連載
posted:2017.9.26 from:北海道札幌市 genre:アート・デザイン・建築
PR 札幌国際芸術祭実行委員会
〈 この連載・企画は… 〉
2017年8月6日から10月1日まで開催される「札幌国際芸術祭(SIAF)2017」。
その公式ガイドブック『札幌へアートの旅』をコロカル編集部が編集しました。
この連載では、公式ガイドブックの特別バージョンをお届けします。
コロカルオリジナルの内容からガイドブックでしか見られないものまで。
スマートフォン&ガイドブックを手に、SIAF2017の旅をぜひ楽しんで!
writer profile
Yuri Shirasaka
白坂ゆり
しらさか・ゆり●神奈川県生まれ、小学生時代は札幌で育ち、自然のなかで遊びながら、ラジオで音楽をエアチェックしたり、学級新聞を自主的に発行したり、自由な土地柄の影響を受ける。現在は千葉県のヤンキー漫画で知られるまちに住む。『WEEKLYぴあ』を経て、97年からアートを中心にライターとして活動。
札幌国際芸術祭(以下、SIAF)2017のテーマは「芸術祭ってなんだ?」。
それに呼応し、芸術祭にまつわるデザインも
「デザインってなんだ?」という問い直しから始まった。
カラフルなグリッドに文字が踊る芸術祭のメインビジュアルや
シンボルマークはどうやってつくられたのか、
また、そこから派生した、小学生デザイナーによる
ラッピング電車〈SIAF号〉はどう生まれたのか。
さらに札幌のデザインの歴史をたどる展覧会『札幌デザイン開拓使
サッポロ発のグラフィックデザイン~栗谷川健一から初音ミクまで~』まで。
これら一連の「札幌国際芸術祭デザインプロジェクト」について、
SIAFの“バンドメンバー”と呼ばれる企画メンバーのひとり、
アートディレクターの佐藤直樹さんの話を交えて紹介しよう。
ゲストディレクターの大友良英さんから、アートディレクターの佐藤直樹さんに
SIAFのアートディレクションが依頼されたのは、開催の1年半以上前。
大友さんの2009年のプロジェクト
「ENSEMBLES 09 -- 休符だらけの音楽装置」でもデザインを担当した佐藤さんは、
展覧会をつくる一員となってデザインを考えていくような人だ。
「大友さんが多様性のある芸術祭にしたいと言っているのに、
外から来たひとりのデザイナーが統括的にデザインして、
その成果物をみんながただ使うというのはちょっと違うなと。
札幌のデザイナーをはじめ地元の人たちと、
ワークショップなど共同作業を通じて組み立てていこうと思いました。
その過程を重視し、開催期間に合わせてデザインも変化させていく。
プロジェクトとして1年半くらいかけて制作していったんです」
こうして2016年4月から「札幌国際芸術祭デザインプロジェクト」がスタート。
〈ワビサビ〉の工藤“ワビ”良平さんと〈COMMUNE〉の上田亮さんほか、
札幌で活動するデザイナーや来場者が意見を交わす
「SIAFデザインミーティング」が数回行われた。
メインビジュアルやシンボルマークは、まだ芸術祭の参加アーティストや
作品、展示場所、制作予算も確定していない時期から使用を求められる。
佐藤さんは「キーカラーや単一のマークといった
ひとつのアイデンティティを決めるのではないやり方」を模索し、
まず全面に1色ずつ蛍光色を使った大きなボードを数枚試作。
5月には、一般参加者も募ってまち歩きワークショップを行った。
「まちなかで展示やイベントなど何かやろうとしていることはわかっていたから、
にぎやかなすすきのや狸小路でどう見えるかなと。
グラフィックを場所から切り離すのではなく、実際に試してみたんです。
あえてストイックなデザインで日常空間と隔てる手もありますけど、
やっぱりそっちの方向性ではないなとか、
けれど単に目立つだけでは一般の人の興味は引かないなとか、実感としてわかりました」
メインビジュアルやシンボルマークは、その芸術祭を象徴する「顔」だ。
ポスターやチラシ、ウェブサイトなどのメディアに載って広報的役割を担い、
まちなかや野外などでは会場の目印となり、グッズなどにも展開される。
「芸術祭はたくさんあるけれど、各地事情が違う。
