友良英さんは、
この芸術祭に「ガラクタの星座たち」というサブタイトルをつけた。

SIAFの会場、札幌の北東に位置する〈モエレ沼公園〉は、もともとは“ガラクタ”の墓場。
不燃ゴミの最終処分場だったこの地を、イサム・ノグチがアートによって
“再生”させた取り組みを心にとめながら、企画を紡いでいったという。
そして、もうひとつのメイン会場である〈札幌芸術の森〉には、
クリスチャン・マークレーのような、
“ガラクタ”に新たな命を吹き込むアーティストを集結させた。

また、まちの中心地、すすきのの雑居ビルでは、
昭和の“ガラクタ”を大量に集めた札幌在住のふたりにスポットを当てた。
SIAF2017のバンドメンバー(企画メンバー)の上遠野敏さんの企画によって、
これまではアーティストと呼ばれたことのない市井の人々の参加が実現したのだ。

すすきのにある〈大漁居酒屋てっちゃん〉の店主・阿部鉄男さんと、
道民には馴染みのある〈坂ビスケット〉を製造する坂栄養食品の取締役開発部長で、
〈レトロスペース坂会館〉の館長でもある坂一敬さんだ。
まちなか会場のひとつ、すすきのの北専プラザ佐野ビルには、
てっちゃんと坂会館の様子を藤倉翼さんが撮影した写真で紹介するとともに、
阿部さんが描いた絵画や坂館長の秘蔵コレクションも展示されている。

アーティストであり札幌市立大学の教授でもある上遠野敏さんが北専プラザ佐野ビルで企画したのは、「札幌の三至宝 アートはこれを超えられるか!」。三至宝として挙げられたのが〈大漁居酒屋てっちゃん〉(写真)と、〈レトロスペース坂会館〉、〈札幌秘宝館〉の蝋人形「春子」だ。(撮影:藤倉翼)

別館の展示は、坂館長と中本副館長の手によってつくられた。上遠野さんによると「館長は、蜂が巣をつくるように、本館と別館を往復してこの場をつくりあげていった」そう。(撮影:藤倉翼)

てっちゃんも坂会館も、モノで埋め尽くされ、異様なエネルギーに共通項を見出せる。
しかし、ふたりに詳しく話を聞いていくと、
そのアプローチに大きな差があることに気づかされた。
この記事では、ふたりの違いに焦点を当てながら、
この類いまれなる空間が生み出された訳を探ってみたい。

伊東豊雄さんが審査委員長! りんごにまつわる作品を募る 〈HIROSAKI APPLE DESIGN AWARD 2017〉開催

青森県の名産品といえば、なんといってもりんご。
なかでも青森県弘前市は、りんごの生産量が日本一なんです。

そんな弘前市にて、ただいまりんごにまつわる作品を募る
コンペティション〈HIROSAKI APPLE DESIGN AWARD 2017〉が開催中。
“りんご”をテーマにしたものなら、ジャンルは何でもOK! 
グラフィック、アート、プロダクト、映像など、
幅広いジャンルから、世界規模で作品を募集します。

〈HIROSAKI APPLE DESIGN AWARD 2017〉

応募された作品の中から、優秀な作品100点〜150点は、
10月下旬に開催するHIROSAKI DESIGN WEEK〈RINGO〉期間中の
『弘前クリエイター展』にてパネル展示します。
賞金総額は8,000ユーロ(約100万円)!
優秀作品には賞金も授与されるのでヤル気も出ますね。

この他にも小学生を対象にした作品も募集するなど、
世代を超えた社会参加の場を提供しています。

人気陶芸家・内田鋼一が
萬古焼のデザインミュージアムを
立ち上げた理由

萬古焼を産業とデザインの視点から見直す

三重県四日市市にある〈BANKO archive design museum〉。
萬古焼を産業とデザインの面から紹介する小さなミュージアムだ。
四日市で作陶する陶芸家の内田鋼一さんが2015年に立ち上げ、運営している。

内田さんは、世界一のレストランと名高い〈ノーマ〉が2015年に東京にやってきた際、
食器のセレクトを担当したソニア・パークのスタイリングで器が使われるなど、
人気の高い陶芸家だが、このミュージアムは内田さんの作品を売るギャラリーではない。
あくまで萬古焼のデザインミュージアムだ。

