連載
posted:2017.9.12 from:北海道札幌市 genre:アート・デザイン・建築
PR 札幌国際芸術祭実行委員会
〈 この連載・企画は… 〉
2017年8月6日から10月1日まで開催される「札幌国際芸術祭(SIAF)2017」。
その公式ガイドブック『札幌へアートの旅』をコロカル編集部が編集しました。
この連載では、公式ガイドブックの特別バージョンをお届けします。
コロカルオリジナルの内容からガイドブックでしか見られないものまで。
スマートフォン&ガイドブックを手に、SIAF2017の旅をぜひ楽しんで!
writer profile
Yuri Shirasaka
白坂ゆり
しらさか・ゆり●神奈川県生まれ、小学生時代は札幌で育ち、自然のなかで遊びながら、ラジオで音楽をエアチェックしたり、学級新聞を自主的に発行したり、自由な土地柄の影響を受ける。現在は千葉県のヤンキー漫画で知られるまちに住む。『WEEKLYぴあ』を経て、97年からアートを中心にライターとして活動。
開催中の札幌国際芸術祭(SIAF)2017のスケジュールカレンダーを見てみると、
展示だけでなく、美術・音楽・演劇といった既存のカテゴリーには当てはまらない
ライブイベントがあふれんばかりに開催されていることがわかるだろう。
それらは、ゲストディレクターを務める大友良英さんが
「何かが生まれる生の状態を見せてしまうような、生きた芸術祭にしたい」
と語るSIAFの特徴をよく表す、見どころのひとつとなっている。
8月25日〜27日、駆け足ながら、日中は展示を巡り、
夕方から夜間はライブを鑑賞する旅をしてきた。
まったくカラーの異なる4つのライブを中心にレポートしたい。
まずは、8月23日〜26日に中島公園近くのシアターZOOで行われた公演
『raprap(ラプラプ)』から。「rap」とはアイヌ語で「翼」を意味する。
2016年、アイヌの伝承歌「ウポポ」の再生をテーマに活動する
女性ヴォーカルグループ〈マレウレウ〉と、
札幌を拠点に活躍するダンサーの東海林靖志、
韓国と日本で活動する振付家でダンサーのチョン・ヨンドゥとで共作した
アイヌ音楽とコンテンポラリーダンスの舞台が好評を博し、
今年は東京から若手ダンサーの渡辺はるか、有泉汐織、
フランスから札幌に帰ってきた菊澤好紀が参加。
4月から共同制作を重ね、新作を披露した。
公演では、まず導入として、観客全体でマレウレウの真似をしながら、
『フンペ ヤンナ』という曲から「モッケウ ケ ピッソイ ケ」という一節の
ウコウク(輪唱)を行った。
美しい音の響きだが、実は「首肉とろう、腹肉とろう」という意味で、
浜に上がった鯨をとりにいく力強い歌だと教わる。
そのおかげで、本編のダンスでは、ほかの楽曲の言葉の意味はわからないながらも、
懐かしいどこかへ遡っていくような感覚に誘われ、
北海道の自然や人々の営みの風景を想像させられた。
実際に、作品づくりは白老や二風谷、北海道博物館などを訪ねるところから始まり、
アイヌの踊りや音楽、儀式などに触れるなかで、文様がダンサーの動線になったり、
子どもの遊びから振付が生まれたりしたという。
最後は観客もステージに移動して、演者とともに輪になって歌い踊った。
いまを生きる世代としてどのようにアイヌ文化を “再生”するか、
あるいは音楽としての可能性をどのように広げていくか。
異なる文化や身体表現をもつ人々との出会いによって、新しい扉が開かれたようだった。
SIAF2017公式ガイドブック『札幌へアートの旅』では、
マレウレウのマユンキキさんがアイヌ文化に触れる旭川の旅を綴っている。
SIAFから足を延ばしてみてはいかがだろうか。
Page 2
ガイドブックにも寄稿してくれた毛利悠子さんの、
札幌市立大学芸術の森キャンパスで公開中のインスタレーション
『そよぎ またはエコー』。その空間の中で、8月26日、
ノルウェーの現代アーティスト、カミーユ・ノーメントさんと
スペシャルゲストに坂本龍一さんを招いたパフォーマンス
『After the Echo』が開催された。
前回2014年のSIAFでゲストディレクターを務めながら、
