城下町に残る古民家を人の集まる場所へ。奈良県大和郡山市のリノベーションまちづくり

「大和郡山まちづくり株式会社」代表の大垣満さん
かつて豊臣秀長が治める城下町として栄えた大和郡山市。細い路地に古民家が連なる光景に、当時の面影を感じられる、情緒あるまちだ。2020年に設立された「大和郡山まちづくり株式会社」は、大和郡山出身の大垣満(おおがきみつる)さんが代表を務めるまちづくりの会社。行政と連携しながら町家の再生を通した場づくりを手がけ、まちに新しい風を送り込んでいる。

市が主催した実践型スクールをきっかけに起業。建築の視点を生かしたまちづくりへ

全国約900万戸ある空き家を活用し、まちを再生しようという取り組みが各地で行われている。

1000戸の空き家があると言われている大和郡山市でも、2019年から城下町エリアのまちづくりプロジェクトをスタートさせた。2020年には市主催で、空き家や空き店舗の再生手法を実践的に学ぶ「リノベーションスクール」を開催。「大和郡山まちづくり株式会社」の代表を務める大垣さんは第1回の受講生だった。

「当時、東京の建築事務所に所属し、すでにまちづくりに携わる仕事をしていました。建物の設計デザインだけでなく、建物をどう活用するかという企画から、ブランディング、工事の管理まで一貫して担当していた経験が、今に生きていると思います」

いつか関西でまちづくりをしたいと考えていた大垣さんは、東京での仕事と並行しながら関わりを深め、2024年に建築事務所を退職し、大和郡山にUターン。まちのリノベーション事業に本格的に取り組み始めた。

「建築の技術と視点を持ってリノベーションやまちづくりができること。それが自分の強みだと思います。建築を学んでいた大学生の時から、『建物だけつくっていてもまちは良くならないよな』という考えがずっとあって。どういう人に、どう使って欲しいか。そこから考える場づくりがしたかったんです」

「大和郡山まちづくり株式会社」代表の大垣満さん
2024年に大和郡山にUターンし、リノベーション業務に本格的に取り組み始た大垣さん。

事業の軸は古い町家のリノベーション。大和郡山では多くの町家が空き家になっており、相続のタイミングなどで物件を活用したいという相談がくるケースが多い。大垣さんは物件の間取りや状態を見ながら活用方法を考え、設計デザイン、工事、リーシング、その後の運用まで、すべて手がけることもある。

「活用の選択肢としては、お店や宿が中心です。とはいえ、もともと民家なので、お店をやるには面積が広すぎる物件が多いんです。まずは一般的なテナントビルと同じように、借主が内装工事だけすればお店がはじめられる状態に整えることが最初の仕事。一人でも運営しやすいサイズ感に整えれば、開業のハードルはぐんと下がります」

重要なのは誰がどう使うか。まちに新しい人とセンスを呼び込む、町家再生

大垣さんがこれまでに手がけた物件は城下町エリアに6軒。築70〜100年を超える古い町家が、複合施設、飲食店、シェアアトリエ、オフィス、宿など多彩なスペースに生まれ変わっている。

奈良県大和郡山市の古民家リノベ物件「柳町フラット」の外観
大垣さんが企画からテナント募集、運営まですべてを手掛けた「柳町フラット」。

築70年以上の旧歯科医院を複合施設にリノベーションした〈柳町フラット〉は、大垣さんが4軒目に手掛けた物件。商店街の端にあり、カフェ、チョコレート専門店、そして大垣さんのパートナー(妻)、富谷美咲さんがオーナーを務めるバーと貸切サウナ〈KISSA 喫酒と喫サ〉がテナントとして入居している。

「複合施設としては2軒目となる案件で、どんな施設にしようかという企画段階から、テナント募集や実際の運営までトータルで関わりました。なかなかテナントが決まらず苦戦しましたが、結果的に素敵な場所になったと思います。駅から離れてはいますが、目的地になるようなお店に入っていただけたことで、商店街に新しい人の流れが生まれました。まちづくりという意味では、センスの良い借主に入っていただくということもすごく重要。そのためリーシングは慎重に行っています。お店ができた後は、テナントさんやそこに集まる人たちが場の雰囲気をつくっていきますからね」

2025年10月には「大和郡山に暮らすように滞在してほしい」と、一棟貸しの宿〈帰々 KIKI〉をオープン。運営は大垣さんと富谷さんが一緒に担当している。築90年の2階建ての古民家はゆとりのある空間で、キッチンやリビングスペース、ベッドルームまで、古き良き町家の雰囲気を残しながらも、モダンなインテリアが施されている。