〈BANKO archive design museum〉の建物は、以前は銀行として使われたこともあるが、もともとは萬古工業会館の建物。

名古屋周辺の地域は、美濃や多治見、瀬戸や常滑など、焼きものの産地が多い。
江戸中期に四日市で発祥し、明治時代に産業として発達した萬古焼は、
六古窯と呼ばれるような産地に比べると歴史も浅く、知名度も低いが、
現在も土鍋のシェアは8~9割を占める。

「このあたりは、伝統的な産地もあれば、TOTOやINAX、ノリタケなど
産業的な焼きものの企業もあって、伝統と産業が健在です。
そのなかで、四日市の萬古焼はちょっと特殊。
萬古焼をアーカイブしながら、産業とデザインの面から
その特徴を見せられるようなミュージアムがつくれたらと思いました」と内田さん。
まずは、その展示品を見ながら、萬古焼の特徴を教えてくれた。

常設展示はいくつかのテーマに分かれているが、
なかでも特徴的なのが「統制陶器」や「代用陶器」と呼ばれるもの。
戦中から戦後しばらくのあいだ、生産者や生産数がわかるように
管理番号がつけられた焼きものは統制陶器、
金属が不足したため、本来金属製のものを陶器でつくったものが代用陶器と呼ばれる。
暗い時代が生み出したものだが、そこにはユニークなアイデアや創意工夫が見てとれる。

一見、鉄製品と見紛うようなガスコンロの代用陶器。模してつくられているのがおもしろい。

戦前から戦中にかけ国の政策として国民に貯金を推奨したため、多くの貯金箱がつくられた。時代を反映した萬古焼。

また、四日市は東海道沿いに位置する交通の要衝であり、四日市港もあるため、
萬古焼は早くから輸出向けの陶器を多くつくってきた。
アールヌーヴォー調のデザインの器や、陶製のキューピー人形なども展示されており、
このキューピーを見るために来館する人もいるほど、コレクター垂涎ものなのだとか。

アールヌーヴォーを意識したと思われる輸出向けの花瓶。中国趣味が感じられる器も。

萬古焼にまつわる道具類の展示もおもしろい。
江戸時代などの古い萬古焼は木型を使ってつくられており、
急須などの丸いものをつくる木型も、心棒を抜くと
バラバラに分解できるような構造になっていたり、精巧にできている。
石膏型を使う陶器はよくあるが、木型でつくる技法は萬古焼ならではだという。

木型を使ってつくるのも萬古焼の特徴。よく見ると型に模様がついているが、これは急須の内側に模様がつくようになっている。この木型の技術も途絶えてしまったそう。

人にスポットを当てた展示もある。
例えば陶磁器デザイナーの第一人者、日根野作三の仕事に注目したコーナー。
あまり知られていない人物だが、四日市をはじめ各地の焼きものの産地に赴いて
デザイン指導を行い、濱田庄司をして
「戦後日本の陶磁器デザインの80%は日根野氏がつくられた」
と言わしめたデザイナーなのだ。

日本各地の陶磁器に大きな影響を与えた日根野作三(1907~1984年)。そのデザイン帳など、貴重な資料も展示。北欧の食器やテキスタイルにありそうな模様も見られる。

もうひとり、人にスポットを当てた展示では、魯山人の料亭〈星岡茶寮〉の支配人を務めた古美術評論家の秦秀雄を紹介。彼が高く評価した萬古焼の作家、笹岡春山の手捻りの急須は手になじむ形。

萬古焼にはいろいろな特徴があるが、
「これが萬古焼」というようなわかりやすい形や柄があるわけではない。
利便性の高い土地柄ゆえに、メーカーや窯が、輸出に目を向けたり、
国内需要の高い土鍋をつくるなど、それぞれが販路を持ち
自由に活動してきたため、ひとつのまとまりとしては捉えにくい。
それが萬古焼の強みでもあり、弱みでもあると内田さんはいう。

「こうやって歴史をひもといて、検証しながら見てみると、
ほかの産地がやらないようなこと、できないことを、
すき間産業のように知恵を絞ってやってきたのが萬古焼なんだと思います。
そこには、デザインというものが大きく関係しているということを、
いろいろな歴史背景を含めて見せられたらいいなと」