病気療養のため、会期中に札幌を訪れることができなかった坂本さん。
今回参加できてとてもうれしそうな穏やかな表情だった。
約100名の観客たちがスカイウェイに立ち並ぶなか、
少し暗い通路の床に配置されたピアノ上部の内部を
ノーメントさんが小さな装置で振動させたり、坂本さんが弦を弾くなど、
ふたりの内部奏法がひとしきり行われた。
そのあと、観客もろとも窓のほうへと移動する。
毛利さんの新作である夕張の碍子(がいし)や鈴などが鳴る。
坂本さんが今回の演奏用に持ってきた世界にひとつしかないオルゴールピアノや、
坂本さんの内部奏法を交えたグランドピアノ。
時折水で濡らした指でノーメントさんが奏でるガラス製の特殊楽器グラスアルモニカ。
窓から見える空が、即興的に生まれてくる音楽と合わせるように、
微細な変化でゆっくりと暮れなずんでいく。
ふたりは、最後にちょっと顔を見合わせるまで、同じ方向を向いていなくても、
空中を漂う音の中で交流しているようで、
それはひとつのコミュニケーションの姿を表していた。
1回限りの贈り物のようなライブだったが、展示『そよぎ またはエコー』も、
碍子や鈴、電灯の光の点滅、窓から見える風景などが奏でる
一期一会のような作品なのでぜひ体験してほしい。
両端に置かれたピアノが自動演奏するのは坂本さんが作曲した曲で、
長い通路のなかでディレイ効果を生んでいる。
Page 3
公募で集まった60名を超える、小学生から高校生まで
(今回の演奏時には高校を卒業したメンバーも含む)を中心とした
〈さっぽろコレクティブ・オーケストラ〉。
コンダクターの大友良英さんいわく
「通常のオーケストラのように技術の向上や正確な演奏を求めるものではなく、
能力や経験の有無にかかわらず誰もが参加できる、類例のないオーケストラ」。
2016年から、楽器の習熟度やジャンルで分けることなくワークショップや練習を重ね、
8月27日、コンサートホールKitara大ホールでの公演を迎えた。
〈マームとジプシー〉の藤田貴大さんが演出協力、
プログラムディレクターを有馬恵子さんが務める。
SIAFで展示中の、鈴木昭男さんのワークショップでつくられた音楽を演奏しながら、
ほぼ満席の客席の間からステージに上がっていく子どもたち。
和太鼓、ギター、バイオリン、トランペット、鍵盤ハーモニカなど楽器だけでなく、
音のか細い笛やタップダンスなど、自分で持ってきた音の出るものを担当する。
「みんな最初からそれぞれの音楽を持っていて、それを見つけていけばいい」
と大友さんが語っていたように、コンダクターの大友さんに指された人が音を出し、
繰り返し、次の人が音を重ね、強弱をつけていく。
続いて、吉増剛造さんのワークショップで、
目隠しをして撮ったポラロイド写真を紙に貼り、
細かい文字で書いた言葉を藤田さんがつなげて詩にした
『ひかりが』という曲が演奏された。
藤田さんが考えた『ウォーキング・コンダクション』では、
ひとりの子がケンケンをしたり後戻りしたりするリズムに合わせてみんなが音を出し、
スタートからゴールまでの間が音楽になり、また次の子にバトンタッチしていく。
演奏の間、踊りたくなった子どもたちが前に出てくる。
「指揮者をやりたい人!」と大友さんが言うと、たくさんの手が挙がった。
大友さんは、その「やりたい」「やりたい」という声も合唱にしてしまう。
夢中になってなかなか終わらない子どももいたが、
人間が持っている時間感覚がひとりひとり違うことをあらためて感じた。
公演中、大友さんは何度も脇に下がり、子どもたちに任せていた。
「音楽っていうのは悪いところを直すんじゃなくて、いいところを伸ばすもの」
だという大友さんの思いを受け継ぐように、年上の子どもたちが
小学校低学年の子どもたちの音を引き出す場面も多々あった。
「さっぽろコレクティブ・オーケストラは、札幌国祭芸術祭の根幹なんです」
と大友さん。場をつくり、集まった人がどうやってやるか、始まりから考える。
音楽になるかならないか、生まれてくるものを共有する。
耳をすます観客も、大友さんならずとも「お、いまのいいね!」と何度も思った。
