連載
posted:2017.9.15 from:北海道札幌市 genre:アート・デザイン・建築
PR 札幌国際芸術祭実行委員会
〈 この連載・企画は… 〉
2017年8月6日から10月1日まで開催される「札幌国際芸術祭(SIAF)2017」。
その公式ガイドブック『札幌へアートの旅』をコロカル編集部が編集しました。
この連載では、公式ガイドブックの特別バージョンをお届けします。
コロカルオリジナルの内容からガイドブックでしか見られないものまで。
スマートフォン&ガイドブックを手に、SIAF2017の旅をぜひ楽しんで!
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
子連れで展覧会に足を運ぶのは、かなり骨が折れる。
親からすれば、騒いで走り回らないかとヒヤヒヤするし、
子どもからすれば、退屈でもその場にいることを強いられるし、
ハッピーだった思い出は正直ほとんどない。
けれど筆者はアートやデザイン専門の編集者。
この夏開催中の札幌国際芸術祭(SIAF)2017は、
北海道在住の身としては必ず見ておきたいイベントだ。
ということで、きっとハプニングが起こるだろうなぁと不安を抱えつつも、
土日を使って思い切って出かけることに。
SIAFの会場の中でも、子どもが喜びそうな場所を選ぶことにし、
1日目はモエレ沼公園、2日目は円山動物園というプランを立てた。
「今日は、でっかい公園に“風船お化け”を見に行くよ〜」
そんなわたしの誘いに、3歳の娘は大はしゃぎ。
しかし、小学1年生の息子は疑いの眼差しを向けている。
彼は幾度となく、わたしにつき合わされて、
アート関連のイベントやシンポジウムに連れていかれているので、
「またか!」といった顔つきだ。
乗り気でない息子に、噴水や水遊びができる場所もあると言い聞かせ、
なんとか出発することができた。
モエレ沼公園は、わたしの住む岩見沢から車で1時間ほどのところにあり、
彫刻家イサム・ノグチが設計した約189ヘクタールにもなる超巨大な公園だ。
メイン会場となる〈ガラスのピラミッド〉のガラス越しに見えるのは、
高低差16メートルにもなるバルーンを用いた
松井紫朗の作品『climbing time / falling time』。
「ほら、“風船お化け”があるよ〜」と言うと、
子どもたちはワーッと歓声を上げながら屋内へと駆け込んでいった。
ガラスのピラミッドの中では、不可思議な音が響いていた。
大友良英+青山泰知+伊藤隆之による『(with)without records』は、
市民が金属やプラスチックなどの素材を自由に組み合わせて、
ノイズを発する楽器につくり変えたレコードプレーヤーを約100台設置した作品だ。
遠くにあったプレーヤーが音を発していたかと思うと、
急に近くにあるプレーヤーが動き出したり。
子どもたちは、どのプレーヤーが音を出しているのか見つけるのに夢中。
2階にのぼって展示室を抜けると、またもや駆け出す子どもたち。
松井紫朗のバルーンの中に入ることができたのだ。
あたり一面黄色い世界。広いのか狭いのか距離感がつかめず、
いままで体験したことのないような、言葉で言い表すのが難しい感覚がわきあがる。
子どもたちはトンネルの中でキャッキャと笑いながら、何往復もしていた。
予想以上に楽しい体験だったようで、「次はなにがあるの?」とワクワク顔。
ああ、普段行く展覧会では、「早く帰ろ〜」と文句ばかりだが、
今日は生き生きとした表情を見せてくれたので、ホッと胸をなで下ろし……。
しかし、この会場の最後の展示室で3歳の娘は号泣した。
ARTSAT×SIAFラボによる
『Sculpture for All of the Intelligence 全知性のための彫刻』は、
室内が真っ赤なライトで照らされ、巨大な鉱石検波ラジオが
宇宙から受信したという電波音を鳴り響かせる。
この衝撃を感じる電波の音が、とにかく怖かったようで、
順路を逆走しようとする娘をつかまえて、目をつぶらせて部屋を走り抜けた。
部屋の外でも娘はワンワン泣いていたが、出口になんと“救世主”が。
救世主とは、SIAF2017の子ども向けスタンプラリー。
泣いていた娘はスタンプを押したら、あっというまにご機嫌に……(助かった)。
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これでようやく、ガラスのピラミッドの展示を見終えたわけだが、
子どもたちにとっては、ここからが本番。
モエレ沼公園に来たからには、子連れは避けて通れない場所がある。
モエレビーチと噴水ショーだ。
モエレビーチで水遊びをしたあとは噴水鑑賞。
海の噴水では1日3〜4回のショーが展開される(冬期休)。
この噴水、とにかく規模が半端ない。直径48メートルで総水量は1800トン。
最大25メートルも吹き上がるというものだ。
ショートとフルのプログラムがあり、わたしたちが見たのは40分間のフルバージョン。
この噴水も、イサム・ノグチのプランが生かされており、
巨大な柱のように吹き上がったかと思えば、その後水面自体が
「海の嵐」のようにうねり出すという、物語を感じさせるような構成だ。
滞在時間はたっぷり5時間以上!
