連載
posted:2025.2.26 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。
https://www.instagram.com/michikokurushima/
Photo:Ikuya Sasaki
コロカルの連載を始めて、今年で10年目となる。
連載のきっかけをつくってくれたのは、画家・MAYA MAXXさんのひと言だった。
あれは2013年か14年くらいのことだったと思う。
当時、MAYAさんは京都で毎年個展を開いていて、展示を見るために訪ねた折に、
「みっちゃん、北海道にエコビレッジをつくったらいいんじゃないの?」
と提案してくれた。
そして、池澤夏樹さんの著書『光の指で触れよ』をハイと渡してくれた。
その本には、日本からヨーロッパへ渡った主人公がエコビレッジで暮らすことによって、
自分自身を見つめ直していく姿が描かれていて、
新しい家族の在り方の可能性のようなものが感じられた。
MAYAさんと出会ったのは2001年。当時私が編集長を務めていた雑誌の第1号で取材をさせてもらった。雑誌休刊以降は、1年に1度会う程度だったが、美流渡に移住しご近所さんとなった。(Photo:Ikuya Sasaki)
エコビレッジとは果たしてどのようなものなのか?
そのときはぼんやりした輪郭しかつかんでいなかったけれど、
自給自足的な生活に興味もあったし、東京の友人たちが
いつでもやってこられるような場所をつくりたいし、
北海道であれば広い土地を手に入れられるんじゃないか
という期待も込めて、やってみようと思った。
2011年に東日本大震災をきっかけに夫の実家である北海道岩見沢市に移住してから、
私は在宅勤務というかたちで、東京の出版社に勤めていた。
会社の事情もあって、2015年に独立することになったとき、
以前から仕事仲間であった、コロカルの編集者に
「エコビレッジをつくる過程を連載してみたい」と話したことから、
さまざまなことが動き出した。
岩見沢は北海道有数の豪雪地帯。東京とまったく違う暮らしがあった。
連載の締め切りは月2回。
まだ、エコビレッジの「エ」の字も始まっていないような状態だったけれど、
とりあえずまず広い場所を確保しなければと、山を買おうと思いつき、
森林組合に電話をかけたのがvol.001「山、買っちゃう!?」だった。
農家の友人が山の土地が買えることを教えてくれたのが始まりだった。
その後、山を購入(vol.018「ついに山を購入。『山活!』がスタート!」)。
結局のところ、除雪やインフラ整備の課題などがあり、
山にエコビレッジをつくるのは断念したわけだが、
このアクションによって林業関係の人々と知り合うこととなり、
さまざまなインタビュー取材や記事の執筆につながり、世界が大きく広がった。
8ヘクタールの山を購入。山といってもなだらかな場所だった。
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また買った山のある岩見沢市の東部丘陵地域とつながりが生まれ、
この地域をPRする「みる・とーぶプロジェクト」という活動を立ち上げた。
みる・とーぶプロジェクトでは、地域のつくり手の作品を集めた展覧会や地域マップを制作。地域の人々の似顔絵が掲載されたマップは毎年更新していて、今年8版目を印刷する。
その後、市街から東武丘陵地域のひとつ、美流渡地区に引っ越し、新たな転機が訪れた。
息子が2年通った小学校が閉校となったのだ。
小学校に隣接する中学校も同時に閉校となり、そこに通っていた子どもや父母たちの、
やるせない表情を見ていたとき、「校舎をこのままにしておいていいのだろうか?」
という疑問がわき、新しいプロジェクトが始まった
(vol.095「閉校した美流渡の小中学校を活用して〈森の学校 ミルト〉をつくりたい!」)。
小学校の閉校式の様子。このとき息子は「自分の人生で一番悲しかったのは学校がなくなってしまったこと」と語った。(Photo:Ikuya Sasaki)
校舎活用に関する勉強会を草の根で行うなかで、コロナ禍となり、
物事を動かすことが難しくなっていたが、MAYAさんが2020年夏、
美流渡に移住したことによって、歯車が回り始めた。
MAYAさんは当時、東京で制作をしていたが、
もっと大きな絵を存分に描ける環境を持ってはどうかと、
私が提案したことが発端となった。
当初は、東京と二拠点にする計画だったが、コロナの感染拡大が広がり
地域間の移動が制限されていたことから、MAYAさんは美流渡を選んだ
(vol.121「移住ではなく、冒険の旅が始まる。美流渡を拠点に活動を始めた画家MAYA MAXX」)。