札幌では都市機能がしっかりあり、そこに新たな軸を入れることになるので、
混ぜつつも竣立させるにはどうしたらいいかと。
こうして、その場でできる最善のことをしてみて、
それをつないでいくようなプロセスを経て、いまのデザインが生まれたんです」
どの印刷所でもできるよう、
C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)という色材の三原色に加えて、
R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の光の三原色も
印刷適性を考慮して新たな色へと変換し、基本の6色を用意した。
そのことで、6色の色面の割合や形、“ズレ”たようなリズムのある
黒や白抜きの文字を、パズルのように組み合わせるデザインが可能になった。
組み合わせには数パターンあり、それは芸術祭を象徴する
大風呂敷プロジェクトとも印象が重なり、変化があっても「SIAF」だと認識できる。
また、モエレ沼公園、札幌芸術の森など、
会場ごとにメインの色が顔を出すように変化しているが、
それらはそれぞれの現場をよく知る人と決めており、
プロセスに参加した全員にとっておもしろく愛着の湧くデザインとなった。
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2015年にループ化し、来年電化100周年を迎える札幌市電。
ニッカの看板のあるすすきの、開拓史草創期の歴史をもつ旧山鼻村など、
車窓風景も楽しめる、市民にとって馴染深い「足」だ。
その毎日の運行のなかで、市内中央区の10人の小学5、6年生が
ワークショップを通じてデザインを考えた〈SIAF号〉が走っている。
また、〈ノイズ電車〉〈市電放送局JOSIAF〉などのイベント会場としても使われている。
2017年4月、1回目のワークショップでは、
参加小学生はまちなかでサインやロゴマークを見つけてはメモをとり、
実際に市電に乗って市電にまつわるレクチャーを聞いた。
5月、ひとりひとりが自由に考えてきた市電SIAF号のデザインを発表。
文字を目立たせるにはどうしたらいいか考えたデザインもあれば、
「ひびが入ったデザイン」など斬新な発想もある。
床に敷かれた実物大の市電のレイアウト図で、文字の大きさやサイズ感を得る。
入れなければいけない情報を整理したあと、
そうした条件を入れ込んだデザインをもう一度しっかり考え、発表した。
「できあがったデザインには、“ここに文字を入れたほうがいいんじゃないか”とか、
“前から見たときにこの色が見えたほうがいいのでは”とか、
ひとりひとつのアイデアを必ずどこかに入れたんです。
だから 7月に行われたSIAF号の出発式では、
思った以上に全員が自分の手柄だという達成感を持っていました。
写真を撮ったりしていて、ほほえましかったですね」
子どもは、自分の作品が人の作品と混ざることを
すんなりと受け入れられないことがままあるが、
「なぜそのアイデアを採用したか、それぞれの理由と、自分がやっても誰がやっても
公共のものとして受け止めなきゃいけないという話をしました」と佐藤さん。
「どんなアイデアも盛り込まれるわけではなく、不採用もある。
でもこれがあったから、これが生まれたということもあるんだよ、と。
一方、自由課題では、自分ひとりで考え抜いたアイデアのすばらしさについても話して、
これらを中央区役所に展示しました(展示は終了)」
子どもたちが全身を使ってみんなでデザインしたSIAF号。
見かけたらぜひ乗ってみてほしい。
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これまでの芸術祭では、デザインそのものが扱われる機会がほとんどない。
そんななか、SIAFではJR札幌駅直結のビル〈エスタ〉11階にあるプラニスホールで、
展覧会『札幌デザイン開拓使 サッポロ発のグラフィックデザイン
~栗谷川健一から初音ミクまで~』が開催中だ。
「SIAFデザインミーティング」から派生し、「デザインってなんだ?」という問いを、