カラーバリエーションの多さも萬古焼の特徴。ビビッドな黄色はモダンな味わい。

そのほか〈松岡製陶所〉を紹介するコーナーも。北欧で親しまれるストーンウェア=炻器(せっき)も、実は萬古焼のメーカー松岡製陶所がつくっていた。

また、このミュージアムをつくるにあたって、
地域ゆかりの人たちでつくりたかったという。

ミュージアムの設計を担当したのは、かねてから萬古焼で商品をつくったりなど、
内田さんとも親交のあるデザイナーの小泉誠さん。
ミュージアムのロゴとなっているやわらかい手書き文字は、
四日市の高校に通っていたというイラストレーターでデザイナーの大橋歩さん。
萬古焼の歩みを紹介する壁面のイラストは、四日市生まれの後藤美月さんが描いている。

BANKO archive design museumの文字は三重県出身の大橋歩さんによる。

ミュージアムの公式書籍『知られざる萬古焼の世界』にも後藤美月さんのイラストが掲載されている。

岩手〈小田中染工房〉の
美しい型染めデザイン。
芹沢染紙研究所で学んだこととは

代々続く小さなまちの染物店

奥羽山脈と北上高地に囲まれ、まちの中央を北上川が流れる
自然豊かなまち岩手県紫波町。農業が基幹産業となっており、
りんご、ぶどうなどの果物やもち米などの水稲の産地として知られている。

工房裏を流れる滝名川。

農業のまちで昔から人々の暮らしで重宝されてきた染物。
染物屋は、染色に使う糊を洗い流す工程で、新鮮な水が大量に必要とされたため、
川沿いに工房を構えることがほとんど。
紫波町の西部に流れる滝名川のほとりに店舗を構える〈小田中染工房〉もそのひとつだ。

80年以上続く小田中染物工房。

小田中染工房の3代目を務める型染め作家の小田中耕一さん。
反物や手ぬぐいなど先代から引き継いだ地元の祭りなどに使う染物に加えて、
型染めの技法を生かしたパッケージデザインや本の装丁など仕事は幅広い。

「家業は継ぐものだと思っていたから抵抗はなかった」と話す小田中さん。今年で40年目。

宮沢賢治の著書『注文の多い料理店』を出版し、のちに民芸店となった
盛岡市の〈光原社〉が販売する〈くるみクッキー〉のパッケージや、
セレクトショップ〈BEAMS〉のレーベル〈BEAMS fennica〉の広告物なども、
手がけたことがある。

20年以上愛用されている〈光原社〉のくるみクッキーのパッケージも小田中さんによるもの。裏庭にあったくるみの木のスケッチから生まれたものなんだそう。

左は、BEAMS主宰の工芸の展覧会ポスター用に作成し、右は〈手仕事フォーラム〉主宰の展示会のDMに作成したもの。どちらもビビッドな色合のなかに、工芸のぬくもりが伝わってくる。

東京・佃島にある〈つくだ煮処 つくしん〉のパッケージ。長く愛される商品の良さを伝える、素朴であたたかみあるデザイン。

始まりは、麻の野良着の藍染め

小田中染工房は藍染めを行う紺屋として昭和初期に創業。
当時は農家の作業着を藍染めする仕事が主力だった。
藍には抗菌や保湿、防虫などの効果があるため、
野良着やもんぺなどの農作業着は藍で染められていた。
しかし農業の方法が変化し、服装が変わると需要は次第に減少。

「今となっては良いことだったのか悪いことだったのか。
工房を続けていくためにどうしたらいいかと考えた末、
型染め、印染め(しるしぞめ)を始めることになったそうです」

“印染め”とはのれんや手ぬぐい、半纏など商いの目印となる染物のこと。
型染めは、下絵にそって彫った型紙に、
もち米を主原料とした防染糊(ぼうせんのり)を用いて染める、
日本で古くから伝わる染色技法だ。小田中さんの先々代は、
その技法を取り入れるため、外の紺屋で学び習得し、生業とした。

炊いたもち米と糠・石灰・塩を材料として、つくられる防染糊。

上京、そして師との出会い

小田中さんは高校でグラフィックデザインを学び、卒業すると共に上京。
一般的に分業して行われていた型染めの工程をひとりで一貫して行う、
「型絵染」で重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された芹沢銈介さんのもとへ。
民芸運動を代表するひとりとして知られる芹沢さんは、「型絵染」を確立した第一人者。
一枚の型紙を使って多彩な模様染めをする沖縄の紅型(びんがた)に精通し、
従来の枠にとらわれない技法で独創的な作品を次々と生み出した。