「もともと大和郡山には宿泊できる場所が少なく、せっかく観光の方が来てくださってもまちに滞在することができなかった。それだとお店も増えませんし、やはり宿は必要だよねと考えてつくりました。まちを一つのホテルとして考える『分散型ホテル』は全国に増えていますが、KIKIもそれがコンセプト。宿を拠点に、買い物や食事はまちに出て楽しんでいただくという仕組みづくりの第一歩です」

宿泊者の中にはSNSでこの宿を知って訪れる人も多く、早くも旅の目的地として人気を集めている。これからも宿は増やしていく予定で、すでに数軒の計画が進行中だ。

生まれ変わった町家から広がる新しい地域コミュニティ

場所ができると人が集まる。大垣さんが手がけたお店や宿がハブになり、まちには人やコトが集まってきている。新しくできたつながりを生かして、大和郡山を中心に県内から約40店舗が出店する「大和是好日」といった青空マーケットイベントなども定期的に開催されている。

大和郡山市の青空マーケットイベント「大和是好日」の暖簾
毎月第4土曜日に開催している青空マーケットイベント「大和是好日」。

なかでも、パートナーの富谷さんがオーナーを務める〈KISSA 喫酒と喫サ〉は、特に求心力の強い場所になっている。クラフトビールと貸し切りサウナ、フレンドリーな富谷さんのパワーは、まさにまちの若い世代が求めていたものだった。

奈良県大和郡山市のクラフトビールバル〈KISSA 喫酒と喫サ〉のカウンター
大垣さんのパートナー、富谷美咲さんが切り盛りするクラフトビールバル〈KISSA 喫酒と喫サ〉。

「実際にやってみて『やっぱりまちにはこういう場所が必要だったんだな』と実感することが多々あります。僕自身もそうですが、これまで交わっていなかった人同士がつながって、輪がどんどん広がっている。KISSAには特に面白い人が集まってきて、今度自社で運営をする事業のスタッフに、常連さんをスカウトしたいと思っています。こうして仕事を任せたいと思えるような人材に巡り会えたのも、場所があったおかげ。僕が基盤をつくる担当なら、妻は人を引っ張ってくる担当ですかね。良いチームだと思います(笑)」

「大和郡山まちづくり株式会社」代表の大垣満さん
「いまは大和郡山がおもしろくなる土台をつくっているところです」と大垣さん。

おもしろい場所ができ、人が集まると、「大和郡山でも面白いことができそう!」とさらにおもしろい人がまちに集まってくる。そんな好循環を空き家リノベーションを軸にこれからもつくっていきたいと大垣さん。

「勢いのある若い世代がチャレンジできるような環境をつくって、彼らに長く大和郡山にいてもらえるようなまちにしていけたらいいですね。まだまだこれから伸び代があるので、きっとおもしろいまちになっていくと思います」

Information

大和郡山まちづくり株式会社

大和郡山市と連携して、城下町エリアを中心とした空き家活用の事業を展開。企画、ブランディング、リーシング、リノベーションの設計まで手がけ、まちに必要な建物をデザインする。
HP:https://machidzukurizhushihuishe4.webnode.jp/

Information

KISSA 喫酒と喫サ

奈良をはじめとする全国のクラフトビールと手作りの小皿料理が楽しめるバル。貸し切りサウナも併設しているまちの拠り所。
住所:奈良県大和郡山市柳4-35|地図
TEL:080-1610-2671
HP:https://kissa-sauna.com/
Instagram:@kissa_sauna_bar

Information

帰々 KIKI 

築90年の古民家を改装した1日1組限定、1棟貸しの宿。柳町商店街など大和郡山の城下町から徒歩圏内。暮らすような旅ができる。
住所:奈良県大和郡山市新紺屋町5-3|地図
HP:https://kiki-nara.com/
Instagram:@kiki_yado

Recommend 注目のコンテンツ

今月の特集
奈良県

奈良県

奈良県は、豊かな自然と日本始まりの歴史が息づく古都です。世界遺産の東大寺や春日大社をはじめ、歴史ある寺社仏閣が緑の中に佇み、奈良公園のエリアでは鹿たちが穏やかに暮らしています。吉野の桜や山々の彩りなど、四季折々の美しい風景も大きな魅力です。飛鳥から続く伝統や文化、神秘的な空気感が日々の暮らしに溶け込み、訪れる人に穏やかで特別な時間を届けてくれる地域です。

奈良県の特集ページへ

Spotlight 今、読んでほしい、
このまちのこと

「はじまりの地・奈良」は知れば知るほど面白い

「はじまりの地・奈良」は知れば知るほど面白い

Special 関連サイト

What's New 最新記事