帰りの車中で、子どもたちに楽しかったことをたずねると……。
息子「バルーンと噴水!」
娘「スタンプ!!」
えっ、スタンプ!?
母としてはちょっと物足りない娘の言葉だったものの、
1日目は無事終了した(グッタリ……)。
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続く2日目は円山動物園。
「今日は動物園に行くよ〜」というと、ふたりとも文句なく同意し、
朝ごはんもそこそこに急いで車に乗り込んだ。
車中でも「動物園まだ? まだ?」と落ち着かない様子。
1時間30分ほどかかって現地につくと入り口に一目散!
「トラ見たい! シロクマどこ?」
とキョロキョロする子どもたちに、最初に芸術祭の作品を見ることを告げると、
がっかりした様子だったが……。
「スタンプ集めよう!!」
この言葉に、パッと顔が明るくなった(やっぱり救世主!)。
円山動物園で展開されているのは、クワクボリョウタの『LOST#16』。
以前、人々に親しまれた〈魔境の伝説〉というアトラクションがあった建物が会場だ。
会場内は真っ暗。その中をLED電球をつけた鉄道模型が走っていた。
レールのまわりにはさまざまな日用品が置かれており、その影が壁面に投影されると、
車窓から眺めたかのような景色が次々と現れては消えていく。
『LOST』シリーズは、これまで世界中で発表されてきたが、
今回、会場が動物園ということもあり、キリンやゾウ、カモなど
動物の姿を多数見つけることができた。
暗く静けさが漂う室内で、子どもたちは無言で作品を見つめている。
次の瞬間、3台ある鉄道模型の光がパッと消え暗闇に。とたんに娘がひと言。
「外に出たい……」
娘を抱きかかえて外に出ると、またもや号泣。
彼女にとって現代アートは、お化け屋敷と似たものなのか?
このまま泣き続けるかと思ったが、今度助けてくれたのは動物たちだった。
子どもたちのお気に入りは、なんといってもホッキョクグマ。
現在4頭飼育されており、元気に動き回る姿を見ることができた。
動物園を歩き回って3時間。そして最後に園内にある遊具につかまり2時間……。
芸術祭の会場として動物園を選択するのは、とてもおもしろい試みだが、
子連れであれば、まる1日滞在する覚悟が必要!
ただ見方を変えると、芸術祭のパスポートがあれば
会期中の動物園の入場料は200円(通常600円)。
1日たっぷり遊べて200円とは、かなりお得な休日の過ごし方だし、
しかも一度支払えば、会期中何度でも入れるところもうれしい点だ。
この時点ですでに親子ともども体力を使い果たしたが、
円山エリアには、ほかにも注目の展示が。宮の森美術館で開催されている
石川直樹展『New Map for North』にはどうしても行きたいところ。
なんとここでも、スタンプ効果は絶大。
「あとひとつスタンプ押せる場所あるよ!!」と言うと、
眠い目をこすって「行く!行く!」と子どもたち。
15年以上にわたり北海道を旅してきた写真家の石川直樹。
今回の個展では、知床半島、白老など、各地を巡って撮った作品をはじめ、
北方にまで足を延ばしたサハリン島などの写真を展示。
子どもには退屈かな? と思いきや
「お魚だ〜」「女の子がいる!」とけっこう好評だった。
一家5人でめぐったSIAF怒濤の2日間。
体力はかなり消耗するが、親も子も充分楽しめるイベントだと実感できた。
子連れで芸術祭は敷居が高いと思っている人も、ぜひチャレンジしてはどうだろう?
おススメの巡り方は、あまり欲張らずに1日1会場。
SIAFの主な会場は26もあるが、その中から今回紹介したモエレ沼公園や
円山動物園のように、子どもも興味が持てる場があるところを選ぶとよいと思う。
「かあちゃん、オレ、スタンプの期間が終わっても、この場所全部行ってみたいな」
おやおや、スタンプを押すことが目当てかと思っていたら……。
これまで美術館があんまり得意でなかった息子が、
帰り際にそうつぶやいてくれたのが何よりうれしかった。
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札幌国際芸術祭2017
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