「お客さまに、芹沢染紙研究所に居らした方が来られて、
型染めに興味があるならと勧めていただいたのがきっかけでした。
その方が持参した芹沢銈介自選作品集を見せていただき、
こんなことができるのかと衝撃を受け、すぐに入所を志願しました」

工房に飾られる芹沢さんの写真。小田中さんは芹沢さんを今でも「先生」と呼び、慕っている。

芹沢染紙研究所は、昭和30年、東京の蒲田に設立。
研究所ではカレンダーやはがき、うちわなどを制作し、
「日用品として購入できる、安価なものであること」、
「需要に応じるため、数多くつくられたものであること」など民芸の考え方を実践した。

型紙を整理するお手伝いなどをしながら研究所に8年間在籍。
小田中さんは、芹沢さんの型紙に目を通す中で学んだことがあると言う。

〈金沢21世紀工芸祭〉 「工芸を遊ぼう。」 クラフト創造都市金沢にて 大型工芸フェスティバル開催!

2017年10月14日(土)〜11月26日(日)、
石川県金沢市にて〈金沢21世紀工芸祭〉が開催されます。
これは、クラフト分野で認定を受けたユネスコ創造都市・金沢市が
工芸の魅力を発信する大型工芸フェスティバル。

2回目を迎える今年は「工芸を遊ぼう。」をテーマに
工芸・まち・食を楽しめる8つのコンテンツを中心に展開します。
ここでは、コンテンツ内容をざっとご紹介!

〈趣膳食彩〉

趣膳食彩は、料理人と工芸作家が真摯に向き合い、
食と工芸のすばらしさを五感で味わえるプログラム。
江戸期の金沢の町人・梅田甚三久による日記をひもとき、
歴史に思いを馳せる「野掛け振る舞い」(=ピクニック)や、
北陸3県(石川・富山・福井)の料理人によるコラボレーションプログラムなどが楽しめます。
10月14日(土)〜11月26日(日)開催

〈工芸回廊〉

工芸回廊は、東山・主計町(かずえまち)の町家で、
工芸作品を鑑賞できる回遊型展示イベント。
金沢らしい風情が残る町家に作家とギャラリーが工芸作品を出展します。
作家やギャラリストとの交流も、楽しみのひとつ。
10月19日(木)〜22日(日)開催

魅惑のミュージアム
〈シゲチャンランド〉へ!
廃材や自然物から生まれるアート

いよいよスタートした、札幌国際芸術祭(SIAF)2017。
札幌のまちとアートをぜひ楽しんでほしいが、
公式ガイドブック『札幌へアートの旅』では、SIAF以外にも、
「類いまれなるものをつくる人々」として、独創的なものづくりをする人と
北海道のアートの旅を楽しめるような場所を紹介している。
そのなかから、今回はちょっと特異な個人ミュージアム〈シゲチャンランド〉をご紹介。

これは、なんだ? 見たことのないような作品群

札幌市内から東に約310キロ離れた、北海道の津別町に、
魅惑のミュージアム、〈シゲチャンランド〉がある。
手がけたのは、東京でイラストレーターとして活躍していた立体作家の大西重成さん。

もともと牧場だった施設跡地の建物をリノベーションした各展示棟には、
流木や廃材などから生まれたチャーミングな作品たちが生き生きと展示され、
訪れる人の心を癒し、虜にしているのだ。

さらに2017年、大西さんはすぐ近くに、津別町とともに
〈あいおいアートコミュニティークラブ〉(通称、A2C2)を開き、
アートプロジェクト〈Neo Folk〉も始動させた。

〈あいおいアートコミュニティークラブ〉。(写真提供:A2C2)

駐車場では、こちらの作品がお出迎えしてくれる。

まずは、シゲチャンランドから見てみよう。
敷地に一歩入るやいなや、見たこともない
廃材のかわいくも奇妙な怪獣たちに圧倒される。

「一体これは……?」と驚く一方で、
どこか愛らしい作品群は、見れば見るほどハマってしまう。
流木などの自然物に加え、ペイント缶を開いたものがお面になっていたり、
暮らしのなかで、見たことのある生活用品が使われている。