古民家を改修したアトリエ。床や壁のペンキはMAYAさんと仲間たちとで塗り上げた。
MAYAさんが美流渡にやってきたインパクトは大きかった。
移住した翌年、美流渡小中学校の窓に張られた板に絵を描き、その年から校舎で
『みんなとMAYA MAXX展』と『みる・とーぶ展』を開催するようになった。
校舎の3階で、できる限り新作を発表しようとMAYAさんは精力的に活動し、
3年間で約1万人の来場者を記録した。
旧校舎の窓に張られた板は40枚以上。MAYAさんは雨の日も風の日も描いていた。
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こうした地域に明るい風を吹かせるのと同時に、イベントの規模が大きくなり、
開催回数も増えていくなかで、プロジェクトに関わるメンバーに大きな負担がかかり、
そこから摩擦が起こり、地域活動を続けていく難しさに直面した。
また2023年夏にMAYAさんが肺がんであることがわかり、治療が始まった。
さらには、校舎を今後利用する場合は、建築基準法上の用途変更をする必要があると、
岩見沢地区消防事務組合消防本部から市側に指導が入り、
改修するまでは不特定多数の人々の立ち入りができない状態になってしまった
(vol.204「旧美流渡中学校の活用に暗雲が! 新たな場所を探し、まちなかで展覧会開催」)
旧美流渡中学校のグラウンドに鳥の塔を立てた。MAYAさんは入院のため点灯式には参加できなかった。
まるで暗いトンネルの中にいるようだったが、ひとり、またひとりと、
手を差し伸べてくれる仲間が現れ、その手にすがって、
なんとか活動を継続することができた。
また、定期的にコロカルの連載があることで、物事を冷静に観察し、
書き留めていくことで、気持ちがキープできたように思う。
昨年は校舎以外の場所に出かけて行って、
岩見沢のイベントと連携するなどして活動を継続
(vol.207「北海道の夏フェス〈JOIN ALIVE〉に赤いクマが登場! MAYA MAXXのオブジェが会場を彩って」)。
みんなで力を合わせて、MAYAさんがデザインした立体を制作。
夏フェス〈JOIN ALIVE〉に参加。
MAYAさんのがんもかなり小さくなって、
主治医から何をしてもいいと言われ、仲間たちと一緒にイベントに参加できた。
この間、市や教育委員会も、再び校舎を人々の交流拠点となるようにと
検討を重ねてくれており、つい先日、新年度予算案に旧美流渡中学校の改修費が
計上されることとなった(!)。
旧美流渡中学校の校舎。
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エコビレッジをつくりたいという想いを持って、山あり谷ありのなかを駆け抜けてきた。
それは筋書きのない物語だったけれど、この10年を俯瞰して思うことは、
何か大きな運命のようなものが働いているんじゃないかということだ。
「みっちゃん、北海道にエコビレッジをつくったらいいんじゃないの?」と語った
MAYAさんは、このとき美流渡に移住するなんて、
まったく想像もしていなかっただろう。
けれど、エコビレッジづくりが転じて地域活動を行っていた
私のご近所さんになり、ゆるやかなコミュニティづくりをともに目指すこととなった。
MAYAさんが病気になってからは、畑の野菜を届け、朝と晩に見守りに行き、
ときには晩ごはんを我が家で一緒に食べることもあった。
うちの子どもたちともグッと距離が縮まって、
コミュニティというよりも家族みたいな感じになっていた。
北海道にエコビレッジをつくりたい。
そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。
そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
エコビレッジというかたちはできていないけど、
気がつけば、この連載の最初にある文章の通りになっていた。
そしてこの連載は、編集部の体制変更に伴って、今回をもっていったん休載となる。
骨にがんの転移が見つかり、MAYAさんは1月9日に亡くなった。
同時期に休載が決まったことは偶然なのだろうか?
何か大きな変化が起こっている最中であるとしたら?
「うちへおいでよ! みんなでつくるエコビレッジ」は未完の物語だ。
「みっちゃん、今度はこうしなよ!」
未来の方向をさし示してくれる声はもう聞こえないけれど、
ここからまた何かが始まるのだ。
岩見沢にあるモリタンの食品倉庫にMAYAさんが描いた赤いクマ。名前はHPOEくん。(撮影:久保ヒデキ)
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