札幌にまつわるデザインを通じて考えようと、ワビサビが企画した。
1872年、北海道の開拓に尽力した黒田清隆が考案し、
採用されなかったとされる幻の開拓使旗エンブレムを札幌のデザインの起源とし、
札幌デザイン史を、グラフィックデザインを中心に展示。
本展のキービジュアルは、この幻の開拓使旗からワビサビがデザインした。
この札幌デザイン開拓使のアートワークが、9月中旬、
札幌ADCコンペティション&アワード2017で、
CI・シンボル・ロゴ・タイポグラフィー部門で金賞、
環境・空間・サイン部門において銀賞を受賞し、注目が集まっている。
「グラフィックデザインという分野が確立していない時代にもデザインは存在し、
生活の中に生きてきた」とワビサビの工藤良平さんは考える。
なかでも「この人を抜きには語れない」という
札幌および北海道のグラフィックデザインの先駆者、
栗谷川健一(1911~1999)の展示は必見だ。
映画の看板描きを経て、独学でデザインを習得し、北海道の観光ポスターや
さっぽろ雪まつりのポスターなど数多くのデザインを手がけた。
もし栗谷川の名前を知らなくても、札幌市民なら見覚えがあるはず。
東豊線で大通駅のホームから上がってくると壁画があり、
〈わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)〉に音楽や劇を観に行くと、
旧札幌市民会館から受け継がれた緞帳がある。
〈千秋庵〉の1921年創業時から変わらない銘菓〈北緯43度〉のレトロな缶や、
〈六花亭〉の〈大平原〉の西部劇のシルエットのようなパッケージ。
「展示を見ていると子どもの頃の思い出が蘇る」という声もある。
冬季五輪札幌招致ポスター『スキーの源流』の原画も展示。
油絵具のような厚みを出すため、ポスターカラーに糊を混ぜて描いている。
「文字のところは印刷での修正がほとんどなく、
カーブや線の寸止めなど精度の高さに恐れ入りました。
絵を描く身体能力、代えのきかない唯一無二の存在感。
何が人の心を動かすのか、今後のグラフィックデザインは
どうなっていくのかなどと考えさせられる」と語る佐藤さん。
栗谷川は、1962年に北海道デザイン研究所(後の北海道造形デザイン専門学校)を
設立するなど、後進の教育にも力を注いでいた。
そうした過去・現在・未来をつなぐように、ワビサビ、鎌田順也など、
80年代以降、札幌を拠点とするデザイナーによって生み出された作品も紹介。
「小さなパッケージを見ていても、届ける人の顔が見えていて、
そこにちゃんと工夫しようとしている思いが素朴にある」と佐藤さん。
途中、イラストレーターで漫画家のKEIがキャラクターをデザインした初音ミクの映像も。
ひとつの傾向ではくくれない札幌のデザインの豊かさが見えてくる。
また、札幌の近代化の歴史と重なる約150年のデザイン年表の空間は、
非常に資料性が高い。
そして、札幌というまちは、やはり北海道と地続きで考えなければ
見えてこないという示唆を含んでいるのではないだろうか。
残りわずかのSIAF。全制覇しようとせず、自分なりのペースで楽しみたい。
ライブも展示も見た人それぞれに異なる体験が集まって、
SIAFの星座をかたちづくることになるだろう。
なお、ガイドブック『札幌へ アートの旅』には、札幌のギャラリーガイドや
北海道の美術館なども掲載されており、芸術祭終了後も保存版として使える。
SIAF2017をきっかけに「北海道へ アートの旅」に出よう。
profile
NAOKI SATO
佐藤直樹
1961年東京都生まれ。アートディレクター。北海道教育大学卒業後、信州大学で教育社会学・言語社会学を学ぶ。1998年アジール・デザイン(現アジール)設立。美学校講師、多摩美術大学教授も務める。画集に『秘境の東京、そこで生えている』、著書に『無くならない―アートとデザインの間』など。
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札幌国際芸術祭2017
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