大西さんが、作品を解説しながら、敷地を案内してくれた。

東京で雑誌や広告でイラストレーションの仕事をしたあと、50歳で津別町に戻り、立体造形物をつくり始めた。

展示室は、目や口など人の器官が名づけられていて、全体でひとつの生命体を表している。

シゲチャンランドは、現在14の展示棟がある。
入り口付近の7棟がオープン時につくられたものだ。

例えば、「口」と描かれた展示棟はもともとサイロだったところ。
中に入ると、天井に向かっていまにも動きだしそうな、
『ナノナノ族』が展示されている。
流木とヤシの実から生まれたものだが、どこか神秘的な雰囲気がある。

『ナノナノ族』。流木につけられたヤシの実は、大西さんが東京にいたときに、横浜の中華街のココナッツジュースが入っていたものにひと目惚れして拾ったもの。

続いては、うってかわって、とても華やかな展示室「頭」。
天井には、ベッドカバーに描かれたレモンが擬人化されていたり、
レコードがまるで観葉植物のようになっていたり、
サッポロビールや雪印チーズなどの商品パッケージが、
廃材とともに、ポップでコミカルに展示されている。

ランド中央にある棟「頭」。もともと母屋だった建物を改修。扉には、サッポロビールの缶の切り出されたパッケージが、まるでテキスタイルのように美しく貼られている。

光が入り、明るくカラフルな空間。

この作品群は、大西さんが東京でコマーシャルの仕事をしていたときに
つくられたものも多く、先ほどの作品とは雰囲気が異なる。
「僕のなかには、シビアなところ、陽気なところ、ずるいところ、
エロチックなところもあって、それがすべて各展示室で暴露されているんです。
人間なんてこんなもんだろうと、あんまりかっこつけたくなくて」
と大西さんは笑う。

ここにいるとなんだか楽しい気分になり、気持ちが解放されていくような……。
「この展示室は、知的障害者と呼ばれる方が急に楽しそうにし始めたり、
忙殺されているサラリーマンが『癒される』と、ずっととどまっていたりするんですよ」

シャンパンのコルクから生まれた『元気君』。ひとりひとりナンバリングされていて、200体以上あるが、「これはほんの2割にも満たない。アイデアが出なくなったら、こればっかりつくって、ひと部屋をこればかり展示してもいいかな」と大西さん。

続いて「鼻」と描かれた2階建ての展示棟には、
流木から生まれた生き物のような立体作品が、多数展示されている。
牛舎を改修した2階建ての建物は柱や梁がむき出しになっていて、
白い壁が続く美術館ではないのに、ピンと張りつめた、
洗練された空気が流れているのが不思議だ。

『「土」見本帖』展に 国内外の土が大集合! 子どもから大人まで夢中になれる 光るどろだんごも登場

2017年11月26日(日)まで、
愛知県常滑市にある〈INAXライブミュージアム〉にて
『「土」見本帖 Sourcebook of Soils』展を開催中です。

これは、遥か昔から続いてきた人と土との関係に思いを馳せながら、
素材としての力を再発見し、その魅力を楽しむ展覧会。

会場には、国内外から集められた約300点の土が一堂に会します。

たとえば、新潟県・松代のプレミアムなコシヒカリが育つ“棚田の土”や、
沖縄県・読谷や大分県・小鹿田の手漉しや唐臼など、昔のままの製法を続ける“民芸の土”、
フランク・ロイド・ライトが手がけた帝国ホテル旧本館のすだれ煉瓦になった土、
法隆寺の土塀となった土、京都府・南部の絵の具になる土、
桂離宮、京都御所の土壁に使われている土などなど。

土に惹かれる方はもちろん、
建築や焼きものが好きな方も楽しめそうですね。

INAXライブミュージアムは、建材・設備機器と住関連サービスの
総合住生活企業〈LIXIL〉が運営する文化施設。
「世界のタイル博物館」「窯のある広場・資料館」「建築陶器のはじまり館」
「土・どろんこ館」「陶楽工房」「ものづくり工房」の6館から成り、
土や焼きものの歴史、文化、楽しさにふれられる体験型ミュージアムです。

INAXライブミュージアムでは、さまざまなワークショップも。写真はどろと遊ぶワークショップ「どろの遊園地」(申込受付終了)

SIAF巡りと楽しむグルメ!
スタッフや地元ライターおすすめの
札幌のおいしいお店、厳選10店

いよいよ8月6日からスタートする札幌国際芸術祭(SIAF)2017。
今回は、公式ガイドブック『札幌へアートの旅』にも掲載されている
芸術祭企画メンバーや地元ライターおすすめの札幌の飲食店をご紹介。
SIAFを巡りながら、札幌のおいしいものもご堪能あれ!