エンディングで、隣の席の女性がステージの孫に手を振り、
思わずこちらの目頭も熱くなる。
思い切り自分の音を出すこと、ほかの人が出す音を聴くこと。
誰かと一緒に演奏することって、他人の場所や力を借りることの多い
「芸術祭」にどこか似ているようにも感じた。
公演を終えた大友さんはこう語った。
「大げさでもなんでもなく、音楽家人生のなかでもこれ以上はないかも、
という最高のコンサートになりました。
2年近く、有馬ディレクターを中心に、藤田さんやさまざまな方たちと
子どもたちと一緒にやってきた成果だと思います。
コンサートの最後は子どもたちに完全にのっとられて最高でした。
コンサートの映像もおさえているので、なんらかのかたちで
映像作品としても発表できればと思っています。
これまで本当に大変だったので、
もう二度とこんなことはできないかなと思います(笑)」
Page 4
会期中ずっと札幌に滞在しながら展示とライブを続けるという、
これまでにないかたちを模索しているテニスコーツのふたり。
「事前に決めたものをつくったりやったりするのではなく、
芸術祭に即興的に反応しながら、そこで生まれる過程を見せてほしい」
と大友さんも語る、SIAFを象徴する「神出鬼没プロジェクト」のひとつだ。
札幌市資料館2階の一室を「テラコヤーツセンター『土砂』」として、
活動の拠点としながら各所に出没。
「テラコヤーツセンター『土砂』」では、ライブやイベントのスケジュールが
伝言板として貼られ、黒板にはここでつくった曲が書かれ、
それを見ながら練習したり、訪れた人に習字を書いてもらったり、
すべての人に開かれた「テラコヤ」化している。
ライブは、シアターキノ、札幌市役所、円山公園、
毛利悠子さんの『そよぎ またはエコー』のような作品空間など、
さまざまな場所で、札幌のミュージシャンなどを招いて行ってきた。
筆者は、SIAFのオフィシャルバー〈OYOYO〉で
テニスコーツと仲間たちによる〈楽団ざやえんどう〉のライブを見た。
8月23日~26日は、「テラコヤーツ」の発祥地、東京・北千住の
〈千住ヤッチャイ大学〉企画に出演しているメンバーが参加していたのだ。
オブジェなどが置かれた「テラコヤーツセンター『土砂』」の空間について、
「自分の部屋でなんとなくしっくりくる場所にものを置くことと、
展示としてものを配置することの間のような感覚でこうなってきている」
と語る植野隆司さん。
「滞在制作というより、何かが起こる場をつくりたい、それを展示作品と捉えている」
と、もうひとりのメンバーさやさん。
まだまだ続くライブとどう循環していくのか、ぜひのぞいてみてほしい。
また、「SIAFが開幕してから、その様子を受けて新作をつくる」と語っていた大友さん。
mima北海道立三岸好太郎美術館で、開館50周年を記念して、
1階ではその大友さんの新作と、これまでの活動を支えてきた関連資料などを展示し、
2階では北海道を代表する画家、三岸好太郎の画風の変遷をたどる展覧会
『大友良英アーカイブ お月さままで飛んでいく音+
三岸好太郎ワークス 飛ビ出ス事ハ自由ダ』も9月2日からスタートした。
最後に大友さんからメッセージをいただいた。
「音楽と美術の間をただよい、動き続ける展示
『OPEN GATE 2017』(9月15日~18日開催)や
『アジアン・ミーティング・フェスティバル2017 札幌スペシャル』(9月23日、24日開催)、
そして9月30日には今回最大のイベント「音楽、アート解放区(仮題)」が
モエレ沼公園で控えています。これ、いま企画中ですが、
SIAFを象徴するようなエンディングイベントにできればって思ってます。
展示も二度と見られないような作品群ばかり。自画自賛と思われるのは嫌ですが
控えめに見てもアート史に残るような展示作品群だと自負しています。
ぜひこの機会をお見逃しなく!」
information
札幌国際芸術祭2017
information
完全コンプリートガイド 札幌へアートの旅
札幌国際芸術祭2017公式ガイドブック
マガジンハウスより発売中
Feature 特集記事&おすすめ記事