まずは、さっぽろテレビ塔から札幌市資料館まで
東西にのびる大通公園周辺のエリアから。

エゾ鹿のレアステーキも絶品!
〈山猫バル〉

札幌時計台の裏にある中小路。ビル街の中、グリーンに彩られたテラスが目を引く
〈山猫バル〉は、宮澤賢治の『注文の多い料理店』に登場する山猫軒がモチーフ。
隠れ家的な佇まいの中で、ヨーロッパの家庭料理をアレンジした
道産の旬の食材をおなかいっぱい味わえる、人気のお店だ。

季節によって産地が変わる「エゾ鹿のレアステーキ」(1980円)。ここで食べて鹿肉の概念が変わった! という地元のお客さんもいるほどのおいしさだ。

山猫バル一番人気のメニューは、「エゾ鹿のレアステーキ」。
北海道ならではの新鮮さはもちろん、ジューシーかつボリューム感も満点の逸品だ。
旬を生かした月替り料理や、日替わりの黒板メニューも豊富。
蒸し野菜やオイル煮などのストウブ鍋料理もおすすめだ。

オープン以来の人気メニュー、量り売りで提供する「角煮のバケットサンド」(600円/10cm)はおつまみにも。

時計台の鐘の音を近くに聞きながら、ワインやお酒とともに
土地の恵みを心ゆくまで楽しめる、旅の夜にぴったりの場所。
パフェやケーキなど魅力的な手づくりデザートも揃っているので、
最後は札幌の定番になりつつある「シメパフェ」を味わってみてはいかが?

information

map

山猫バル

住所:札幌市中央区北1条西2丁目11-1 23山京ビル1階

TEL:011-206-0566

営業時間:11:30~15:00(L.O.14:30)、17:00~24:00(L.O.23:00、土・日曜・祝日は夜営業のみ、日曜・祝日は〜23:00 L.O.22:00)

定休日:不定休

駐車場:なし(近隣にコインパーキングあり)

http://www.mamma-cr.com/yamaneko

知る人ぞ知る、道内各地のご当地焼き鳥
〈鳥のきんちゃん〉

「ご当地焼」(北見焼200円、ほか1本140円)、「季節の漬物盛り合わせ」、「きんちゃん煮込み」(350円)、季節もののやちぶきのお浸し。奥様特製ゼリーは女性限定のサービス。

地下鉄大通駅からすぐの通りにあるレトロなビル、4丁目会館2階。
カウンターだけの焼き鳥屋〈鳥のきんちゃん〉は、知る人ぞ知る老舗店だ。

焼き鳥を焼き続けて41年という店主の松本 潔さんが
炭火で焼く手打ちの串は、どれも旨みたっぷりのおいしさ。
名物は、北海道各地の名物焼き鳥をアレンジした「ご当地焼」だ。
美唄、室蘭など5種類の串に、オリジナルのラム串「月寒焼」がプラス。
それぞれのルーツをうかがいながら、北海道ならではの味を堪能しよう。

昭和の雰囲気をそのまま残す店内。コの字型カウンター席の奥は、松本さんの焼き姿を間近で見られる特等席。

最盛期は20種類にもなる自家製の漬物も、隠れた人気メニュー。
かつて市場へ卸していたというお母様直伝の季節の漬物は
焼き鳥にもぴったりで、ついお酒が進んでしまう逸品ばかりだ。

人情味あふれる松本さんご夫妻と語らいながら
おいしい焼き鳥とともに杯を重ねる、格別なひとときを。

information

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鳥のきんちゃん

住所:札幌市中央区南1条西4丁目7-2 4丁目会館2階

TEL:011-241-8051

営業時間:17:00~23:00(土曜は~22:00)

定休日:日曜・祝日

駐車場:なし